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人類が20世紀に成し遂げた偉業のひとつは航空技術の発達である。ライト兄弟がニューカレドニア州キティホークの海風にライトフライヤー号の初飛行を成功させたとき、それまで絵空事と片付けられていた可能性は扉を開いたのだ。世界初の商用飛行は100年ほど前にフロリダ州内で就航し、セントピーターズバーグから隣接するタンパまでの便であった。のちの1950〜60年代に商用飛行が大衆化し、市民はずっと早く目的地に移動できるようになる。しかし、大陸間の移動が数時間で可能になると、それはパラダイムの変化であると同時に、問題も引き起こした。時刻の調整に関しては特に、である。
現在地の時間だけが問題となる時代は終わり、むしろ、目的地の時刻と、今いる場所の時刻が同時に必要となった。これは商用航空産業の黎明期に、タイムゾーン間を行き来する商用機のパイロットにとっては切実な問題であった。20世紀の偉大な企業のひとつであるパンアメリカン航空は、ロレックスというスイスの時計メーカーとパートナシップ協定を結び、複数のタイムゾーンの時刻を表示する時計の実用化を模索。実はそのことが、今日の時計収集家垂涎の、歴史的に重要な、スポーツ・ロレックスのアイコニックピース誕生の序章となったのだ:その時計こそがGMTマスターであrふ。
アルビノ(白)ダイヤル GMTマスター Ref.6542
初代GMTマスターは当時としては大型な直径38mmで、パンナムのパイロットのために視認性の高いダイヤルを備えていた。パンナム社支給モデルには特別色の白、別名アルビノダイヤルが支給されたといわれている。その名前は一つだけではない。Ref.6542に関しては、シロイルカという名もある。2015年、HODINKEEのオフィスに全く同じモデルが届き、ベンがハンズオン記事を執筆した。
GMTマスターは白紙から生まれた時計ではない。その原型は別のクラシックスポーツ・ロレックスに遡ることができ、恐らくその原点は、回転ベゼルを搭載したロレックス ゼログラフ Ref.3346(1937年製)だが、そのモデルのデザインは1953年にサブマリーナーとターノグラフへと受け継がれる。これらのモデルは、アルミニウム製の回転ベゼルで経過分数を計測できる機能を備えていたが、それはロレックスがGMTマスターを開発するにあたっての基礎となるものだった。今や、2カ所以上の場所の時刻を知るための時計として、青と赤のグラデーションに彩られた24時間ベゼルをもつ、ロレックスのGMTマスターが目に浮かぶのはとても自然なことなのだ。パイロットのためのツールウォッチとして出発したこのモデルは、やがて国際的、都会的感覚、旅の多い生活の象徴に昇華。それゆえに、パイロットや航海士だけでなく、有名な俳優、エンターテイナー、アーティスト、哲学者、ミュージシャンにも愛されている-こうした人々は、その個性やライフスタイルが私たちに大きな影響を与えている。
時計収集コミュニティにおけるGMTマスターのヴィンテージモデルの存在感は日に日に大きくなる一方だ。また、現行のGMTマスターⅡのコレクションは、小売市場における人気モデルの上位を占めている。つまり、ロレックス GMTマスターは、どのモデルも他に例を見ないほどの人気を誇るトラベルウォッチなのである。
可能な限り、この記事の各リファレンスには製造年を併記した。裏蓋の内側の刻印がケースの製造に関する情報だということを理解することはもちろん重要だが、時計そのものが組み立てられるのは、それから1年経ってもまだということはザラにあり、さらにその時計が店頭に並んで売られるまでには数年を要するということを理解するのも、また重要なことである。70年代半ば、ロレックスは裏蓋の内側に製造年を刻印することを止めた。これ以降の時計は、ラグとラグの間に刻印されたシリアル番号が時計の製造時期を特定するのに適当な情報となりますが、それすら科学的と呼ぶには程遠い指標である。
初代GMTマスターの発売から65年が経過し、宝石入りやストラップ/ブレスレットの同一モデルの仕様まで含めると、夥しいバリエーションがその間にリリースされている。ひとつひとつを紹介するのは不可能なので、代わりに1955年から2020年に至るまでの節目となるモデルの数々に焦点を当てることにした。
そのために、私たちはHODINKEEの前寄稿者で、Wind Vintageのオーナーであるエリック・ウィンド氏の協力を再び仰ぐことにした。エリックは彼の友人や収集家の人脈を駆使して、30本を超える珠玉のGMTマスターを本記事にまとめるために提供してくれた。
Ref.6542:1955年〜1959年
Ref.6542(初代GMTマスター スモール夜光プロット):1955年〜1959年
このモデルこそが全ての始まり。Ref.6542は商用飛行機パイロットの業務用ツールウォッチとして初めて作られたGMTマスターである。60数年後のペプシベゼルのGMTマスターⅡとほとんど姿が変わらない。ロレックスが与えた完成度の高さは、昼間と夜間を巧みに色分けしたベゼルと24時間針をもつGMTマスターのデザインが、長きにわたり時計業界に影響を与え、それ自体がひとつのカテゴリーとして認知された事実から明らかである。多くの人は、この時計を見てボンド映画「ゴールドフィンガー」の劇中、オナー・ブラックマン扮するプッシー・ガロールが身に着けたことを思い出すのではないだろうか。
合成樹脂のベークライト製ベゼルがRef.6542の特徴として知られる一方で、それには2つの点で問題があった。第一に、ひび割れを起こしやすいことから、Ref.6542後期生産型では蓄光料のないメタルインサートに交換されたこと。第二に、ベゼル上の放射性物質の使用がアメリカ合衆国で物議を醸し、1961年には退役海軍士官とその家族がロレックスを相手取り、Ref.6542の蓄光ベゼルが癌を引き起こしたとして提訴したことだ。
ロレックスはこれらのベゼルをリコール回収し、酸化皮膜金属製ベゼルと交換。これらの経緯から、オリジナルのベークライトベゼルを持つRef.6542の個体は極端に希少なものとなったのだ。
1955年から1959年までの5年間の生産期間において、Ref.6542は38mmのオイスターケースに3種類のGMTマスター用のムーブメントを搭載した。最初にCal.1036、次いでCal.1065、そして最後にCal.1066だ。
Ref.6542初期型の“GMT-Master”のピンク色の文字はとても希少で、ある個体はその表記の上に赤色で防水性能を表す“50m=165ft”と記されていた。最初期の個体には、ロングネックのメルセデス短針が使われており、同時期に生産されていたサブマリーナーRef.6200と酷似する。
スティール製のRef.6542のケースは数年間の製造でいくつかのバリエーションをもち、狭い面取りのエッジ/傾斜面を持つ個体と、逆に幅広のエッジ/傾斜面を持つ個体が存在する。また、ベゼルの赤と青の配色が逆転した個体まで存在している。スティール製のRef.6542には、GMT針の先端が夜光塗料で覆われている個体と、この記事の多くのモデルがそうであるように、三角の縁取りの内側に夜光塗料が塗布されているものが存在する。
Ref.6542(ビッグ夜光プロット):ケース製造期〜1958年第3四半期
GMTマスターの初期型の保存状態が良好な個体を紹介しよう。先代のRef.6542に同じく、黒地にギルト(金色)のダイヤルですが、よく見ると、ラジウム夜光塗料の大きさの違いに気づくだろう。通称“ビッグ・ルーム(夜光)”またの名を“マキシダイヤル”と呼ばれることがある(1970年代後半から1980年代前半のサブマリーナーRef.5512とRef.5513 のマットダイヤルから転用された通称)。1958年第3四半期に生産されたケースには、大きめの夜光プロットの進化したダイヤルが組み合わせられる。ベークライトベゼルはそのままに、OFFICIALLY CERTIFIED CHRONOMETER(OCC)表記とチャプターリングも見える。このダイヤル仕様は早々に消え、ロレックスは小プロットのダイヤルデザインに回帰した。
この非常に希少なRef.6542は夜光プロットが大きくなったとことに加え、チャプターリングがインデックスに近接した-ほぼ接するほど近く、12時位置の逆三角形のマーカーは王冠の先端にほぼ接している
