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Hands-On クレドール50周年記念 ロコモティブ 限定モデルを実機レビュー

発表から瞬く間に時計愛好家たちを魅了したロコモティブの限定モデルについて、オリジナルとの比較を行いながら掘り下げていく。

Photo by Yusuke Mutagami

金、プラチナといった貴金属を主体とした高級時計を、セイコーが“特選腕時計”と名づけて発表したのは今から55年前の1969年のことだ。クレドールはそれから5年後の1974年に、特選腕時計から日本発の高級ドレスウォッチブランドとして登場した。その名はフランス語で“黄金の頂き”を示す“CRÊTE Dʼ OR”に由来し、その名に恥じない最高級の品質と時計としての至高の美しさを追求してきた。そんなクレドールは当初よりクラシカル&エレガンスな時計製造を行なってきたが、1980年前後からは時代性を踏まえてアクティブなエッセンスも取り入れたデザインに着手していく。そんな流れのなかで、セイコーが防水性能を備えたステンレススティール製の高級機を作りたいと考えて生まれた時計が、今回ブランドの50周年を祝して復活を遂げたロコモティブのオリジナルモデルである。

 ブランドはロコモティブの復活にあたって、同モデルが故ジェラルド・ジェンタのデザインであることをプレス資料などでも強く謳っている。だが、オリジナルロコモティブが発表された1979年当時は、ジェンタがその開発に携わっていたことは公にされていなかった。マーク・カウズラリッチの記事によると、イヴリン・ジェンタ氏曰く「ロイヤル オークのような時計については、ジェンタはより深くかかわり、そのデザインが完成するまで見届けること」もあり、ロコモティブは間違いなくそのような時計のひとつであったこと、「ロコモティブはジェラルド・ジェンタブランド以外で彼自身が名前を付けた唯一の時計」であったことなどから、ジェンタ自身も非常に思い入れが強い時計であったと思われる。しかしこのタイミングはスイスの時計業界がクォーツショックの影響からまだ抜けきれていなかったタイミングであり、ジェンタの名前を日本企業であるセイコーが公表しなかったのもそのような背景があったのではないかと推測される。

ジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)。1931年、ジュネーブにて誕生。15歳からジュエラーとして修行を積み、23歳でデザイナーに転身。ユニバーサル・ジュネーブ、パテック フィリップ、オーデマ ピゲなどで時計デザインを手がけたのち、1969年には自身の事務所を設立する。没年80歳(2011年)。

 しかしそのデザインは極めてジェンタ的だ。1972年に先んじて発表されたロイヤル オークのオクタゴンケースを思わせる六角形のベゼルには特徴的なネジ留めが見られ、時分針はノーチラスなどに見られた楕円形フォルムを踏襲。六角形の中ゴマふたつでリンクしたブレスには全体に縦方向へのサテン仕上げが施されており、ブレスレット一体型(と呼ぶにはその接合部がセンターラグになってはいるが)のスポーツウォッチらしいデザインをとっている。

 なお、モデル名のロコモティブ(Locomotive)には“機関車”とフランス語で“牽引するもの”というふたつの意味がある。前者については、車体の黒、その煙突から噴き上がる蒸気をイメージしたデザインによってダイヤル上に表現されている。新作ロコモティブにおいては、同デザインをデザイナーが再解釈し、レンダリングで描いた約1600本の放射パターンを1本ずつ機械で掘り込むことであしらった。荒々しく、槌目のようなニュアンスもあるオリジナルのそれに対し、新作のほうはより洗練されたエレガントな印象を受ける。

(左)1979年発表のセイコー クレドール ロコモティブ Ref.KEH018。(右)クレドール50周年記念 ロコモティブ 限定モデル Ref.GCCR999(300本限定)。

オリジナルロコモティブ開発時、ジェラルド・ジェンタが描いたとされるスケッチ。

 ちなみに、オリジナルロコモティブ開発時にジェンタが描いたスケッチと見比べてみると、実は新作のほうが彼の意思に近いものであることがわかる。下の写真を見比べてもらいたいが、例えば12時位置のインデックスの本数や、インデックスの形状(オリジナルはバータイプで、新作は楕円)、サイドの面取りが強調されたブレスに、正確に4時位置に配置されたリューズなど、挙げればきりがない。これはオリジナルの発表から45年のあいだに磨きあげられてきたセイコーの時計製造技術の賜物であり、ベゼル上に配されたネジがすべて装飾的なものから機能ネジへと変更されているなど、プロダクトとしてのクオリティも高められている点は注目に値する。

