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Hands-On ハニーゴールドをたっぷりと使ったA.ランゲ&ゾーネ オデュッセウスを実機レビュー

ランゲの特殊合金が、オデュッセウスをより甘美な存在へと変貌させた。

A.ランゲ&ゾーネ2025年新作をWatches & Wonders2025のブースからご紹介

スポーツウォッチと聞いて、ドイツブランドであるA.ランゲ&ゾーネを思い浮かべる人は少ないだろう。しかし2019年に初めてデザインが発表されたときの多くの予想に反して、オデュッセウスはブランドのコレクション内で確かな存在感を築いてきた。クラシックでいまなお非常に人気の高いステンレススティール製にとどまらず、このモデルをベースにした大胆な新作も次々に登場している。

 今年、ランゲはオデュッセウスの新作として、限定100本のハニーゴールド製モデルを発表した。見た目には、別の金属素材を使ったオデュッセウスに過ぎないように感じる。これまでにSS、ストラップ仕様のホワイトゴールド、さらには驚きのチタンモデルまで登場してきた。では今回はどうなのか? なぜこれが注目すべき出来事なのか?

Odysseus HG

 なぜ重要かといえば、ランゲが貴金属ケースに加え、貴金属製ブレスレットを備えた腕時計を製作するのが本当に久しぶりのことだからだ。この新作をトレイから手に取ったとき、その重量感に少し面を食らったのを覚えている。ケースからブレスレットまでフルゴールドのずっしりとした重みは、日常的にランゲから体験できるものではない。通常それは、コレクターズミーティングなどでダトグラフにウェレンドルフ社製ブレスレットを合わせている収集家と話すときぐらいのものだ。技術的な側面で言えば、1994年のブランド復興以降、ダトグラフやランゲ1といったモデルに用意された貴金属ブレスレットは、すべてドイツの著名ジュエラー、ウェレンドルフ社によって製作されたものであった。多くの愛好家にとって、1994年製のランゲ1や1999年製のダトグラフにウェレンドルフ製ブレスレットを合わせた個体こそが、ジャーマンウォッチ収集における究極の到達点とも言える存在なのである。

 2000年代初頭までは、これらのブレスレットはオプションとして提供されており、その重厚なつくりはまさに金庫の扉のようで、装着される時計の存在感と見事に調和していた。その点価格も非常に高く、ブレスレットを加えるだけで時計本体の価格がほぼ倍になることも珍しくなかった。やがてランゲは、すべてのモデルにおいてよりクラシックなストラップとの組み合わせに注力するようになり、こうしたブレスレットは姿を消していった。

Dial up close
clasp side

クラスプに配されたロゴの下には、クイックアジャスト機構が隠されている。

movement shot

 だからこそ、ランゲがソリッドな貴金属製ブレスレットを復活させるにあたり、同社独自のハニーゴールド合金を選んだのは、実にふさわしい決断だと言える。この素材は、2010年に“165周年記念 - F. A.ランゲへのオマージュ”シリーズで初めて導入されたものだ。そして今回のモデルには、驚くほど多くの手間がかけられている。まずハニーゴールドとは、きわめて興味深い合金である。見た目の点では、光の加減によってピンクゴールドの温かみとWGの冷たさのあいだにある、金属版カメレオンのようだ。しかし実用面では、一般的な金合金よりも耐久性が高くプラチナよりも硬い。想像に難くないが、これは製造工程において大きな課題をもたらす。ハニーゴールドは酸素のない環境で加工されなければならず、工具の摩耗も非常に激しいため製造には莫大なコストがかかる。ゆえにハニーゴールドは常に限定モデルのみに使用される。CEOのヴィルヘルム・シュミット(Wilhelm Schmid)氏いわく、それ以上の生産に対応する余力がないのだという。

