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Found 宇宙飛行士ニール・アームストロングのオメガ スピードマスター、日本時間4月18日にRRオークションにて出品

人類初の月面歩行者が所有していたスピードマスターが、一般公開の場で販売される史上初の機会だ。


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かつて人類で初めて月面に足を踏み入れた男、ニール・アームストロング(Neil Armstrong)。その彼が所有し、日常的に着用していた特別仕様のオメガ スピードマスター(18Kゴールド製)が初めてオークションに出品される。落札予想価格は驚異の200万ドル(日本円で約3億円)超。この時計は2025年4月17日午後6時(米東部時間、日本では4月18日午前8時)に、マサチューセッツ州ケンブリッジのロイヤル ソネスタ ホテルで開催されるRRオークションのライブセールにて販売される予定だ。オメガはこの時計の正当性を公式に認めており、加えてアームストロングが本モデルを着用していた複数の写真資料も、その出自の確かさを裏付けている。

Neil Armstrong's commemorative gold Omega Speedmaster

ニール・アームストロングが撮影したバズ・オルドリン。Photo courtesy RR Auctions.

 このモデルはオメガが記念モデルとして制作した18Kゴールドのスピードマスター Ref. BA145.022で、全28本が当初製作された。最初の2本は当時のリチャード・ニクソン(Richard Nixon)大統領およびスピロ・T・アグニュー(Spiro T. Agnew)副大統領に贈呈される予定だったが、倫理的配慮から受け取りは辞退された。残る26本は1969年11月25日、ヒューストンのウォーリックホテルで行われた晩餐会にて、NASAの宇宙飛行士たちに授与された。

 アームストロングに贈られたのは、シリアルナンバー17。その裏蓋には、“to mark man's conquest of space with time, through time, on time(人類が時間とともに、時間をとおして、時間通りに宇宙を征服したことを記念して)”という刻印と、“Gemini 8 – Apollo 11”という彼のミッション名が刻まれている。その後、同モデルは一般向けにも販売され、シリアルナンバー33番から1000番までが製造された。これらの市販モデルには、“Apollo 11”と“the first watch worn on the moon(月面で最初に着用された時計)”という文言が刻まれた裏蓋が装着されている。

Neil Armstrong's commemorative gold Omega Speedmaster

Photo by Mark Kauzlarich.

 この時計については個人的にかなり詳しい。というのも2022年(私がHODINKEEに加わる前のことだが)ヴィンテージの懐中時計を見ていた際、現在の委託者と偶然知り合ったのだ。そのとき彼から、「この時計をどこに持ち込めばいいか」、「有力な買い手はいるだろうか」ということについて助言を求められた。

 いくつか紹介をしたし、オファー自体もそれなりにはあったとは聞いているが、結局のところ取引は成立しなかったようだ。当時はこの種の時計(ひいてはヴィンテージのオメガ全体)の市場が大きく揺れていた時期でもあり、それが影響したのかもしれない。やがて私もその持ち主と疎遠になってしまったが、つい最近になって彼から再び連絡があり、「この時計を公に売却することにした」と知らされた。

Neil Armstrong's Speedmaster

Photo by Mark Kauzlarich.

 ニール・アームストロングが所有していたスピードマスター――いや、彼の名前が入っているだけでなく、実際に彼が頻繁に着用していたというまさに歴史的な記念品を手にできるチャンスは、コレクターにとって極めて魅力的なものだ。実際、何人かの収集家ともその件について非公式に話を交わした。ただし現在のマーケットの状況、そしてこの時計が予想落札価格に対してどのような結果に落ち着くのかは、いまだ不透明である。

The controversial Speedmaster ref. 2915-1 that is the center of a court case after breaking a world record for Omega. Photo from Phillips.

