アメリカ時計大紀行の最終エピソードとして、コールと僕はロサンゼルスをあとにし、ベイエリアへと向かった。ちょっとした冒険、素晴らしい景色、そして西海岸の時計文化の懐の深さと個性を代表するひと握りの時計コレクターとの交流が目的だ。
まず、風光明媚なパシフィック・コースト・ハイウェイをドライブし、友人のアーシャ・ワグナー氏とモントレーのひんやりとした昆布の生い茂った海でダイビングを楽しむ。アーシャ氏は消防隊長であり、危険物取扱いのスペシャリストで、冒険、アウトドアレクリエーション、そして新旧のスポーツウォッチを好む人物だ。ダイビングの後、僕たちは砂浜に足を突っ込み、彼女の“やんちゃ”なコレクションについておしゃべりした。
スウェットスーツを片づけた僕たちは、沿岸部を通ってサンフランシスコへ向かった。というのも、スーパーコレクターであり、ディーラーであり、Talking Watchesの卒業生でもあるエリック・クー(Eric Ku)氏と話をせずに、アメリカの時計収集の視点について語るのは難しいからだ。最高のものを見極める目利きを持つ彼は、アメリカ文化にゆかりのある特別な時計のセレクションを親切にも持ってきてくれた。
最後に、文字ふどおりハミルトン エレクトリックの時計の本を書いた男、ルネ・ロンドー氏に会うために街を出た。コルテ・マデラにある彼の自宅には、ルネの写真、蓄音機、カメラ、そして時計のコレクションが所狭しと並べられており、彼は時計製造におけるアメリカ例外主義の時代の内幕と、アメリカ時計製造史のなかでも特別でユニークな存在であるハミルトン エレクトリックに捧げられた彼の物語を教えてくれた。
僕たちがアメリカ時計大紀行の製作を楽しんだのと同じくらい、読者の皆様にもお楽しみいただけたなら幸いだ。この旅の目的は、現代アメリカの異なるふたつの海岸で時計収集を取り巻く潮流を発見することだった。アメリカにおける時計製造が最初に定着した北東部の古風な雰囲気から、カジュアルで太陽が降り注ぐカリフォルニアの海岸まで、僕たちはあらゆる時計に対する果てしない欲求と、古今東西のアメリカ文化において時計が果たす役割への深い理解を発見したのだった。