 従来のモデルと同様に、このブレスレットも一体型という言葉の伝統的な意味からはやや外れた形でケースと一体化している。たしかに、直径40.5mmのオデュッセウスケースには、ブランドのよりクラシカルなデザインとの架け橋として伝統的なラグが備わっており、エンドリンクも通常のバネ棒でケースに固定されている。しかしエンドリンクには、バネ棒工具を差し込むためのスロットが存在しない。初代SS製オデュッセウスを覚えている読者なら、当初はブレスレットが取り外し可能であったことをご存じだろう。ただし、エンドリンクが緩んでくる問題が発生したために、現在見られるような閉じた構造のエンドリンクへと変更した経緯がある。ハニーゴールドモデルでも、5連リンクのデザインは変わらず見る者を引きつける。さりげなくウェレンドルフ社のビーズ・オブ・ライスブレスレットへのオマージュを込めつつも、リンクの面取りやラインははるかに直線的で、現代的な印象を与えている。このファセット加工には多大な労力がかけられており、プロダクト・ディベロップメント・ディレクターのトニー・デハス(Tony de Haas)氏によれば、ブレスレットの各パーツは本社に納品されたあと、ひとつひとつ手作業で仕上げられ(こちらも酸素のない環境で行われる)、その後ようやくブレスレットとして組み上げられるのである。

Bracelet shot
Balance bridge
wrist shot on ben

 ケースの厚みは11.1mmで、幅広いサイズの腕にとてもよくフィットする。ラグが手首の上で特段長く感じられることはないが、エンドリンクの構造上、時計のショルダーが際立っており、存在感はしっかりとある。そのため一般的な一体型スポーツウォッチとは一線を画す佇まいを見せつつ、やはりどこまでも“ランゲらしさ”を保っている。とはいえ、これは間違いなくオデュッセウスコレクションのなかで最も重いモデルだ。ランゲの時計は通常、貴金属ケースにストラップという組み合わせが多く、装着時にトップヘビーなバランスに慣れるものだ。ただこれは、ダイヤルに“A.ランゲ&ゾーネ”の名がありながら、手首にこれほどの重みを感じるというのは、なんとも不思議な感覚である。ただ手首に“載せている”だけではないのだ。

 ケースのリューズ側にある一体化されたプッシュボタンに気づく人は、実のところあまり多くない。上側のプッシャーは日付変更用、下側は曜日変更用である。どちらのプッシャーもダトグラフのクロノグラフプッシャーよりも重みのありつつ、しかし同様にカチッとした確かな操作感がある。この感触とねじ込み式リューズの組み合わせにより、オデュッセウスはブランド最高となる120mの防水性能を確保した。水に入って使えるランゲ。それは、同社のほかのどのモデルともまったく異なる存在である。

Dial Macro

 この時計におけるもうひとつの大きな変化は、ハニーゴールドと見事に調和する美しいブラウンダイヤルである。マットとフルーテッドという異なる質感を組み合わせた2層構造のこのダイヤルは、ダークトーンにもかかわらず驚くほどダイナミックな表情を見せる。ミニッツトラックはハニーゴールドの見返しリング上にプリントされており、アプライドインデックスや曜日・日付表示窓のメタリックフレームが光を捉える。そしてこの時計における最大の特徴とも言えるのが、そのカラーリングだ。というのもランゲといえば通常はシルバー、ブラック、ブルーといった色味に限られることが多いからである。今回がランゲ初のブラウンダイヤルというわけではないが、ハニーゴールドと組み合わさったときの美しさを目の当たりにすると、なぜこのコンビネーションが限定モデルにすらもっと採用されないのか不思議に思えてくる。完璧な光の下でハニーゴールドがより豊かに発色する瞬間、このダイヤルが時計全体に贅沢で豊潤な印象を与える。その雰囲気は、これまでのランゲに見られるストイックな世界観とはまったく対極にある。

