Watches & Wondersの慌ただしい週のあいだ、ジュネーブ全体では常に数十件ものイベントが同時進行しており、合計すると100を超える新作が発表されている。しかし、そこにパテック フィリップは含まれていない。同ブランド単独で100を超える新作を発表しており、その多くはまだ目にしていないであろう。会場外では、ブランドの歴史あるパテック フィリップ サロンにて同社の今年のレアハンドクラフトモデルが展示された。ジェムセッティング、エナメル装飾、ギヨシェ彫りの最高峰が披露されたほか、ブランド初となるマルケトリ(木象嵌)の作品も世界初公開された。この展示会は数週間にわたり開催されており、腕時計や懐中時計、さらには(ご覧のとおり)多数のクロックも展示されている。
パテック フィリップサロンの4階。
これらの作品は多くが1点物であり、美術と時計製造の粋を融合させたもので、音楽や場所にちなんだモチーフ(ロンドン、ニューヨーク、ジュネーブ、そしてスイスの風景全般など)が取り入れられていたが、《希少なハンドクラフト2025》展示会を通じて主なテーマとなっていたのは自然であった。抽象的な表現の時計もあれば、羽根を持つ愛らしい仲間たちをはじめとしたモチーフを驚くほど写実的に描いた作品もあった。私はパテック フィリップのチームメンバー数名に対し、子犬や子猫がまったくいないのは残念。素晴らしい時計になると思うのにとコメントした。ティエリー・スターン(Thierry Stern)氏がこれを聞いていてくれるといいのだが。
Ref.5077/212G-001 “、青地にコンゴウインコ”は、10本限定のホワイトゴールド製カラトラバウォッチ。ダイヤルには総計64cmの金線が用いられ、透明、不透明、半透明のエナメルが38層にわたって施されている。ベゼル、ラグ、ピンバックル式クラスプにはブルートパーズ70石(0.72カラット)、ブルーサファイア50石(0.63カラット)、イエローサファイア11石(0.13カラット)、ダイヤモンド10石(0.02カラット)がセットされており、エナメルのグラデーションに沿った配色となっている。ムーブメントにはCal.240を搭載する。
パテック フィリップの《希少なハンドクラフト2025》展示会は、4月5日から26日まで一般公開されており、登録すれば無料で入場ができる。開館時間は毎日午前11時から午後6時まで。ただし日曜日と18日(金)、21日(月)は休館となっている。この展示会はパテック フィリップ・ミュージアムの見学と並び、私にとっては“絶対に外せない”体験のひとつだ。そしてミュージアム同様、1度の訪問ですべてを吸収しきるのは難しい。会場では一部の技術を実演するライブデモンストレーションも行われている。たとえ自分の好みに合わない作品であっても、その技術力と圧倒的な才能の数々に、感嘆せずにはいられなかった。
ジュネーブまで足を運べない方のために、展示会で特に気に入った作品や、来場者の注目を集めていた印象的な作品をいくつか写真に収めてきた。ただし、スイスの旅とスキーに捧げられたドームクロック、オカメインコを描いたエナメル装飾のエリプス、“ホース”ミニッツリピーターこと5278/500G-001、ジュネーブの画家ルイ・ボーディ(Louis Baudit)の『Lake Geneva Barque』を再現した懐中時計など、パテックの公式ウェブサイトで見ることができるいくつかの作品は省略している。気になる作品があれば調べたり、(運がよければ)購入するのに役立つよう、すべてのリファレンスナンバーも記載している。詳細および展示会の申し込みについてはこちらから。
パテック フィリップのカラトラバには、ブラン・ド・リモージュによるグリザイユ・エナメル、クロワゾネ・エナメル、パイヨン・エナメルによって黄道十二宮の水の星座を描いたモデルがそろっている。該当モデルはRef.5177G-041、Ref.5177G-045、Ref.5177-049。
自分の星座に注目し、かに座を描いたRef.5177G-041に注目した。ロブスターが描かれているが、一般的にはカニと結びつけられることが多い。
パテック フィリップのノーチラスが欲しいなら、これがそうだ。ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)の小説『海底二万里』に着想を得たドーム型テーブルクロック “ノーチラス”、Ref.20171M-001である。
展示のなかでもひときわ鮮やかなドームクロックのひとつであり、41色のエナメルと8色で描かれたミニアチュール・ペインティング。
もっとも、もし海が怖いのならこの時計は(原作の本と同様に)あなた向きではないかもしれない。
