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丸くない男たちの手もとにある時計。「Not Round, But Santos」の一夜に酔いしれて

1904年から続く精神性は男たちに何をもたらしてきたのか。革新や挑戦に生き、変化を愛したアルベルト・サントス=デュモンに捧ぐ、表現者たちが集った特別な夜の記憶。

冬の足音が早まりだした頃、カルティエが主催したとあるイベントに呼ばれた。その名も「Not Round, But Santos」。ドレスコードは、もちろんサントス。カルティエが考えるイベントは、いつも予測が難しくサプライズに満ちているのだが、今回は俳優、起業家、アーティスト、カメラマン、スタイリストなどなど、各々の業界でエッジをゆく“丸くない”男たちが集められた。都内某所、中央に円ではなくオーバル、どちらかというとレクタンギュラーシェイプの螺旋階段が配された会場で、音楽と酒をお供に、カードゲームに興じる。いまでは中々見られなくなった、大人の男たちの夜の社交場がこの時代によみがえり、「サントス」というアイテムに込められた精神性をそれぞれに謳歌した。


尖った表現者の宴。一夜限りのイベントに集ったサントスたち

サントス ドゥ カルティエ Ref.CRWSSA0089 174万2400円(税込)

チタニウムケース、47.5×39.8mm径 × 9.38mm厚、10気圧防水。自動巻きCal.1847 MC搭載。時計についての詳細はこちらの記事へ。

 表現者のなかから、俳優、アーティストたちをメインにしたムービーの撮影も行われた。松田翔太、高良健吾、村上虹郎、HIMIら、サントスの精神を体現する4名が、この夜の空気感を決定づけていた。彼らが生む独自の世界観は、モダンなのかクラシックなのかすら見失わせた。それぞれにスタイルを持つ男たちがグラス片手にポーカーに興じ、同じ空間を共有する。僕はその場の空気を共有することに高揚し、その入場チケットがサントスであることにも興奮した。どこかミステリアスで色気を漂わせながら、信念を曲げない。そんなパーソナリティを備える時計が他にあるだろうか? 多くの人が一度は憧れを持つであろうサントスは、この夜のユニフォームのようだった。

 イノベーティブレストラン Kabiによるフードやワイン、音楽はグラミー賞受賞のアーティストであるKNXWLEDGE(ノレッジ)とパリを拠点とするアートディレクター、ラムダン・トゥアミが会場を心地よく紡ぐ。時間が夜に溶けてゆくなか、突如として空気を一変させたのは小島鉄平率いるTRADMAN'Sによる盆栽ショーだった。

松田翔太さん

高良健吾さん

村上虹郎さん

HIMIさん

 30分ほどの時間で大きな盆栽が形を整えられていく。この日のために特注された、“丸くない”金属製の鉢へ収めてショーは終わるのだが、時間のない中で別の鉢へと移す作業は何度見ても緊張が走る。その中で堂々と仕事をやり抜くことは簡単ではない。そんな挑戦が日常になっている彼らによる表現は、だからこそ胸を打つ。

 この晩集った誰もが腕にしていた時計であるが、皆一様にサントスが似合う。

ラムダン・トゥアミさん(右)、KNXWLEDGEさん(左)

小島鉄平さん

「Not Round, But Santos」

 

現代に受け継がれたサントスに宿る精神性

 サントスとは進化をやめないための記号のようなものだ。元々、男性の腕の上にポジションを確立し“腕時計”というジャンルそのものを開拓した名前。今年は、機能目的で使われることの多いチタニウムを新たに用いて、これまでとも全く個性の違う「サントス ドゥ カルティエ」を発表したことも記憶に新しい。全体にマットで控えめながら、ポリッシュされたケースサイドやベゼル上のビスなど、ディテールにもぬかりがない。カルティエは、一流のウォッチメーカーでもあるから、同じモデルであっても時期によってディテールのアップデートが行われる。分かりやすいのは文字盤で、特にインデックスのシェイプやプリントの具合などが、常に最適を求めて改善されている。

 だが、こうしたことはカルティエにとって当たり前のことで、ことさら声高に発するようなことでもない。そして、このメゾンが目指すものは、時計としてのクオリティアップだけではないことがその理由だからだ。

 カルティエにとって時計づくりとは、“進化”とは何か。それは、“素材”や“仕上げ”などの伝統的要素を、いかにクリエイションの表現に用いるか、である。機械式時計が、実用的なアイテムから個性を主張する嗜好品へとすでにトランスフォームを遂げた現代にあって、カルティエが考えるのはそこなのだ。チタニウムやステンレススティール、もちろんゴールドやプラチナに至るまで、これらは決まり切った時計づくりのための素材ではない。どんなボリューム感を与えて、そこにどんなインプレッションを持たせるか。手に持った瞬間の質量感や温度感、数字で測れない感情に訴えかけるものづくりこそが、カルティエのクリエイションと言える。だからこそ、彼らの作るウォッチもジュエリーも純粋に“アガる”ものばかりなのだと思う。

 「Not Round, But Santos」はそんなカルティエが持つ男性的哲学の側面にスポットを当てた一夜だった。“丸くない”姿勢は、ともすれば頑固さ、頑なさを感じさせる。ただ、時代に流されずに密かに貫くからこそ、偽りのない哲学とクリエイションがそこにある。表現する男たちの手もとで煌めいたサントスは、それを代弁するかのようだった。サントスは単に腕時計なのではなく、カルティエにとっての進化のキャンバスである。

 

Words : Yu Sekiguchi Photos : TAKAY