Ref.6542(18Kイエローゴールド、バーガンティブラウン-ベークライトベゼル、アルファ針):1958-1959年製
Ref.6542については、初期のGMTマスターからゴールドモデルが存在し、スポーツ・ロレックスの中では最初に採用されたモデルであることが分かる(プレ・デイトナの中にもゴールドモデルの存在はあるが)。文字通り高嶺の花であった国際航空便での移動は、数年先行していたロレックス サブマリーナーが想定したスキューバダイビングの環境よりは、貴金属製のこのツールウォッチがよりピッタリだった。
スティールバージョンと同じく、ゴールド製Ref.6542は38mm径のケースを採用。初代ゴールドモデルも同様にベークライトを採用しましたが、青と赤のバイカラーではなく、バーガンディとブラウンを配色した。ゴールドモデルのダイヤルは2種類存在し、この記事で紹介する、明るいシャンパンダイヤルの他に、バーガンディ-ブラウンのベゼルの配色に近い暗い黄褐色のダイヤルがある。
ゴールドのGMTマスターで後に繰り返し採用されることになる、ニップル(乳首)アワーマーカーが採用されたのもこのモデルが最初だ。ニップルマーカーは移行期のRef.16758に至るまで、長年にわたりゴールドGMTマスターの証といえる。今回紹介する個体は、金無垢のオイスターブレスレット仕様だ。ケースと同じくゴールド製のツインロック式ねじ込みリューズで、ロレックス王冠の真下に引かれた線で見分けることができる。
スティールモデルがスポーツ・ロレックスに典型的なメルセデス短針、ロリポップ秒針を採用するのに対し、ゴールドモデルはアルファ針、秒針は末端におもりの付いたシンプルなバトン型を採用した。スティールモデルと同様に、GMT針は小三角形のタイプだ。このモデルに搭載されたムーブメントはCal.1065。
Ref.6542(反転ベゼル):1959年製
反転ベゼルを持つRef.6542と初期のRef.1675は間違えやす。前述した1961年の訴訟までにロレックスは、ベークライトベゼルのリコールを完了。トロピカルダイヤルをもつ写真(上下)の個体は、元々ベークライトベゼルが取り付けられていたが、最終的にリコールによってメタルインサートに交換された。ロレックスのサービスセンターはベゼルインサートからラジウムを削り取って、トリチウムか夜光塗料なしのベゼルインサートに置き換えたのだ。
1960年代前半、ロレックスはアメリカ合衆国内の正規代理店に向け、ベークライトベゼルのリコールで生じた混乱について声明を出した。この声明から分かることは次のとおり。ひとつは、この声明文が発行された時点で、605本のベークライトベゼル付きGMTマスターがアメリカ合衆国に輸入されたこと-非常に少ない本数だ。また、声明文ではGMTマスターが“航海士や飛行機のパイロットが、2つのタイムゾーンの正確な時刻を同時に確認するための特殊仕様のクロノメーター腕時計”だと断言している。GMTが当初想定した使用目的から、どれほど逸脱したのかという疑問に加え、価格の変動についても、この声明文は答えている。ステンレスモデルのRef.6542はパイロットに240ドル、ゴールドモデルは600ドル支払うように求めた(訳注:当時の為替は360円/ドルの固定相場。なお、日本国内の大卒初任給は1万800円)。
Ref.1675:1959年〜1980年
Ref.1675は1959年から1980年まで生産され、ロレックスでも最長寿モデルのひとつとして知られている。製造期間中、ロレックスはこのGMTマスターに大小様々な仕様変更を行ったが、このモデルに明確な境界線を引くと、2つのカテゴリに分類することが可能だ。初期のギルトダイヤルと後期のマットダイヤルである。この分類は、ヴィンテージ・ロレックスを取り扱う際にはお馴染みの手法で、ヴィンテージのサブマリーナーやエクスプローラーにも見られる。
ギルトダイヤルのGMTマスター Ref.1675は、1959年から1966〜1967年頃まで製造された。マットダイヤルは1966年から散見され、Ref.1675が生産終了する1979年〜1980年頃をさらに超えて、その次の世代のRef.16750の初期の個体にも採用。Ref.1675の初期型は、ベゼルのフォントが後期以降のモデルに比べ太いことに気付くだろう。初期型であることと希少性から、太字ベゼルはそうでない個体に比べて高値で取引されている。
ムーブメントに関していえば、Ref.1675はその生産期において、2つのムーブメントを採用した。1965年〜1966年に生産された個体は、毎時1万8000振動/時のCal.1565を搭載。シリアル1400000番台あたりで、ロレックスは当時としてはハイビート仕様だったCal.1575に移行した。このムーブメントは1971年頃にハック(秒針停止)機能を追加。
ただし、2つのムーブメントを採用するルールには例外があり、それは最初期のOCC表記を持つレアなギルトダイヤルのモデルに適用される。それについては後述するが、ここでこのリファレンスに関する学識をgmtmaster1675.comを通じて提供してくれた、アンドリュー・ハンテル博士に感謝の意を表したい。
ギルトダイヤル
Ref.6542に引き続きブラックダイヤルには全て光沢のあるギルト(金色)が、GMTマスターRef.1675にも採用された。ギルトダイヤルは、ガルバニックコーティングなる技法によって生み出された。まず、ダイヤルの金属に直接”ROLEX”など文字部分を切り抜いたクリアコーティングを貼る(これはダイヤルの他の部分に着色してしまうのを防止する目的で実施)。次に、黒地にラッカー塗装を吹き付けることで、文字盤に光沢のある艶やかな印象を与えたのだ。
Ref.1675“OCC”ダイヤル:1959年〜1960年
上の画像はロレックス GMTマスター Ref.1675の最初期の個体である。Ref.6542の特徴であったベークライトベゼルは消え、生産された個体は全てメタル製インサートを採用。この個体のベゼルは、製造時から経年変化によって著しく色が薄くなっている。初期型のRef.1675を見ると、まさにこれが思い浮かぶ:霞がかった青の夜間帯、柔和な赤の昼間帯を指し示すこのベゼルのことである。
Ref.1675の最初期の個体は“OCC”ダイヤルと呼ばれ、GMT-MASTER表記直下に“Officially Certified Chronometer”と表記されたことに因む。OCCはマイクロステラナットを採用しないCal.1535を搭載することを意味するが、それよりも新しいCal.1565を搭載する個体も実に多いのだ。マイクロステラナットによるフリースプラング調速を採用したCal.1565が正式に導入されて以降、“Superlative Chronometer Officially Certified”と表記が改められました。
OCCダイヤルはRef.6542の表記と似ていますが、そのフォントはやや大きいことから、先代機からの流用でないことが分かる。Ref.6542と同じように、このRef.1675の個体は“Oyster”と“Perpetual”の間に“-”(ハイフン)の表示がある。
アルミニウムベゼルインサートが標準仕様となったこととは別に、スティール製の初代Ref.1675と、以降の後継モデルの典型的な特徴となるのは、ケースサイドのリューズガードの存在だ。のちに細かい仕様変更は生じたものの、スティール製Ref.1675には全てリューズガードが付いている。
Ref.1675(ポインテッドリューズガード、トロピカル/ノントロピカルダイヤル、エクスクラメーション/アンダーラインなし):1960年〜1962年
このモデルで“Superlative Chronometer Officially Certified”表記と、搭載するムーブメントがマイクロステラナットの付いた1万8000振動/時の自動巻きクロノメーターCal.1565が定着。この4ワード表記は今日のロレックスの時計において、おなじみのプリントとなりましたね。
スティールモデルのRef.1675と初期のRef.6542の最も大きな違いは、リューズガードの有無だが、Ref.1675の初期モデルのリューズガードは、オウムのくちばしのように突き出ていた 。