 また、ムーブメントはオリジナルのクォーツ式からクレドール専用の薄型自動巻きCal.CR01へとアップデートがなされた。パワーリザーブは最大巻き上げ時約45時間で、石数は26、2万8800振動/時で駆動する(実際に針が動いている様子は、動画内で確認して欲しい)。これによってオリジナルからトルクも向上し、細かい話だが分針、時針もよりスケッチに忠実な長さに伸ばされている。

クレドール50周年記念 ロコモティブ 限定モデル Ref.GCCR999(300本限定)。

1979年発表のセイコー クレドール ロコモティブ Ref.KEH018。実はブレスのテーパーはオリジナルのほうが強くかかっている。

 新作ロコモティブのサイズは縦41.7mm×横38.8mm×厚さ8.9mm。オリジナル同様にベゼルからケースサイドにかけてやや絞られており、薄さが強調されている。そして、素材はステンレススティールから磨きによる美しい光沢と軽量性、耐久性が同居する高輝度のブライトチタンへと変更された。1979年当時にクレドールが取り入れていたスポーティなエッセンスを、現代的な素材を用いることでより高い次元で実現しているのだ。

 なお、実はブレスのテーパーだけは新作よりオリジナルのほうが強くかけられている。一般的にテーパーが強くバックル(もしくは尾錠)に向かって細くなるほうがドレッシーだとされているが、その点では新作のほうがスポーティであると言える。

リューズにも特徴的な六角形の意匠が見られる。また、ベゼルからケースサイドにかけての面取り部分はポリッシュで仕上げられ、サテンとのコントラストを描いている。

ブレスサイドの面取りは、スケッチに基づいてオリジナルよりも大きく取られている。

 新作を実際に手首に巻いてみると、テーパーが緩やかな分、ブレスの存在感が強調されていることがわかる。本体に負けない主張を持つブレスは、時計全体を見た時にデザインの一部として明確に機能しており、シルバーのバングルやブレスレットのような装飾品的な印象も漂わせている。また、いわゆるブレスレット一体型の力強いフォルムと比較すると、センターラグ方式をとったロコモティブは優雅でクラシックなムードも強い。

 ケース〜ブレスにブライトチタンを使用したこともあり、着用感はいたって軽快だ。また、当時の高級スポーツウォッチとして登場したオリジナルにならい、新作ロコモティブも10気圧防水を備えている。錆びにくいチタンケースも相まって、汗ばむ日本の夏にもデイリーに身につけやすい実用的な時計に仕上がっている。なお、バックル部分はダブルプッシュ式のふたつ折りフォールドクラスプを採用している。

 当時5000本ほど製造されていたと思われる1979年のロコモティブに対し、新作ロコモティブは日本国内200本、海外100本の世界限定300本生産となった。176万円(税込)というジェンタデザインのスポーツウォッチとしてはフレンドリーな価格もあり、発売日は8月9日(金)とまだまだ先ながら、発表から間もなくして高い反響を得ているようだ。裏蓋にはブランドロゴと共にシリアルナンバーも刻印されており、限定モデルならではの特別感を一層際立たせている。

裏蓋にはシリアルナンバーも刻印されている。

 今回発表された新作ロコモティブは、1979年当時は製造技術や量産性の観点から完全に実現することができなかった意匠やディテールを、現代のテクノロジーをもって再解釈した逸品である。オリジナルを参照しつつも細部にわたる改良が施されており、ブランドの50周年を祝うにあたって新たな命が吹き込まれた。ジェンタの意思を忠実に反映したプロダクトは時計愛好家を中心に諸手を挙げて歓迎され、予約解禁後、すでにキャンセル待ちの状態が続いている。手に入れることができた幸運なオーナーたちは、50年の歴史のなかで培われたクレドールの伝統と革新を手元で存分に堪能することができるだろう。

 今回も動画内では、HODINKEE Japan編集長・関口と僕のふたりで、この時計に対してそれぞれが感じたインプレッションをお伝えしている。新旧ふたつのロコモティブを前に何を思ったかは、ぜひ動画にてチェックしてもらいたい。

そのほか、時計の詳細はクレドール公式サイトへ。

Video by Kazune Yahikozawa (Paradrift Inc.)、Camera Assistance by Kenji Kainuma (Paradrift Inc. )、Sound Record by Saburo Saito (Paradrift Inc. )、Video Direction & Edit by Marin Kanii、Video Produce by Yuki Sato