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今年のWatches & Wondersのプレビューを初めて見たとき、ブランドのストーリーが何であるかは一目瞭然だった。貴金属製のインヂュニア、異なるサイズ展開、さらには複雑機構の搭載モデルまでそろい、このコレクションにとっては、2年前のリローンチ時を上回る大きな節目となった年だった。しかし予想外だったのは、どのモデルが今年一番のリリースかについて、チーム内で意見が大きく割れたことだ。私にも強い思い入れがあったし、同僚のタンタンにも同様に強い主張があった。そこで、すでにスペック紹介済みの時計について改めて大きな記事を出すのではなく、それぞれが最も推す1本について、真っ向勝負で論じることにした。
ときに、ささやかな緑の変化が大きな違いを生むことがある
まず最初に断っておこう。このインヂュニア・オートマティック 40(Ref.IW328908)は、F1映画とのタイアップがあるとはいえ、文字盤の変更に過ぎない。しかし時計業界における記憶に残るリリースという大きな流れのなかでは、時に色をほんの少し変えるだけでそれが際立つ理由になるのだ。そして重要なのはここからだ。私は、自他ともに認める“グリーンダイヤル好き”である。もしラインナップのなかにグリーンのモデルがひとつでもあれば、きっとそれをお気に入りとして選んでしまうに違いない。
今年のWatches & Wondersに先立って、新しいインヂュニアのラインナップを見たとき、私がグリーンダイヤルを選ぶだろうというのはある意味で予想どおりのことだったのかもしれない。たしかに、マークが選んだインヂュニア・オートマティック 42 ブラックセラミック(Ref. IW338903)も素晴らしい1本だ。IWCが得意とする素材でフルブレスレット仕様のインヂュニアシルエットを見るのは実にクールだし、その仕上がりも非常に優れている。しかし私にとっては、日常づかいできるタフな時計として、スティール製のインヂュニアこそが“本来の姿”に思える。うっかり落としたり、衝撃を受けるような場面にも耐えてこそ意味がある。そしてセラミックモデルが42mmにサイズアップしたことで、私の手首に合う候補からは外れてしまったのだ。
この新しいダイヤルは、既存のカラーバリエーションに対して、あえて言えばやや無難で伝統的に感じられていたところへユニークな視点をもたらしていると感じる。このメタリックグリーンのトーンは、アップル(・オリジナル・フィルムズ)製作の映画『F1』でブラッド・ピット(Brad Pitt)がつける時計の、カスタマイズされたダイヤルからインスピレーションを得たものだという。その(フィクション)ストーリーが魅力的かどうかは人それぞれだが、このグリーンの色味はとても魅力的で、ほかにない個性を備えていると私は思う。これまでブランドのラインナップ全体を覆ってきた、ダークで濃厚なエメラルドグリーン一色の世界から一歩踏み出すための、これ以上ない口実でもある。そして、この新しいライトオリーブグリーンのトーンは、ゴールドのインデックス・針とよく調和しており、現在の4色(ブラック、ホワイト、アクア、ブルー)よりもずっと生き生きとした印象を与えている。
さて、新しいダイヤルカラーについてはもう十分語っただろう。しかしこの色調が、コレクションにとってどれだけ新鮮かと思わずにはいられない。このスタンダードラインにもっと遊び心があればいいのにと、そう思わせる仕上がりだ。もっとも今回のモデルは1000本という、決して少なくない本数の限定生産ではある。それ以外はほかのインヂュニア・オートマティック 40のリファレンスと同様で、32111の自動巻きキャリバーや、耐磁性を備える軟鉄製インナーケースバックもそのまま継承されている。
とはいえ、ひとつだけ従来と異なるのが195万4700円という価格設定である。これは、ほかのSS製インヂュニア 40が177万6500円(ともに税込)であるのに比べて、かなりの値上げ幅だ。その理由については正直よくわからない。将来的な値上げの前触れなのだろうか? いずれにせよ、インヂュニア 40のラインナップにこの新たな一手が加わったことで、私の関心は大いに引き寄せられたのだった。
- タンタン・ワン
古いインヂュニアのことは忘れよう。ブラックセラミックのこの1本に敵うものはそうそうない。
