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Hands-On 新しい脱進機、一体型ブレスレットを備えたロレックス ランドドゥエラーと、この新作に対する賛否両論

HODINKEEにて“ここ数十年で最も重要な新作”と称されたランドドゥエラーは、時計界の話題も独占しているようだ。

ロレックスがスカイドゥエラーを2012年に発表した際、バーゼルワールドのロレックスブース前には報道陣が押し寄せ、にわかに熱気を帯びていた。ショーウィンドウにはサブマリーナー各種が美しくディスプレイされ、その隣にはひときわ背の高いスタンドがシルクの布で覆われていた。それが何かは明かされていなかったが、明らかに“特別な何か”であることは誰の目にも明らかだった。ショー初日、予定された時刻になるとその布が厳かに取り払われ、姿を現したのがスカイドゥエラーだった。当時ベンはこれを「近年まれに見る複雑さを備えたロレックス」と表現した

ロレックスが前回、まったく新しいモデルを発表したときにはシルクのカバーが使われていた。

 ロレックスが“スカイドゥエラー”の商標を出願したとき、時計業界のインターネット界隈は騒然となった。これは何を意味するのか? どんな時計になるのか? 予想記事や憶測が飛び交い、期待と好奇心が渦巻いていた。だが正式発表までのあいだ、スカイドゥエラーの画像も動画も一切公開されることはなかった。その実態を知る者は誰ひとりいなかったのである。そしてついに、あのシルクのカバーが持ち上げられた瞬間、ロレックスは見事に革新を成し遂げていた。しかし目の前に現れたその姿に、多くの愛好家たちは困惑した。「これは一体、どう受け止めればいいのか?」という空気が、その場には確かに流れていた。

 2025年現在、ランドドゥエラーの発表に先立って行われたのは、商標および特許の出願、6枚ほどの“リーク”画像の流出、公式Instagramアカウント(@rolex)によるティザー投稿、数媒体への事前アクセスの付与、ロジャー・フェデラー(Roger Federer)によるInstagramフィードへの“さりげない”投稿、そしてジュネーブ時間午前0時1分への直前の発表解禁時間変更であった。もはやシルクの布とはかけ離れたアプローチである。ロレックスは数十年来のモデルに少しずつ改良を加えていくスタイルで知られるブランドであり、完全な新作を発表する際には慎重さが求められる。しかし、今回はその“お決まりの流れ”を覆すような発表手法がとられた。これはまったく新しいモデルに対する打ち出し方として、極めて理にかなっていると言えるだろう。

A Rolex Land-Dweller in steel

 まったく新しい製品に対する、まったく異なるリリース戦略。それが今回のランドゥエラーで見られたものだ。しかし時計愛好家たちの反応はというと、どこかスカイドゥエラーのときと重なるものがある。つまり技術的な革新に対しては敬意を表しつつも、デザインや価格設定に対しては戸惑いを隠せない。そんな空気が広がっているのだ。

 Watches & Wondersでは毎年のように、シルクのカバーが外された瞬間や情報解禁のタイミングで、ロレックスがいかに保守的なブランドであり、時計業界の“基準”となるモデルを数多く擁しているかを改めて思い知らされる。新色の追加、ムーブメントの改良、既存モデルのバリエーション展開。そうした発表がショーの中心を占めるのが常だ。それでも、時折ロレックスは私たちに思い出させてくれる。マスターズや全仏オープンの中継で耳にする“Perpetual Excellence(永続する卓越)”という言葉が決して飾りではないということを。

A Rolex Land-Dweller in steel

左はエバーローズゴールドにバゲットダイヤモンドのダイヤルとベゼルを備えたランドドゥエラー 36、右はプラチナ製のランドドゥエラー 40。

 ランドドゥエラーのようなモデルが発表されるような場面において、私(あえて言えば時計界全体を代表して)はどう受け止めるべきか毎回迷ってしまう。もし“顧客は常に正しい”という論理が時計界にも当てはまるのであれば、今日、ノーチラスもロイヤル オークも、アクアノート、デイトナも、これほど記憶に残る存在とはなっていなかっただろう。いずれも登場当初は酷評されたり、発売当時にはまったく売れなかったりしたモデルばかりである。
そんなとき、HODINKEEの元編集者が引用していたジョン・アップダイク(John Updike)の“神様は手紙の返事を書かないものだ(God does not answer letters)”という言葉を思い出す。

