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In-Depth パテック フィリップ Ref.2497(前編):パテック初のセンターセコンド・パーペチュアルカレンダーを徹底解説

前編で私たちは、Ref.2497とそのダイヤル、ケース、そしてデザイン全般に関する歴史について知っておくべきことを余すことなく取り上げる。


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Photos by Mark Kauzlarich

時計コレクターのなかには、ストライクゾーンの広い人もいれば、完璧主義者もいる。ヴィンテージのパテック フィリップに関しては、前者でいるほうが後者よりもはるかに簡単だ。その例のひとつとして、パテックの最も象徴的でありながら見落とされがちなリファレンスのひとつ、Ref.2497について話をしたい。

 Ref.2497は、パテック初の量産型センターセコンド・パーペチュアルカレンダーである。率直に言って、このモデルのデザインは奇抜であり、あえて言わせてもらうなら、パテックのパーペチュアルカレンダーのなかでも私のお気に入りというわけではない。今になってみれば、この記事の執筆にこれほど多くの時間を費やしたのはおかしな話だが、すべてはオンラインで簡単に答えが見つからなかったひとつのシンプルな疑問から始まった。しかし私でさえ、このリファレンスには形容し難い魅力があると認めざるを得ない。パテックの “ファースト”を冠するモデルには、少なくともじっくり見る価値があるのだ。

 (シンプルに徹したダイヤルが持つ)ドレッシーさと(センターセコンドとエナメルミニッツトラックの)スポーティさの中間に位置付けられるこのケースは、クロノグラフプッシャーを廃したRef.2499の“実質コピペ”(あるオークションハウスが実際そう表現している)である。しかし、センターセコンドを持つパーペチュアルカレンダーは、パテックがRef.2497の製造中止以降30年間放擲(ほうてき)してきたデザインでもあり、ある意味、それが魅力に拍車をかけている。しかしそれ以上に重要なのは、数々の魅力的でユニークなバリエーションであり、逸話的にはこの時代のほかのどの複雑機構を持つパテックよりもはるかに玉数が多いとされているということだ。これらはマーケットにおいて注目すべき成果を上げただけでなく、どのコレクションにとっても素晴らしい要となることだろう。

 Ref.2497とよく似た防水ケースのRef.2438/1と合わせ、1951年から1963年までの12年間に2種類の通常ダイヤルバリエーションと2社のケースメーカーによる個体が、わずか179本しか製造されなかった(ただし、私が見たパテックのアーカイブには、1959年以降に製造された時計は1本を除いて記載されていない)。内訳はRef.2497が114本、Ref.2438/1が65本であった。この総数は、当時のほかの非常に複雑なモデルとは異なり、888,000から始まる特別な専用ムーブメント番号が採番されていたため、容易に割り出すことができる。Ref.2497はまた、より長寿のアイコニックピースであるRef.2499の初期モデルの生産時期に符号する。しかし1964年までには、Ref.2497とRef.2438/1の両方がパテックのカタログから姿を消した。

Patek 2497 yellow gold

ドイツ語表記カレンダーを搭載した唯一のパテック フィリップ Ref.2497J。

 では、ヴィンテージパテックにおいて“完璧主義者”になることがいかに難しいかを示す好例がRef.2497と言える理由は何だろうか。114本製造されたうちのほとんどがイエローゴールド(YG)製であった。希にピンクゴールド(PG)製(約20本)、ホワイトゴールド(WG)製(3本)、プラチナ製(2本)が存在するが、いずれも37mm前後(コンマmmの誤差は割愛)、厚さは12~13mm程度である。Ref.2497はパテックの“プレミアム”モデルの最終型であり、ホワイトメタルはあまり採用されなかった。Ref.3448の登場により、ホワイトメタルはより一般的に採用されることとなった。

 2024年までに56本が市場に流通した。現代の価格は外れ値の約15万ドル(日本円で約2300万円)から300万ドル(日本円で約4億6175万円)超まで幅があり、現在は平均35万ドル(日本円で約5390万円)前後で推移している。2本のホワイトメタルの個体は数百万ドルの値がつき、特にコレクターのあいだで人気が高い。少なくともさらに7本の希少かつユニークピースで、重要な個体を含めた“全バリエーション”を手に入れようと思えば、数千万ドルの出費が必要だろう。しかしそれでも素晴らしいコレクションを築くことは可能だ。

