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本日からスタートするWatches & Wonders Geneva 2022を前に、パネライのCEOジャンマルク・ポントルエ氏に単独インタビューする機会を得た。実は取材の数日前に、パネライの時計(2006年ごろ製造された45mmのラジオミール PAM210)が、宇宙飛行士のアントレ・シュカプレロフ氏とともに国際宇宙ステーションで船外活動を行ったというニュースを、ソーシャルネット上で知った直後だった。パネライはこれで宇宙ステーションに行った3社めの時計ブランドとなったのだが、ポントルエCEOとの会話の冒頭で、ズバリ宇宙を背景とした時計を製造する可能性はあるか尋ねた。
関口 優
今回、ステンレス製のベーシックなパネライも宇宙の環境に耐えられることが、期せずして証明されました。パネライはeSteelやエコチタンなど、先進的でサスティナブルな素材開発が進んでいますが、これらの素材を用いて宇宙用の時計を開発する構想はありますか?
ジャンマルク・ポントルエCEO
「日光に当たっているときは121℃、影に入っているときは-157℃という過酷な環境である宇宙空間で、素材がどのように保たれていたのかとても興味があります。国際宇宙ステーションでは宇宙飛行士たちが様々な研究をしていますが、我々の時計がいかに動作していたかはぜひ聞いてみたいですね。宇宙を意識した時計、というのは別にしても近年パネライが力を入れているeSteelやエコチタンなどの素材開発において、今回のことは楽しみな出来事でした」
関口
今年もeSteelを採用した新作が発表されました。一過性のものでなく、パネライが腕時計のサスティナビリティにしっかり取り組む姿勢に好感が持てます。この新しいサブマーシブルのコンセプトについて教えてください。
ジャンマルク氏
「サブマーシブルはパネライにおいては比較的新しいシリーズです。とてもマスキュリンでダイバーのための時計という意味では、ブランドのハートのようなもの。そのサブマーシブルは、これまで42と47mmの展開しかなく、我々にとってのベストサイズである44mmを今回拡充できたことは大きな意味があります。44mmのサイズと厚みのバランスは非常によく、装着感が高い。eSteelの採用は昨年だけの話題ではなく、2022年においても引き続きホットトピックであると示したかったためこのサブマーシブルでの発表となりました。
パネライとしては、次の3年間、2025年までにすべてのステンレススティールモデルをeSteelにリプレイスする予定です。この素材は、すべての時計の60%程度をリサイクルベース素材で構成可能にできるポテンシャルを秘めています。そのために、我々はeSteelをオープンにしており、すべての競合他社が使用できるよう開かれたものとしているのです。また、来年からはパネライの時計を100%リサイクル可能とするプログラムもスタートさせるつもりです。この3年間で、リサイクル性を高める意味でもヌーシャテルのマニュファクチュールに大きな投資も行ってきましたし、eSteelのエコシステムは日本のマニュファクチュールにもぜひ見に来て欲しいですね」
関口
今後のパネライの時計は、素材の段階からサスティナブルが徹底されるのですね! 一方で、これまで製造された時計のレストアサービスや、パーツの再利用など、新しい時計を作り出すことからの発想の転換についてはどう考えていますか?
ジャンマルク氏
「実はパネライでは顧客へのサービスの一環として、すでにレストアを行っています。我々はパネリスティ、ユーザーの皆さんに寄り添ったサービスをこれまでもしてきており、8年間の保証などはその代表例です。長年パネライを愛してくださる方のために、レストアのプログラム化は構想をスタートさせていますよ」
関口
すべてのパネリスティにとって、それはとても嬉しいニュースですね! 熱心な顧客を抱えるパネライならではの施策だと思いますが、時計業界全体としてもリピーターに依存する割合は少なくないと感じています。ビジネスの発展を考慮すると難しい問題ですが、同じ人に繰り返し購入を促すような商品展開や販売方法についてはどう考えていますか?