 ランドドゥエラーは、ロレックスが築き上げてきたアイコン的モデルの系譜に新たに加わる1本となった。そしてもし関税をめぐる問題が話題をさらっていなかったとしても、このモデルこそがWatches & Wonders 2025の主役であったことは間違いない。多くの来場者、さらには遠く離れた愛好家たちからしても、今年どころか過去数年においてもっとも“実際に手に取り、試してみたい”と強く望まれ、期待されたモデルであっただろう。私を含むHODINKEEチームも、ロレックスの“ブース”、実際にはブランドロゴに覆われ、フルーテッドベゼルを想起させる壁面が配された会場内の巨大な建造物といった趣だが、そこに入るときには興奮と緊張が入り混じった気持ちだった。そしてロレックスの担当者たちは、前置きもそこそこに紹介を開始した。最初に姿を現したのは、40mm径のステンレススティール製ランドドゥエラーだった。

A Rolex Land-Dweller in steel
A Rolex Land-Dweller in steel
A Rolex Land-Dweller in steel

 大会議室のようなテーブルに着席し、数日間にわたって特許出願書類や確認できた情報を読み漁ってきたランドドゥエラーが、ちょうど反対側の端から回され始めた。私の前に届くのは最後になる。そのあいだ私は黙って観察し、耳を傾けることにした。最初はほとんど言葉が交わされなかった。こうした場では、それが常である。誰もが、たとえおしゃべり好きで知られるタンタンでさえ、まずは腕時計をじっくりと手に取り、手首に載せて確かめたうえで、「すごい」や「美しい」といった第一声以上の言葉を見つけるには少し時間がかかる。同席した仲間たちの表情や所作を見て、彼らが思い描いていたランドドゥエラーのイメージとは、実物が少なからず異なっていたことが伝わってきた。

 写真、特にロレックスの公式ビジュアルではまず文字盤に目を奪われ、そこから目が離せなくなる。フェムトレーザーによって刻まれたハニカムパターンや、“6”と“9”のアラビア数字。この“顔”の印象があまりに強いのだ。だが実際に手に取ると、ランドドゥエラーの魅力は文字盤だけではなく、むしろロレックスがこれまで築いてきた伝統的な文法を静かに覆すような意外性が細部にまで宿っている。Ref.1530に着想を得た新しいケース形状は、現代ロレックスらしい仕上げと構造美によって極めて新鮮な印象を放っている。薄く、手首に沿ってしっかりとフィットし、つけ心地も快適だ。同じく新設計のフラットジュビリーブレスレットは、従来よりも鏡面仕上げの面積が明らかに少なく、その名のとおりフラットな印象を与える。スケルトン仕様のケースバック、その奥に見えるムーブメント、クラウンが刻まれたクラスプ。目に入るものすべてが、これまでのロレックス像に一石を投じるかのように鮮烈である。

A Rolex Land-Dweller in steel

ベンの手首に収まる、40mmケースのランドゥエラー。

A Rolex Land-Dweller in steel

このケースのポリッシュ仕上げを見てくれ!

A Rolex Land-Dweller in platinum

そう、これがプラチナである。

 黒のチョークストライプのスーツとややきつめの白いカフのあいだに、ランドドゥエラーは難なく収まった。自分でも気づかぬうちに、袖のなかへと時計を滑り込ませたり、また引き出したりを繰り返していた。現代のロレックスでこうした体験をしたのは、1908を除いてこれが初めてだった。そしてほんの一瞬、私は心を奪われていた。その薄さに驚きながらも、本当に40mm径なのかを2度確認した。確かに40mmだったが、装着感は38mm径のように感じられた。ヴィンテージのRef.1016 エクスプローラーを好む自分としては、36mm径がラインナップにあることを知って喜んだが、実際にはこの40mmモデルに圧倒的な魅力を感じていた。ケースとブレスレットの設計はまさに完璧だった。小径時計を好む自分でさえ、大きめで汎用性の高いこのサイズを選びたくなるほどに。

 そして、ようやく文字盤に目が向いた。思ったよりも時間がかかったが、気がつけば肘を曲げ、顎を襟元に乗せた姿勢でじっと見入っていた。頭のなかでは、次々と感想が浮かんでいた。「やっぱり白文字盤にはあまり引かれないな。プラチナのほうはどうだ?」、「あわよくば、黒文字盤も出してくれないだろうか」、「6と9の数字は思ったほど目立たないな。将来的には省かれるかもしれない」。私は自分の腕にある時計を、特にその文字盤について、頭のなかで編集しようとしていた。そしてその瞬間、はっきりと気づかされた。“神様は手紙の返事を書かないものだ”というあの言葉の意味を。