 本稿は、2024年初めにモナコで4種類のケース素材のうち3つを同時に見るという幸運な機会に恵まれたことに端を発している。この3本の時計を所有していない限り(実際、所有している人物がいる。Instagramで@theswisscaveauと名乗る友人のデイブその人である)、博物館以外でRef.2497のケース素材違い3本が一堂に会すことはまずないだろう。

Patek 2497 first series in yellow, white, and rose gold

Instagramで@theswisscaveauと名乗るデイブのコレクション。

 Ref.2497の生産様式としては、ダイヤルデザインとケースメーカー別のふたつに大別でき、それぞれに第1世代と第2世代が存在する。オークションハウスのカタログやディーラーのリストでは、ほとんどの場合、ダイヤルデザインによってふたつの世代に分けられる。むべなるかな、Ref.2499がこうした扱いとなっているからだ。それが最も明白な違いでもある。しかしRef.2497は2499ではないし、この扱いはケースの微妙な違いが生み出す希少性を無視することになってしまう。さらに混乱させられることに、オークションハウスが、ケースの製造元によって世代が線引きされると言うこともある。これらの背景と、私が見た3本の時計によって、いくつかの疑問に対するよりよい答えを私は探ることにした。ダイヤルの世代の変わり目はいつか? 各世代は何本製造されたのか? これらの疑問、そしてさらに生まれた疑問は、答えがないように思えた。

 私のリサーチ(と一般に販売されているすべての個体を脇目もふらず分類した)では、私はRef.2497には3世代の(あるいは4世代の)シリーズがあると主張したい。当初、本リファレンスに対するこの見方は古いのではないかと思った。1980年代と90年代のアンティコルムのカタログを見ると、(2009年に至っても)3世代あると書かれているが、1本のユニークな過渡期の個体を第2世代と勘違いしているものだった。本記事で私はまったく異なるアプローチを主張し、学説を書き換えている。もしかしたら、それが定説となるかもしれないが、私は空想上の第3世代のRef.2497について一生語り続けることになるかもしれない。

 学んだことをすべてまとめようとしたら、結局長編になってしまった。そのため、本記事は2部構成の前編として公開する。前編では、ダイヤル、ケース、Ref.2438/1との違いなど、本リファレンスの通常生産モデルを分類し、理解するための基本的なディテールを取り上げる。後編では、レアでユニークな個体を取り上げ、価格の推移を追い、このリファレンスのヘリテージ(遺産)について理解したい。今のうちに警告しておくが、これはとてもきわめて濃い内容である。だが、もし将来研究したい読者がいれば、本記事が研究の手助けになることを願っている。


Ref.2497の2種類の(メイン)ダイヤル

Ref.2497に関する研究は、ある観点に限っては、ほぼ正しかったと言える。つまり通常生産のダイヤルには、大別して2種類の世代が存在するということだ。これらのダイヤルは主にシルバーオパライン色で、針とインデックスはスターン・フレール社製のケース素材と合致している。シャンパンカラーダイヤルや、後編で取り上げるいくつかの傑出した個体など例外もあるものの、一般的に“スタンダード”なRef.2497は、ホワイトまたはオフホワイトのダイヤルを備えている。また、販売店のサインが入ったRef.2497は、わずか6本しか製造されなかったことが知られている(オークションに出品されたのはガンビナーの1本のみ)。

 Ref.2497の初期の作品は、この時計が1941年から1952年まで製造されたパテック初の量産パーペチュアルカレンダー、Ref.1526から多くを継承していることは一目瞭然だ。Ref.1526は(ほぼ例外なく)、偶数(アワー)マーカーに小さなアラビア数字、奇数マーカーに小さなドットを配したことで、多くの余白を確保していた。手巻きムーブメントCal.12'''120Qを搭載したRef.1526は、6時位置のムーンフェイズ周辺に日付表示、同じ位置にスモールセコンドを配している。このたったひとつのインダイヤルには、秒単位にハッシュが刻まれたセコンドトラックとその外周円、日付トラックとその外周円が描かれている。それぞれのインダイヤルの針は、各々のトラックを指している。極めつきに、このリファレンスでは非常に繊細な“フィーユ(feuille)”、つまりリーフ針が採用されている。独創的でコンパクトだが、そのレイアウトはダイヤル底部がヘビーな印象だ。

