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カルティエほど、多彩で豊かなデザインの歴史を持つブランドはないかもしれない。直線を基調とした「タンク」や、グニャグニャに曲げられた「クラッシュ」など、カルティエがこれまでリリースした時計には、パスタの種類を凌ぐほどのケースシェイプが存在している。こうしたデザインへの揺るぎないこだわりこそ、我々がカルティエを愛する理由である。
2017年以降、カルティエはカルティエ プリヴェ コレクションの一部として、クラシックなデザインの復刻に乗り出しており、「クロシュ」から「タンク シノワーズ」まで、有名な時計もあまり知られていない時計も、限定モデルとして続々と現代によみがえっている。これは1998年から2008年にかけて、カルティエがCPCP(コレクション プリヴェ カルティエ パリ)として、クラシックにフォーカスを当てたコレクションを拡充しはじめたときと似ている。そこで我々(マライカとトニー)は、カルティエが今すぐ復活させるべき歴史的なモデルをそれぞれ3つずつ選び、バトルさせることにした。
そこで今回は、一刻も早く復刻して欲しいカルティエの時計を6本ピックアップしたので紹介しよう。これ以外のモデルはあるだろうか? ぜひコメントで我々(とカルティエ)に教えて欲しい。
クロフォード vs.トライナの戦いが始まる…。
(1)タンク ノルマル
ここ数十年、カルティエが「タンク ノルマル」を再評価しないことに、私はいつも不思議に思っている。20世紀を代表する最も有名な時計はここから始まったからだ。「タンク ルイ」の前に「ノルマル」が出ている。それより、もう少し四角くてシャープかつ、硬そうな感じ。もちろん、「タンク ルイ」のようなおなじみのデザインにはならなかったが、フェティッシュ好きの趣味の業界では、“ファースト タンク”はもう少し愛されてもいいような気がしないだろうか? 愛好家からも、カルティエ自身からも。
90年代や2000年代のCPCP「タンク ノルマル」がないのだ。2017年にカルティエ プリヴェ コレクションを発表して以来、カルティエは「サントレ」や「アシメトリック」、そして2022年には「シノワーズ」など、クラシックなタンクをほぼすべて復刻している。その一方で、オリジナルの「ノルマル」は何がいけなかったのだろうかと思いながら、アーカイブで眠っているのである。
何もない、親愛なる「ノルマル」は本当に何もない! きっとスタイルエディターのマライカは超スタイリッシュなオールドカルティエを紹介しようとするが、私はもっとシンプルにいこう。どうもありがとう。
いまだからこそ、「ノルマル」はかつての栄光を取り戻すべきだ。もちろん、ブレゲ針や美しいブリックブレス、もしくはライスビーズのブレスレットを備えたいくつかのオリジナルに似た、モダンな「タンクノルマル」が欲しい。しかし今は、カルティエ プリヴェの方式に則った、イエローゴールド、ローズゴールド、プラチナの3種類の金属を使った限定モデル、そしてカルティエおなじみのローマ数字とバトン針を採用したもので落ち着こうかと思う。23mm×30mmというクラシックなタンクサイズを続けていけば、カルティエはモダンクラシックを手にすることができるだろう。ジャクリーン・ケネディ・オナシスも愛用した「ノルマル」なら私にも似合うはずだ。
(2)タンク バスキュラント
「タンク バスキュラント」は私の好きなタンクではないが、ただ存在することがうれしい。というか存在していた。だが、「バスキュラント」は、ジャガー・ルクルトのレベルソに対する、カルティエのアンサーウォッチであり、フェイスを引き出して反転させることが可能だ。「バスキュラント」の反転構造は、レベルソと同じメーカーが開発したものだが、レベルソよりも少しばかり手の込んだ構造である。さらに、文字盤をアームで支えたままバっと立てかけると、置き時計にも早変わり! マライカの(これから紹介する)「オビュ サボネット」にもぜひやってもらいたいものだ。
