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Hands-On アルピナの年老いたムーブメントが、多くの新技術を引っ提げて復活

バンパームーブメントは数十年前にドードーと同じ道を辿ったが、アルピナは復活に値するものがあるという素晴らしい主張をしている。

Photos by Mark Kauzlarich

 私は(割りと)よく知られていると思うが、アンティークでアナクロな時計が好きだ。“ポケットウォッチガイ”という呼び名には抵抗があるが、それが私という人間なのだ。だからこそ、アルピナの最新限定モデル、スタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュールのファンなのである。この魅力的なパイロットウォッチは、古めかしく、そして今ではほとんど無用なムーブメントスタイル、バンパーを復活させたものだ。

The AL-709 Bumper Movement

アルピナのAL-709 バンパームーブメント。

 私が手にすることを夢見る時計の多くは、ちょっとしたアナクロなスタイルを持っている。ユニバーサルのスペースコンパックス、ポルシェデザインのコンパスウォッチ、オーデマ ピゲの“ディスコヴォランテ”。どれも、その時その時代を閉じ込めた小さなタイムカプセルだ。

 防水性、メンテナンス間隔、耐久性、仕上げ、パワーリザーブなど、各ブランドが新作に盛り込むあらゆる技術は向上しているが、時計製造技術が1938年のバルジュー72でまだ完成に近づいていなかったことを私に納得させるのは容易ではないだろう。バルジュー72はコラムホイール式クロノグラフで、厚さは6.95mm、ブレゲ、フランク ミュラー、ロレックス、ギャレットなど、あらゆるブランドに採用されていたからだ。

 そのようなムーブメントには、それほど改良は必要なかったのかもしれないが、時計メーカーは決してその栄誉に甘んずることはなかった。しかし多くの場合、その後に続くのは、何か大きなことを成し遂げようとしながらも、結局は時計製造の歴史の片の隅に追いやられてしまうようなデザインであることが多い。バンパームーブメントはその好例だろう。自動巻きムーブメントであるバンパームーブメントは、一時的には“通用する”ものだったが、いつしか通用しなくなってしまったのだ。だが、アルピナは新しいスタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュールを発表し、かつて通用したのなら、まだ素晴らしいことができるということを証明した。まずは、少し歴史の勉強をしよう。

The Alpina Startimer Pilot Heritage Manufacture

 1777年、アブラアン-ルイ・ブレゲ(Abraham-Louis Breguet)が腕時計を開発する何十年も前に、スイスの時計師アブラアン-ルイ・ペルレ(Abraham-Louis Perrelet)は、懐中時計に回転錘(回転ローター)を組み込んだ自動巻き機構を発明していた。ペルレ曰く、この時計は15分間歩けば8日間巻き上げられるというものであった(どうやら彼は相当座りっぱなしの生活を送っていたようだ)。なお、ブレゲは1780年代に自動巻き機構(ペルペチュエルと彼は呼んだ)を独自に開発したが、普及には至らなかった。

 1920年代になると、イギリスの時計師ジョン・ハーウッド(John Harwood)が、リューズからの埃や水の浸入を防ぐだけでなく、着用者の動きによって内部のローターを動かし、時計を巻き上げる新たな“バンパー”機構を開発。ブレークスルーを果たしたかに見えた。

A vintage Alpina bumper movement

アルピナのヴィンテージバンパームーブメント。Image courtesy of Alpina

 今でいう自動巻き時計のようなものだろうか? しかし、360°回転するローターを持つ現在の時計とは異なり、かつてのバンパームーブメントは、重りが約120°だけ回転し、重りの軌道の内側のバネに“ぶつかり”、反対方向に跳ね返り、もう一方のバネに当たることから、その名がついた。

 1940年代には、ジャガー・ルクルト、オメガ、ミドー、そしてアルピナなどの時計にバンパームーブメントが搭載されるようになった。そして、瞬く間にその姿を消したのである。1950年代後半になると、オメガやジャガー・ルクルトは、より優れた、より手頃な価格の自動巻きムーブメントのデザインに移行していったのだ。

 それが、アルピナ最新のバンパーの復活をとてもおもしろいものにしている理由の一部だ。6番目の自社製キャリバーであるAL-709は、スポーティなブランドがノスタルジーのためだけに“死に絶えた”デザインを復活させたようなものであることはちょっとした驚きだが、率直に言って、私はそれを歓迎している。アルピナは、古いムーブメントデザインを新しいケースに収め、それで終わりにしたというわけではない。“バンパー”の欠点を痛感し、改良に努めたようだ。

 いろいろと言及してきたが、改良を重ねることはアルピナ創業以来の企業理念だ。1938年、アルピナはスポーツウォッチを改良するために、耐衝撃性、耐磁性、防水性、ステンレススティールという4つの重要な基本要素を定めた。その結果、今日のアルピナのデザインは、全体的にヘリテージを感じさせるものとなり、非常にスポーティでアウトドアなパッケージを持つ。

 そのため、バンパームーブメントのAL-709は、未来に目を向けるブランドにおける先祖返りの例として、より一層際立ったものとなった。新型バンパーのローターは中央で330°回転し、38時間のパワーリザーブを持つムーブメントを巻き上げるための大きなパワーと働きを与えている。新旧の違いは、シースルーバックから確認することができる。