Ref.992/183G-001 “プロヴァンス”は、クロワゾネ・エナメルとフランケ・エナメルによる懐中時計で、ファイアンスに施されたロンウィー・エナメル、パイヨンおよびジェムセッティングを施したフォーレ・エナメル、さらにはエナメル上に描かれたミニアチュール・ペインティングなど、さまざまな技法が凝縮されている。クロワゾネには0.86gの金線が使われ、透明、不透明、半透明、オパール調の色を含む全45色のエナメルが用いられている。スタンドにはチャロアイトのクリスタルで表現されたラベンダーと、イエローゴールドで手彫りされたミツバチがあしらわれている。なお裏面(写真には写っていない)には、花の蜜を吸うミツバチの姿が描かれていた。
Ref.10044M-001、“紫地に金の唐草模様”はクロワゾネ・エナメルとパイヨン・エナメルによる小型のドーム型テーブルクロックである。時表示には、ブラックエナメルによるアラビア数字とクル・ド・パリ仕上げのアワーサークルがあしらわれている。世界限定5点のリミテッドエディション。
さまざまなエナメル技法と、それによって生み出されたダイヤル(およびカフリンクス)を一堂に展示。
Ref.6002R スカイムーン・トゥールビヨンのグラン・フー エナメルダイヤル。
Ref.5178G レアハンドクラフト ミニッツリピーターのダイヤルは、フランケ仕上げのブルー・グラン・フー エナメルダイヤルだ。
Watches & Wondersで発表された作品のなかでも、おそらくもっとも意外性があって驚くべきリリースのひとつが、スターリングシルバー製ケースのデスククロック、Ref.27000M-001である。価格は117万8350ドル(日本円で約1億7140万円)だ。この時計にはまったく新しいムーブメントが搭載されており、その構成部品は912点にもおよぶ。この開発により9件の特許が出願された。最適な性能を実現するため、ムーブメントの中核には“高精度レギュレーター”が設計された。
ギヨシェ装飾が施されたグリーン・エナメルのパネル(フランケ・ エナメル)。
ヴェルメイユの装飾要素(イエローギルト仕上げのシルバー)。
Cal.86-135 PEND S IRM Q SEは永久カレンダー機能を搭載し、曜日、月、うるう年、デイナイト表示を小窓で示す構成となっている。パワーリザーブは約31日間で、日差±1秒の高精度を誇る。
日付は針で表示され、週番号は可動式のフレームによって示される。さらにムーンフェイズと時・分表示はインダイヤルに配置されており、大型のセンターセコンド(ジャンピングセコンド)と、針によるセンター配置のパワーリザーブ表示も備えている。
Ref.992/191J-001 “ジャズ・カルテット”はフランケ、クロワゾネ、パイヨンの各エナメル技法によって仕上げられた懐中時計。ムーブメントにはCal.17''' LEP PSを搭載する。
別の音楽的スタイルを楽しみたいなら、ドーム型テーブルクロック Ref.20195M-001をぜひチェックして欲しい。これはクロワゾネ・エナメルと、44色を用いたエナメル上のミニアチュール・ペインティングによって彩られている。
ギヨシェ彫りに使用されるローズエンジン旋盤。
フランケ・エナメルのためにギヨシェ装飾が施されたドーム。
ギヨシェ彫りのために回転させられるダイヤル。
Ref.20182M-001 “モンゴル”は、クロワゾネ・エナメルとエナメル上のミニアチュール・ペインティングによるドーム型テーブルクロックのユニークピースである。ヤク、ゲル(遊牧民の住居)、鷹狩りなどのモチーフが描かれ、アワーサークルはブラウンラッカー仕上げ。ミニアチュール・ペインティングには28色が使用されている。クロワゾネにはおよそ38.4mの金線が用いられており、ムーブメントには電動モーターで巻き上げる機械式Cal.17'' PENDを搭載している。
Ref.5738/50J-001 “ビルマのアルビノパイソン”は、ゴールデン・エリプスウォッチで、クロワゾネ・エナメルとフランケ・エナメル、ミニアチュール・ペインティングによって仕上げられている。
カラトラバのRef.5077/100G-079および5077/100G-070 “フェザー”(左と中央)、そしてRef.5077/100G-081 “クラックド・キャンドルズ”は、それぞれ10本限定。ケースには112石、バックルには29石のダイヤモンドがセッティングされている。
Ref.5077/100G-081 “クラックド・キャンドルズ”。
Ref.5077/100G-079 “フェザー”。今年のパテック フィリップのエナメル作品のなかで、おそらくもっとも気に入った1本。
Ref.5077/100R-053 “ラベンダーとドライストーンの小屋”、Ref.5098G-107 “オリーブ畑とアルピーユ”、Ref.5089G-106 “ブドウ畑とゴルドの村”。いずれもクロワゾネ・エナメルのダイヤルを備えた、各10本限定のモデル。
Ref.5089G-106 “ブドウ畑とゴルドの村”。
展示されていたエナメル装飾のサンプルの数々。
さらに多くのエナメル装飾サンプル。