上の画像の個体はダイヤルが経年劣化(トロピカル化)して、ベゼルインサートはかなり褪色が進行しているのに対し、下の画像の個体は、ダイヤルが劣化していない。Ref.6542にも見られるチャクプターリングが、初期のRef.1675にも存在する。
Ref.1675(チャプターリング、エクスクラメーション):1962年〜1963年
一見、このRef.1675はこれまで見てきた数モデルとほとんど違いがないが、この個体にも特別な箇所がある。6時位置下をご覧ください。チャプターダイヤルの内側に置かれた夜光入りのポイントが、バーインデックスと一体で見るとエクスクラメーション(!)マークのようである。
エクスクラメーションダイヤルは、高濃度のラジウム夜光塗料をやめ、ラジウムの含有量を減らした仕様変更に合わせて作られたと思われる。恐らくは、1964年あたりに「T」刻印が標準化される前のトリチウムを初期採用した個体で、ラジウムとトリチウムも併用したダイヤルが特徴だ。gmtmaster1675.comによると、エクスクラメーションダイヤルは、チャプターリング入りの62XXX〜990XXX番台のシリアルの広範にわたって存在するということだ。
エクスクラメーションダイヤルは、GMTマスターに限った特別仕様ではありません。この収集家垂涎のダイヤル仕様は、サブマリーナーやエクスプローラーにも見られるものである。
Ref.1675(オープンチャプター、ダブルスイス表記、アンダーライン):1963年
このモデルではGMTマスターのダイヤルデザインの大きな変更が確認できる。本機までは、どのモデルもダイヤルを周回するようにチャプターサークルが描かれていた(注;海外ではチャプターリング ギルトと呼ばれる仕様)。Ref.1675のこのモデル以降は、それが廃されオープンチャプターへと変更。このかなり顕著な変更点は、ダイヤル面積を多少広げ、その印象を大きく変えた。ご覧のとおり、アワーマーカーは、Ref.1675のこのモデル以前までを含む、従来モデルよりも大きく象られている。
チャプターリングの廃止は、1963年以降のギルトダイヤルであることの判別要素のひとつに過ぎない。この個体には、“アンダーライン”と“ダブルスイス”表記があり、6時位置の最下部に2回登場する「SWISS」の文字と、“Superlative Chronometer Officially Certified”表記の下に引かれたアンダーラインまでを含めてようやく、この個体が1963年製だと胸を張って言えるのだ。
本機はポインテッドリューズガードが少し伸びたため、オウムのくちばしのような形状ではなくなっている。この特徴を、収集家のコミュニティでは“ブロード・ポインテッドリューズガード”と呼び、ケースシリアル番号は100万番台あたりに該当する。
Ref.1675(オープンチャプター、ダブルスイス、T<25):1963〜1964年
6時位置に2つの「SWISS」表記のあるダブルスイス仕様の別の個体。しかし、今度はより大きくなった「SWISS」の隣には、おなじみの「T<25」が併記されている。ロレックスはこの表記によって、ダイヤルから発生する放射線量を明示したのである。「T<25」表記は、トリチウムから発生する放射線量が925メガベクレル(25ミリキュリー)以下であることを意味する。このモデルも、先代ダブルスイス、アンダーラインのRef.1675がもっていたブロード・ポインテッドリューズガードを踏襲した。
Ref.1675(オープンチャプター、ゴールド針):1964〜1965年製;(オープンチャプター、レギュラー針):1964〜1966年
このモデルはギルトダイヤルの最終型となるRef.1675で、1964年から1965年に製造。この個体の印象的な特徴はそのゴールド針で、下の画像の通常の針の個体よりも古く、希少である。
さて、Ref.1675を象徴したポインテッドリューズガードは、このモデルで今日私たちが目にする現行型GMTマスターⅡに近いラウンド型に姿を変えている。
さらに、マットダイヤルに変更される直前のギルトダイヤル仕様の後期型のRef.1675をお見せしよう。この典型的な個体には、ゴールド針は採用されず、夜光プロットは先代機と比べ小さくなった。
マットダイヤル
ケース製造年が1966年あたりから、Ref.1675はマットダイヤルを採用し始める。ここで、遡ってマーク0と名付けられた最も古い型からRef.1675の最終型まで、その進化の系譜を辿りたい。マットダイヤルのRef.1675は、GMTの生産期間の14年を占め、実際、マットダイヤルはRef.1675の後継機Ref.16750の初期まで採用された。
Ref.1675(マーク0.5、小トライアングルのGMT針):1966〜1967年
マーク0のダイヤルは最近になって収集家コミュニティで発見され、付けられた呼び名である。マーク0のマットダイヤルを採用したRef.1675は、先代以前のギルトダイヤルと書体・デザインが同じで、非常に希少なモデルだ。
本機は、文字通りマーク0とマークⅠの間に存在するようなモデル(また、これ以前のマットダイヤルの存在が知られる前は、このモデルがマーク0とみなされたことは、ロレックス収集家コミュニティの探究心の高さを証明したといえるだろう)。ROLEXロゴが横に長い「E」ということから判断するに、マークⅠと見紛う。
マーク0と1の立ち位置からすると、基本的には過渡期における移行モデルといえる。多くのマーク0は、旧型のCal.1565をムーブメントに採用したが、マークⅠに移行完了するまでに、マットダイヤルとの蜜月を築くことになる1万9800振動/時のCal.1575に載せ替えられた。
Ref.1675(マークⅠロングE):1967〜1972年
さて、お待ちかねのマークⅠですが、前述したとおり、その名前から初代マットダイヤルと思いきや、そうではない。マークⅠ、別名「ロングE」は、ギルト時代の小さなGMT針とマットダイヤルが組み合わされるマーク0が発掘されるまで、長らく初代マットダイヤルのGMTマスターだと愛好家コミュニティから見なされていた。
その渾名は特徴的なロゴの”E”の書体に因んで付けられた。Eの真ん中のバーの長さが、他モデルよりも長いのだ。マークⅠを、これ以外に見分けるための特徴として挙げられるのは、小冠の放射状に伸びた「指」が比較的細いこと。マークⅠに関しては、全てマットダイヤルであり、ギルトダイヤル時代から引き継がれたものはないのである。
Ref.1675(マークⅠロングE紫紅色、別名ピンクパンサー):1967〜1968年
マークⅠダイヤルの別の個体をご覧いただこう。先ほど解説したとおり、ロングEの特徴から簡単に見分けられるのではないだろうか? しかし、このモデルの主役はダイヤルではない;日中時間帯がフクシア(紫紅)色に陽極酸化処理されたアルミニウム製ベゼルインサートであrふ。マークⅠの生産期間は1966〜1972年と長かった一方、この美しいフクシア色のベゼルの個体は1967〜1968年という、短い期間に限られた本数が製造されたと思われる。念のため、アルミニウム製ベゼルは着用時の摩擦や経年褪色の度合いによって、様々な表情を見せることも付け加えておく。
収集家によってフクシア、または茶目っ気のあるピンクパンサーとして知られるこのマークⅠは、他のRef.1675に比べプレミアム価値を持ち、GMTマスターにエキゾチックな美観を与えた。同時にこのモデルは、当時代理店によってオプションとして販売されたジュビリーブレスレットを装着している。このGMTマスターとジュビリーブレスレットの組み合わせは1970年代に定番化され、2018年に発表された赤青ベゼルを持つGMTマスターⅡの復刻に大きな影響を与えた。
Ref.1675(マークⅡ):1972〜1975、1977〜1978年
マークⅡは1972年頃に登場した個体で、他のマットダイヤルのRef.1675と簡単に見分けがつく。「ROLEX」の太く、力強いフォントはヒントとなるだろう。さらに注意してみると、他のモデルに比べ、ロゴの「L」と「E」がより密接に配置されている。各文字は結構どっしりと構えているが、文字によっては縦幅よりも横幅が大きい。gmtmaster1675.com によると、Ref.1675 マークⅡのシリアル番号は2,800,000〜3,900,000番台だと確認されたが、ワンオーナーの個体のいくつかは5,000,000番台でも見つかっている。ロレックスがその時期に余ったマークⅡダイヤルを使用したとでもいうのだろうか?
