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我々が知っていること
ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノティエ部門は、マニュファクチュール中のマニュファクチュールといえる存在で、一般的に言えば、ダイヤルレイアウトや全体のデザインに変わった工夫を凝らしたワンオフの複雑時計を専門とする工房だ。レ・キャビノティエが生み出す作品は、常に考え得る最高レベルの完成度を誇っており、彼らのモットーは「Putting The Haute In Horlogerie(時計製造の先頭に“高級”を添える)」ことだろうから、取材はいつも楽しいものだ。最近の作品では、フェルメールへのオマージュとでも言うべき豪華な懐中時計(グランド&プチソヌリ ミニッツリピーター、アニタ・ポルシェのエナメル細密画)があったが、Watches & Wonders 2022では、新しく、非常に複雑なユニークピースウォッチを発表した。その名もレ・キャビノティエ・ミニット・リピーター・トゥールビヨン・スプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフである。
キャビノティエの新作は、一風変わったレイアウトを描く。時・分は9時位置のインダイヤルに、スモールセコンド(6時位置)とクロノグラフ・ミニッツ・カウンター(2時位置の30分積算計)は別のインダイヤルに収められている。リピーター用のスライド式レバーは45mm×16.4mmのピンクゴールド製ケースの左側にあり、右側にはスタート・ストップ・リセット用のクロノグラフプッシャー(2時位置)と、スプリットタイム機能用のプッシャー(4時位置)のふたつが設置される(ラトラパンテまたはスプリットセコンド・クロノグラフとは、2本の秒針が重なるクロノグラフのことだ。スプリット機能を作動させると、片方の針が停止し、もう片方の針が動き続けるため、ふたつの計測時点の間隔を正確に計る仕組みを指す)。
6時位置のスモールセコンドは、1分間で周回するトゥールビヨンで駆動し、シースルーバックからハンマー機構の部品と一緒に眺めるができる。クロノグラフのスプリットセコンド針に軽量なアルミニウムを採用することで、クロノグラフの作動に必要なエネルギーを削減し、60時間のパワーリザーブを実現しているのも興味深い技術的な特徴だ。
ムーブメントにはヴァシュロン自社製のCal.2757を採用する。ムーブメント全体が最高レベルの手作業により仕上げられているが、ヴァシュロンによれば、実際にこの時計を作るのに必要な総労働時間の約3分の2は、ムーブメントを構成する698点の部品の仕上げに費やされているそうだ。このクロノグラフにはクラシックなスプリットセコンド機構が採用されているが、伝統的なデザインにいくつかのアップグレードが施されている。チタンと放電加工されたニッケル‐リン製歯車を使用することで、歯車の歯先を最適化(その結果、スモールセコンド針がスムーズに噛み合う)している。また、スプリットセコンド・レバーのひとつとアイソレーター(スプリット機能が作動した際にスプリットセコンド機構が輪列に過度の抵抗を与えるのを抑止する部品)にはシリコンが使用されるなど、さまざまな工夫が凝らされている。
輪列の余分な抵抗を減らし、クロノグラフ作動時でも50時間のパワーリザーブを実現した(非作動時は60時間)。
ミニッツリピーターの調速機構、ハンマー機構、そしてゴングはシースルーバックから眺めることができ(トゥールビヨンキャリッジの裏側も)、チャイムのテンポを制御する調速機構はヴァシュロンの求心的な設計により、作動音がほとんどしない(従来のチャイム用アンカー型調速機構が大きな擦過音を発するのとは対照的だ)。
仕上げはすばらしいのひと言に尽きる。リピーターやクロノグラフのカドラチュール(ダイヤルの裏側の機構)は見えないが、この種の時計に期待される細心の注意が払われており、チタン製の輪列も、歯車のアームを面取りするために特別な工具が作られたということだ。
シースルーバックから見える地板と受け板は、くり抜かれ、手作業でサンドブラスト加工されたマットな表面とは対照的な面取りが施される。これはリピーターゴングや調速機構、トゥールビヨンなど、ムーブメントのアクティブなコンポーネントを視覚的に強調するための工夫なのだ。
レ・キャビノティエ・ミニット・リピーター・トゥールビヨン・スプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフは、ユニークな作品であり、価格が応相談であることを聞いても、何の驚きも感じないだろう。
我々が思うこと
このレベルの時計製造は、賞賛よりも批判を招きがちだが、私はレ・キャビノティエの最新作は前者以外の何物でもないと考えている。この時計は技術的な観点からも工芸的な観点からも、非常に優れた時計であり、特にグリューベル・フォルセイの作品や、ジャガー・ルクルト、オーデマ ピゲ、パテック フィリップなどのメーカーの複雑時計を含む、複雑で見事な仕上げのできる少数のグループに属する時計だ。
美的基準の観点から異を唱える余地がないわけではないが、それはあくまで好みの問題であって、技術的な洗練度や工芸品のレベルを客観的に評価するほどのものではない。この種の時計製造に興味を持つ万人が望むものではないかもしれない。結局のところ、複雑で芸術的な仕上げを好む人は、好むものと好まざるものにやや保守的になる傾向があり、より伝統的なダイヤルレイアウトとジュネーブストライプとアングラージュ(面取り)のアプローチがより適切であったと主張することもできよう。
しかし、私自身はそう感じていない(とはいえ、間違いなく数千万円クラスの価格帯の時計に私の好みを反映させたところで、現実味はないのだが)。レ・キャビノティエ・ミニット・リピーター・トゥールビヨン・スプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフは、クラシックな時計製造の手法や素材と、より現代的な要素を巧みに組み合わせ、それを時計全体にふさわしい形でデザインに反映していると思うのだ。レ・キャビノティエのポートフォリオの最大の特徴のひとつはその多様性だが、この最新作は伝統を現代的なイディオムで再構築するレ・キャビノティエの能力を余すことなく発揮している。
ヴァシュロン・コンスタンタン レ・キャビノティエ・ミニット・リピーター・トゥールビヨン・スプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフ:ケース、18Kピンクゴールド、45mm×16.4mm、ダークグレーダイヤル、18KPGの時・分・秒針、クロノグラフ針とスプリットセコンド針にはゴールド調のマットアルミニウムを使用。
ムーブメント、ヴァシュロン自社製 Cal.2757、手巻き、33.30mm×10.4mm、59石、1万8000振動/時で作動。部品点数698個。オフセンターの時分針、スプリットセコンド・クロノグラフ、ミニッツリピーター、トゥールビヨン。
ユニークピース。価格は応相談。
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ヴァシュロン・コンスタンタンの新作についての詳細は、公式サイトまで。