「バスキュラント」の起源は1930年代にまで遡る。90年代にカルティエは、クォーツと機械式の両タイプで数多くの「バスキュラント」を再投入し、そして最近になってまた、短期間で再登場している。なかでも(フレデリック・ピゲのキャリバーがベースの)手巻きCal.060MCを搭載したステンレススティール製の「バスキュラント」、Ref.2390はよく見かける。ほとんどのモデルは、文字盤を裏返すとシンプルなソリッドのSS製裏蓋が現れるが、パリのブティックで販売されたと思われる「バスキュラント」の一部のケースバックには小さくカットアウトが施された個体があり、そこからカルティエのCの文字が所狭しと刻印されたムーブメントを見ることができる。
近年、この「バスキュラント」が愛好家のあいだで注目されている。もしかしたらこの構造は、過度な心配をかける我々の不安を取り除くためだけに与えられているだけなのかもしれない。だがその魅力はもう少し別の、深いところにあると思うのだ。カルティエのデザインはほとんどの場合、単にカルティエ自身のためのデザインにすぎない。しかしこの「バスキュラント」は、少なくとも理論的な部分では、実際に役に立つデザインに仕上がっている珍しい例である。もし今、カルティエがこのモデルを復活させたら、「バスキュラント」はほかのカタログのモデルとは一線を画す存在となるはずだ。
(3)置き時計、マネークリップ、そのほか時間を知らせるもの
私がオールドカルティエで最も好きなもののひとつが、置き時計、パースウォッチ(旅行用のトラベルタイプ)、ペンダントウォッチといった腕時計以外の時計である。当時は、ライターやマネークリップ、ペンなど、時計とは関係のないものでも、カルティエ(あるいはそのユーザー)が、クールでいいかもしれないと思ったものに時計をはめ込んでいた。かつてのカルティエはとてもクリエイティブだったのだ。それは今でいう、デジタルウォッチと同じような存在だった。今日、我々はスマートフォン、ノートパソコン、電子レンジ、車のダッシュボード、スマートなペット用リード(これは実在する)ですら時刻を知ることができるが、当時の時計付きライターは、タバコ休憩の時間を教えてくれるなど、実際に実用性があったかもしれない。
カルティエには改めて、腕時計以外の歴史も見直してみてほしいと願う。なかには1920年代に登場したおしゃれなミステリークロックや、ジョーン・ディディオンがコレクションしていたカルティエのデスククロック(3万5000ドル、日本円で約475万3000円で落札)もあるが、本当に私は風変わりなものが大好きだ。機械式時計を、マネークリップに付けたり、ルーレットのなかに入れてしまったりと、ただただカッコいいのだ。
最近では永久カレンダーを搭載した限定版のペン(キャップにクォーツ時計、ボディに永久カレンダーを搭載)が登場したこともおもしろかった。しかし、ヴィンテージ、つまりアンティークに近い機械式ムーブメントを搭載しているヴィンテージのペンはもっと素晴らしい。現代においては非実用的であまり役に立たないのはわかるが、だからこそ、カルティエがこういう風変わりなもので時を教えてくれるアイテムを復活させたら、もっと楽しくなるだろうなと思わずにはいられないのだ。
(4)タンク オビュ サボネット
「サボネット」は、私の好きな“ニッチカテゴリー”ウォッチのひとつだ。カルティエ史のなかで隠れてしまった、名作の墓からよみがえった姿を見ることを、私はどれほど待ち望んでいることだろう。実のところ、トニーの「バスキュラント」に真っ向勝負を挑んでいるような気分である(私が最初にこの記事に臨んでいたなら、当然それを選んでいた)。
私は普段から四角い時計が苦手で、「オビュ」自体もあまり魅力には感じない。しかし蓋をつけると、小さな留め具がとてもそそる音でカチッと鳴って閉まる。つまり、この時計をコンシールドウォッチ(文字盤を隠すようにできる時計)にするだけで、私の関心を引くことができるのだ。
カブリオレウォッチ(これも文字盤が隠れるタイプの時計)は、私が多くの時間を費やして考えてきたジャンルだ。きっかけは数年前、オークションのプレビューでパテック フィリップ Ref.5099 ゴンドーロ・カブリオレを見つけたことがすべての始まりだった。ピンクゴールドとホワイトゴールドでできたスクエア型のコンシールドウォッチで、あまり注目されていなかった。しかし私の心を射止めたのだ。これは時計なのか、それとも小さなコンパクトミラーなのかと。
その後すぐに「サボネット」を発見した。1929年に発売された「サボネット」は、全体がYG製で、5個(!)のカボションサファイアを備えているため、私はいとも簡単にそれに魅了されてしまった。下部にあるペアのサファイアを押すとカバーが開き、大切に保護された壮麗な文字盤が現れる。