Ref.1675(マークⅢ 放射ダイヤル、スモール夜光プロット):1975〜1978年
ラディアル(放射状)マットダイヤルとしても知られるマークⅢは、簡単に判別可能だ。ダイヤルの書体を精査するまでもなく、むしろ、夜光プロットに注目を。それらはマークⅡのよりも小さく、先代マットダイヤルのRef.1675に比べてミニッツトラックから遠くにレイアウトされている。いくつかの点で、このモデルは初期のRef.6542を彷彿とさせるものである。また、マークⅢダイヤルはしばしば交換ダイヤルとして使用されたが、当初から装着された仕様もある。ところで、24時間針全体が朱色なのにお気づきだろうか? アフターマーケットでは、よく行われた改造で、上の画像もそうした例のひとつである。
Ref.1675(マークⅤ):1978〜1980年
マークⅤを見てみよう。この時計は先代マークⅣとかなり似ている。上の個体のようなマークⅤとマークⅣ(『地獄の黙示録』でマーロン・ブランドが着用し、所有した時計と同じ)を見分けるのは、極めてトリッキーではあるが、いくつかヒントが存在する。もし、精査の機会があるならキズミ(時計用ルーペ)が必要となるだろう。
マークⅤでは“-MASTER”のMの右側から引かれた垂線が、下段の“CHRONOMETER”の先頭“CH”2文字の中間点を通過する。マークⅣではその垂線が、“CHRONOMETER”の先頭“C”の真上に交差する。またマークⅤでは、“ROLEX”の“O”の字が少し膨らみ、縦幅より横幅が大きくなっている。このモデルの夜光プロットは、初期のRef.1675に比べやや膨らんでいて、幅広で、その形状から収集家やディーラーから別名“マキシ(Maxi) マークⅤ”として親しまれています。
Ref.1675(マークⅡ、ブルーベリー):1970年代後半
マークⅡの別バージョンにも触れておくと、上の画像の個体を際立たせるのは、ブルーの単色ベゼルインサートで、収集家から“ブルーベリー”と呼ばれるモデルだ。これらのモデルは70年代に製造され、ロレックスがペプシカラー以外の選択ができるようにブラックカラーベゼルを定番化するための布石としてリリースされたものだと考えられている。
あらかじめ言っておくと、このベゼルインサートは収集家コミュニティの間では、ロレックスが本当に作ったかどうかも論争の種となっている。ベゼルは、ダイヤルやケース、ムーブメント、ブレスレットのように刻印が入っていないため、贋作の多いパーツでもあり、事実オンライン上でレプリカが入手しやすい。議論の余地がないのは、このブラックベリーGMTマスターが、Ref.1675の中で収集価値が高いということだ。ロレックスがこのベゼルを製造したと信じる収集家の拠り所は、これらの個体が1970年代後半に製造されたシリアル5,000,000番台に凝集しているという事実である。さらに、このシリアル番台にはマークⅡ、マークⅢ、マークⅣ、マークⅤのダイヤルが存在するため、ブルーベリーベゼルと各ダイヤルとの組み合わせも楽しめるわけだ。
また、ロレックスがこのベゼルを製造したと信じる人々の間では、この時計は販売店では売られず、ロレックスのサービスセンターでテスト用に装着され、代理店でごく限られた顧客のために提供されたと理解されている。アラブ首長国連邦(UAE)の紋章入りGMTマスターのブルーベリーがオークションで販売されたことから、中東の軍用官給品として製造されたものと信じる人もいるようだが、これも後付けされた可能性が拭えない。
ゴールドモデル(金無垢)
Ref.1675(コンコルド、リューズガードなし)1960年代前半〜1965年
1960~1970年代のロレックスのキャンペーン広告は時計業界におけるマーケティングとして最もアイコニックで効果的だった。この広告は1968年の金無垢のGMTマスターが、コンコルドの試験飛行を担うテストパイロットに着用されたとして宣伝した。
Ref.6542同様、Ref.1675にも金無垢モデルが存在する。初期のRef.1675にはリューズガードがある一方で、当初金無垢モデルにはそれがなかった。上の画像と後に登場した下の画像のRef.1675のどちらにもメルセデス短針はなく、現時点で知りうる限り、それがRef.1675金無垢の仕様である。
Ref.1675金無垢モデルはコンコルドと呼ばれ、その名は1969年〜2003年に就航していた、大西洋を横断する超音速旅客機に因んだものだ。針はデイトジャストやデイトナに非常に似通っていて、GMTマスターに採用されたのには、若干の違和感を覚える。リューズガードのないRef.1675の金無垢モデルの多くは、同じ金無垢である初期のRef.6542で見られたアルファ針を採用した。
Ref.1675(コンコルド、リューズガードあり):1966〜1969年
ずっと後年の製造となりますが、金無垢GMTマスター Ref.1675の別の個体もある。そのケースにはリューズケースが付けられ、オイスターブレスレットと組み合わされる。興味深いのは、長針が極端に細いことで、1968年のロレックスの広告にも確認することができる。これは、リューズガード付きのコンコルドが、オリジナルの針をデイトジャストやデイトナなど別モデルから流用して交換されていないかを特定する、ひとつの方法と考えられる。
付け加えると、リューズガード付きとそうでない金無垢製Ref.1675は、メルセデス短針と先端の尖った典型的な短針を備えた個体が1960年代終盤に現れ、ブラックダイヤルと同色のベゼルインサートのオプションが存在した。その金無垢モデルRef.1675/8は1980年まで製造が続けられた。
Ref.1675/3(ルートビア):1970〜1980年
ツートーンカラーのRef.1675/3、通称ルートビアは最もアイコニックなGMTマスターのひとつとして認知されている。中身はRef.1675のままなので、1980/1981年に登場するRef.16750とそのツートンモデルのRef.16753で、後に実装された瞬間日送りカレンダーは搭載されていなかった。これらのモデルを見分ける方法は簡単で、Ref.1675/3の王冠マークがアプライドされた18Kゴールドなのに対し、ツートンのRef.16753、金無垢モデルのRef.16758(下の画像を参照)の王冠はプリントされたものだ。
今日でもルートビアGMTは、ヴィンテージモデルも現行モデルも両方とも高い人気を誇る。このリファレンスではいくつかのバリエーションが存在しており、ブラックダイヤルにブラックベゼルもそのひとつだ。
また、ルートビアはクリント・イーストウッドが、プライベートや作品中で着用し有名となったモデルです。
Ref.16758(金無垢、瞬間日送りカレンダー):1980〜1988年
次に登場するのは、Ref.16750の金無垢モデル。スティールモデル同様、ロングセラーとなったRef.1675に終止符を打ったモデルで、瞬間日送りカレンダーを実装したモデルである。ゴールドモデルはGMTマスターシリーズ初期からの定番だったため、ロレックスがRef.16750をリリースした際、同時にこの金無垢モデルが登場したことには驚きはなかったようだ。
この美しい個体は、側面が変色していることとラグのエッジが完全な状態であることから、研磨を免れたのだろう。Ref.16758のいくつか(上の画像の個体も含め)は初期の金無垢GMTマスター定番である、ニップルアワーマーカー(突き出たようなゴールド製マーカーの中心に夜光塗料が装填されたもの)がそのまま採用される一方で、ゴールドに縁取られた平坦なマーカーを採用する個体もあり、その移り変わりを見ることができる。