ジャンマルク氏
「パネライは現在、ふたつのビジネス的エコシステムを持っています。ひとつはおっしゃるように、新作のパネライを繰り返し購入される人々によるもの。彼らのボリュームが大きいのは確かです。しかし、一方でニューカマー、ニュージェネレーションの顧客が急激に増加しています。特に、ここ数年で42mmに引き続き38mmも発表して一気に展開を広げたルミノール ドゥエにより、女性からの注目度が高まりました。パネライのコンセプトが揺らぐ可能性も危惧はしたものの、新たなブティックのオープンも積極的に行っており、新規顧客がこれまでのパネライと新しいサイズ、デザインのパネライを見比べられる提案が支持されている印象です。ブランドの認知度は大幅に向上したと言えるでしょう」
関口
最近、話題にのぼることの多い時計の二次流通についてもお伺いします。パネライはWATCHFINDERとのコラボレーションを盛んに行っている印象があります。例えば、今後ブランドとして認定中古をスタートさせるなどの考えはありますか?
ジャンマルク氏
「二次流通については、とても興味深く捉えています。先程お話した、我々のエコシステムをよりアクティブに保ってくれるものだと思います。WATCHFINDERでは本当にたくさんのパネライが取引されており、そのデータは有益で、セカンダリーマーケットに専門的に関わっていくことは顧客にとってもメリットを生む。つまりは我々は同じ世界にいるということなのだと思います。また、今回のWatches & Wondersでは、WATCHFINDERが初めて参加します。パネライのブースで、WATCHFINDERが取り扱うパネライの貴重なヴィンテージピースが展示されるのです」
現在では時計のレストアプログラムも構想している。セカンダリーマーケットについては、専門的に関わっていくことでパネライのエコシステムをよりアクティブに保ってくれるものだと思います
– パネライCEO ジャンマルク・ポントルエ氏
関口
イギリスで生まれたWATCHFINDERは現在、アメリカやフランス、アジアでは香港などで展開されています。今後、日本への参入はあり得ると思いますか?
ジャンマルク氏
「それは面白い質問ですね! 24時間ください、WATCHFINDERに確認してみようと思います(笑)。市場のサイズ的にはもちろん日本は可能性のあるマーケットでしょう」
WATCHFINDERは時計ファンにとってどんな存在になるか?
https://www.watchfinder.com/公式サイトのスクリーンショット。本国イギリス向けのページで確認したところ、記事執筆時点で296本のパネライが販売されており、ブランド別の取り扱い数ではロレックス、ブライトリングに続いて3番目に多かった。パネライは細かな仕様の違いで異なるリファレンスを多くリリースしてきただけに、豊富な在庫を見比べられるのはメリットが大きい。ただ、なかには希少なリミテッドエディションも見られ、相応のプレミアム価格がついているものもある。ニーズがある以上、セカンダリーでの価格高騰は摂理なのだが、ブランド側とセカンダリーマーケットが協調関係を結んでいくなかで、こうした値付けや具体的なユーザーメリットがいかに整備されていくかは定点観察が必要だ。
関口
最後に、二次流通が時計業界に与える影響はかつてないものになっていますが、パネライが示しているような、積極的に介入していく姿勢は時計の価値を適正に保ち、ユーザーにとってもよい作用があると思います。これは今後も続いていくのでしょうか?
ジャンマルク氏
「我々とWATCHFINDERの関係はまだ3年で、セカンドハンドマーケットにおいてはスタートラインに近い位置にいます。しかし、これはロイヤルカスタマーにメリットがあると確信もしています。パネライとWATCHFINDERが近い関係でいることで、我々のユーザーコミュニティが時計を売ったり買ったりする行動をサポートできるからです。パネリスティの全員が、10、20、30、、100本のパネライを欲しいわけではなく、新品のパネライを買うために古いものを手放すこともあるでしょう。この試みが好評ならば、今後パネライとしてさらにリソースを割いたり投資をすることも考えられます」
その他、詳細はパネライ公式サイトへ。