阪急うめだ本店および阪急メンズ大阪にて開催されるプレミアム ウォッチ エキスポ 2025は、その年の新作やレアピース、限定品が集うだけでなく、独自のテーマに沿ったトークや実演、限定施策を横断展開する時計の祭典だ。今年のテーマは、“A Voyage Through Time”: 究極の旅を刻む。時間とは過去から現在、そして未来へ向けて流れていくもの。そのなかで醸成された時計文化とブランドの物語を、あたかも航海するかのように紐解いていくというメッセージを込めている。
「時計文化には長い歴史があります。時計自体もデザインはもちろんですが、サイズの変遷ひとつとっても、そこには歴史と物語がある。ムーブメントもパワーリザーブや耐磁性といった面でアップデートされ、工作技術の進化によって素材のバリエーションも増えました。こういった部分を感じてください」と語るのは、阪急うめだ本店の時計バイヤー、村田竜一氏。プレミアム ウォッチ エキスポ 2025のキーマンである。
今回のプレミアム ウォッチ エキスポ 2025では、進化する名作を中心にラインナップ。さらに希少性の高いハイコンプリケーションモデルも数多く展示される。高級時計は、実機に触れてこそ真価が見える。阪急では、実機で確かめる安心とブランドに通じたプロの案内、そしてブランドを横断して比べられる自由を、ひと続きの体験として提供している。
まずは、阪急百貨店がとくに注力する6ブランドに絞る。テーマ“A Voyage Through Time”の文脈が明快な代表作を、編集部の視点とバイヤーの所見で整理していこう。
6つの傑作の現在地
オメガ シーマスターダイバー 300M
Ref.210.32.42.20.01.006。97万9000円(税込)
SSケース、ラバーストラップ。ケース径42mm、ケース厚13.8mm。300m防水。自動巻き。Cal.8806:2万8800振動/時、約55時間パワーリザーブ。
シーマスターの歴史は1948年に始まる。そして1955年に発表されたシーマスター300以降は、ダイバーズウォッチのアイコンのひとつとなった。シーマスター ダイバー300のルーツは、1993年に発表されたシーマスター プロフェッショナル 300。300mの防水性能や逆回転防止ベゼル、ヘリウムエスケープバルブを備えたプロ仕様で、映画『007』シリーズにてジェームズ・ボンドも着用した。そして2006年にシーマスター ダイバー 300Mへと名称を変更し、現代にいたる。現行モデルでは、高い精度と優れた耐磁性能を実現したMETAS認定マスター クロノメーターを取得したムーブメント、Cal.8806を搭載。現代的なスペックが加わることで、さらに計器としての価値を高める。
「時計のトレンドは移り変わりますが、ダイバーズウォッチは、常にニーズがあります。シーマスター ダイバー300Mは定番モデルですが、ビビッドなオレンジのラバーストラップが効いています。こういう時計が、ご自身のラインナップにひとつあっても楽しいでしょう」(村田氏)
近年はカラー展開やストラップの選択肢が広がり、ダイバーズの実用性に“表現力”が加わった。ダイヤルとストラップの色合わせを楽しむ余地は今後さらに拡張していくだろう。
カルティエ 「サントス ドゥ カルティエ」ウォッチ スモールモデル
Ref.WGSA0107。512万1600円(税込)
18KYGケース、18KYGブレスレット。ケース径27mm×34.5mm、ケース厚7.08mm。日常生活防水。クォーツ。
“王の宝石商、宝石商の王”と称された名門ジュエラーのカルティエ。その三代目となるルイ・カルティエが、1904年に友人のブラジル人飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために製作したのが、のちに「サントス」と呼ばれることになる角形ウォッチだった。「サントス」は“世界初の紳士用腕時計”とされ、時計の歴史に燦然と輝く存在だが、メタルブレスレットを備えたスポーティモデルが誕生したのは、意外と遅く1970年代になってから。しかしエレガントな角型ケースにビスをあしらったタフなブレスレットを合わせるという独特のバランスで、一躍人気モデルとなった。現行モデルはベゼルの形がブレスレットに連なるようにデザインされ、さらに流麗な雰囲気となっている。
「今年はサントス ドゥ カルティエにスモールモデルが誕生したのがニュース。女性にも使いやすいサイズですし、男性があえてこの小さなケースを選んでもいい。ジェンダーレスな時計が増えている昨今のトレンドを楽しめます」(村田氏)
サイズの多様化は装いの幅を広げる。ストラップ交換機構や素材バリエーションの拡充が進めば、性別やTPOを超えて“日常の相棒”としての存在感はさらに増すはずだ。
チューダー ブラックベイ クロノ
Ref.M79360N-0014。86万4600円(税込)