金無垢製のRef.16758は、サファイアクリスタル風防と革ベルトかオイスターブレスレット、またはジュビリーブレスレットモデルから選ぶことができた。ブラウンベゼルにブラウンダイヤルの組み合わせも存在し、前述した金無垢のRef.1675コンコルドと好対照である。スティールモデルには、引き続きアクリルクリスタル風防を採用。ゴールドが湛えるラグジュアリー感には、サファイアこそ相応しいとされたのだろう。
私にとって、総金無垢のジュビリーブレスレットのGMTマスターは、1980年代に置けるラグジュアリーウォッチの代名詞のような存在である。
GMTマスターからGMTマスターⅡへの移行
Ref.16750(スパイダーダイヤル、瞬間日送りカレンダー):1980〜1988年
Ref.1675の後継モデルRef.16750は、スティール製GMTマスターとして約20年間ぶりの新リファレンスとなった。このモデルの決定的な特徴は瞬間日送りカレンダーで、先代Ref.1675でロレックスが導入したムーブメントの1万9600振動/時から2万8800振動/時へとハイビート化した、新ムーブメントCal.3075によって実装することができた。防水性能もGMTマスターとして初めて改良。リファレンス4桁台モデルは50m(165ft)防水だったが、Ref.16750ではその倍に向上。Ref.16750は今日では移行期のモデルとして認識され、ロングセラーとなったRef.1675と比較すれば7年という短い期間で生産終了した。
このモデルの初期型は、Ref.1675後期のマットダイヤルの基調を引継いだが、ロレックスは徐々にホワイトゴールド製のマーカー縁取りがセットされた艶やかなラッカー塗装のダイヤルに移行。ここに紹介する個体は、まさに後者のタイプで、よく目を凝らすと、ラッカーダイヤルに髪の毛ほどの細さのひび割れを確認することができるだろう。その特徴から、このモデルは“スパイダー”ダイヤルと呼ばれる。
もし80年代のアメリカのテレビをご覧になったことがあるならば、この時計が『マグナムP.I.』で私立探偵を演じる俳優トム・セレックの腕に巻かれていたことを見たことがあるのではないだろうか。この番組は1980年から88年まで放映されたが、奇しくもRef.16750の製造期間と同じなのだ。
Ref.1675ではダイヤルから風防に向かって24時間針、短針、長針、秒針の順に針が取り付けられたが、Ref.16750ではその順列を変更:新たな順序では、24時間針は短針と長針の間に移動した。
Ref.16700(GMTマスター最終モデル):1988〜1999年
GMTマスターの魅力的な面は、1982年のGMTマスターⅡの華々しいデビュー以降もGMTマスターとして存続したことで、このモデルのような古いGMTマスターの新リファレンスは廉価版としての役割を担った。Ref.16700は先代GMTマスターRef.16750の後継だ。
1988年のリリースによって、Ref.16700はGMTマスターにおける最新にして最終リファレンスとなった。その製造は1999年まで継続。Ref.16700は、ロレックスの最後の“改良”GMTムーブメントともいうべきCal.3175を採用し、その後に続くムーブメント同様、GMT針と短針の独立操作と、それによる第3のタイムゾーン設定が可能となった。製造開始から9年間は、トリチウム夜光塗料が使用されたが、1997年以降は、スーパールミノバに変更された。
このGMTマスター最終型と同時期に、ロレックスはRef.16760の後継としてRef.16710をリリース。Ref.16760こそ初代GMTマスターⅡである。詳細は次の章にて。
Ref.16760(ファットレディ、初代コークベゼル、初代GMTマスターⅡ):1982〜1988年
初代GMTマスターⅡのRef.16760は、1982年から1988年まで製造。手に取ってまず気づくのが、それまでのモデルと比べて少し厚くなったことである。短針単独駆動を組み込み、より厚みを増したCal.3085は、分厚いケースを必要としたのだ。この機能は、短針を1時間単位で進めたり戻したりすることで、ムーブメントを停止せずに時差調整を可能とした。Ref.16760はまたの名を“コーク”ベゼルといい、ブラックが夜間帯、日中帯をレッドで配色。収集家コミュニティにおいて、このモデルは“ファットレディ”のあだ名で知られている。また、このモデルをに愛を込めて“ソフィア・ローレン”と呼ぶこともあるそうだ。
Ref.16710(2代目GMTマスターⅡ):1989〜2007年
GMTマスターⅡ Ref.16710はシリーズ2代目で、Ref.16760の後継モデル。このリファレンスは80年代末から2007年まで、ブラック単色のセラクロムベゼルを備えたRef.116710が登場するまでロングセラーとなったモデルだ。ロングセラー機として2種類のベゼルがあり(上の画像のようなペプシ、ブラック単色)Ref.16710は、GMTマスターRef.16700が1999年に製造中止となるまで併売された。
Ref.16760の分厚いケースはスリムなケースの要望に応えて廃止されたが、それを可能にしたのが新キャリバー3185である。また、Ref.16710の生産末期にあたる2007年には、Cal.3186を搭載した個体さえ存在する。セラクロムベゼルモデルへの移行モデルの中には、“エラーダイヤル”または“スティックダイヤル”と呼ばれる、Ⅱの上下の水平線がない書体の個体がコレクター垂涎の的となっている。2019年12月にはフィリップスでそのうちの一本が販売された。
Ref.1675に迫る、18年もの長きにわたり販売されたモデルということもあり、Ref.16710にはいくつかの派生型が存在する。1997年まではトリチウム夜光を採用したダイヤルにT<25のプリントがあるもの、1998年から1999年にかけてはルミノバ、そして2000年から2007年にかけてのスーパールミノバの採用モデルだ。
2000年には、Ref.16710のブレスレットのフラッシュフィット(エンドリンク)が無垢材となり、2003年にはそれまで外側まで貫通したラグホールが塞がれた。
セラクロムベゼルモデル
Ref.116710LN(ステンレスケース、セラクロムベゼル):2007年〜2019年
2005年、ロレックスはGMTマスター誕生50周年を記念してGMTマスターⅡのデザインを一新。ケースをかなり大きくし、ブラック単色のセラミック製ベゼルインサートを初めて導入した。当初、記念モデルは金無垢製だったが、2007年には上画像のスティールモデルがリリースされた。このモデルは耐衝撃性と温度変化に強いパラクロムヒゲゼンマイを採用したCal.3186を搭載。また、ロレックスはブラックセラクロムベゼルのGMTマスターⅡで、スティール/ゴールドのツートンモデルRef.116713もリリースした。Ref.116710LNの生産中、青白く発光するクロマライト夜光への移行も行われ、初期の個体はスーパールミノバ、移行完了後はクロマライトの夜光塗料が採用された。
ここで特筆すべきは、ロレックスがセラクロムベゼルのデビューに、元々単色ベゼルを採用するサブマリーナーやシードゥエラー、デイトナではなく、GMTマスターⅡを尖兵として選んだことだ。金無垢のRef.6542に単色ベゼルを採用した実績があった一方で、時計収集家のGMTマスターのイメージを決定づけたのは、ツートンのペプシ、コーク、ルートビアだったからである。2007年のセラクロム“ルネット・ノワール(フランス語で「黒ベゼル」)”の登場により、ロレックスはコークとペプシ、ブラックのアルミニウムベゼルインサートを廃止してブラックのセラクロムベゼルのGMTマスターⅡだけをスティール製GMTのコレクションに残した。