悪名高きスピードマスター Ref.2915-1。2021年11月にオメガ史上最高額で落札されたのち、その来歴と販売の正当性をめぐるスキャンダルと訴訟問題の中心となった時計である。

 2021年11月、スピードマスター Ref.2915-1は史上最高額で落札されたオメガとして当時注目を集めた。しかしその後、オメガ・ミュージアムおよびブランドヘリテージ部門の元責任者によって(あくまで現在も係争中の疑惑ではあるが)行われたとされる大規模な詐欺行為の象徴的な存在となっていく。これに関して、フィリップスとオメガは自らも被害者であると主張しており、関連する裁判は現在も継続中である。

 この一件から1年も経たない2022年6月、まだ詐欺疑惑が表面化する前のこと。パンデミック後に行われた最初の注目すべきスピードマスターの取引として、26本限定で製作されたソリッドゴールド製スピードマスターの1本が2022年6月に個人コレクターによって落札された。このモデルはアポロ11号で司令船コロンビアを操縦し、月面に降り立ったニール・アームストロングとバズ・オルドリン(Buzz Aldrin)を軌道上から支えた宇宙飛行士、マイケル・コリンズ(Michael Collins)が実際に着用していたものだ。落札価格は76万5000ドル(当時のレートで約9180万円)に達し、このリファレンスとしては過去最高額を記録した。

Schirra Speedmaster

ウォリー・シラー所有の特別なスピードマスター。Image: Courtesy of RR Auction

 2022年11月、宇宙飛行士ウォルター・“ウォリー”・シラー(Walter "Wally" Schirra)に贈られたゴールド製スピードマスターが、ニューハンプシャー州で開催されたRRオークションにて190万6954ドル(バイヤーズプレミアム込み、当時のレートで約2億6700万円)で落札された。落札者がオメガ・ミュージアムなのか、それとも個人コレクターなのかは明らかにされていないが、マーキュリー8号、ジェミニ6号、アポロ7号の飛行士であり、宇宙で初めてオメガ スピードマスターを着用した人物として知られるシラーに関連する1本を手に入れたいという熱意の表れだったのだろう。

Grissom Speedmaster

ガス・グリソム(Gus Grissom)のスピードマスターの裏蓋には、宇宙飛行士に贈られたゴールドスピードマスターに共通する刻印が見られる。グリソムは1967年、アポロ1号の打ち上げ前試験中にエド・ホワイト(Ed White)、ロジャー・チャフィー(Roger Chaffee)両宇宙飛行士と共に殉職。その後、1969年に彼の家族にこの特別なスピードマスターが贈られた。Image: Courtesy of RR Auction

 しかしながらその後、マーケットは急速に冷え込むこととなる。その背景には複数の要因があった。ひとつは、ヴィンテージ オメガ市場を取り巻く法的トラブルと信頼性への疑念。もうひとつは市場への供給過多である。RRオークションはこの後すぐに、さらに3本の宇宙飛行士用スピードマスターを市場に出品したが、いずれも30万~37万5000ドル(当時のレートで約4050万〜5060万円)前後の落札額にとどまった。

 同時期、エリック・ウィンド(Eric Wind)は宇宙飛行士スコット・カーペンター(Scott Carpenter)のスピードマスターを150万ドル(当時のレートで約2億円)という驚くべき価格で販売しようと試みたが、掲載から間もなく静かに取り下げられた。その後この時計はヘリテージ・オークションズにて15万ドル(当時のレートで約2000万円)で落札された。当初の提示額の10分の1にまで下がったことになる。また、フィリップスも別の宇宙飛行士用スピードマスターを出品し、こちらは18万ドル(当時のレートで約2450万円)弱での落札となった。

Armstrong

Photo courtesy RR Auctions.