SSケース、SSブレスレット。ケース径41mm、ケース厚14.4mm。200m防水。自動巻き。Cal.MT5813:2万8800振動/時、約70時間パワーリザーブ。
1926年に創業したチューダーはタフウォッチの名門として、主にダイバーズウォッチを中心にラインナップし、多くの軍隊や冒険家から愛用されてきた。同社初のクロノグラフは、1970年に発売されたオイスターデイト クロノグラフで、当時流行していたカラフルダイヤルが特徴だった。現在のブラックベイ クロノは2017年にデビュー。2カウンター式は初代から継承するデザインであり、そのレトロなムードのおかげでチューダーの歴史も楽しめる。なお、搭載するチューダー初の自社製クロノグラフムーブメント、Cal.MT5813はブライトリングのB01ムーブをベースとしている。
「チューダーには様々なクロノグラフのバリエーションがありますが、結局人気を集めるのは、わかりやすくかっこいいもの。白地に黒のインダイヤルを合わせた“パンダダイヤル”はまさに王道です。ブレスレットの豊富なバリエーションもチューダーの特徴ですが、やはり5連のブレスレットの人気が高いですね」(村田氏)
“T-fit”クイックアジャストクラスプやブレスレットの選択肢など、実用面の改良がスピーディに進むのがチューダーの強み。今後はケース厚や装着感の最適化がさらに洗練され、より毎日使えるクロノへ成熟していくと考える。
パネライ サブマーシブル マリーナ ミリターレ カーボテック™
Ref.PAM01698。294万8000円(税込)
カーボテック™ケース、ダークグリーン テキスタイルストラップ。ケース径44mm、ケース厚14.25mm。300m防水。自動巻き。Cal.P.900:23石、2万8800振動/時、約3日間パワーリザーブ。
1930年代からイタリア海軍特殊潜水部隊のためのミッションウォッチの製作を開始したパネライ。大型のクッションケースや明るく光るインデックス、そして頑強なリューズプロテクターが考案され、それがパネライのアイコンとなった。長らく軍事機密として扱われてきたが、1990年代に民生品を発表し、多くの時計愛好家に知られるようになる。逆回転防止ベゼルを備えたダイバーズウォッチ、サブマーシブルは1998年に誕生し、2019年から単独のコレクションとして独立した。このモデルは軽くて頑強な独自素材カーボテック™をケース素材に使用しており、切削時に現れる縞模様がアクセントとなる。
「海軍航空隊からインスピレーションを得た新作で、ミリタリーテイスト溢れる顔立ちが特徴。専用ストラップの質感もよくて、カーボテック™製の黒いケースとの組み合わせもカッコいい。スモールセコンドの中に海軍航空隊の錨のマークが入っているのも新鮮です。最近は男っぽいザ・プロフェッショナルウォッチが少なくなっていますが、やはり惹かれますよね。今では希少な存在になりつつあります」(村田氏)
カーボン系素材やチタンなど軽量素材の活用は、パネライの個性を次の段階へ押し上げる。サイズ感は保ったまま、素材の軽量化とストラップの選択で装着感を整え、プロユースのDNAを日常へ落とし込む提案は広がりつつある。
ブライトリング ナビタイマー B01 クロノグラフ 41 ジャパン エディション
Ref.UB01391A1B1P1。181万5000円(税込)
SS&18Kレッドゴールドケース、レザーストラップ。ケース径41mm、ケース厚13.6mm。30m防水。自動巻き。Cal.ブライトリング01:47石、2万8800振動/時、約70時間パワーリザーブ。
航空回転計算尺を持つクロノグラフとして1952年に誕生したナビタイマー。1954年に国際オーナーパイロット協会(AOPA)の公式タイムピースとなり、それ以降多くのパイロットから愛用されるようになった。細いベゼルはエレガントな雰囲気をつくり、精密な目盛りはプロフェッショナルツールとしての迫力を加える。その後何度かの改良を経たナビタイマーは、2010年に発売された世界限定モデル以降、ブライトリングによる自社製Cal.01を搭載している。このナビタイマー B01 ジャパンリミテッドエディションは日本限定モデルで、ベゼル素材にレッドゴールドを使用。ブラックダイヤルの色を引き立てる配色で、さりげない高級感を楽しめる。
「ナビタイマーといえば、白黒のパンダダイヤルが人気ですよね。しかしこのモデルはワントーン。こういう配色は限定モデルならではの個性です。珍しいダイヤルですが、実際着けやすくてオススメ。見慣れた時計なのにちょっと新鮮な印象になります」(村田氏)
サイズ・配色・素材の微差で個体の印象が大きく変わるのがナビタイマーの妙味。トーン・オン・トーンの限定展開が今後も増えれば、装いとの親和性はさらに高まっていくはずだ。
ブレゲ タイプ XX 2075
Ref.2075BH/99/398。614万9000円(税込)
18K ブレゲ ゴールドケース、レザーストラップ。ケース径38.3mm、ケース厚13.2mm。50m防水。手巻き。Cal.7279:28石、3万6600振動/時、約60時間パワーリザーブ。
