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Hero image courtesy of The Archiwatch
ジョン・メイヤーが、8000ドル(当時のレートで約66万円)以下で買えるロレックスのヴィンテージウォッチを5本紹介したあの頃に憧れないだろうか? エクスプローラー Ref.1016、GMTマスター Ref.1675、サブマリーナー Ref.5513のような定番モデルも含めてである。ヴィンテージロレックスの核である時計が、すべて1万ドル未満で購入できたって? なんていい時代なんだ。
今日において、状態のまともなRef.1016は、ざっくりトヨタ カローラの中古車と同じくらいの価格である。OK、諦めてエクスプローラーを腕につけてバスを利用するよ。しかし、ジョンの記事の前提は真実である。ヴィンテージロレックスにハマるためにコンパクトカーを腕につけて歩く覚悟は必要ないということだ。
ヴィンテージロレックスにおいて価格以上の価値を提供するモデルは、ロレックス オイスター Ref.6426と呼ばれる小ぶりな時計である。このRef.6426は、ヴィンテージロレックスのなかでも最もシンプルで、最も手頃な価格のモデルである。34mmのオイスターケース、シルバーダイヤル(ほとんどそうではあるが、そのほかは後述)、手巻きムーブメントが基本仕様だ。これは本物のスポーツロレックスであり、それが数千ドルで手に入るのだ。シルバーダイヤルの標準的な個体で状態によるが、ブレスレットが付属していて小売店がコーヒーカップと並べたライフスタイル誌のような小洒落た画像で掲載している場合の相場で、3000〜4000ドル(約44〜59万円)程度である。
オークションハウスのカタログに掲載されることはないだろうが、それはそれでいい。オークションのシーズンが迫ってきたので、これから数週間、何百万ドルもの価値のある時計に焦点を当てるが、今はただ、地味なRef.6426へささやかな賛美を綴りたいだけなのだ。
Ref.6426とほかのヴィンテージロレックスモデルと比較したときの主な違いは、前者は少し安価であるということだ。後者はRef.1002やエアキング Ref.5500のような手巻きムーブメントのモデルである。バカバカしいほど時代錯誤ではある。オイスターケースのねじ込み式リューズをほぼ毎朝解除してムーブメントを巻き上げなければならないからだ(ほとんどのRef.6426は、Cal.1225を搭載し、最大58時間のパワーリザーブがある)。しかし、ヴィンテージデイトナのオーナーが毎日クロノグラフを巻き上げていることを考えれば、苦痛ではないはずだ。
実物の印象を知るために、オーソドックスなRef.6426を所有する友人を訪ねた。実は彼は家族から化粧箱と保証書類を完備した個体を相続したのだが、それによるとこの時計は1980年にここシカゴのマーシャル・フィールズで860ドル(現在の価値で約3000ドル)で販売されたものだそうだ。ダイヤルにプリントされた“ロレックス”“オイスター”“プレシジョン”という言葉は、ブランド名であると同時に、事実の羅列でもある。オイスターとは防水ケースを指し、プレシジョンとは、ポール・ニューマンがジェームズ・コックスに手巻きデイトナを譲った際に言った「リューズを巻けば、正確に時を刻むよ」という意味である(同時に、非COSC認定ムーブメントへのロレックスの呼称でもある)。“バウハウス”という言葉を使うのはためらわれるが、基本的にはこの時計を形容するのに便利な言葉である。スポーツロレックスとカラトラバを合体させて、Ref.6426が出てきたのである。
手首につけた装着感は、自動巻きムーブメントを搭載した一般的なヴィンテージロレックスよりも少し薄く感じられる。ヴィンテージロレックスのブレスレット(私が試着したものはリベット留めだった)を留めると、手首の上に吸い付くようだ。現代の品質に慣れている人には、薄っぺらく感じるかもしれないが、長年の着用に耐えてきたのだから、問題ないだろう。ラグからラグの縦幅は42mm、ラグ幅19mmのオイスターケースは、思いのほか大きく見えるという声もある。あくまでも私の個人的な見解だが、このサイズは現代のオイスター パーペチュアル 34よりも若干大きい。
