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日本的ではなく“日本人”らしさ。ザ・シチズンの理想の根幹を成すもの EMBODYING THE JAPANESE NATIONAL

これ見よがしな姿勢をよしとせず、慎み深く上品であること。ザ・シチズンは奥ゆかしい日本人らしい時計だ。

腕時計の本質とは何だろうか? それは正確な時刻を表示し、それを的確にわかりやすくユーザーに伝えることであろう。腕時計を持つ意味や目的が多様化した現代では忘れがちだが、そんな腕時計の本質を追求するブランドがザ・シチズンだ。ザ・シチズンでは、それを体現するために4 つのブランド哲学を掲げる。即ち「Next Level Precision」「Next Level Quality」「Next Level Design」「Next Level Hospitality」である。より優れた精度、品質、デザインの追求はもちろん、最長で10 年間もの無償保証・無償点検でサポートするなど、ホスピタリティにおいても1段階上を追い求めている。“言うは易く行うは難し”。その追求は生易しいものではない。

本特集はHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.4に掲載されています。

 例えば、精度。2021年にコレクションに加わったメカニカルモデルが搭載するCal.0200は、テンワについたマスロットと呼ばれる錘(おもり) で精度調整を行うフリースプラングテンプを採用する。これは高い精度とその持続性の実現に適した機構だが、加えてキャリバー0200 メカニカルモデルではムーブメントをケースに収めて、6姿勢・3段階の温度で設定したさまざまな条件下で17日間にわたる自社検査を実施。クロノメーター規格を超える平均日差-3 ~+5秒を実現している。一般的なクロノメーター規格(COSC など)でも検査する姿勢数は5つ。数字にすればたった1姿勢の違いだが、6つもの姿勢で精度調整することは難しく、6姿勢で精度調整を行うのはごく一部の高級ブランドに限られる。また、もうひとつの主力となるエコ・ドライブモデルでは年差±1秒の精度を実現したCal.0100を搭載するもの(年差±5秒モデルもある)をラインナップ。正確に運針し続ける秒針と分針を止めることなく時針だけを1時間単位で動かせる時差設定機能を盛り込み、単に高精度を追求するだけなく、実用を見据えたまさに1段階上の仕様となっている。

ハイコンテクストなザ・シチズンの腕時計

精度ひとつとっても、ザ・シチズンの時計づくりに対する姿勢には世界で最も時間に正確と言われる“日本人らしさ”が垣間見え、非常に興味深い。だが、それは精度だけに留まらない。ディテールやデザインにおいても、ザ・シチズンは“日本人らしさ”を感じさせる。

 ザ・シチズンの時計はラウンドケースでバーインデックス、ドフィーヌ針を合わせたダイヤルを持ち、どれも極めてシンプルだ。それは前述したとおり、腕時計の本質である正確な時刻を示すことにプライオリティを置いているからだが、細部に至るまで抜かりがない。ダイヤルインデックスは左右にカットを加えた多面形状に加工し、どの角度から見てもインデックスが光を反射して確実に時刻を判別できる。針もカット加工に加えて上面につや消し加工を施すことで立体感を与え、いっそう読み取りやすくしている。

 時計は正面だけから見るものではないし、手に取ったときにどう見えるか、どう感じるかということは極めて重要だ。同じ寸法でもちょっとしたバランスの違いで不格好に見えたりする。ケースやブレスレットはシンプルな時計の魅力、美しさを引き立てるデザインを突き詰めて生み出されており、ザ・シチズンの開発陣は機能美を追求した結果、シンプルな形状に落ち着いたと語るが、そのディテールはけっしてシンプルではない。シンプルな形状ほどごまかしが利かないと言われるが、それはシルエットの美しさや素材の持つ質感が伝わりやすいからだ。ゆえにザ・シチズンでは線や面、エッジの整然さを大切にし、その表現に注力。理想とする形状を美しく表現するため、ケースにはザラツ研磨を用いる。

 現在では日本の高級時計におけるケース仕上げの代名詞のように扱われているが、ザラツ研磨はそもそもエッジを落とすことなく完璧な平面を作ることで歪みのない鏡面、ムラのないヘアラインを得るために用いられる下地整形技術。ザ・シチズンの時計のように面と面が鋭い稜線で接しているケースにおいてはザラツ研磨の有無が完成度を大きく左右する。そのうえで、どの面の幅や角度、そしてヘアラインと鏡面のバランスが最も美しく見えるかが徹底的に検討された。ザラツ研磨の採用はあくまでも手段であって、それ自体が目的ではない。これはダイヤルの仕上げについても同じことが言える。

 2022年6月に発売された年差±1秒エコ・ドライブ限定モデルでは「土佐清帳紙」を用いた和紙ダイヤルを採用する。いかにも日本らしい素材ゆえに採用されたと思われるかもしれないが、決してそうではない。「土佐清帳紙」は一般的な和紙と比べて薄く、簀の目(すのめ)と呼ばれる独特の模様が見せる濃淡や、繊維の絡みが作り出す和紙の質感や風合いは一点ものの味わいがあり、それぞれがオンリーワンの存在感を放つ。もちろん和紙ならではの美しさもあるが、「土佐清帳紙」の採用は光を取り込んで動力に変える光発電エコ・ドライブにうってつけの素材だからだ。

力強いエッジの利いた見やすい針。時針だけを1時間単位で動かせる時差設定機能を持ち、実用性も高い。

「土佐清帳紙」を用いた和紙ダイヤル。透過性が高いことからエコ・ドライブの文字盤に採用された。

 また、メカニカルモデル キャリバー0200のブラックダイヤルは電鋳手法によって砂地模様を施す。電鋳とは電気メッキと同じく、電気化学反応を利用してマスターモデルの表面に厚メッキを行い、それを剝離して、マスターモデルとまったく反対面の形状を作る方法。深く細かい凹凸のように加工が困難な複雑な形状でも表現しやすく、稜線のシャープ感は型打ちなど他の製法と比較すると際立っている。これも視認性を重視しながら、メリハリのあるダイヤルを得られるがゆえの選択だ。

電鋳手法で砂地模様を施したブラックダイヤル。光の加減で移ろう自然の砂地の陰影を表現したという。

エッジが際立ったケースとブレスレットの鏡面とヘアラインの荒さを意図的に強調。力強さとシャープさを表現。

 ザ・シチズンの時計では徹頭徹尾、腕時計の本質を追求した時計づくりが成されている。ザ・シチズンがやっていることのすごみというのは、一見すると、なかなか伝わりにくい。加えて、そのすごさをあまり声高には語ろうとはしない。それはなぜか? ザ・シチズンの開発陣は言う。「われわれは日本的な時計ではなく、日本人らしい時計を作りたいのだ」と。日本人(あるいは日本語)は、ハイコンテクスト文化だと言われており、メッセージを伝達する際に言語以外の要素を重視するコミュニケーションスタイルをとる。これ見よがしな姿勢をよしとせず、慎み深く上品であること。つまり日本人特有の美徳とされる“奥ゆかしさ”をザ・シチズンでは大切にしているのだ。日本人が誇る完璧主義に根ざした正確さを黙々と追い求め、奥ゆかしいデザインやディテールとともに腕時計の本質を表現する。確かにザ・シチズンは日本人らしい時計と言えるだろう。

Photographs:Testuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Kyosuke Sato