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今年、カルティエのリリースの中で最も驚くべきモデルが登場。別記事でマライカも執筆しているが、本日発表されたチタニウム製のサントス ドゥ カルティエは単に性能的に進化した時計ではなく、カルティエ ウォッチの出自にこの上なく肉薄したモデルだからだ。ブレスレットからケースまで、フルでチタンを採用したメゾン初のモデルは、まずは彼らにとって最もスポーティなコレクションの中で世界的な人気を誇る47.5 × 39.8mm(9.38mm厚)のラージサイズから。満を持して投入された、チタニウム製サントスの素晴らしさとその背景を考察していきたい(ちなみに、2009年のサントス100でベゼルとリューズには既にチタニウムを採用)。
1904年誕生のサントスは航空業界と密接なつながり
ご存知のように、サントスというコレクションは世界初の男性用腕時計として誕生した。ブラジル人飛行家で、ルイ・カルティエと親しかったアルベルト・サントス=デュモンが、飛行中に時間を確認できる時計を求めたのがきっかけで、懐中時計がまだまだ現役だった時代に生み出された。小柄なサントスの腕にも馴染むよう、小さめにまとめられたサイズもさることながら、ケースからシームレスに伸びたラグにより革ベルトを装着できるような構造としたことも革新的だった(サントスの誕生について、もう少し詳細に解説した記事はコチラ)。
自作の飛行機に乗るアルベルト・サントス=デュモン (画像出典: カルティエ)。
1912年のサントス。
その後、腕時計がさらに一般層へと普及し、カルティエ自身も創業家による経営を終了させると、1970年代後半にはサントスはふたつの形でモダナイズされる。特に、特徴的なベゼルのビスはそのままに、その意匠を活かしたブレスレットが与えられたサントス カレは、当時のラグジュアリースポーツウォッチのトレンドに対するカルティエの回答であり、同社にとって初めてステンレスを採用した時計でもあった。時計のブレスレット製造においてはまだ経験の浅かった当時、パートナー企業であったエベル社との共同開発によって実現したものだが、時代の空気と最先端の進化をサントスに担わせたことは偶然ではない。初代サントスから続く、パイオニア精神や自由さを継承するのはやはりサントスでなくてはならなかったのだ。
長い年月を経て、1970年代に復活したサントス。初代の面影を残す。
1978年には左のサントスと並行して、ブレスレットを与えられよりスポーティに変化したサントス カレが登場。
チタニウムの採用はカルティエに何をもたらすのか
ここ数年、チタニウム製のブレスレットウォッチはかなり見かけるようになっていて、2022年にはロレックスからはヨットマスター 42、2024年にはクレドールからロコモティブがチタニウム製で登場したことが記憶に新しい。そしてチタニウム製のラグジュアリーな時計としては、ブルガリのオクト フィニッシモが外せないだろう。200万円前後の高級チタニウムウォッチにこうしたライバルがひしめく中、あえてカルティエが参入したのはなぜか? それは先に示した、初代サントスの背景をより豊かに表現したいと考えたことが大きな理由だと思う。
ロレックス ヨットマスター 42。
クレドール ロコモティブ。
世界最薄記録を打ち立てたオクト フィニッシモの一部。
サントスは近年、サントス デュモンコレクションでクリエイティブの幅を広げてきた。毎年注目が集まる、ゴールドとプラチナの限定モデルはもちろん、2023年にはマイクロローターを備えたスケルトンムーブメントを発表して業界を騒然とさせた。そして昨年、圧巻の逆回転表示を備えたサントス デュモン リワインドは、初代サントスの時代へと時間を遡ることを思わせるような画期的なモデルで、自身のヘリテージを自由に行き来するカルティエのスタンスを表現しているようだった。サントスは、機能進化というより、いかにして精神性を表現するかに心を砕かれてきたコレクションなのかがよく分かる。
翻ってサントス ドゥ カルティエであるが、昨年、僕はWatches&Wondersで変化の兆しを感じていた。それはサントス ドゥ カルティエ デュアルタイムが登場したから。久しぶりに追加されたコンプリケーションであり、パイロットのための時計を出自とするという意味でも好相性な1本だ。サントス ドゥ カルティエは時代のニーズに合わせたマルチパーパスなブレスレットウォッチとして生まれており、世界的に活発に旅をする人が増えたことに応える形で、そのロマンをも内包する時計に仕立てたことはなんともカルティエらしい。
