コンテンポラリーな薄型時計と日本画家の出会いを誰が予測しただろう。オクト フィニッシモ オートマティックと千住 博さんのコラボレーションはそんな驚きに溢れる。文字盤に描かれたのは、千住さんが追求し続ける滝のモチーフ。そこに落下しているのは水ではなく、時そのものだ。「時間というのは非常に崇高なもので、人間の操作できない、言わば神の領域です。オクトの制作もそうした貴重な時間を生き、生かされていることを感じられるようなものにしたいと思いました」と、2018年に発表した作品を語る。
とはいえ時計の文字盤という極小サイズへの作画は容易ではなく、作案も20種以上に上った。さらにホログラフィーのように浮かび上がる透明感と深み、そして色合いを再現するため、ジュエリーで培ったブルガリの技術を持ってしても、その制作には8ヵ月を要したという。まさに腕元のアートである。そして時計を見るたび、時刻を知る以上に、無限に流れていく時間という存在を意識するのだ。「人間の時間軸を完全に超えたものに、やっぱり私たちは囲まれています。オクトも今後、次の世代に譲られ、多くの時計師によってメンテナンスされながら長いあいだずっと続いていくでしょう。なかなか意識しにくいけれど、そういう時間の流れというものをこういう機会に1回ふと考えてみるのもいいのかなと思います」
オクト フィニッシモ オートマティック 千住博 ※非売品のプロトタイプ 千住さんの描いた滝をMOPの文字盤に版画のような技法で表現した。深い奥行きと激しい滝の飛沫までも伝わるアートピースだ。写真はプロトタイプ。チタン、自動巻き、ケース径40mm、30m防水、チタンブレスレット。
Photos:Kazumi Kurigami(CAMEL)[Hero Image]、Tetsuya Niikura(SIGNO)[watch] Words:Mitsuru Shibata