ひとつ秘密を打ち明けよう。今年の新作インヂュニアのなかで自分のベストを選んで、その主張を今こうして書いているわけだが、実を言うとタンタンが何を書くかはまったく見当がついていない。先に原稿を提出するのは私だし、たしかにタンタンは説得力のある書き手だが、正直言ってインヂュニア・オートマティック 42 ブラックセラミック(Ref.IW338903)がこのリフレッシュされたラインのなかで、最もクリエイティブな提案でないなんて、ちょっと考えられない。SSケースに新しいダイヤルカラー? とんでもない。いま注目すべきは、やはりセラミックだ。
まず最初に言っておくと、IWCがセラミック製インヂュニアを手がけたのは今回が初めてではない。2012年にはインヂュニア・オートマティック AMG ブラックをリリースしている(ただこれは今とは違う旧インヂュニアだ。いや、これは本当に古い)現在のラインのインスピレーションとなったヴィンテージモデルのことではなく、その中間に位置する、かつての世代のインヂュニアの話である。だが、13年前にセラミック製インヂュニアをチラ見せしたあの試みは、時代を先取りしすぎていた。
セラミックは時計ケースの素材として最も未来的な存在のひとつであり、まさに未来のためにつくられた素材だ。理論上、セラミックは人々が時計の役割すら忘れてしまった後でも、変わらず存在し続けるはずだ。そして今回のモデルは、ヴィンテージにインスパイアされたモデルとしてできる限り、その素材特性を前面に押し出している。
IWCは、このモデルでデザイン言語の維持にしっかりと成功している。グリッド・パターンのダイヤルは、光の加減で表情を変えながらも過剰に主張することなく品よく仕上げられている。ベゼルには5つのビスを配した構造が採用され、サーキュラーサテン仕上げがケース縦方向のブラッシュ仕上げと美しいコントラストを描いている。さらに、セラミックの仕上げは決して容易ではない。ましてや比較的薄いセラミックで剛性を保つことはなおさら難しい技術である。
ブレスレットには、外側とセンターリンクの両方にポリッシュ仕上げの面取りを採用。ブレスレットの接続部にはプレス加工によるリンクが用いられ、バタフライ式のディプロイアントバックルにつながっている。そう、マイクロアジャストは非搭載だ。しかし、装着感はじゅうぶんに快適である。ケースとブレスレットにおいて、セラミック以外の素材が目に見えるのは、デプロワイアントバックルのプッシュボタン部分のみ。だが、これを不満として挙げる気には、正直なところまったくなれない。
それからムーブメントの仕上げについて。IW338903に搭載されたムーブメントの処理には、本当に感心させられた。とくに負荷のかかるペラトン自動巻き機構の一部には、ジルコニウムオキサイド・セラミックが使用されている。さらに、歯車とクリックはブラックセラミック製、ローターベアリングはホワイトセラミック製で、ケースバックはスモークがかった、ほんのりと色のついた仕上げになっている。正直なところ、IWCが既存の標準ムーブメントをそのまま搭載してくるのではないかと半ば予想していたし、多くのユーザーも違いには気づかないだろうと思っていた。ただし約60時間のパワーリザーブを備えたこのムーブメントは外観の完成度も高く、この時計に実にふさわしい内容となっている。
42mm径×11.6mm厚というサイズは、すべての人にとって理想的とは言えないかもしれない。実際につけてみると、数値で見るよりも若干コンパクトに感じられたが、幸いにも(大きかろうが小さかろうが)自身はサイズの問題はまったくなかった。正直に言って(そしてあなたもきっと同じだろう)、このブラックセラミック製インヂュニアがここまで魅力的に仕上がっている最大の理由は、その見た目にある。鋭く、未来的で、控えめながらもタフだ。人々がブラックアウトされた時計に引かれる理由を言い表すあらゆる形容詞、ポルシェ・デザインからカール・ラガーフェルドのロイヤル オークに至るまで、どれを取ってもこの外観の魅力には敵わない。
Introducing記事でも述べたように、ブラックセラミック製の一体型ブレスレットウォッチは、手ごろな価格帯から驚くほど高額なものまですでにいくつか市場に存在している。だがこの新しいインヂュニアは、296万1200円(税込)という価格において、価格と品質のバランスが絶妙な中間点に位置しているだけでなく、過去2年間でブランドが発表したインヂュニアのなかで最高の1本であると、私は思っている。
- マーク・カウズラリッチ
あなたはどちら派?
タンタンとマークがそれぞれの意見を述べたが、画面の前のあなたは限定生産のグリーンダイヤルを備えたやや小振りなインヂュニアを選ぶだろうか? それともマークのように、フルセラミックでよりモダンな表現を押し出したものに引かれるだろうか? ぜひコメント欄で、あなたの意見を聞かせて欲しい。