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History as a Pioneer: ロンジンの深淵なるヘリテージに潜航する

昨年の好評を受け、「HODINKEE.jp × ロンジン エクスクルーシブ ナイト 2024」が6月6日に開催された。トークテーマは今年70周年を迎えたコンクエストと、ロンジンのダイバーズウォッチについて。ブランドのヘッド・オブ・ブランディング・アンド・ヘリテージであるダニエル・フグ氏を迎え、深遠なる歴史を辿る。

前回に続き、ゲストスピーカーを務めるロンジン本社ミュージアムの館長、ダニエル・フグ氏は、スイス・サンティミエの新聞Neue Zürcher Zeitung日曜版でヘッド・オブ・ビジネス&エコノミクス セクションのキャリアを重ね、International Watchstars Awards(世界各国の時計有識者、記者、コレクターからなる審査員により、5つのカテゴリーでベストウォッチを選考する授賞プログラム)の審査員でもある。その博識と慧眼、さらにHODINKEE Japan編集長・関口 優とのトークセッションを楽しみに、会場には約30名のHODINKEE読者とロンジン愛好家が訪れた。

2023年の「HODINKEE.jp × ロンジン エクスクルーシブ ナイト in 東京」でもダニエル・フグ氏をゲストに招致。このときはロンジンのアヴィエーション分野のヘリテージについて深掘りを行った。

 190年以上の歴史を有するロンジンのヘリテージと聞いてまず思い浮かべるのがパイロット、アビエーションの分野だ。1867年から掲げるトレードマークは翼のついた砂時計であり、空への挑戦を続けるパイオニアたちの姿もそれを方向づけたに違いない。壇上に上ったフグ氏は、あらためて1879年に初めて販売が始まった日本との縁を振り返り、戦後1946年には早くも海上自衛隊に供給していたというパイロットクロノグラフについて紹介。そうした技術の根幹には、精度に対する飽くなき追求があったと語る。1878年にはブランド初のクロノグラフポケットウォッチが発表されており、主に競馬の計測に用いられたという。やがて計時技術は大空を目指し、1911年にはロシアのパイロット用に初期のクロノグラフ腕時計を開発した。かくしてスポーツ、パイロット、そしてエレガンスは現代に続くロンジンの指針になったのだ。

 なお、今年ロンジンを語るうえで極めて興味深い新作が発表された。コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブだ。フグ氏もイベントのなかで、このコンクエストにまつわるヘリテージに言及している。1954年に登場した初代コンクエストは手巻き式で、従来の型番呼称に対して初めてモデル名を採用した時計であった。当初からねじ込み式ケースバックで耐衝撃性を備えた防水時計として販売されており、その証としてケースバックには水しぶきと星をレリーフで象ったメダリオンが掲げられていた。ここでも、星空が象徴する空とのつながりを想起させていたのである。

2024年に発表されたロンジン コンクエスト ヘリテージ セントラル パワーリザーブ。1959年のモデルにおいて象徴的だった回転ディスクが踏襲されている。

 これをルーツとし、早くも翌年には当時時計業界において大きな潮流となりつつあった自動巻き時計が登場する。ロンジンは1945年に自動巻き式のCal.22Aを開発し、両方向巻き上げ機構の先進技術を誇っていた。コンクエストに搭載したCal.19ASはその後継機だ。初代からさらに耐磁性と耐衝撃性を備え、スポーティとエレガンスを誇示した。メダリオンには水しぶきと星空のモチーフに、SSケースでは魚が描かれた別バージョンも加わり、マリンスポーツにもアプローチしたのだった。

 ちなみに、コンクエストは発表と同時にふたつの偉業を達成している。ひとつはアメリカのインディアナポリス500マイルレースの公式計時を担ったこと。そしてイギリスのキャンベラジェット機がロンドン−ニューヨークの往復をわずか14時間21分45秒で飛行し、世界記録を樹立したことだ。精度と耐久性、信頼性を実証し、翌1956年にはソリッドゴールドのケースとブレスレットのモデルを発表。それは機能とゴージャスのシンボルとなり、文字盤にあしらわれていたスタッズ状のサークルはコンクエストのデザインコードとして現代に受け継がれている。

1955年製の初期ロンジン コンクエスト Ref.8000。当時のトレンドであった自動巻きムーブメントとしてCal.19ASを搭載しつつ、ねじ込み式の裏蓋と6つのノッチが特徴的なケースによって防水性能も備えていた、なお、同社の自動巻きムーブメントには双方向回転ローターが搭載され、従来のものに比べて巻き上げ効率を向上させていた。