サントス ドゥ カルティエ デュアルタイム。
カルティエ サントス デュモン マイクロローター。
カルティエ サントス デュモン リワインド。
チタニウム製のサントス ドゥ カルティエ。
今回のチタニウムはというと、サントスが搭乗したデュモワゼル号のエンジンの優美さからインスパイアされていると、僕は考えている。サントス デュモンでは飛行機全体をモチーフとし、本作ではディテールへフォーカス。全面がマイクロビーズブラストで仕上げられたチタニウムケース&ブレスレットは、既存のSSモデルに比べてより道具感やインダストリアルな雰囲気が強まりながら、それでもエレガンスを失っていない。素材にグレード5 ELIを選択しつつ敢えてチタニウムらしい色味を残すため、粒子の細かい上品な仕上げを均一に与えたことが見事に寄与している。サントスのベゼルはデュモンも含めて基本的にポリッシュ仕上げがセオリーだが、マットな質感に変わるだけでこうも表情が違うのかと驚いた。ケースのエッジやリューズガードの前面はポリッシュだが、これがかえって一体感あるマットなケースのシェイプを浮かび上がらせている。
左はSS製のサントス。右の新作は、ベゼルの仕上げが大きく異なるのと、敢えてグレード5チタニウムを上品に仕立てたグレイッシュなルックスが新鮮。インデックスや針などの仕様はSSと同様だが、数年前の個体と比べてリューズの角が丸められてよりエレガントなシェイプになるなど、ジュエラーらしいアップデートが施されている。
© Rory Payne© Cartier
カボションにはブラックスピネルを採用。
よりシックなモダンスポーティウォッチへ
チタニウムを採用したことによる美観上の大きなメリットは、華美なものを避ける現代的なニーズにマッチすることだろう。それでいて、ポリッシュされたビスとのコントラストは、飛行機の無垢な金属パーツを思わせ、サントスのルーツを感じることもできる。カルティエがチタニウムという素材の色や質感に求めたことは、軽量性や耐食性などの性能よりもむしろストーリーをいかに語らせられるかに尽きると思う。
また、忘れてならないのは、カルティエは現在世界で2番目に巨大な時計メーカーでもあり、巧妙なマーケティングもこの時計に魅力を添えているということだ。本機は174万2400円(税込予価)と、200万円台前半〜が主戦場の高級チタニウムウォッチにおいて、絶妙なバリュー・プロポジションを提供している。ムーブメントは長年の運用の元で安定したCal.1847 MCであり、その点での新規性やプレミアムを加味しなかったことに僕はポジティブな感想を抱いた。カルティエはこの時計を、 より広い層、現代のアクティブな若者も手に取れるような、あくまでアクセシブルなアイテムとしたかったはずだ。
冒頭の繰り返しとなるが、チタニウム製のサントス ドゥ カルティエは、僕にとって今年最も衝撃的なリリースである。それは、ルーツを強く意識させるものであり、時計としても非常に優れたパッケージにまとめたカルティエの巧さが光る1本であるから。願わくば、このラージサイズが大ヒットを記録し、ミディアムサイズが開発されるといい。アジア人の多くや女性でも身に着けやすいサイズだし、何と言っても日付表示がなくなることだろう。そうして熱心な愛好家さえも唸らせるディテールの作り分けは、カルティエがこの10年で推進した戦略なのだからぜひ期待したい。そして僕もミディアムサイズが欲しい!
カルティエ サントス ドゥ カルティエ、Ref.CRWSSA0089 174万2400円(税込予価)、11月1日発売。チタニウムケース、39.8mm径 × 9.38mm厚、10気圧防水。自動巻きCal.1847 MC搭載。「クイックスイッチ」交換可能システムを搭載した、スティール製インターチェンジャブル デプロワイヤントバックル付きのチタニウム製ブレスレット&ヌバック アリゲーターレザーのセカンドストラップ付き。
その他、詳細はカルティエ公式サイトへ。
Hero Image by Yoshinori Eto
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