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Hands-On ここ1世代(17年)で最高のパテック フィリップ カラトラバ Ref.6196Pを実機レビュー

皆さん、これこそがパテックの真骨頂だと思わないだろうか? カラトラバのラインナップに活気を取り戻す最新作をお届けしよう。


回りくどいことはなしにしよう。Ref.6196Pは私が時計を取材し始めて以来、パテック フィリップが発表したなかで最高のカラトラバだ。最近この世界に足を踏み入れた方にとっては、つまりこの17年間で最高のカラトラバということになる。私の友人であるChatGPTによれば、この17年というのは“1世代”といっても差し支えないらしい。もちろん、これは私の(それほどでもないが)謙虚な意見に過ぎない。いやほんとに、これは本当にやってくれた。彼らは見事な一作を送り出してきた。とはいえ、まずは少し立ち止まってこの時計を全体から見てみよう。

38mm、プラチナ、ローズオパラインダイヤル、最高のムーブメント。これは文句なしだろう。

 カラトラバの歴史や、その重要性についてはいまさら語るまでもない。ただ、もしこの15年、私の時計話に付き合ってくれていた読者なら、パテックのタイムオンリーラインには、ずっと遠回しに皮肉を言ってきたのを覚えているかもしれない。というのも搭載されていたムーブメントは、正直、笑ってしまうくらい時代遅れだったし、パテック フィリップのドレスウォッチとして、さらにはこの価格帯の時計としても到底納得できるレベルじゃなかったからだ。

  だからこそ、2014年に我々が最高のドレスウォッチを選んだとき、パテックは候補にすら入らなかった。ヴァシュロン、ジュルヌ、ランゲは、どこを取ってもパテック以上に見どころのある時計をつくっていたし、当時2万ドルちょっと(当時のレートで約210万円)だったカラトラバよりもずっとコストパフォーマンスが高かった。我々はその事実をはっきりと示したかったのだ。

 ランゲに心底惚れたきっかけがこの動画だった。エントリーモデルにだって、グランド・コンプリケーションと同じレベルのこだわりが詰まっている。その姿勢はいまもまったく変わらない(あの“最高にイカした”34mmの1815を見ればわかるだろう)。そしてこの動画こそが、クロノメーター・ブルーという時計がどれほど素晴らしいかを、初めて世に知らしめた作品でもあった。以来、私はずっと言い続けてきた。ランゲのすごいところは、どのクラスを選んでも品質に一切の妥協がないことだ。

 では2014年当時のパテックは? 少なくともムーブメントに関して、同じことは言えなかった。というのも、1974年に発表された10リーニュの小型ムーブメント、Cal.215が当時でも平然と使われ続けていたからだ。これがあの美しいRef.5196、手巻きカラトラバのデザインとは裏腹に、サイズバランスに違和感を生んでいた最大の理由だった。ここで今日、Watches & Wonders 2025の初日で私が一目惚れした新作にバトンを渡そう。

Ref.5196Pはダイヤルデザインは素晴らしかったものの、あのスモールセコンドのせいで評判はいまひとつだった。

 素敵だろう? 薄型のプラチナケースに、ブレゲ数字を配したツートンダイヤル。これぞパテックがつくる最高のタイムオンリーみたいな顔つきだ...まあそう思うのも、ベースになった時計、同じ構成のスティール製Ref.570を見るまではだが。

Ref.5196Pのベースとなった、最高にクールなSS製Ref.570。

 さて、スモールセコンドの位置に気づいただろうか? そう、5196では中央寄りに無理やり押し込まれていて、ダイヤル全体とのバランスが完全に崩れていたのだ。明らかに上すぎる! 理由は単純。ムーブメントのサイズは10リーニュ、直径にして約22mmしかないのに、ケースは37mmもあったからだ。