Ref.116710BLNR(初代バットマン):2013年〜2019年
それが変わったのが2013年。ロレックスは、Ref.116710BKNR初代バットマンを発表し、特許を取得した加工法により初めてバイカラーのセラクロムベゼルを作り出すことに成功したのだ。ロレックスによると、まずは多孔質のセラミック片をブルー単色に染め上げ、その上に半分だけブラックを上塗りするそうだ。ブルーとブラックのコンビネーションはGMTマスターでは前例のない試みであり、この外観の登場によって青赤の組合わせや黒赤の組合わせが、技術的に困難なのではないかと憶測を呼んだ。それでも、“バットマン”は大いにヒットし、ユーザーは愛を込めつつ、このモデルを“乱暴者”のあだ名で呼ぶのです。
Ref.116719BLRO(復活ペプシ、GMTマスターシリーズ初のホワイトゴールド製):2014〜2018年
セラクロムベゼルGMTマスターの登場以降、欠けていたもの、また多くのコレクターが恋焦がれていたモデルが2014年にようやくリリースされた。ペプシベゼルである。赤と青の半身一体の時計は、50年代の初期のGMTマスターを体現したものだ。但し書きがあったものの、ホワイトゴールド製のRef.116719BLROのリリースはペプシベゼルの帰還を記念した祝杯のようなものだったのだ。赤いセラクロムを製造することは困難で、ブラック単色がコークに、ブルー単色がペプシなど別の色に移り変わることはさらに厄介だという噂がはびこった。
ロレックスはそれを見事にやってのけたのだが、ペプシカラーのセラクロムベゼルのデビューを飾るケースの素材-ホワイトゴールドがGMTマスターでは前例がなかったことが、さらなる憶測を呼んだ。つまり、需要を抑えて生産を緩和するためというわけである。新しいペプシベゼルは、スティールモデルのために量産するのに向かないという説があったのだ。
4年後、ロレックスがペプシベゼルのSSモデルを生産し始めたとき、ホワイトゴールド製ペプシは、ダイヤルが黒から青に切り替えられ、希望があれば既存のオーナーからダイヤル交換を受け付けさえした。ロレックスは、ブラックダイヤルのRef.116719BLROを生産終了し、代わりに青ダイヤルのRef.126719BLROをリリースし、現在でも生産中だ。
Ref.126715CHNR(エバーローズゴールド):2018年〜現在
2018年は、GMTマスターⅡにとって節目の年となった。後述するSSモデルのペプシに加え、新しいプレシャスメタルモデルが、2014年のホワイトゴールド製ペプシのバリエーションに加わったのだ。ロレックスはこのエバーローズゴールドのモデル(と別のツートンのロレゾールモデル、Ref.126711CHNRルートビア)を、ブラックとブラウン配色のセラクロムベゼルに組み合わせた。このベゼルの配色は革新的である一方で、ロレゾール Ref.126711CHNRは70〜80年代に親しまれたRef.1675/3 やRef.16753のGMTマスター ルートビアを彷彿とさせ、一気に注目を浴びた。セラクロムベゼル配色のバリエーションの充実化は、現代の技術を用いながら昔からのファンを呼び戻したのである。
Ref.126710BLRO(ペプシ ジュビリーブレスレット):2018年〜現在
ホワイトゴールド製ペプシ GMTマスターⅡの復活の4年後、ロレックスがGMT愛好家待望の時計をリリースしました。SS製のGMTマスターⅡ Ref.126710BLROは、ペプシベゼルをSSスポーツ/ツールウォッチの原点に回帰させると同時に、GMTマスターⅡとして初めて、新キャリバー3285を搭載しました。このムーブメントは、GMTマスターⅡ王国の大きな前進を象徴している。少しずつ改善を重ねていくロレックスの姿勢の例に漏れず、Cal.3285はパワーリザーブ、精度、耐震性と耐磁性などあらゆる点において、卓越性を獲得。70時間のパワーリザーブ(先代のCal.3186は50時間)と高効率なクロナジー脱進機をGMTマスターⅡモデルにもたらしたのだ。ロレックスはCal.3285の開発にあたり、10もの特許を取得した。
SSモデルのGMTマスターⅡ Ref.126710BLROが、4年前に登場したホワイトゴールド製のRef.116719BLROと事実上同一モデルであることから、ロレックスは差別化のためにジュビリーブレスレットを与え、1970年代、1980年代のGMTマスターのような雰囲気に仕上げた。ジュビリーブレスレットを装着したGMTマスターⅡは、オイスターロッククラスプ機構を搭載し、長さを5mm延長することができるため、夏場の高温多湿な日でも快適に過ごすことが可能だ。
ロレックスの現行モデルで最も人気が高く、ブランドを超越して熱望されるSSスポーツウォッチのひとつであることに加え、このペプシは、GMTマスターⅡをロレックスの現行スポーツモデルの最人気モデルであるデイトナに比肩するほど、その地位を高めた。
Ref.12671-BLNR(バットマン ジュビリーブレスレット):2019年〜現在
2019年、ロレックスは初代SSバットマンの後継機をリリース。前年のRef.126710BLROペプシのように、新バットマンはクロナジーエスケープメント機構と70時間のパワーリザーブを持つCal.3285を搭載した。2013年に人気を博したバットマンは、ここにきてGMTマスター固有のカラーバリエーションとして存続することになった。ジュビリーブレスレットと組み合わされた新しいバットマンは、別名「バットガール」とも呼ばれるのは、ブレスレットとGMTマスターⅡに関する規則性が確立されたからに他ならない。
ロレゾールと金無垢のGMTマスターⅡは、近年オイスターブレスレットと組み合わされることが多い一方で、SSモデルはジュビリーブレスレットが装着されることが多いのだ。将来どうなるかは、誰もが気になるところだが、ロレックスが次にどう動くか予想ができると思い込むのは、あまり賢いとはいえないと私は思う。けれでも、当面の間は、金無垢モデルにはオイスター、スティールモデルにはジュビリーブレスレットが定番となるだろう。
ロレックス GMTマスターのベゼル変遷
下図のチャートは、GMTマスターのベゼルについて網羅できたとはいえない。ここまでの記事で、ベークライトとアルミニウムインサートは、経年変化の度合いが各々で異なるからである。むしろ、ここではこの記事で紹介したよりも一般的なタイプをお見せする。
GMTマスターを収集するということ
ロレックスGMTマスターは私たちと60年を超える歳月を共にしてきた。そして、その年月の中で、当初旅客機用のツールウォッチとしての起源を超越して、世界で最も求められ、収集する価値を持つ時計となったのだ。私たちは1955年の初代Ref.6542から、現行型の多くのGMTマスターⅡまで34種類もの異なるGMTマスターを紹介した。率直に言えば、もっと多く紹介することも可能だったが、記事本文と動画が消化不良にならない程度に間引くことにした。
スティーブンのReference Points ロレックス サブマリーナー 歴代モデルを徹底解説に倣い、私は次の4つの質問を3人の収集家であり、GMTマスターに深い造詣を持つ専門家たちに尋ねたところ、興味深い回答が得られました。
その質問とは:
1.この分野で今後評価が上がる個体があるか?