Patek 1526

パテック Ref.1526は2016年のコラムBring A Loupeで取り上げた。

 ダイヤル上の空きスペース(アラビア/ドットインデックス)は、Ref.2497の第1世代のダイヤルでは一貫している。曜日と月は12時位置の切り抜き窓に残されている。しかし手巻きムーブメント、Cal.27SC Qを搭載してセンターセコンドに移行したことで、Ref.2497ではダイヤルレイアウトにいくつかの変更が加えられた。

Patek 2497 first series in yellow, white, and rose gold

友人デイブ所有の時計。

 まず、センターセコンド化によって、インダイヤルは日付のみを表示するように簡素化された。Ref.2499と同様、ダイヤルはインダイヤルの周囲に切り込みが設けられ、日付トラックの外周はない。秒針がダイヤルの縁を指しているため、トラックもそこに移動し、5分の1秒刻みのハッシュマークと5分間隔(日付と重なる30分を除く)ごとにエナメル加工された数字が配置された。この第1世代のRef.2497のダイヤルには、リーフ針も使用されている。第1世代のダイヤルは、シリアル番号888,001〜888,098のムーブメント搭載機に使用され、それらの製造年は1951年から1954年と合致する。

Patek 2497 first series in yellow
Patek 2497 first series in rose

 上のRef.2497Rに見られるもうひとつの興味深い特徴は、先行するRef.1518に(まれに)見られるプレキシガラスの“サイクロプスレンズ”を持つ個体が時折見られることだ。2017年にフィリップスで販売されたWGの2497G(220万スイスフラン、当時の相場で約2億5000万円)にもサイクロプスが付いていた。しかし、2021年にフィリップスで最後に販売された個体には(280万スイスフラン以上、当時の相場で約3億3890万円)、このサイクロプスはなかった。興味深いことに、本稿で一緒に紹介されているYGとRGの個体は、これまでに製造された唯一のドイツ語表記カレンダーを持つRef.2497sでもある。

第2世代のダイヤル

 Ref.2497のダイヤル第2世代は、実は第1世代よりもはるかに希少である(必ずしもより望ましいというわけではないが)。この新しくリフレッシュされたダイヤルには、バトンインデックスとドフィーヌ針が特徴で、より大胆でバランスの取れた外観に仕上がっている。しかしよく見ると、第2世代のダイヤルには厳密に2種類の異なる派生型が存在する。マークIダイヤルでは、バトンマーカーは基本的に細長い三角形で、両端が切り落とされている。一方、マークIIダイヤルでは細長いピラミッド型で、トップとボトムが傾斜した形状のバトンマーカーが取り付けられている。

Patek 2497J

第2世代ダイヤルを備えたパテック Ref.2497J。この個体は、第2世代ダイヤルの最も古い販売日が1957年10月4日であることが確認されている。Photo: courtesy Christie's

 ある研究が指し示すところとして、パテックのカタログに早くとも1955年には完成した時計として第2世代ダイヤルが登場しているが、調査の結果、(2本の例外を除いて)すべて1959年以降に販売されたことが判明している。オークションに出品された正統な第2世代ダイヤルの個体は、これまでに9本しかない(マークIが5本、マークIIが4本)。マークIIダイヤルは、おそらくRef.2438/1の製造時に残されたもののようで、そのリファレンスは(1本を除いて)すべてこのダイヤルデザインを採用していた。これらのダイヤルのうち2本は、1953/1954年に完成したと記載されているため、顧客の要望で後に変更された可能性が高い。もちろん、Ref.2497のダイヤルにはほかにもいくつかの例外があるが、それはこの記事の後編で取り上げることにしよう。

Mark I dial

マークIダイヤル。Photo: courtesy Christie's

Mark II dial

マークIIダイヤル。Photo: courtesy Chrstie's

 時代背景を考えれば、こうした販売時期の遅れは、ある意味理にかなっている。リフレッシュされたRef.2497のダイヤルが採用されたのは、1950年代後半から60年代にかけての、“モダン”な嗜好を反映したことは明らかである。1954年という早い時期に製造されたRef.2497が、嗜好の変化に伴って急速に売れなくなった可能性はある(調査によって証明された面もある)。パテックは残っていた在庫を吟味し、ダイヤルデザインを変更し、残りの個体を流通させたのだ。これはRef.2497の兄弟モデルである防水仕様のRef.2438/1の後期ロットが製造されるきっかけにもなった。 いくつかの時計は、パテックによって第2世代ダイヤルを備えたツーピースの防水ケースにリケースされた。これらはすべて1960年ごろにパテックがウェンガー社とスターン・フレール社に発注したものである。