(5)サントス オクタゴン
この時計は、私の求める条件をすべて満たしている…イエローゴールド、よし。小振りなケースサイズで、クォーツか自動巻きムーブメントの好きなほうを選べる、よし。独特で変わっていて、そして超わかりにくい(目立たないともいう)、よし。
「サントス オクタゴン」は、私における、90年代のイケてる時計で構成された欲しいものリスト上位にランクインしている。ウォッチディーラーのゾーイ・アベルソンも同様に、「オクタゴン」に思いを寄せている。ただ、ゾーイは私と違って実際に所有しているのだ。彼女はこの時計を祖母から譲り受けたのだが、HODINKEEで紹介した彼女のFour + Oneにて、“便利だから”という理由で、彼女の祖母が中身を自動巻きからクォーツに交換したというエピソードを紹介していた。それを読んでとても微笑ましく思う。今朝、ゾーイと私はそれぞれ、数え切れないほどの「オクタゴン」のバージョンをメールした。ラピス文字盤のSS、フェライト文字盤のYG、ジェムセットされたベゼル、フルパヴェ文字盤まで!
「サントス」Ref.2961の時代も懐かしいが、カルティエがこの超個性的な八角形ケースのバリエーションをよみがえらせてくれたら、とても楽しいと思う。この小さいサイズに自動巻きムーブメントが搭載されていたのも、とてもうれしいポイントだ。機械式時計はいずれも小さなバブルバックタイプでレトロな雰囲気たっぷりだが、機械式ムーブメントを搭載した、デザイン性の高い小振りな時計が最終的に手に入るのであれば、バブルバックでも嬉々として受け取る。
(6)サンチュール&クリスタラー(欲張りだから両方欲しい)
どちらも好きな時計だし、なんとなくだが似ているような気もする。そしてトニーが3番目に“時間を知らせるもの”というカテゴリーを立てるなら、私ももう1本時計を選んでもいいだろう!
時計オークションのプレビューがあるたび、この「サンチュール」と「クリスタラー」を試着している。どちらのモデルも、オークションでしばしば登場するようである。オークションのプレビューは、日曜日のルーティーンなのだ。ビッグサイズのコーヒーを買ってから71丁目のヨーク・アベニューを散策し、そしてSSのスポーツウォッチに対する怒りについて専門家の皆とじっくり話し合い、それから“手ごろな価格”のネットオークションのブースに足を運ぶのだ。そしてカルティエの「サンチュール」や「クリスタラー」を着けるたびに“よし、今回は入札しよう”と、口だけ気合を入れる。
このふたつの時計に見られるしっかりとした形状は、リーン・ロゼのトーゴのソファや、カルテルのマガジンラックのような、70年代の特徴を表しているようだ。だがもし本当にこのふたつのうち、どちらかを選ばなければいけないとしたら、私は断然「サンチュール」を選ぶだろう。ちょっとしたディテールにより、さらに特別感を演出してくれるからだ。四角い時計は好きじゃないといったが、この時計は角が落とされているため厳密には八角形である。さらにリューズも八角形で、ステップベゼルのあいだにぴったりとはまるなど、しっかりとした形状をより実現するための工夫が加えられている。
1927年に発表された「サンチュール」(サンチュールはフランス語でベルトという意味)は、1973年にルイ・カルティエのコレクションとして復刻され、25mmと27mmの2種類のケースサイズで展開した。翌年には31mmサイズも登場している。ベルトのバックルを連想させるようなフォルムとのことだが、私にはまったくそうは見えない。だがバランスと、完璧ともいえる純粋な形状を追求する、カルティエの伝統的な姿勢は垣間見ることができる。
私は「サンチュール」を、デザイナーのためのタイムピースと考えている。実はイタリアのファッションデザイナーで、ヴァレンティノの創始者であるヴァレンティノ・ガラヴァーニは、「サンチュール」を所有していたのだ。1978年、アンディ・ウォーホルが撮影したポラロイド写真には、YGバージョンの「サンチュール」を身につけた彼の姿が収められている。もうこれ以上、言わなくてもわかるだろう?
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