 ウエイトの端がバネとぶつかって往復するのではなく、軌道に沿って数mm幅の小さな縁が“ぶつかる”だけ。さらにバンパー自体も、アルピナはウエイトの跳ね返りを与えていたバネを取り除き、硬い金属片だけにすることで、回転方向のスペースを小さくしている。

The original Startimer Pilot Heritage Manufacture

キャンディケインダイヤルを持つ、オリジナルのスタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュール。Courtesy Alpina

 このムーブメントは、2021年にこの時計の前身であるもうひとつのスタータイマー パイロットに初めて搭載され、同じケース形状ながら、ホワイトダイヤルにレッドのアクセントを加えた非常にレトロな“50年代”風のデザインになっている。正直なところ、この時計が発売された当時、私がこの時計のことを耳にしたとしても、おそらくキャンディケインのような文字盤の色のせいで見過ごしてしまっただろう。もったいないことだ。せめてバンパームーブメントだけでも、もう一度よく見直していれば、きっと評価できたと思う。

 アルピナが最近発表した最新のスタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュール、つまりこのブルーダイヤルの時計は、バンパームーブメントを実際に見る初めての機会であったため、私はとても興奮した。しかし、私はその努力と美学は大好きではあるが、はじめはこの変化についてどう感じるか確信が持てなかった。

The new Startimer Pilot Heritage Manufacture

新しいスタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュール。

 やはり、バンパームーブメントのポイントは“バンプ”なのだ。ソフトで心地よい重さのバウンドではなく、手首で感じたり聞いたりできハードな衝撃を得ることができる。最初は、何かがおかしいように感じるかもしれない。これまでにコツコツという音ですべてが完璧に動いていることがわかる時計を、どれほど身につけることができただろうか? ある意味、全回転する自動巻きムーブメントの回転を任意に止めたような感覚だ。また、私は時計師ではないが、バンパーがピラーに当たったときの衝撃がどのくらい続くのかも気になる。

The lip that the weight bumps against in the movement.

ムーブメントのなかでウエイトがぶつかる縁。

 何よりも、感傷的な気持ちからこの時計を見続けていたのだ。古いバンパームーブメントを見たり、ゼンマイを見たりすると、“完璧に見える必要はない、ただ動けばいいのだ”というロマンチックな意味で、とても無骨な工業製品のように感じられる。この時計はすべてがきれいで、きちんとした仕上げが施されているが、最終的には、アルピナの時計職人がいちばんよく理解しているのだと信じるようにした。

 私が気に入ったのは、新しいダイヤルデザインが、2021年にリリースされたホワイトダイヤルよりも無骨でスポーティ、そしてカジュアルに感じられることだ。新しいブルーダイヤルは、写真ではブラックに近い色調で、ポリッシュ仕上げのアラビア数字を植字し、外側のレイルロードインデックスにはパティーナ仕上げの夜光アワーマーカーを配し、2度、3度と見返すのに十分なディテールを持っている。また、陸軍航空時計と見紛うばかりで、バンパームーブメントの衝撃に対する懸念も払拭されている。実際、時間が経つにつれ、このムーブメントの音は、この時計が“私は生きている。私を倒してみろ。私は耐えられるぞ”と言っているように感じ始めたのだ。

The cushion case shape of the Startimer Pilot Heritage

クッションケースの形状のスタータイマー パイロット ヘリテージ。

The lume

夜光。

 1950年代にインスパイアされた、しかしモダンなサイズの41mmスティール製クッションケースは、過去にリリースされたものと同じだ。その無骨で角張ったフォルムは、ミラーポリッシュのサイドと放射状にポリッシュされた上面との組み合わせによってさらに強調され、4時位置にはリューズが配されている。また、サイズが大きくなったにもかかわらず、極めて快適なつけ心地だ。ラグと一体化したケースサイズは、幅よりもラグからラグまでの長さのほうが短い40.75mm。コントラストが効いたステッチを施した頑丈な仕上げのストラップが時計を手首にしっかりと固定し、パイロットウォッチとフィールドウォッチを融合させたスタイリングと100m防水という、おそらくあなたがこれまでに使用したことがないほどの性能を示している。

 アルピナに送るために時計を梱包しながら、そもそも私は最初に何に引かれたかを考えた。バンパームーブメントのアイデアが気に入り、最初のころは不満もあったが、古いデザインへの愛着もあったのだ。

 老犬に新しい芸を仕込んで復活させたブランドだって? 私もそう思う。最後に、私の唯一の不満を言うならば、アルピナがこのリリースのために188個の時計を作っただけで、すでに売り切れてしまっているようだということである。アナクロなものが好きなのは私だけではなかったようだ。だが、3195ドル(約41万2900円)のスタータイマー パイロット ヘリテージ マニュファクチュールは、ムーブメントだけの一芸に秀でた時計ではなく、パッケージ全体が魅力的なものであり、皆さんのなかにも手に入れることができた人がいることを願っている。

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詳しくは、アルピナのウェブサイトをご覧ください。