Ref.3919は1985年に発表された。これがまた実に80年代っぽい。でもどこかとびきりシックで、ダイヤルのバランスも見事だった。

 ただ、バランス感覚がどうにも悪かったのだ。その理由はさっきも言ったとおり、このムーブメントが1974年のものだったから。ただ誤解しないで欲しい。当時としては、Cal.215は十分に理にかなっていた。いやむしろこのキャリバーの最良の使い方は、“究極のバンカーズ(銀行家向けの)ウォッチ” Ref.3919だったとすら思う。80年代後半らしい33mmの小径にホブネイル(クル・ド・パリ)装飾など、すべてがシックだった。1985年発表だから時代にはぴったりだったわけだ。だがHODINKEEが生まれ、細部にこだわって時計を語るようになった35年後となると話は別である。VCやジュルヌ、ランゲが、その時代に見合った美しい手巻きムーブメントをどんどん発表していったときに、さすがにCal.215は太刀打ちできなかった。

 Cal.215のスペックは直径22mm、厚さ2.5mm、部品点数130個、18石、2万8800振動/時、パワーリザーブ約44時間。このムーブメントは5196の全バリエーションに採用されていたし、すでに5196はカタログ落ちしている。でも信じられるか? パテックは今でも、このキャリバーを4モデルで使い続けている。しかもその搭載モデルの最大ケースサイズは31mm×34mm。つまりパテック自身、Cal.215は小型ケースでこそ生きると、きちんと分かっていたというわけだ。

古きを捨て、新しきを取り入れよ。

 そして2021年、Ref.6119Gが登場した。こちらもカラトラバで、ホブネイルベゼルを備えている。このモデルはRef.5119の後継で、Ref.5196と同様にCal.215PSを搭載していたため、スモールセコンドがダイヤルの上部に寄りすぎていた。しかしこのモデルから新しいCal.30-255PSが採用されたのである。これは、本当に、本当に大事件だった。私はその年のWatches & Wondersには参加していなかった(生まれたばかりの娘の世話でお休みしていたからだ。愛してるよ、ジョージー!)。このムーブメントが登場したことで、パテックのタイムオンリーウォッチに対する信頼が再び蘇った。Cal.30-255PSは見事な大判のブリッジに、幅広のジュネーブストライプ、最大65時間のパワーリザーブを生むツインバレル構造、さらに驚くほどの薄さとなる2.55mm厚という美しい仕上がりであった。Ref.6119G/Rは非常に人気の高いモデルとなり、私の知る限り、カラトラバへのコレクターの関心は一気に高まった。実際に定価での入手が難しいというのは、少なくとも私がこの仕事を始めて以来初めてのことだった。

Ref.6119Rと6119Gは、このアップグレードされたムーブメントを初めて搭載したモデルであり見事に仕上がっていた。これが2021年、カラトラバ人気復活のきっかけになったことは間違いない。

 そして、つい昨日、パテック フィリップは6169という新たなカラトラバを発表した。リッチ(・フォードン)がIntroducing記事を担当したが、反響はすこぶる好評だった。気に入らないはずがない。38mmの薄型プラチナケース、美しい新型の手巻きムーブメント、ローズギルトのオパラインダイヤル、そこにアンスラサイトカラーのホワイトゴールド製ファセット仕上げの“弾丸(オビュ)”風アプライドインデックスが組み合わされているのだから。

 隠すまでもないが、私はサーモンカラー好きだ。なんたって同じ色のダイヤルを持つ5270Pを所有しているのだ。そのためRef.6169Pを実際に見れば、きっと気に入るだろうと思っていた。でも実物を見た瞬間、完全にやられてしまった。

似合っているだろう?