 私の偏見のせいで掻き乱すつもりはないが、パテックは新しいデザインでいい選択をしたと思っている。私はRef.1526やRef.2497の第1世代のダイヤルが好きではない。私がメーカーの黄金時代と考えるもの(Ref.2499やRef.3448など)と比べると、まとまりがなくバランスが取れていないように思えるからだ。第2世代では、そのような後期の美学が取り入れられている。ただし2次市場ではあまり売れていない。

 Ref.2497の第2世代ダイヤルの成功は短命に終わった。このリファレンスは数年後の1964年に製造中止となった。しかしRef.1526のダイヤルがRef.2497に受け継がれたのと同様、第2世代ダイヤルは次のモデルにバトンを渡したのだ。1962年には、初の自動巻きパーペチュアルカレンダームーブメントを搭載したRef.3448が、すでに後継モデルとして指名されていた。Ref.3448と後継モデルのRef.3450(うるう年表示付きの“レッドドット”)は、ダイヤルに現代的なデザイン言語を取り入れ、よりシャープで尖ったラグと大型ベゼルの大胆なケースを加え、まとまりのあるデザインに進化した。そう、ケースといえば...


ふたつのケースの物語

 パーペチュアルカレンダー・クロノグラフを象徴するRef.2499と同様、Ref.2497も同じ2社のケースメーカーが同じような美的嗜好を持つケースを製造したが、その出来栄えには微妙な違いがあった。両社の名は象徴的である。ヴィシェ社とウェンガー社である。

Vichet 2499

2012年にクリスティーズにて254万7000スイスフラン(当時の相場で約2億1688万円)で落札されたPG製ヴィシェケース(長いラグ)のパテック フィリップ 第1世代のRef.2499。この価格は、今日ではバーゲンセールのように思える。

 どちらのケースもスリーピース構造で、スナップバックはRef.2499とほぼ同じだ(クロノグラフプッシャーを除く)。そしてRef.2499と同様、一方がもう一方よりも少しアイコニックな存在として扱われている。興味深いことに、2010年代半ばには、ほとんどのオークションハウスがケースメーカーの違いを認めていなかった。幸いなことに、私はケースのシリアル番号の範囲から情報を推定し、記録のギャップに対応することができた。

 私は、Ref.2497の真の第1世代には、アラビア数字のダイヤルとエミール・ヴィシェによるケースというふたつの特徴があると主張したい。ヴィシェはRef.1518およびRef.2499の初期部分における伝説的なケースメーカーであり、Ref.2499と同様に、ヴィシェはRef.2497のケースを、第1世代ダイヤルの生産中に十分な数作ることができなかった。エミール・ヴィシェによるRef.2497ケースの製造数は確認されていないが、私は過去30年間にオークションで落札されたすべての個体(55本)を分類した。このリファレンスの生産時期は主に1951年のリファレンス開始時から1953年末ごろまでにおよび、ムーブメントのシリアル番号は888,000〜888,025にわたる。PG製のヴィシェケースには028、041、042があり、027はヴィシェ社のユニークなスタイルのケースである。ヴィシェ社製ケースの総数は一般的に40〜50本とされている。しかし、ウェンガー社のケースは早くも037で現れ始めたため、ケースは順番どおりにはつくられていなかった。つまりヴィシェ社ケースの総数が40本未満である可能性もあるのだ。

Vichet case stamp

パテックRef.2497の裏蓋、下部にヴィシェの刻印が刻まれている。

 ヴィシェ社とウェンガー社のケースを見分けるのは簡単で、時計を開けて裏蓋の内側を見て、ヴィシェ社なら“Key 9”、ウェンガー社なら“Key 1”の刻印を探せばいい。しかし、30万ドル(日本円で約4610万円)以上の時計を“パカッと開ける”機会はそうそうないはずだ。そこでRef.2499と同様に、まずはラグをよく観察してみよう。

2497R

“真の第1世代”または “ヴィシェ 第1世代”とされる、PGのパテックRef.2497、別名 “ピーター・ノール2497”。この時計は2023年、サザビーズにて149万7000スイスフラン(日本円で約2億5015万円)で落札された。

2497J

2021年にクリスティーズにて25万スイスフラン(当時の日本円で約3000万円)で落札された、YG製の“第3世代”または(ダイヤルで判別する)“第2世代”のウェンガーケースのRef.2497。