 時計を裏返すと、自動巻きムーブメントのCal.L155.1を全面から眺めることができる。このムーブメントは2万8800振動/時で駆動し、パワーリザーブは約50時間。キャリバー自体は新しいものではないが、やはり目を見張る仕上がりである。テンプ受けにはオデュッセウスのみに採用されている波模様のフリーハンド彫金が施されており、プレートやブリッジにはおなじみのジャーマンシルバーによるランゲ伝統の仕上げが息づいている。ローターはスポーツウォッチにふさわしいややトーンを抑えた色調で、外周部にはプラチナ製の塊がビス留めされている。

Wrist Shot 2

 もちろん、価格についても触れなければならない。コレクターのあいだで聞いた話では、およそ11万ドル(日本円で約1600万円)前後になるという。これは、標準仕様のSS製オデュッセウスの約3倍、ストラップ仕様のWGモデルの約2倍に相当する。そう考えるとかなりの価格差である。この金額があれば、ランゲの象徴とも言えるランゲ1と1815クロノグラフの両方を手に入れられる可能性すらある。また言うまでもなく、フルゴールド仕様のインテグレーテッドブレスレットウォッチとして最も話題性が高く、認知度も高いノーチラスやロイヤル オークでさえ、それよりはるかに手ごろである。執筆時点で、パテック フィリップ 5811Gは1177万円(税込)、オーデマ ピゲ 16202BCは8万700ドル(日本円で約1180万円)である。とはいえ、改めて自分に言い聞かせなければならない。これはただのゴールドではないのだ。これはハニーゴールド...ブランドにとって完全にユニークであり、いまだほかに並ぶもののない特別な素材である。初めてこの時計を手首に巻いた瞬間、ほんの一瞬だが心臓が止まったような気がした。実はその日、同じ瞬間にこれを目にした我らがベン・クライマーもまったく同じ反応だった。まるでお菓子屋に入った子どものような表情で、彼は即座にこう言ったのを今でも覚えている。「これ、毎日でもつけたいね」。ベンからこんな“詩的な”ひと言が出たなら、しっかり心に刻んでおくべきだろう。

Lange Odysseus Beauty Shot

 このカテゴリーの時計はすでに市場にあふれて久しい。そんななかで、なぜこの時計だけがこれほどホームランのように感じられるのか、自分なりに考えてみた。これまで登場したすべてのバリエーションを試してきたのに、なぜこれだけが特別なのか? 答えはふたつあると思う。ひとつは長い答え、もうひとつは短い答えだ。まず短い方からいこう。原始人的脳が“ピカピカで重い、いい時計”と反応した。そして長い答えとしてはこうだ。少なくともコレクターにとって、ランゲというブランドの大きな魅力のひとつは、すべての時計に控えめであることや慎み深さが貫かれているという点にある。このモデルには、そうした控えめさはほとんど感じられない。そしてこれは、グラスヒュッテのマニュファクチュールから登場する作品としてはとても珍しく、時計収集という行為の本能的な欲求に強く訴えかけてくるタイプの1本である。それこそが、これまで話をしてきたすべてのコレクター(往年のプール・ル・メリットコレクターでさえ)がこの時計に夢中になっている理由だ。多くの人が入手できるチャンスをかけて、賭けに出ることだろう。とはいえ、割り当てはきわめて少ないだろうが。

 これは同ブランドの最も刺激的なリリースに共通するパラドックス、たとえばルーメンシリーズや、今回に先立って登場したチタン製オデュッセウスのように、“ランゲらしくないからこそ、実にランゲらしい”という逆説である。そして今回、ランゲがソリッドゴールド製ブレスレットの製作に踏み切ったという事実。ハニーゴールドを使った時計をランゲが製作してきたこの15年間で、これほどまでに多くのハニーゴールドが時計に用いられたことはなく、ましてや手首全体を取り巻くほどに使われたのは、今回が初めてである。未来が楽しみでならない。

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 詳しくはA. ランゲ&ゾーネの公式サイトをご覧ください。

Photos by Mark Kauzlarich