A Rolex Land-Dweller in steel

ランドゥエラーにおいて唯一、誰もが納得しているとは言いがたい部分。それがダイヤルである。

A Rolex Land-Dweller in platinum

プラチナ

A Rolex Land-Dweller in Everose gold

エバーローズゴールド

 ふと思う。1972年のオーデマ ピゲのブースでロイヤル オークを目の前にした当時のリッチ・フォードン(私だ)は、頭のなかでどんな“修正”を加えたのだろうと。プチタペストリーは、彼にとって過剰に映っただろうか? あるいは、1997年のパテック フィリップのブースでRef.5060 アクアノートに対して、「アラビア数字か夜光の大型インデックス、どちらか一方にすべきだったのでは?」と考えたかもしれない。

 ランドドゥエラーのCal.7135についてIntroducingで記事を書いたときは興奮を抑えられなかった。そしてケースやブレスレットへの深い愛、それも間違いなく本物だった。だが実際に手にすると、文字盤は自分の望んでいたものとは少し違っていた。とはいえ私は気難しく、移り気な時計愛好家にすぎない。もし友人がこの文字盤を気に入って「どう思う?」と聞いてきたら、私は間違いなく全力で背中を押すだろう。ムーブメントの性能やヴィンテージに通じるデザインの系譜について、相手が口を開く前にまくし立ててしまうに違いない。

A Rolex Land-Dweller in steel

マークならこんな写真も撮れてしまう。

 価格についても触れておこう。ここで紹介している40mm径のステンレススティール製ランドドゥエラーは、225万5000円(税込)。36mmモデルは211万5300円(税込)に設定されている。クラシックラインにおける位置づけとして、ロレックスの最新作である本モデルは、貴金属のみで展開されるデイデイト(639万3200円〜)より下位に、ステンレススティール製のスカイドゥエラー(244万2000円)よりも下、そしてステンレススティール製のデイトジャスト41(160万2700円)より上に位置している。こつまり、ごく自然なかたちでカタログ内に収まる、見事な価格設定がなされているわけだ。ムーブメントの技術と明確に差別化されたデザインを考えれば、デイトジャストに対して約60万円の価格差は妥当であると私は考える。この差額を高いと感じる向きもあるかもしれないが、たとえばオイスターブレスレット単体であっても、中古市場では4000ドル(日本円で約60万円)で取引されていることを思えば納得がいくはずだ。

 2012年に登場したスカイドゥエラーは、発売当初こそ非常によく売れた。時期によっては、正規販売店で最も入手困難なロレックスとされ、定価以上で取引されることも珍しくなかった。それがまだ“普通”ではなかった時代に、である。しかし年月が経つにつれ、ロレックスで最も複雑なこのモデルは、たとえその重要性が変わらなかったとしてもいまやカタログのなかで“頼めば出てくる数少ないモデル”のひとつとなってしまった。ロレックスというブランドは、少しずつ改良を重ねることで進化を遂げていく。その意味で、プロフェッショナルやクラシックといった象徴的なモデル群から逸脱した完全な新作を出すことは、ロレックスにとって容易ではない。発表時には熱狂が巻き起こるものの、そののち徐々に熱は冷めていく。これまで何度か繰り返されてきた構図だ。ランドゥエラーがこの流れのなかでどう位置づけられるのか。その答えが出るには、まだ時間が必要だ。10年後にまた聞いて欲しい。

 ランドドゥエラーは、“ロレックスがロレックスたるゆえん”を体現する時計である。現代的なトレンドを押さえつつ、数十年前のリファレンスに根ざし、他ブランドとは明確に一線を画す存在だ。新たに搭載されたダイナパルス エスケープメントは、完全自社開発による工業的量産化という点においてロレックスにしか実現できない技術であり、機械式時計業界全体を精度と技術革新の新時代へと押し上げる可能性を秘めている。この時計が象徴するのは毎年4月、世界中の時計愛好家たちがパレクスポに注目する理由そのものだ。それがシルクの布であれ、世界的テニスプレーヤーのSNSであれ、ロレックスが次にどんな時計を発表するのか。その一挙手一投足が、時計界を動かしているのだ。そしてそれは、あなたの、そう、時計で確かめることができる。

詳細は、ロレックスの公式サイトを参照。