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Business News スイス時計ブランドのCEOたちが、経済不安と消費者心理の低迷を受けて2025年の生産本数減少を示唆

パルミジャーニ・フルリエやユリス・ナルダン、エルメス、オリスといったブランドは、生産量を増やす理由が見当たらないと述べている。

複数のスイス時計ブランドのトップは、2025年の生産本数を減らす見通しであると語っている。背景には、アメリカによる関税措置がもたらす経済的な衝撃が、すでに不安定なラグジュアリーウォッチ市場をさらに揺るがしていることがある。実はジュネーブで開催中だったWatches & Woindersの最中に、アメリカがスイス製品に対して31%の関税を課す予定だという突然の発表を行う以前から、各社のCEOたちはパンデミック後の好況が一段落した市場に対して慎重な姿勢を取っていた。

 その慎重姿勢は、今や一部ブランドにおいて生産の縮小という具体的な動きになってきている。国際的な株式市場の下落や、アメリカの関税計画による消費者心理への打撃も大きな要因だ。こうした動きは、長期的な傾向を加速させているとも言える。中でも一部のハイエンドブランドは希少性を重視し、より複雑で仕上げの美しい、高価格帯の時計を少量生産する方向へシフトしている。これは、市場の変動に左右されにくい裕福な顧客層の需要を見込んでの判断でもある。

パルミジャーニ・フルリエ トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー プラチナモーニングブルー

 ジュネーブで開催されたWatches & Wondersにおいて、スイスブランドであるパルミジャーニ・フルリエのCEO、グイド・テレーニ(Guido Terreni)氏は超高級モデルである新作のトリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダーを披露した。ローズゴールド製とプラチナ製のケースで展開され、それぞれの価格は1139万7000円および1511万4000円(ともに税込)。このパーペチュアルカレンダーモデルはいずれも今年50本のみの生産に限定されている。

 「私たちは、製品に希少性を感じてもらえるような姿勢に立ち返ろうとしている。だからこそ新作を次々と市場に投入することを目的としていない」とテレーニ氏はインタビューで語った。加えて、「今年発表したもの、それがすべてであり1本たりとも追加生産するつもりはない」と続けた。

 控えめで繊細、かつエレガントなデザイン言語で知られるパルミジャーニにとって、アメリカ市場は売上の20%以上を占める重要な存在だ。ブランドは2020年から2023年にかけてのブーム期に売上が3倍以上に急成長したが、2024年には収益が減少。その結果、パルミジャーニを含む同業他社は「非常に短期間で失われた希少性という価値を、この業界にもう一度築こうとしている」とテレーニ氏は述べている。

グイド・テレーニ氏

 新作数を絞るこの流れに沿って、ジラール・ペルゴと同じソーウインドグループに属するユリス・ナルダンは今年のWatches & Wondersでわずか1モデルのみを発表した。ダイバー エアーと名づけられたこの新作は、わずか52gという軽さながら200mの防水性能を備えた堅牢なスケルトンウォッチであり、同ブランドが得意とする技術革新の真髄を示すモデルだとマネージングディレクターのマチュー・ハヴァラン(Matthieu Haverlan)氏は語っている。

 ユリス・ナルダンの年間生産本数は7000本未満であり、5〜6年前には1万5000スイスフラン(当時のレートで約173万円)以下だった平均販売価格は、現在ではおよそ3万5000スイスフラン(日本円で約600万円)にまで上昇しているという。ハヴァラン氏は今後さらに生産量が減る可能性を示唆しながら、「ユリス・ナルダンは、市場に過剰な本数を出さない。この姿勢に、エクスクルーシビティ(希少性)と明確なフォーカスが表れている」と語っている。

un air diver

ユリス・ナルダン ダイバー エアー

 たとえ最大手で成功を収めているブランドであっても、不確実性の高まりと「生産本数を減らし、価格を上げる」という傾向の中で、生産を抑制する可能性がある。モルガン・スタンレーとリュクス・コンサルトのアナリストによる推計によれば、スイス時計業界全体の出荷本数は2011年以降ほぼ半減しているという。

 業界を牽引するロレックスは年間100万本以上を生産しているが、スイスの銀行ヴォントベルの調査によれば、卸価格3000スイスフラン(日本円で約50万円)以上の時計に限るとスイス時計輸出全体の約60%を占めており、これは2019年の約50%から大きく上昇している。またロレックスは中古市場においても圧倒的な存在感を示しており、売上全体の約3分の1を占めている。

 ヴォントベルによれば、新品ロレックスの平均販売価格は現在約1万5000スイスフランに達している。一方で、モルガン・スタンレーの推計によると、ロレックスの生産本数は伸び悩んでおり、2024年には前年比で2%の減少を記録。これは2009年以来初めての減少であり、2025年にはさらに縮小すると見られている。