 いずれにせよ、今回のアームストロングのスピードマスターは極めて注目すべき出品であり、動向を追う価値のあるオークションとなっている。アームストロングは、NASAから支給されたスピードマスターを月面着陸船内のデジタルタイマーのバックアップとして残していった。そのため、実際に月面でスピードマスターを着用したのはバズ・オルドリンだった。両者の時計はいずれもNASAに帰属しており、オルドリンのものはスミソニアンへの輸送中に紛失したとされているが、実際にアームストロングによってフライトで使用された個体は、現在ワシントンD.C.の国立航空宇宙博物館に展示されている。そういった事情から考えると、この出品は(私の知る限り)人類初の月面着陸者が所有していたスピードマスターを手にできる初にして唯一の機会となるかもしれない。

 ほかの多くの特別なゴールド製スピードマスターと異なり、今回の個体はアームストロングの遺族から直接出品されたわけではない。しかしながら、この時計が本物であることに疑いの余地はない。オメガ・アーカイブからの「エクストラクト(製造証明書)」が付属するだけでなく、アームストロングの息子、マーク・アームストロング(Mark Armstrong)の承認を受けており、落札額の半分は彼が選定した慈善団体へ寄付されることになっている。

Photo courtesy RR Auctions.

 状態面で見ると“ほぼ未使用”とも言えるシラーの個体とは異なり、このアームストロングのスピードマスターは実際に使用された時間の蓄積を物語っている。赤いベゼルは褪色し、ケースには傷が見られ、裏蓋には誤った工具で開けようとした痕跡と思われる深い傷が残っている。贈呈時のボックスや付属品なども欠けているが、それでも私はこのコンディションに非常に引かれた。数年前、実際にアームストロング本人がつけていたこの時計を腕に載せたときのあの感覚(そして、彼が着用していた姿を収めた複数の写真)は、この時計をいっそう特別な存在に感じさせた。

 「この時計は、父が特別な場でよく身につけていたものです。そしてそれは、人類史上でもっとも偉大な成果のひとつを象徴するものです」と、アームストロングの息子であるマーク・アームストロングはオークション主催者を通じて発表した。「売上の相当部分が父が生前に信頼していた慈善活動に寄付されることによって、彼や多くのアメリカ人が半世紀以上前に残した影響を、さらに未来へとつなげることができるのです」

 私はヴィンテージ オメガに今なお多額を投じる複数のコレクターたちとも話をした。アラスカ プロジェクトのプロトタイプや、NASAに帰属していない宇宙飛行使用個体といった希少なスピードマスターはいまだに高額で取引されている。しかし今回の個体については、「数十万ドルかもしれないし、数百万ドルになるかもしれない」とその落札価格を予測する声は分かれていた。

Neil Armstrong's Speedmaster

Photo by Mark Kauzlarich.

Photo courtesy RR Auctions.

Photo by Mark Kauzlarich.

Photo courtesy RR Auctions.

Photo by Mark Kauzlarich.

 あるコレクターはこう話してくれた。「宇宙飛行士所有のゴールドモデルというだけなら20万ドル(日本円で約3000万円)程度の価値。でもあとは付加価値としての“空気”、感情的で象徴的な価値なんだ」。そして、ニール・アームストロングの時計の“感情的価値”は相当に大きいだろうとも述べた。彼はさらに、「この時計は大手時計オークションハウスよりも、RRオークションのような記念品専門の会場のほうがはるかに相性がいい。ここがふさわしい場だ」と語った。イーロン・マスク(Elon Musk)やジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)といった人物が参入する可能性すら否定できず、価格は文字どおり“月まで”跳ね上がるかもしれない。

 すでにこの時計には大きな注目が集まりつつある。新たな記録が生まれるかどうかは、オメガがミュージアムコレクションとして再び購入に乗り出すか、あるいはそれ以上に重要な存在であるスペース・コレクターたちの動向にかかっている。彼らはアポロ11号に関係するごく小さな遺品でさえ驚くような額で購入する実績を持つからだ。未解決の裁判がミュージアムやヘリテージ部門に動揺を与えたとはいえ、ニール・アームストロングが所有していた時計がブランドにとって大きな魅力を持つことは間違いない。なにせ、オメガはニクソンとアグニューに贈られた個体をすでに保有しているのだから。いずれにしても、時計と宇宙の両分野のコレクターたちによる熱い争奪戦が展開されることは間違いないだろう。

ニール・アームストロングのスピードマスターについての詳細は、RRオークションの公式サイトにて。