2.この分野で時計を探す初心者が犯しがちな間違いは?
3.この分野で究極的に理想の時計はあるのか? またその2番手もあるのか?
4.GMTマスターの収集を始める方へのアドバイスをどうぞ。
エリック・ウィンド氏へは金無垢モデルの収集に関して特別に5つ目の質問をぶつけました。
5.金無垢のGMTマスターを収集するうえでのコツを教えてください
匿名の収集家(@watch.me_watch.you:インスタグラム)-Ref.6542
1. まず、聞く相手が間違ってるね。だって、ロレックス サブマリーナーの同時期(50年代)の“ビッグクラウン”や“スモールクラウン”の個体と比べれば、マーケット全体がまだまだ伸びると思うよ。誤解を恐れずに言うと、俺たちコレクターから見て、1950年代のサブマリーナーの面影をこのモデルで追い求めているというわけなんだよ。俺が思うに、その理由の一部は、このリファレンスの捉えどころのない派生モデルに関する情報が少ないからだろうね-もっと言えば、関心の高さに反比例して、デッドストックとか状態の良い個体があまりに少ないことだ。掘り出し物の個体数そのものが少ないので、取引の頻度が少ない分、マーケットとして成長しにくくなってるのさ。あとは、そもそも割れやすいベークライトベゼルのような時計に大金を払うのに抵抗感があるというのも大きいだろうね。まぁ、それでも俺にはあまり関係ないけどね。だって、Ref.6542はロレックス スポーツウォッチの殿堂の中でも、最高にビューティフルなモデルだと思うからさ。俺たちがヴィンテージウォッチを愛するのは、例えば個体ごとに経年変化が様々だったり、ラジウム夜光塗料の焼けの温もりだったり、艶やかなダイヤルだったりするわけなんだけど、このモデルにはそういう要素が詰まってるんだよ。そのモデルならではのゴージャスなベゼル、経年変化に応じて変化する色...ある個体にだけ存在する白い秒針...こうした特徴の全てがこのモデルを面白く、ユニークに、美しくしているんだ。
2.このモデルに限った間違いというのは思いつかないな。ことヴィンテージウォッチに限っては知識こそが力なりという面もある。こうした時計を前にしてきちんと理論武装しておかないと、痛い目を見ることになる。もちろん諺にもあるとおり、売り手を見て買うというのは最も大事なことだね。最近だと、最高の販売店は質問を受けなくても、商品の後ろに立っているのがよしとされるね。高い商品を前にしていると、ついやりがちなんだけどね。
3. これに関して俺はかなり偏っているけど、美点観点だけでいえば、明るい色のダイヤルを持つ18ctのゴールド製Ref.6542は目を見張るものがあるね(もちろん暗い色のダイヤルもある-俺の好みは断然明るい方)。実際、目も眩むようなゴージャスな時計だよ。この記事の“マキシ”ダイヤルのRef.6542、つまり大きいラジウムプロットの個体は、ともすればこの分野での究極的なホーリーグレイル(注;直訳すると聖杯。揺るがないマスターピースということ)となるかもしれないね:シリアル番号の限られた範囲でしか作られず、この仕様の個体はとても希少で、保存状態が良いものとなると、なおさらだよね。
4. 予算と相談すること。予算額を決めたら、優先順位の低い、オリジナルの状態にない候補を消去するとき、どのリファレンスと仕様が自分の予算内に収まりそうか調査すること。ここで大事なのは、他の方法では手に入れることができないモデルを入手するために、保存状態に妥協しないこと。それを売るとき、俺のアドバイスに感謝するはずだ。とにかく勉強すること:研究と探求はこの趣味の醍醐味だからね! 信頼できる筋からの情報収集に努めよ。できるだけ多くの個体を見ること。焦るな! でも最後は、自分の直観と勇気を信じろ。そして買ったら大事にすること。そうでなければ、どんなに条件の良い提示を受けても買うな。俺からのアドバイスはそんなところだ。
アンドリュー・ハンテル博士-Ref.1675
1. まともな4桁リファレンスのスティールモデルを1万ドル未満で入手することは不可能だ。あくまで相対的に過小評価されているという観点でなら、状態がよく、興味深く、出自のはっきりした個体はまだまだ過小評価されているといえるだろう。このような個体は、それがありふれたRef.1675ですら、日に日に入手するのが困難になっている。さらに、これらの個体は、最近のヴィンテージ・ロレックスの動向からは得られにくい安心感を与えてくれるだろう。とはいえ、この“はっきりとした出自”という要素は重視され始めている:したがって、今後も過小評価され続けられるか定かではない。
特定の“過小評価”されている例を挙げる必要があるならば、移行期のマットダイヤル(マーク0)は、いまだ日の目を見ない状態にある。これらの個体は、後期Ref.1675ギルトダイヤルのプリント文字、王冠マーク、たっぷり使われた硫化亜鉛夜光塗料の状態を維持しながら、マットダイヤル特有の耐久性を享受できるだろう。他のマットダイヤルのようなプレミア価格がついていないが、もし探し当てたなら、注意を惹く何かを感じられるだろう。
2. ひとつは時計に関することなら、どんな分野でも当てはまることがある:人は一番欲しいと思うモデルを、時計の状態を犠牲にするか、信頼性の低い売り手から手に入れようとする。そうではなく、良い状態だと自分が思うRef.1675(つまり部品が交換されていない、ダメージのない、研磨がかかっていない個体)を評判の良い知り合いかディーラーから何度も引き合わせてもらうことだ。
ふたつ目:どうやって立ち回れば良いか分からないのに、いきなりバンザイ・パイプライン(注;ハワイ・オアフ島の有名なサーフスポット)にパドリングしてはいけない。何が言いたいかというと、ヴィンテージ・ロレックスへのリサーチ不足の状態で、レアピースをいきなり探していけないということだ。ヴィンテージ・ロレックスの考証というものは、後付けされたものであり、リファンレンスに関する資料もイラっとするほど杜撰なのである。したがって、レアなGMTと客観的に考えられる個体を探すのは極めて困難だということだ(それを証明するのはさらに困難だ)。自分が何をしているのか把握できていないと、“フランケンシュタイン”のような部品を組み替えた個体や、全くの偽物を掴まされ、せっかく稼いだ金をどこの馬の骨とも分からぬ輩の私腹を肥やすために費やすことになるのだ。まず、70年代のマットダイヤルのペプシベゼルで、フォールドリンクブレスレットの個体をシリアル番号の中間値あたりから探してみると良い。そして、トリプルスイスやティファニー刻印はまたの日の楽しみに取っておくべきだ。マットダイヤルのRef.1675はレアではないので、掘り出し物を見つけるまでに5本以上の個体から選ばないことには、よほど運がよくなければ後悔する可能性が高い 。
マーロン・ブランドーのGMTマスター“マークⅣ”
2019年12月10日、NYで開催されたフィリップスオークションで、200万ドルの落札額が付くまでは、永らくRef.1675の“ホーリーグレイル”であったのが、映画界の偉大な俳優のひとりであるマーロン・ブランドが個人所有した刻印入りのマークⅣである。上の写真でブランドが身に着けているのがまさにその時計であり、地獄の黙示録で演じた、かの有名なカーツ大佐の撮影中の写真である。