 1959年に登場したコンクエスト パワーリザーブでは、エレガンスはさらに機能と一体化した。一般的なパワーリザーブインジケーターが扇状に表示するのに対し、回転ディスクと針で表示する。ユニークかつ実用性に優れることもさることながら、そこで求めたのは文字盤上での優美なシンメトリーデザインだったのである。そして同心円状に回転するディスクという、世界初の技術にも実は着想源があった。それが1928年に発表した名機ロンジン ウィームス セコンドセッティング ウォッチだ。ハック機能のなかった時代、秒針に回転ディスクの起点を合わせてより正確な飛行時間の計測と航行の安全を支えていた。やはりここにもアビエーションのDNAが息づいていたのだ。

ダイバーズへと続く、ロンジンの“防水時計”の系譜

フグ氏の話はいよいよ、ブランド独自の防水技術をひも解く。名高いのはキャリバー“13ZN”を搭載し、マッシュルームプッシャーを備えた1937年考案の完全防水クロノグラフであるRef.4270だ。往々にしてロンジンの防水時計の歴史の口切りとなる時計であるが、フグ氏は会場入りの前にこんなエピソードも披露してくれた。歴史はさらに、1910年に遡る。

 1910年にNYの銀行家が、誕生日祝いにとロンジンを贈られた。大事に使っていたものの、ある日雪の積もった自邸の庭でなくしてしまう。ふた冬を越したある夏の日、幼い息子が芝生のなかで光るものを見つけた。それがなんとロンジンの時計だったのだ。しかもそれは内部が錆びることなく、ゼンマイを巻くと再び動き始めたのである。当時すでにロンジンは湿気対策に防水ケースを採用しており、これを手がけたのがジュネーブのケースメーカーであるボーゲル社だった。同社は1891年に防水ケースを発明し、すでに特許を取得していたという。これも知られざる時計技術史のひとつだ。

 やがて1937年に前述のRef.4270を発表。ロンジンは、プッシュボタンを水の浸入から保護するための特別なシステムを開発し、特許を取得した(1938年に出願)。アビエーション分野におけるクロノグラフ製造の蓄積があったからこそ実現した、ロンジンならではの防水技術だ。しかしこの特許はダイバーズではなく、主に航空時計に対して使われた。当時の機体はキャノピーではなくウインドシールドだったため、パイロットは外気にさらされ雨露を凌げなかったからだ。スポーツカーも同様で、オープンシーターにおいてドライビングクロノグラフの防水性は必須だったのである。

1937年に登場した、世界初の防水機能付きプッシャーを備えたクロノグラフ。その独特な形状から、マッシュルームプッシャーの愛称でも知られる。

 こうした実績から1942年には英国海軍のフロッグマン用にムーブメントを供給し、さらにC.O.S.D(英国空挺部隊が使用)やH.S(英国海軍水路測量隊向けに開発)といったミリタリーダイバーズを開発した。ロンジンによる本格的なダイバーズの幕開けだ。そして独自の技術開発を推進したのが、1947年から始まった科学者オーギュスト・ピカールと息子ジャックとの協業だった。

 親子の開発した無人潜水艇にはロンジンのストップウォッチが搭載され、一定時間の経過後、バラストタンクを自動リリースし、浮上する実験に用いられた。その成果は1953年の有人深海潜水艇トリエステ号による3,150mの深海到達の記録に繋がった。この時の艦内にはロンジンのストップウォッチが搭載されていた。なお、ピカールが当時最新の13ZNを腕にしていたのはいうまでもない。両者の強い絆は以降も続き、1960年にマリアナ海溝で樹立した1万911mの最深記録でもロンジンのストップウォッチは浮上タイミングを正確に計測したのである。

ジャック・ピカールとドン・ウォルシュが1960年に3万5797ft(約1万911m)の深度記録をマリアナ海溝にて樹立した際、バチスカーフのコックピットに装備されていたストップウォッチ2個セット。

世界初となるマイアクロアジャスト機能をノーチラス スキンダイバーは搭載していた。写真はその使用方法を説明したもの。

 海洋探査が進む一方、海の世界への関心は高まり、ダイビングはスポーツやレジャーの分野に広がっていく。ダイビングギアの進化とともに求められたのがダイバーズウォッチだ。こうしたなか、ロンジンは1958年にブランド初の一般ダイバーズ向けにロンジン ノーチラス スキンダイバーを発表した。1939年に設立と新興ながら防水技術に長けていたピケレス社のケースを採用し、深く潜るほど水圧によって密閉性を高めるコンプレッサー技術により12気圧を備えた。さらに特筆すべきは、ブレスレットにダイバーズウォッチ初のマイクロアジャストメントを内蔵したことだ。ウェットスーツの上からでも装着できる調節機構はいまでこそ一般的だが、当時としては画期的な技術で、とくに日常使いを配慮したロンジンならではの見識と実用機能の追求と言える。