 ロレックスは生産本数について公式コメントを発表していないが、フリブール州ビュルに建設予定の新工場に関する計画は明らかにしている。この施設は2029年に稼働を開始し、生産能力の拡大につながる見込みである。

chart

 ヴォントベルの調査によればエルメスの時計部門はここ数年で業界随一の売上成長を遂げており、2019年から2024年にかけての年平均成長率は24%に達しているという。しかし突然の関税発表とそれに伴う市場および消費者の不安拡大により、「2025年は、時計事業にとって今だに先行きの見えない年です」とエルメス・オルロジェCEOのローラン・ドルデ(Laurent Dordet)氏はインタビューで語っている。

 関税のニュースが出る以前から、同社は主要市場である中国において消費者心理の回復兆候が見られないと認識していた。2024年の売上は約4%減少しており、その要因としては中国市場への依存度が高かった一方で、依然として堅調だったアメリカ市場でのプレゼンスが相対的に低かったことが挙げられる。

エルメス時計部門CEO、ローラン・ドルデ氏

 今年のWatches & Wondersにおいて、エルメスはタンシュスポンデュの新バージョンを披露した。このコンプリケーションはボタン操作によって時刻表示を一時停止し、再度押すことで現実の時間に戻るというユニークな機構を持つものである。今回の発表では、昨年デビューしたエルメス カットコレクションに39mmサイズの同機構モデルが加わった。

 エルメスの年間生産本数はおよそ6万〜7万本。時計部門のCEOであるローラン・ドルデ氏は、複雑機構や高級モデルの売上比率が今後さらに伸びていくとの見通しを示している。「売上に占める割合は、少しずつではありますが30〜40%にまで上昇しています」とドルデ氏は語る。2025年の生産本数は横ばい、あるいはわずかに減少する可能性があるものの、エルメスはスイス・ノワールモンの製造施設を拡張中であり、2027年末までには生産能力を引き上げるとともに、新たな製造技術も導入する計画だ。

 「これは単なる生産能力の拡大だけでなく、現在は自社にない技術を統合するための取り組みでもあります」とドルデ氏は説明する。「この拡張は、今後20年間にわたる成長の可能性を見据えたものです」

 パルミジャーニ・フルリエ、ユリス・ナルダン、エルメスといったブランドがより高価格で複雑、もしくは革新的な時計を少量展開することで“希少性”に重きを置く一方で、オリスのような手の届きやすい価格帯のブランドは“価値”を打ち出す戦略を取っていると共同CEOのロルフ・スチューダー(Rolf Studer)氏は語っている。

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オリスグループ共同経営責任者 ロルフ・スチューダー氏

 スイス・ヘルシュタインに本拠を構える独立系時計ブランド、オリスは1938年から製造を続けるクラシックモデルであるビッグクラウン ポインターデイトに、カラフルなダイヤルを採用した新バリエーションを発表した。

 内部にはセリタ製ムーブメントを搭載。ステンレスブレスレットを備えたモデルもあり、価格はわずか34万1000円(税込)という設定となっている。

 「どんなブランドであっても、自分たちのDNAに忠実であり続けることが重要です。そのうえで、デザインやサイズ、価格といった面でトレンドに応えていく必要がある」と、共同CEOのロルフ・スチューダー氏はインタビューで語っている。

 また彼は、「一部のブランドが行っている価格設定に対し、消費者が裏切られたように感じているのも明白でしょう」とも述べた。

 オリスはパンデミック後の市場減速の影響を大きく受けており、2024年はリーマンショックのあった2009年以来、最も厳しい年となった。ユリス・ナルダンやほかの複数のスイスブランド、そして多くの部品サプライヤーと同様に、同社も雇用維持を目的としたスイスの短時間労働制度を活用している。最大市場であるアメリカでは、昨今の通商政策によって生じた不信感と不確実性が、状況をさらに悪化させている。

 「私たちもその不安定さを肌で感じています。時計業界において不確実性はまさに“毒”なのです」とスチューダー氏は語る。

 こうした市場の不透明感やアメリカの関税措置への懸念は、オリスだけでなく、スイスの大手ブランド、流通業者、小売業者にも共通の課題となっている。実際に関税が発動された場合、そのコストを誰が負担するのかを巡って各社は現在対応を迫られている。一方、スイス政府も関税の撤廃または軽減を求め、アメリカとの交渉に乗り出している。

 「アメリカ政府の試算は、連邦参事会にとっても明確ではない」と、スイス政府はコメントしている。

今後の動向については、引き続きHODINKEEでお伝えしていく。