2014年、ベン・クライマーはこの時計を12本の失われた時計たちの中に数え、その後2019年に発見されフィリップスに販売が委託された。ジェームズがこの貴重なGMTマスターをハンズオン取材した。
(画像:Mary Ellen Mark フィリップス提供)
3.M.ブランドーのGMTが売れてしまったので難しい質問だ...それ以外で挙げるとすれば、その称号は多くの関係者が精査し認められたパンナムのバリエーションに与えられるだろう。Ref.6542パンナムの存在が不承不承受け入れられてきたが、現時点でホワイトダイヤルのRef.1675の存在が未検証ながら主張されているのみだ。私自身も懐疑的で、コミュニティが確信を得るためにはまだまだ材料が必要だが、本当に存在するものであるならば、これは見ものである。2番手の候補は数多く存在する―あくまで個人の主観によるものだと私は考えている。
紋章入りダイヤルでいえば、最もよく知られるのがUAE(アラブ首長国連邦)のハヤブサであるが、数の少ないオマーン国軍のカンジャール紋章ダイヤルのRef.1675も浮上しており、この分野における頂点だと考えられる。私はティファニー以外のWネーム、セルピコ・イ・ライナ、カルティエ、アスプレイが注目に値すると考えている。
4.まさに私が上述したとおりだ:ハイクオリティな個体を探すことに集中し、ヴィンテージ・ロレックスの知識の闇に飲み込まれないことだ。他に私が言えることは、半分アドバイス、半分セールスポイントだ。Ref.1675のベゼルインサートは収集家に数万ドルの支出を回避するよう手助けしてくれる。まず、色褪せてないペプシを買うこと、それから“ゴースト(褪色した)”ベゼルインサート、ブラックベゼルインサートを買うとどうだろう:これで、自宅を抵当に入れる必要なく3種類の外観を1本で楽しめるだろう。
エリック・ウィンド ―GMTマスター全般について(金無垢モデルに関する追加質問も)
1.2018年にGMTマスターBLRO(ペプシ)が復活したのをきっかけに、GMTマスター全体が著しく値上がりしてしまったので、将来的な値上がりの可能性については否定的です。しかしながら、しかし、それでもRef.1675と6542の完璧な状態の個体については今後価値が上がるでしょう。ヴィンテージ市場におけるここ数年の動向は、コンディションとオリジナリティについて理解が進んだことであり、平均的なコンディションと非常に良いコンディションとの価格差が急激に拡大しています。
2.多くの人が犯しやすい間違いはレアで古い年代のモデルの、状態が悪いか普通の個体に手を出してしまい、状態がベストかどうかに目を向けないことです。たとえば、1万ドルを少し切るくらいの予算で、針や、ベゼルインサート、ダイヤルが修理交換されてしまったRef.1675に手を出してしまうこと。そうするくらいならば、もう少し新しいモデルのホワイトゴールド製マーカーのRef.16750か、素晴らしいRef.16700や16710を探すべきなのです。
3. GMTマスターはカテゴリー別に頂点となるモデルが異なりますが、新品同様のホワイトダイヤルのRef.6542かパンナム時代のRef.6542のモデルは間違いなく該当するでしょう。また、別の見方では200万ドルで落札されたマーロン・ブランドのRef.1675、未発見であるパブロ・ピカソのRef.6542、「マグナムP.I.」でトム・セレックが着用したRef.16750のように、著名人が所有したGMTマスターもそんな位置づけになるでしょう。
4.GMTマスターの収集がサブマリーナーの収集と異なる面は、多くのコレクターが複数のアルミニウムベゼルを単体購入して、気分や季節、服装に応じて交換することです;例えば、赤みの強いフクシアピンクの“フクシア”インサート、褪色が進んだインサート、褪色のあまり進んでいない暗い赤青のコンビのインサート、それに数字が太く書かれた“ファットフォント”や“スーパーファットフォント”はほんの数例です。
まるで時計がお人形、ベゼルが服のようで、コレクターは“着せ替え”遊びに興じているかのようです。理解はできますが、私自身は新品同様のベゼルを使用感のある時計に合わせるのは、その逆もまた違和感を感じるので、こうしたアプローチで楽しむことはないでしょう。あくまで、製造されたオリジナルのままの状態で、ともに経年変化していく姿が私は好きなのです。
私の別のアドバイスは、GMTマスターは信頼のある売主やディーラーから買うということに尽きます。それだけベゼルインサートを含む偽物やアフターマーケット部品が出回っている現在、初心者は自分が何を購入したかを正しく評価するのは不可能なので、そこはプロに委ねてしまったほうが良いでしょう。
5. 金素材は柔らかいため、多くの金無垢GMTマスターは研磨痩せしてしまい、見た目がダレてしまっています。金無垢のGMTマスター(またはサブマリーナー)は通常、日常使いされていて、何度も修理されているため、エッジの立った研磨のされていない最高の状態の個体を見つけることは極めて困難なのです。もし、掘り出し物を見つけたら、すぐに購入することをお勧めします。
モデル別早見表
下の表は、本記事で取り上げたモデルの、おおよその製造年を割り出した早見表です。ヴィンテージ・ロレックスの製造年をシリアル番号から判断するのは、鉄則ではありません。
編集後記:私たちはエリック・ウィンド氏に最大限の謝意を表します。彼なしではこの記事と映像は成しえなかったでしょう。そして、大切な時計をこの記事のためにご提供いただいた、 エネーリ・アコスタ(Eneuri Acosta), ポール・アルティエリ(Paul Altieri), キャメロン・バー(Cameron Barr), アラン・ベッドウェル(Alan Bedwell), ジェフリー・ビンストック(Jeffrey Binstock), ヴィンセント・ブラセスコ(Vincent Brasesco), カーティス・チェン(Curtis Chen), ベン・クライマー(Ben Clymer), グリン・コノリー(Glynn Connolly), メナード・エンカルネション(Menard Encarnacion), ポール・エンゲル(Paul Engel), ジャック・フェルドマン(Jack Feldman), ブランドン・フラツィン(Brandon Frazin),アダム・ゴールデン( Adam Golden) , ジェフ・ヘス(Geoff Hess), ジョナサン・カソ―(Jonathan Kosow), リッキー・ラシン(Ricky Lassin), デビッド・ショーター(David Shorter),レオン・ショイケトブロド (Leon Shoyketbrod), ロブ・ステーキ―(Rob Staky), ジョン・ユウ(Jon Yu), 匿名のコレクター @watch.me_watch.you (Instagramにリンク)の皆様にもこの場を借りて感謝申し上げます。また、Ref.1675に関する余すことのない学識をその素晴らしいWebサイト、gmtmaster1675.comを通じて提供いただいたアンドリュー・ハンテル博士にも感謝します。
スチール撮影: Tiffany Wade
映像撮影: David Aujero, Greyson Korhonen, Shahed Khaddash
映像編集:David Aujero