1950年代に定められたパイロットウォッチの規格であるタイプ20は、黒文字盤、夜光塗料を施したインデックスと針、高性能ムーブメント、回転ベゼル、そしてフライバッククロノグラフを備えている必要があった。ブレゲではこの規格に準拠したクロノグラフを製作し、1955年にフランス空軍に納品する。タイプ XX 2075はこの軍用モデルを現代的に進化させたもので、高振動のフライバック式クロノグラフムーブメント、Cal.7279を搭載する。創業250周年に合わせて開発されたブレゲゴールドをケースに用いる。3時位置の大きな表示は15分積算計。これはかつて飛行前のチェック時間が15分であったことに由来する。
「ゴールドに銀、銅、パラジウムを混ぜたブレゲゴールドの独特の輝きは、ぜひ店頭で見てください。ブレゲはそもそもパリ発祥のブランドで航空業界とも深いつながりがあり、独特の世界観があります。派手すぎず、上品さがある。それが細かな仕上げなどからも醸し出されています」(村田氏)
メゾン独自素材の活用とムーブメントの高振動化は、クラシックな意匠に現代的な機能美を与える。タイプXXの展開は今後も質実剛健さとラグジュアリー性の両立が鍵になるだろう。
時の旅を五感で体験する
プレミアム ウォッチ エキスポ 2025は、新作時計に出会う場所というだけでない。時計文化に触れ、その奥行きを楽しむ場でもある。そのため、さまざまなイベントも用意されている。
- TUDOR「TUDOR POP UP STORE」
日時:10月22日(水)~28日(火)
場所:阪急うめだ本店 1階 コトコトステージ11
2025年、チューダーはVisa Cash App Racing Bulls F1チームのオフィシャルパートナーとして前線を走り続けている。期間中はブランド初となる同会場でのポップアップを展開。挑戦を続けるチューダーとチームのいまを、プロダクトと世界観の両面から体感できる。 - Bell & Ross「ベル&ロス NEW TIME INSTRUMENTS POP UP STORE」
日時:10月15日(水)~28日(火)
場所:阪急メンズ大阪 1階 メインステージ
阪急では通常展開のないBell & Rossが期間限定で登場。最新モデルやブティック限定、コンプリケーションなどの希少モデルまで幅広くラインナップし、計器としての魅力と装いとの親和性をじっくり確かめられる。
またHODINKEE Japan関口 優編集長によるトークショーも開催。スイス時計の最新事情や、取材を通して掴んだ内緒話などが聞けそうだ。
- HODINKEE Japan 関口 優編集長 スペシャルトークショー
日時:10月18日(土)16:00~16:30
場所:阪急うめだ本店 13階 ダイヤモンドホール
定員:要予約(先着30名)
当日受付:13階受付で下記いずれかをご呈示ください。①阪急阪神お得意様・ペルソナカード会員様はカード ②阪急うめだ本店 ジュエリー&ウォッチLINE お友だちの方は画面
人生の旅のパートナーを探しに
高級時計はムーブメントの仕上げや組み立て、外装パーツの磨きなど、製造に時間がかかるため、欲しいと願っても簡単に手に入れることはできない。だからこそ、一期一会の出会いを疎かにはしたくない。
阪急うめだ本店には直営ブティックが多く入ることもあって、プレミアム ウォッチ エキスポ 2025では、人気ブランドの希少モデルも多く扱われる。普段は店頭でほぼ見ることができない名作たちを、ブランドを横断して吟味できるというのは、ほかにはないメリットといえるだろう。特に時計の場合は、手首に感じる重さやなじみ具合、そして自分とのフィーリングも含め、写真だけではわからない部分があるので、実際に店頭に足を運ぶことが重要になる。
ブランドによってはジュエリーなども同時に展示するため、時計との重ね付けのイメージも膨らみやすいし、洋服やバッグを見比べ、コーディネートを意識しながら時計を選ぶことも可能。こういったラグジュアリーブランドと連携して時計選びを楽しむという体験を提供できるのもプレミアム ウォッチ エキスポ 2025のメリットだ。
「高級時計は、どうしても機構やスペックなどマニアックな方向に行きがちですが、ファッションとしても時計を楽しんでもらいたい。カッコいい、可愛いでも十分に時計を選ぶ動機になる。歴史などの深い魅力は、それから学んでもいいんです」と村田氏は語る。
最後におすすめしたいのは“横断的な比較”。ダイバーズ同士、クロノグラフ同士などテーマで並べて着け比べると、自分の基準が一段クリアになる。プレミアム ウォッチ エキスポ 2025は、その比較体験を最良の環境で実現してくれる。
Photos:Akira Maeda(Maetico), Azusa Todoroki(Bowplus Kyoto) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Tetsuo Shinoda