 ひと目でケースの違いがわかる人は、おそらくヴィシェ社とウェンガー社のケースをほかの人よりも多く見ているか、あるいはRef.2499のケースを知っているのだろう。Ref.2499と同様に、初期のヴィシェ社ケースのRef.2497は、わずかに長く、より尖って、より三角形に見える“爪のような”ラグが特徴だ。このラグは手首を包み込むような急な落ち込みがあり、約37mm×12~13mmのケースサイズからは想像できないほどモダンな印象を与える。おおよそと言うのは、Ref.2499のように、ヴィシェ社のケースは後期の37mm径ウェンガー社製ケースよりもわずかに小さく、36.5mm程度だ。また、ウェンガー社のケースは37.5mmのものもある。段差の設けられたラグは、ヴィシェ社製ケースの強い個体ではより明白であり、“下方”の段差はミドルケースに接する部分でもう少し広がっている。しかし、写真やポリッシュ仕上げの例ではこれを見分けるのが難しい場合がある。

 どちらの場合(ケース)も、Ref.2497のベゼルはミドルケースまで緩やかに傾斜した凸型をしており、リューズが内側に収まるリングのように突き出している。ヴィシェ社のケースの美観の主張の強さの論拠のひとつは、細長いラグがベゼルの湾曲に完璧にマッチしていることである。確かにそうかもしれないが、実にさりげなく仕上げられている。Ref.2497のベゼルの視覚的なトリックの最たるものは、正面から見ると、実に凹んでかつ膨らんで見えることだ。

2497J

ウェンガー社製YGケースを持つRef.2497の傾斜したベゼル。

2497R

同じスロープベゼルを持つウェンガー社製PGケース。

 時計を裏返すと、最後の決定的な証拠が見つかる。ヴィシェ社製ケースはフラットな裏蓋を持つとされ、ウェンガー社製ケースは“ドーム型”と表現されることが多い。実にフラットなヴィシェ社製の裏蓋を見ると、なるほど納得がいく。ヴィシェ社のケースを使用した有名なピーター・ノールの時計にその特徴を見ることができる。

Peter Knoll 2497 caseback

フラット”なヴィシェ社製の裏蓋。

 ウェンガー社製ケースはヴィシェ社製ほどではないが、もう少しフラットに見えるものもある。下の画像は理想的とは言えないが、“ドーム型”の程度が異なることが分かる。また、よりフラットな以下のヴィシェ社製ケースと比較することもできる。

2497G

よりフラットな裏蓋を持つウェンガー社製ケース

2497R

ドーム型の裏蓋を持つウェンガー社製ケース

Vichet case, flat caseback

ヴィシェ社製ケースのRef.2497。Photo: courtesy Christie's

Wenger case

より象徴的なドーム型裏蓋を持つウェンガー社製ケースのRef.2497。Photo: courtesy Christie's

 Ref.2499はダイヤルバリエーションによって4世代に分類されるが、Ref.2497はそれほど単純ではない。第1世代ダイヤルは、ヴィシェ社とウェンガー社の両方のケースに見られる。ヴィシェ社製ケースとアラビアダイヤルの組み合わせが真の第1世代であったため、Ref.2497の2番目の“過渡期”世代は、下の写真のように、ウェンガー社製ケースとアラビアダイヤルの組み合わせであるべきだということになる。この組み合わせは、ムーブメントのシリアル番号888,026〜888,179、そして1953〜1959年に生産が集中している。

Patek 2497 first series in rose
第2世代のケース

 ウェンガー社製ケースは、基本的にヴィシェ社とは少し異なる。主な違いは上記で説明したが、ラグが短く、上から下に向かってラグがより傾斜している/大げさな下がり方をしていないことが重要なポイントだ。まるで最高裁がヴィシェ社 Vs.ウェンガー社を“見れば分かる”と定義したかのようだ。十分な数のケースを見ていると、やがてひと目で分かるようになるものだ。

Patek 2497 first series in yellow

 単純に計算すると、Ref.2497の総生産数114本のうち、ヴィシェ社製ケースが25本製造されたと仮定すると、これまでに製造されたウェンガー社製ケースのモデルは89本ということになる。これは、このリファレンスの総生産数の80%弱に相当する。

