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Hands-On カリ・ヴティライネンによる20周年記念トゥールビヨン

最も影響力がある独立時計師のひとり、そのプラチナ記念日を祝してプラチナ製の逸品とともに時を過ごす。


Photos by Mark Kauzlarich

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30年前、カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏はその後のキャリアを変えてしまうことになる長い道のりへの第1歩を踏み出した。(少なくとも私たちの業界的には)あらゆる素晴らしい物語の始まりがそうであるように、そこには懐中時計があった。1990年から1999年までミシェル・パルミジャーニ(Michel Parmigiani)氏の修復工房で働いていたヴティライネン氏は、その勤務時間外で自身初の時計制作に取り組んでいた。このプロジェクトには3年を要したが、1994年までにヴティライネン氏はアブラアン-ルイ・ブレゲ(Abraham-Louis Breguet)のスタイルを取り入れたワンミニッツ・トゥールビヨン・ポケットウォッチを完成させた。その10年後にヴティライネン氏は、自身の名を冠したブランドで初の時計を発表している。そして今年、ブランドは20周年記念モデルとしてその集大成となるワンミニッツ・トゥールビヨンの腕時計を発表した。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 この時計に関する報道は間違いなく、遅きに失した感がある。20周年記念のトゥールビヨンシリーズは4月に発表されていたのだが、残念なことにその他多くの独立系ブランドの発表と同様に、Watches & Wondersのコマーシャルリリースの圧力で埋もれてしまった。今回のシリーズはこれまでとはまったく異なるものである。シリーズは合計61本からなり、内訳はプラチナ製が20本、ホワイトゴールド製が20本、ローズゴールド製が20本でステンレススティール(SS)製が1本だ。価格は27万5000スイスフラン(ローズゴールド、日本円で約4750万円)から27万8000スイスフラン(ホワイトゴールドまたはプラチナ、日本円で約4800万円)である。ダイヤルデザインはヴティライネン氏によるオリジナルのトゥールビヨン・ポケットウォッチに基づいており、魅力的なオフセンター表示を特徴としている。

Kari Tourbillon Pocket Watch

ヴティライネンブランド初の時計、ワンミニッツ・トゥールビヨン搭載の懐中時計。Photo: courtesy Kari Voutilainen

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 過去20年間においてヴティライネン氏は素晴らしいダイヤルワークだけでなく、複雑機構に関する卓越した技術とそれを実現する独自のスタイルで名を馳せてきた。パーペチュアルカレンダーにミニッツリピーター、クロノグラフなど、これまでに彼はほぼすべての複雑機構を手がけている。彼の“28TI”はムーブメントを反転させてダイヤル側に配置することで、彼のムーブメントに対する哲学を顕著に表現したモデルだ。しかしトゥールビヨンこそが彼と彼のキャリアを最も象徴するものであり、20周年記念モデルは彼という人物そのものを時計の形に凝縮した最高の作品であると断言できるだろう。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 私は手作業でギヨシェを施したプラチナ製のブルーダイヤルモデル(シルバー無垢のダイヤルベースがアクセントとして効いている)と、クリーミーな白いダイヤルに赤いアクセントを取り入れたSS製(ユニークピースだ)モデルのふたつの実機を手に取ってみた。ブルーダイヤルの色調やホワイトダイヤルのギヨシェなど、それぞれのモデルで気に入った要素を見つけられた。そしてその他ほとんどのヴティライネンブランドの時計と同様に、幸運にも購入者はこれらのポイントをカスタマイズすることができる。

 このシステムは一長一短だ。カリ氏は自分で設計・製作する部品やダイヤルに対して非常に優れた審美眼を持っているが、正直なところ顧客側がその意図を十分に汲み取れないこともしばしばある。30万ドル(日本円で約4570万円)もの金額を払って時計を買う人は美観においてある程度決定権を持つべきだというカリ氏の考えには敬意を表するが、線引きは必要だと思う。すまない、話が逸れた。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 ヴティライネンのダイヤルは多くの人々に愛されているが、私にとってはムーブメントがすべてであり、この時計も例外ではない。今作には彼の最初の懐中時計に搭載されていたムーブメント構造に触発されたまったく新しい手巻き式トゥールビヨンムーブメント、22が搭載されている。ツインバレルと72時間のパワーリザーブを持ち、ワンミニッツ・トゥールビヨンは1万8000振動/時で動作する。ムーブメントの構造は完全に一致しているわけではなく、(このほかにもあるがたとえば)巻き上げリューズが一般的な腕時計と同じ3時位置に移動するなどの変更が施されている。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon
Kari's tourbillon movement.

ヴティライネン氏が手がけた初の時計、ワンミニッツ・トゥールビヨン・ポケットウォッチ。Photo courtesy Kari Voutilainen.