ウッド・マルケトリによるダイヤルを備えたRef.5738/50G-029 ゴールデン・エリプス “ハクトウワシ”。私が“ボールド・イーグリプス”と呼んだもの。ブランドとしてもこのモデルには特に誇りを持っており、自社ブース近くの巨大な3階建てビデオスクリーンにも取り上げていた。
Ref.995/125G-001 “ジャガー”は懐中時計で、ケースバックには4層構造の手彫りが施され、ジャガーの姿がエナメル上のミニアチュール・ペインティングで描かれている。周囲の草木はレリーフで表現されておりリューズにはペリドットのカボションがあしらわれている。
スタンドには、つる植物のモチーフともうひとつのペリドット・カボションがあしらわれており、楕円形の台座はブリティッシュ・コロンビア産のジェード(翡翠)で作られている。
さらにブリティッシュ・コロンビア産ジェードの球が装飾されたチェーンも付属する。
Ref.6002R スカイムーン・トゥールビヨンのブラウン・グラン・フー エナメル ダイヤルに使用される、クロワゾネ用金線の枠組みを製作中のアーティスト。
そのダイヤルの完成形。
Ref.5077/215G “緑地にコンゴウインコ”は、10本限定のモデルである。
エナメル装飾が施されたクロックの一部を紹介したかっただけなのだが、これはRef.20139M-001 “インディアン・フラワー”である。
こちらはそのクロックのクローズアップ。
Ref.20198M-001 “赤地に鳥たち”は、ロンウィー・エナメルによって仕上げられている。
非常に鮮やかな色彩の数々。
このクロックだけはリファレンス情報を記録し損ねたが、グラン・フー エナメルの深みがあまりに見事だったので、それだけでも紹介する価値があると感じた。
ゴールドとイエローエナメル、そしてレッドの背景との美しいコントラスト。
Ref.992/138G-001 懐中時計 “張家界国家森林公園”、Ref.20178M-001 ドーム型テーブルクロック “ベル・オブ・ザ・スタッグ”、Ref.20189M-001 “シラカバの森”。
Ref.20178M-001 “ベル・オブ・ザ・スタッグ”ドーム型テーブルクロック。
Ref.20189M-001 “シラカバの森”。
Ref.5738G “霧の森”の第1作目は、ブラン・ド・リモージュによるグリザイユ・エナメルで仕上げられ、クマのモチーフが描かれた10本限定モデル。
もうひとつのRef.5738G “霧の森”は、同じくブラン・ド・リモージュによるグリザイユ・エナメルで、こちらはシカのモチーフが描かれた10本限定モデル。
ユニークピースであるRef.20188M-001 “アマゾン熱帯雨林”テーブルクロック。
このクロックには17.46mの金線と59色のエナメルが使用されており、Cal.17''' PEND ムーブメントを搭載している。
パテック フィリップとして初めてウッドマルケトリ(寄木細工)を採用したドーム型テーブルクロックが、ユニークピースのRef.21000M-001 “ジュネーブ港”である。この作品には、1991枚の突き板パーツと41種の木材からなる200個の微細なインレイが使用されている。どれほどの手間がかけられているかを伝えるため、できるだけ近くから撮影した。ジュネーブを訪れたことのある人には、おなじみの光景が再現されているはずだ。
ブランドの職人のひとりが、このクロックやその他の作品に使われたマルケトリ技法を実演していた。
こちらはマルケトリで表現されたジャガー。
職人の作業を見るなかで特に印象的だったのは、立った状態で作業していたこと。小さな糸鋸を動かすために足踏み式のペダルを使っていたのだ。
ゴールデン・エリプスの新作ブレスレットモデルも2本登場しており、WGとローズゴールドでそれぞれ10本限定。Ref.5738/150G-001およびRef.5738/150R-001で、“ブルー・リーヴス”と名づけられている。
今年のパテック フィリップの小型ドーム型テーブルクロックのなかで個人的にもっとも気に入ったのが、Ref.10043M-001 “セントラルパーク”。クロワゾネ・エナメルとミニアチュール・エナメルによって仕上げられている。
こちらはニューヨーク・セントラルパークから望むマンハッタンのスカイラインを描いた、5点限定のクロック。
おそらくブランドのなかでもっとも大胆なデザインのひとつが、Ref.5738/50G-033 “時計の輪列”。ダイヤルにはクロワゾネ・エナメルとブラン・ド・リモージュによるグリザイユ・エナメル、さらにミニアチュール・ペインティングが施されており、WG製ケースに収められている。
カクテルの締めくくりには、プレス関係者や来場者の何人かがフォトブースで記念撮影。希少なハンドクラフトだからといって、肩肘張る必要はない。
詳しくはパテック フィリップ公式サイトにて。
Photos by Mark Kauzlarich