 先述したように、ウェンガー社製ケースは主としてYG製で、ムーブメントのシリアル番号は888,036から採番されたようだ。1960年代までに、ヴィシェ社はパテックに選ばれたケースメーカーであったにもかかわらず廃業し、Ref.2438/1を含む残りのケースはウェンガー社が製造することになった。ヴィシェのケーススタイルは、レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)のクロノメーター・コンテンポランIIにも影響を与えた。

Patek 2497G profile
Patek 2497R profile

 最後に、私がRef.2497の“第3”世代と呼んでいる、ウェンガー社製ケースと第2世代のダイヤルをご紹介したい。ここまで読めば、これは比較的一目瞭然であるはずだ。簡単に振り返ると、短いラグ、ドーム型の裏蓋、凸型ベゼル、ドフィーヌ針、4面カットされたバトンインデックスが挙げられる。しかし、Ref.2497はそれだけではない。


もうひとつの兄弟機、Ref.2438/1

 前述したとおり、合計179本のCal.27SC Qは、Ref.2497だけに搭載されたものではない。実は、パテック初のセンターセコンド式パーペチュアルカレンダーの希少な(そして、おそらくもっと興味深いと私は思う)兄弟機として、ひとつのモデルを除いてほぼ同じ外観を持つ、防水仕様のRef.2438/1が存在するのだ。

2438/1

PGのRef.2438/1。Photo: courtesy Christie's.

 ウェンガー社の発注請書が残されたおかげで、Ref.2438/1は65本製造されたことが確認されている。そのうち50本がYG製、残りがPG製で、すべてウェンガー製のスクリューバックツーピースケースであった。ほぼすべてのモデルがバトンマーカー(第2世代、マークIIダイヤル)を備え、夜光針を持つ個体もあるが、大部分はすべて“第3世代”のRef.2497に似ている。また、裏返してスクリューバックを見るまでは、Ref.2497と見分けることは基本的に不可能である。Ref.2497の需要が低迷したあと、このリファレンスをつくるためにケースが発注され、ムーブメントとそれ以降のダイヤルがこのリファレンスに再利用されたという説を聞いたことがある。この時計は3つの生産ラインで製造され、最初の世代は1954年/1955年、第3世代は1959年に製造された。最初のバッチはシリアル番号XXX,099から110まで、第2世代は135からおそらく150まで、第3世代はその番号から177までと思われるが、合計65本を穴埋めするには、まだいくつかの不明な空白が残っている。

2438/1 Tiffany

今年初め、モナコのコレクターが手にしていたRef.2438/1のティファニーダイヤル。

2438/1

Ref.2438/1のスクリューバック。

Hölscher 2438/1

ホルシャー(Hölscher) Ref.2438/1

 防水ケースを備えたRef.2438/1はスポーティでエレガントな、パテックにおけるセンターセコンドパーペチュアルカレンダーデザインの最終進化形といえる。オークションに出品されたのは28本のみで、年に1~2本のペースで、30万~40万ドル(日本円で約4610万~6150万円)の範囲で安定して推移している。私が選ぶ究極の個体は3本。ティファニーの刻印が入ったYGのRef.2438/1で、ムーブメントにHOXの刻印(アメリカ市場向けの時計であることを示す)があるもの。また、YGのRef.2438/1もあり、こちらはブラックダイヤルに夜光入りのドフィーヌ針、“Hölscher”刻印入りであるもの。どちらも現在、イタリア人の著名コレクターの手元にある。最後に個人的なお気に入りは、信じられないほど素敵な夜光針と夜光マーカーを備えたPGのRef.2438/1である。


後編予告

 ここまでお付き合いいただき、感謝する。そして本稿が本質を突くものであったことを証明できたなら幸いである。少なくとも、これでRef.2497(およびRef.2348/1)の世代を見分けることはできるはずだ。しかし、いいところはここからだ。序盤で私が強調しなかったのは、Ref.2497がパテック黄金期における創造的で魅力的なユニークバリエーションの最大のプラットフォームであったということだ。後編でご紹介する時計の思慮深いデザインの数々に比肩するRef.2499を探し当てるのは、困難を伴うものとなるだろう。

Patek 2497 first series in white gold

 これらの情報をすべて手に入れ、時計の購入を実践できる数少ない幸運な人のために、私は市場の現状と価格の予想についても紹介していきたい。最後にRef.2497のレガシーと、それが現代のパテック フィリップのラインナップに与えた影響について、私なりの見解を述べたい。