 仕上げはいつもどおり完璧であり、トゥールビヨンにはフィリップスターミナルカーブとグロスマンインターナルカーブを持つヘアスプリングなど追加の工夫が施されている。ムーブメントにはヴティライネン氏の名前が手彫りされており、立体的な面取り(アングラージュ)とグレイン仕上げおよび金メッキがあしらわれたプレート表面とのコントラストも際立っている。時計そのものの厚さは13mmであり、これにはこのブランドが古典的なブリッジ構造を好み、接着剤を使わずに部品をネジでのみ固定していることが関係する。ネジが何回転かしたぐらいではプレートから外れないようにするために、各パーツに十分な厚みが必要なのだ。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 次に、この時計を昨今のヴティライネンブランドのリリースから一線を画する特別なものにしている要素について話をしよう。ヴティライネンの時計によく見られるティアドロップ型のラグを使用する代わりに、この20周年記念のトゥールビヨンモデルにはストレートラグが採用されており、さらにケースの側面にはローレットパターンを施すことでオリジナルの懐中時計を踏襲しようとしている。しかしヴィシェ(Vichet)製ケースなどに見られる細長いラグを模倣するのではなく、ラグは比較的短く、先端は丸みを帯びている。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon
Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 オリジナルの懐中時計とは異なり、スモールセコンド表示は6時ではなく5時あたりにオフセットされた。シンメトリーさは少し損なわれているが、時間表示の配置が少し上めであることを考慮するとバランスはとれている。またパワーリザーブ表示もダイヤルの8時30分あたりに移動した。これは微妙な違いだが、オリジナルの懐中時計同様にきちんと機能している。 

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 購入希望者がこの時計のサイズ(もう1度書いておくが、直径40mm×厚さ13mm)について懸念を抱くであろうことは想像に難くない。しかし手首に装着すると、独立系時計ブランドによる魅力的でつけ心地に優れる1本であることが分かる。特にSS製のユニークピースは軽量さからより快適に感じられるだろうが、多少重量感があるからといってそこに不満を抱く人はいないだろう。ムーブメント自体ががっしりとしており、それもまた重さの一因となっている。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 ダイヤルについてもう少しだけ触れておきたい。ヴティライネン氏と彼のチームが手作業でギヨシェを施したダイヤルには、いつも感心させられる。彼が率いるコンブレマイン社のおかげで、20年前では考えられなかったような職人技を目にすることができるようになった。だが、彼自身の時計にはほかとは違うなんとも言い難い魅力がある。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 特に気に入った素晴らしいディテールのひとつに、SS製パーツであしらわれた数字がある。深みのある漆黒と立体感は、驚くべきクオリティだ。このディテールはいつか自分の時計を注文するときに取り入れるべく(それはほとんどありえないことだが)覚えておきたい。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon
Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon
Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

 このような時計、特にこの価格帯のものについて言えることは限られている。これらの時計はおそらく、すでにヴティライネンブランドの時計が多数並ぶ家庭やウォッチボックスに収まるだろう。そのため、価格や20周年記念トゥールビヨンの開発でなされた個々の決断をわざわざ正当化する必要を私は感じていない。ただただ、美しいのひと言だ。

 そしてまた彼のこれまでのキャリアを讃えるにふさわしい作品だと思う。しかしヴティライネン氏の時計には、ダイヤルの素晴らしさだけでなく、全体を完璧にまとめあげている何か言葉では表せない要素がある。ほかの誰かが彼を模倣しようとしたり、彼の時計の価値を押し上げている個々のパーツ(例えば、手作業によるギヨシェ彫りのダイヤルなど)を取り入れて独自の美観を築こうともがく一方で、作品の全体像を正しく把握して形にする彼の能力には計り知れない魅力があるのだ。

Kari Voutilainen's 20th Anniversary Tourbillon

カリ・ヴティライネン 20周年記念トゥールビヨン(Tourbillon 20th Anniversary)。直径40mm、厚さ13mmのWGケース(PtとRGのオプションもあり)。手作業でギヨシェが施されたシルバーのダイヤル(ギヨシェのパターンと色味は個別リクエストに応じる)。研磨で柔らかな曲面を出したSS製の針。時・分表示、スモールセコンド、パワーリザーブ、トゥールビヨン。ヴティライネン製手巻きトゥールビヨンムーブメント22、28石、グレイン加工と金メッキ仕上げ。ダブルバレルの搭載でパワーリザーブは72時間。ワンミニッツ・トゥールビヨンは1万8000振動/時で駆動し、フィリップスターミナルカーブとグロスマンインターナルカーブを持つヒゲゼンマイを装備。製造本数はPt製20本、WG製20本、RG製20本、SS製1本の合計61本。価格: ローズゴールドは27万5000スイスフラン(日本円で約4750万円)、WGまたはPtが27万8000スイスフラン(日本円で約4800万円)。