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Hands-On ゼニス 復活を遂げたCal.135を搭載する“G.F.J.”を実機レビュー

これはヴィンテージキャリバーに現代の美意識を重ねた、ゼニス160周年記念モデルだ。

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歴史に名を残すキャリバーの復活は、ヴィンテージ愛好家にとってまさに夢の実現である。そして私が長らく夢見ていたムーブメントがあるとすれば、それはCal.135にほかならない。(2022年に発表された)“ゼニス キャリバー135 オプセルヴァトワール”の再発は、オリジナルの天文台用ムーブメントを用いたことで、かつて伝説と謳われたこのムーブメントを現代の多くの消費者に再び知らしめるものとなった。だが残念ながら、このモデルは非常に高価かつ限定的だったため、大多数の時計愛好家の欲求を満たすには至らなかった。そこでゼニスは、時計ブランドとしてはまれに見る決断を下した。過去のムーブメントをイチから再構築し、さらに優れたものへと昇華させたのである。

Zenith G.F.J.

 1950年代から60年代は、ブランドづくりにおいてクロノメトリー(高精度)が中核を成していた時代である。高精度を誇るクォーツムーブメントも、使い勝手のよい自動巻きキャリバーもまだ存在しなかったこの時代においては、卓越した精度を備えた手巻きの3針ウォッチを持つことが、優れた時計の絶対条件だった。私たちはゼニスといえばエル・プリメロを思い浮かべるし、このムーブメントがいかにしてブランドを救ったかもよく知られているが、それよりはるか以前、ゼニスはその精度の高さで名を馳せていた。1897年にはすでにクロノメトリーコンテストへの参加を始めていたのである。

 1948年から1962年にかけて、Cal.135-Oは230以上のクロノメトリー賞を獲得しており、Cal.135の製品版は1万1000個製造された。とはいえ60年以上前のムーブメントを現代によみがえらせるのは、エル・プリメロを復活させた時のように単純な作業ではなかった。エル・プリメロは“眠っていた”だけであったのに対し、Cal.135の復活はまったく異なる挑戦であった。このあたりの詳細については、次号のHODINKEE Magazineで改めて紹介する予定だ。では、話を時計に戻そう。

Zenith Cal. 135 Models

 新作G.F.J.がきわめて現代的なアプローチであることは疑いようがない。この時計はひとつの物語を語るための“媒体”として設計されており、それはヴィンテージブランドがかつて考えもしなかったコンセプトである。ダイヤルには、ブリックギヨシェのアウタートラック、ラピスラズリのセンター、ブルーのマザー・オブ・パール製スモールセコンドが配されている。こうした意匠は1962年当時では考えられなかっただろうが、現在ではゼニスがこのモデルを、ブルーセラミックケースの160周年記念モデル群と結びつける手段として用いている。この時計にブルーセラミックケースを採用するのはやや突飛すぎただろう。その代わりに、ブランドは約39mm×10.5mmのプラチナケースという選択をしたのである。

Zenith G.F.J.
Zenith G.F.J.

 ゼニス×カリ・ヴティライネン×フィリップスによる135-Oと今作を比較すれば、ブランドがまったく異なる方向性を選んだことがわかる。今回もやはり、復活の物語で人々の関心を引きつけることが主眼となっており、それが最も顕著に現れているのが、前面から背面にかけて施されたブリック仕上げである。この時計は、ゼニスの創業者ジョルジュ・ファーブル=ジャコ(Georges Favre-Jacot)にちなんでG.F.J.と名付けられた。ファーブル=ジャコがマニュファクチュールを築いた際、彼は“一貫製造”の概念を、まったく新たな次元へと押し上げた人物だった。彼は自社の工房に用いられるレンガを製造する会社までも所有しており、そのレンガは現在でも工場の建物に見ることができる。そして今、それがこの時計の表と裏にも表現されている。

Zenith G.F.J. and Zenith 135-Observatory
Zenith G.F.J. and Zenith 135-Observatory

 だが実用性という観点から言えば、ムーブメントにおける最大の変化は外観上のデザインではない。ゼニスは過去の設計図をそのまま流用するだけでは不十分だと判断した(ちなみに、私はその旧ムーブメントを実際に手に取る機会があったのだが、それは本当にクールな体験だった)。というのも、そこには現実的な問題があったからである。たとえば初期の時計と後期の時計ではブリッジの公差が異なっており、そのまま設計を流用すれば各パーツが適合しないというリスクがあったのだ。