 この時計は、言ってしまえば完璧だ。ケース、サイズ、ムーブメント、そしてダイヤル。そのすべてがパテック フィリップのエントリーモデルにもう1度恋するために必要な要素だった。シンプルなパテックに憧れて、もう何年も経つ。ただそのせいで正規店で買ったことは一度もない。しかしこの時計は違う。私は欲しいし、多くの人もそう思うに違いない。

スモールセコンドの収まりも秀逸だ。

 そうだ、スモールセコンドも触れておこう。まさにダイヤルのしかるべき場所に収まっている。おもしろいのは、パテックが5196の最後のプラチナバージョンに見られたマルチトーン&ブレゲスタイルではなく、5196G(WG)にそっくりのダイヤル構成を採用したことだ。私はこの変更、大歓迎だ。

文句なし。

 このダイヤルのトーンは驚くほど温かみがあり、どこかカジュアルですらある。そしてこれが私の普段の服装(昨日もそうだった)と驚くほどよく合う。だからこそ、この時計は私のなかで“素晴らしい”から“ここ17年間で最高”にまで昇格した。技術的に優れているだけでなく、美しさの面でも完璧だ。ここ最近のパテックに欠けていたのは、まさにこの美しさだと思う。そう、君のことだ、5822P。

 さて、このムーブメントが実に素晴らしいって、もう言っただろうか? 本当にそうなのだ。シースルーバック越しに、大きく、美しいパテック フィリップ・シールが刻まれたムーブメントが見える。もしあえて文句を言うなら、個人的には、見た目のためだけにもう少し大きなテンワが欲しいくらい。でも私に言える粗探しなんてその程度だ。この時計はとにかく素晴らしい。

ケースいっぱいに広がるムーブメント!

 私がRef.6196Pにこれほど強く心を動かされた理由はいくつもある。過去へのオマージュ、クラシカルなケースに収められた新ムーブメント、そして私が好むカラーリング。それらすべてが私にとって大切な要素だ。なかでも最大の理由は、Ref.6196Pをとおして、パテック フィリップがシンプルで美しいタイムオンリーウォッチをつくるブランドであるという信頼が自分のなかでよみがえったことだ。ここ10年ほど、パテックは複雑さの少ない時計でどこか“格好よさ”を追い求めているように感じていた。もちろん、その多くを私は高く評価しているが、正直に言えばそれをもっと上手にやっているブランドはほかにもある。

 私がパテックに求めているのは、美しさとエレガンス、そして時代を超える存在感だ。だが今日に至るまで、5万ドル(日本円で約730万円)以下の価格帯でそれを達成していると言える時計は(少なくとも個人的には)あまりなかった。なおSS製のスポーツウォッチは今回は別枠としよう。パテックは、もちろん素晴らしい時計をつくってきたが、タイムオンリーというカテゴリーに限れば2014年の動画で取り上げたブランドのほうを、ムーブメントの質もデザインの純粋さも理由に薦めたくなることが多かった。でも今日からは違う。もし6196Pを手に入れることができたなら、それは間違いなく今手に入るタイムオンリーウォッチのなかでも文句なしに最高の1本になるだろう。

 さて、価格は? 746万円(税込)だ。決して安くはない。同じ日に、あのドイツ勢が似た雰囲気の34mm径の美しい時計を、プラチナではなくゴールドとはいえ2万5400ドル(日本円で約380万円)で発表しているのだからそう思うのも無理はない。とはいえ私にとってはいつだって、プラチナケースのパテック フィリップ、特にこれほど美しいモデルには特別な存在感がある。ちなみに6196Pは、キュビタスよりも多くの若い新しい顧客をブランドに引き寄せると信じているが、その話はまた別の機会にしよう。

 Watches & Wonders 2025の2日目となる今日、私はジュネーブのパテック フィリップチームに心から伝えたい。みんな、本当に素晴らしい時計をつくってくれた。私はこのブランドにもう1度惚れ直した。そしてこれは、私だけの想いではないはずだ。我々のあいだではパテック フィリップの時計が本当に心に響いたとき、こう言うことにしている。“これが本物のパテック”だと。2526、3700、5970、570...そうした時計たちのように。そして6169Pは間違いなくそのひとつだ。

詳しくは、パテック フィリップ公式サイトをご覧ください。