このRef.6426は、たとえ極上品や希少品であっても、“投資”や“コレクション”になるほどの希少性はなく、また、人々のロレックスに対する印象が強烈なあまり、完全に忘れられているほど無名でもない。ヴィンテージロレックスに興味がある人にとっては、まさに最高の時計といえるだろう。オークションハウスのカタログに載ることはないだろうが、それはそれでいいのだ。オークションシーズンが迫ってきたので、これから数週間、何百万ドルもの価値のある時計に焦点を絞るが(文字どおり、「現代のオークションで100万ドルの時計に必要な資質とは?」という記事を書いている)、今はただ、地味なRef.6426へささやかな賛美を綴りたいだけなのだ。ほとんどの時計は、“極めて希少”である必要も、“おそらくユニーク”である必要もなく、ただ楽しくて身につけられるものであればいい。ヴィンテージロレックスを始めるにあたって、高価であったり、恐れを抱いたり、わかりにくかったりする必要はないのだ。
ダイヤルに焦点を当てる
無邪気なルックスのRef.6426ではあるが、バリエーションやディテールにはマニアックな違いがある。1950年代後半から1970年代にかけて生産された時計であれば、当然のことだろう。この間、ロレックスは、夜光塗料、ブレスレットスタイル、ムーブメントなど、実にさまざまな変化を遂げてきた。最も顕著なのはRef.6426のダイヤルにいくつかの異なる表記が存在することだ。一般的には、単に12時位置に “オイスター”と6時位置に “プレシジョン”と表記される。また、12時位置に “ロイヤル”と書かれたいくつかの初期の個体を見つけることができる。私はいつも王冠をロゴに持つブランドがたった1モデルだけ、それもエントリーモデルを“ロイヤル”と呼称することは、一種の粋な図らいだと、私は受け止めている。
もちろん、古いRef.6426のダイヤルをリダンしたものも存在するので、もし評価するならば、ほかの個体と比較して、すべてが納得のいくものであることを確認するようにしてほしい。これは、Ref.6426を購入したあとに、自分のRef.6426がリダンダイヤルではないかと質問された人の投稿だが、買う前にまず質問するのが鉄則だ。
特に初期のRef.6426では、ダイヤル、針、マーカーのあらゆる組み合わせが見られるだろう。金色の美しいブラックダイヤルにゴールドの針、クリーミーなホワイトダイヤルにアルファ針では少しドレッシーな印象に。Ref.6426の生産後期になると、ロレックスはシンプルなシルバーダイヤルにバトン針の組み合わせを標準化しているようだが、それでもリネン柄やサンバーストブルーなど、数え切れないほど多くのダイヤルバリエーションが存在する。私は50年代後半のロレックスが好きなため、温かみのある素敵な経年変色のある初期のホワイトダイヤルがお気に入りだ。でも、手巻きのRef.6082をずっと身につけているが、このモデルは、Ref.6426の先代モデルみたいなもので、若干のポジショントークが入っていることをお断りしておく。
実はここ数年、私が見たヴィンテージロレックスのなかでお気に入りなのが(“買っておけばよかった”と思うもののひとつ)、クリーミーな3・6・9のダイヤルで、Archiwatchが販売したシンプルなRef.6426だ。ポーラー ロレック スコマンドーという、これまた超レアな手巻きロレックスのようだ。この時計は高価なものではなく、確かに普通のヴィンテージサブマリーナーよりは手頃なのだが、私に言わせればずっと珍しく、そして楽しいものだ。このように、今日でもまだ奇妙なヴィンテージロレックスが発見されるのを待っているのだ。
ちなみに、Ref.6426の従兄弟にあたるRef.6694と6494は、デイト表示があるのが特徴だ。それ以外は、Ref.6426とかなり共通点が多い。
身につけてこそ腕時計
10年後にこの記事を読んで、私がメイヤーにすすめられたように、「トニー、投資のアドバイスをありがとう、私のRef.6426は今やすごい価値があるから、トヨタのカローラと交換するよ」と言うつもりは誰もないだろう。それでいい。私は、時計は投資ではなく、価値を保存するものだと考えている。このRef. 6426は、ヴィンテージロレックスを試してみて、自分に合うかどうかを判断するのに最適な方法だ。温かみのある経年変色をたたえた初期の個体が欲しい、また、トリチウム夜光と折りたたみ式ブレスレットを備えた後期モデルが欲しいといったような、ディティールを追求してみるのもいいだろう。このようなディティールが、ヴィンテージロレックスをより魅力的にするのである。あるいは、見た目がよくて、ちゃんと時間がわかるものなら何でもいいといって選ぶ人もいるかもしれない。それもまた、ヴィンテージロレックスのよさであり、何にでも望むものになり得るのだ。このRef.6426は、エクスプローラー、GMTマスター、サブなど、現在数万ドルのプライスタグをぶら下げているモデルよりもずっと手頃な価格で、そのすべてを体験することができるのである。