 さらに、現代のユーザーに対する対応という課題もある。当時のパワーリザーブが約40時間だったのに対し、新たなCal.135は約72時間のパワーリザーブを実現している。また、この新Cal.135はCOSC認定も取得しており、その基準をも上回る精度(日差±2秒以内)を誇っている。さらに、整備間隔も従来より長くなるよう設計されており、これらすべては60年前には不可能なこと、あるいは必要とされなかったことなのである。

Zenith G.F.J.
Zenith G.F.J.
Zenith G.F.J.

 このデザインにまだ納得がいかないが、現代の時計としてのCal.135には引かれる…そんな人に朗報だ。ゼニスは、より伝統的な意匠を備えたバージョンのリリースを予定しており、私はすでにそのデザインを目にしている(ただ共有することはできない)。それは今年発表されたモデルよりも、私のようなヴィンテージファンの心により響く仕上がりになりそうだ。さらに言えば、ゼニスはこのモデルについてほかの一部モデルと同様に、密かにオーダーメイドプログラムをスタートさせている。追加費用はかかるが、ダイヤルやムーブメントのデザインを好みに応じてリクエストすることが可能である。

Zenith G.F.J. Movement

 160周年記念の限定モデルとして(その節目に合わせて160本限定)、この時計はゼニスが展開するアニバーサリーテーマの一環を成しつつ、装着感にも優れている。特筆すべきはケースの形状が洗練されている点だ。ありがたいことに、ゼニスにとってケースとその造形は決して後回しにされる要素ではなかった。直径39mm、厚さ10.5mmという快適なサイズ感に加え、段差のあるベゼルとラグの造形は、かつて時計メーカーたちが細部のディテールにまで心を配っていた時代を思い起こさせる仕上がりとなっている。

Zenith G.F.J.
Zenith G.F.J.
Zenith G.F.J.

 新作G.F.J.の定価は695万2000円(税込)に設定されているが、オプションで用意されたプラチナ製ブレスレットを加えると、価格はさらに約5万ドル(日本円で約730万円)上乗せされる。この価格については少々誤解もあるようだ。というのも、現在プラチナの地金価格は金よりも安価であるため、製品も安くなるべきだという見方があるのだ。しかしながらプラチナケースやブレスレットはその95%が純プラチナであるのに対し、ゴールドケースは通常75%が金にすぎない。またプラチナは加工や仕上げが非常に難しい素材でもある。ちなみに、カルティエはかつて存在していたNSOプログラムにおいて、サントレ用にプラチナ製のブリックブレスレットを8万ドル(日本円で約1170万円)以上で販売していたとも言われている。それを思えば、この価格差はむしろ“お買い得”とさえ感じられるだろう。

Zenith G.F.J.

 最初にこの時計を見たとき、正直なところ、すぐにはその意図が理解できなかった。自分が期待していたようなヴィンテージウォッチではなかったが、それでもCal.135の復活というアイデアには心が躍った。よくよく考えてみれば、これは確かにヴィンテージの復刻ではない…その認識は間違っていなかった。だが今では、それこそが本質ではなかったのだということも理解している。もちろんCal.135の時計がムーブメント中心で語られるのは当然だが、私にとってはドフィーヌ針やインデックスもまた、それと同じくらい重要な要素なのだ。

 以下に紹介する時計たち(ヴィンテージモデルであれ、カリ・ヴティライネンとのコラボレーションモデルであれ)はいずれもすでにその“理想の姿”を体現している。そして、良好なコンディションのヴィンテージ個体が1万ドル(日本円で約145万円)前後で手に入る現状を考えると、急いでヴィンテージの復刻版を出す必要はなかったのかもしれない。とはいえ、いずれそのときは訪れるという予感もある。Cal.135の復活に何百万ドルもの資金が投じられていることを思えば、今回のG.F.J.が唯一のバリエーションではないのは明らかだ。これから登場する新たな展開を楽しみにしている。

Zenith G.F.J. Movement

詳しくは、Introducing記事をお読みいただくか、ゼニスの公式サイトをご覧ください。

Photos by Mark Kauzlarich