1958年登場のノーチラス スキンダイバー Ref.6921。ベゼルはベークライト製。歴史上初めて、エクステンション機構を搭載したダイバーズウォッチだと言われている。

 しかしノーチラス スキンダイバーにもウィークポイントがあった。ベークライト製の回転ベゼルである。これはすべてのダイバーズウォッチに共通するが、外装したベゼルはぶつけやすく、堅牢性や強い日差しに対する耐候性も求められる。経年でスケールがかすれてしまうことも多く、リングは交換も要した。現代においてDLC化工やセラミック素材が用いられるのもそのためだ。この解決策としてロンジンが採用したのは、ガラスで保護されるインナー回転ベゼルだったのだ。

 しかして、1959年に初代レジェンドダイバーが誕生した。スーパーコンプレッサーと呼ばれるケースを製造したのは、やはりピケレス社。しかし、インナー回転ベゼルを同社に提案したのはロンジンだろうとフグ氏は語る。なぜなら内装の回転ベゼルは1936年にダブル・ターニング・ベゼル パイロットウォッチで実用化していたからだ。当時のモデルで12時位置だったリューズは、操作性への配慮からケースサイドに移されたというわけだ。パイロットに根ざした技術はここにも宿っている。この独創的な防水技術は、独自の手法で特許を取得していた一部のブランドを除いて汎用ケースとして数多くのモデルが採用、一世を風靡した。そして、他社ではピケレス社の特許取得番号が刻印されたのに対し、ロンジンではこれが省かれている。推測の域を越えないが、その技術開発に大きく関わったことを示唆しているとフグ氏は説明する。

1959年登場のスーパーコンプレッサー Ref.7042(のちのレジェンドダイバー)。

1936年製のパイロットウォッチ。スーパーコンプレッサーのインナーベゼルはここから着想を得たものだと思われる。12時位置のトライアングルマーカーも、デザインとして生かされている。

スーパーコンプレッサーケースに関する当時の資料画像。水圧がかかることで裏蓋がケース本体に押しつけられるようにして閉まり、なかの機構を守ってくれる。

 レジェンドダイバーはさらに技術を研ぎ澄ませ、60年代から70年代にかけて防水性能は当初の120mから200m、300mと段階的に向上していった。そして2007年の復活から現代へと系譜は続く。これと併行して1968年に登場したウルトラ–クロン ダイバーズウォッチでは、前年に発表された5Hz(3万6000振動/時)のハイビートムーブメントを搭載した。スポーツ計時の分野で培ってきた精緻な計時技術を海の世界に展開し、ここでも他社に先駆けてハイビートダイバーズのパイオニアになったのだ。

 ロンジンにおけるダイバーズウォッチの歴史を辿ると、そこにはやはりアビエーションの分野で培った技術やノウハウ、発想が注がれていることを強く感じる。初期のパイロットが正確な時間計測によって飛行距離や位置を把握し飛び続けたように、ダイバーにとっても時計は深海におけるライフラインだった。だからこそ機能やデザインは洗練を続け、ツールとしての信頼と完成度を極めた。その視座においてダイバーズはパイロットと同義であり、唯一無二のヘリテージとして輝き続けるのである。

豊かなヘリテージを背景に、ロンジンは歩み続ける

今年はコンクエストが誕生70周年を迎え、歴代でもとくにユニークなセントラル パワーリザーブが復刻された。そして昨年は伝説のレジェンドダイバーが日付カレンダーを省いた39㎜径で原点回帰し、ファンを大いに喜ばせた。このように近年のロンジンは、偉大なヘリテージに立脚し、洗練にさらなる磨きをかけて現代に蘇らせることが多い。それもフグ氏の辣腕だ。そのブランドの歴史や貫かれる哲学への熱い情熱は、今回のカンファレンスやトークショーでも充分に伝わった。

 事前にソーシャルメディア上で受け付けた理想のロンジン ヘリテージについての質問に壇上で答える一方、懇親会では愛好家が持参したヴィンテージロンジンに目を輝かせた。数ある時計ブランドでも、こうしてスイス本社のヘリテージ担当者と時計愛好家が直接交流する機会は少ない。しかしそれはオンラインだけでは得られない情報と体験を共有し、ブランドへの理解を互いに深めることでもある。それはブランドにとどまることなく、時計文化の魅力をより広げ、豊穣にしていくに違いない。


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Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO),Cedric Diradourian Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata