trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Business News ドイツ最大級のジュエリーフェアで存在感を増す高級時計

欧州最大級のジュエリーショーのひとつであるインホルゲンタは、今年も新たな顧客層の獲得を目指す時計ブランドにとっての拠点となっている。

2026年2月、雪が舞い風が吹き荒れる週末のミュンヘンで、バイエルン州都の郊外にある広大なコンベンションセンターに1000以上のジュエリーブランドが集結した。1974年に創設されたインホルゲンタ・ミュンヘン(Inhorgenta Munich)は、現在では約100カ国から2万5000人以上の来場者を迎える、この分野におけるヨーロッパの主要なビジネス見本市のひとつへと発展を遂げている。もっとも、同展示会はもはや従来型のジュエリーの売り手と買い手だけの場ではない。中国での販売不振や、インフレと不透明な経済予測に揺れる米国市場の影響を受けて世界的に時計業界が圧迫されるなか、時計ブランドはインホルゲンタのような見本市を含む伝統的なトレードイベントへ回帰する動きを強めている。近年の世界的なラグジュアリー市場において極めて不確実性の高い状況下、時計メーカーは新たな顧客やリテールパートナーとの出会いを求め、時計と業界全般を盛り上げようと躍起になっている。BtoB(企業間取引)に特化したインホルゲンタは、まさにその商業的な結びつきの中核に位置しているといえる。

インホルゲンタは1974年に始まった、ドイツ最大のジュエリー見本市である。

 インホルゲンタはタイメックス(Timex)、シチズン(Citizen)、カシオ(Casio)といった大量生産・販売型のグローバルブランドにとって、長年にわたり出展し続けている主要な見本市である。また、ムーブメントを自社傘下のソプロッド(Soprod)で製造するフェスティナ(Festina)など、量産型のスイスブランドにとっても同様である。明るく洗練されたブースには多くの小売顧客が詰めかけ、会場は活気に包まれている。こうしたブランドは現在も見本市の中心的存在であり、今年は約130の時計ブランドが出展した時計エリアでも、展示スペースの大半を占めている。

インホルゲンタにおけるFHHのカルチャースペース。

 しかし、スイスに拠点を置くFHH(Fondation Haute Horlogerie、高級時計財団)の支援を受け、より伝統的で独立系の高級時計ブランドもミュンヘンのメッセ・ミュンヘン会場へ足を運ぶようになっている。今年は、スイスブランドのピアジェ(Piaget)、オリス(Oris)、アーミン・シュトローム(Armin Strom)の幹部や、リシュモン傘下のモンブラン(Montblanc)の時計製造拠点であるミネルバ(Minerva)の責任者らがインホルゲンタに姿を見せた。さらに展示会場では、ドクサ(Doxa)、エベル(Ebel)、ファーブル・ルーバ(Favre Leuba)、モーリス・ラクロア(Maurice Lacroix)といったスイスのブランドのほか、英国のフィアーズ(Fears)、ドイツのハイエンドなブランドであるチュチマ・グラスヒュッテ(Tutima Glashütte)やユンハンス(Junghans)などが、アディダス(Adidas)、ゲス(Guess)、エンポリオ アルマーニ(Emporio Armani)、フォッシル(Fossil)といったファッション系時計ブランドに混じってフロアを彩っていた。

 時計ブランドは全体的な需要低迷の影響を受けているが、高価格帯の時計の販売方法にも変化が生じている。オーデマ ピゲを代表例として、多くの大手メゾンが販売の中心を自社直営ブティックへと移しているのだ。そのため、ジュエリー商品に付随する存在として時計を顧客に販売したいと考えている多くの伝統的な宝飾系小売業者において品不足が生じている。

 インホルゲンタには、欧州の宝飾系小売業者が数多く集まる。とりわけドイツ語圏の販売業者にとっては重要な場だ。ドイツのコンサルティング会社であるザ・ブリッジ・トゥ・ラグジュアリー(The Bridge To Luxury)の最高経営責任者(CEO)であり、スウォッチ グループの元経営委員でもあるフランク・ミュラー(Frank Müller)博士によれば、オーストリアとドイツを合わせると世界の市場規模の約8%を占めるという。同氏は、これは市場全体のなかでも無視できない規模だと指摘する。

 インホルゲンタはそうした小売業者が商品を実際に手に取り、ブランドの幹部と直接話をしながら発注できる場でもある。また、伝統的な時計ブランドが販売を直営化したことで生じた空白は、新たな時計ブランドにとって参入の好機となる可能性がある。

今年、インホルゲンタに初出展したフィアーズ。

 英国ブランドであるフィアーズ(Fears)でコマーシャル部門の責任者を務めるダニエル・ヴァーニー(Daniel Varney)氏によると、同ブランドは2016年のブランド再始動から10周年、さらに創業から180周年という節目を迎えているという。フィアーズは2026年、初めてインホルゲンタに出展した。

 「今年は新製品の発表などさまざまな記念企画を予定していますが、同時に新たな市場の開拓にも取り組んでいる。現在のところ欧州は当社ビジネスのなかでまだ小さな割合にとどまっていますが、今後はこの地域での成長を目指したいと思っています。その第一歩として、今回の出展があるのです」とヴァーニー氏は語った。

 親しみやすい価格帯で知られるスイスの時計ブランド、モーリス・ラクロアは今年、インホルゲンタへ数年ぶりに出展。来場者向けに飲み物や軽食を用意した複数フロアにまたがるブースを構え、来場者を迎えた。同ブランドはフラッグシップラインのアイコン(Aikon)シリーズに加え、ヴィンテージ風デザインの新コレクションである1975を最近発表している。モーリス・ラクロアによれば、ドイツ語圏市場は同社にとって最も重要な市場のひとつであるという。

 同社のCEO、ステファン・ワザー(Stéphane Waser)氏は次のように語る。「小売業者との関係を強化することが目的です。これだけの規模で出展すれば、新作をひと通り紹介できます。また、この展示会は欧州全体を対象とした見本市で、北欧から東欧、南欧まで、多くの小売業者やディストリビューターが訪れています」

カシオやフェスティナといった主流の大量生産ブランドは、インホルゲンタの主要な出展者だ。

 老舗スイス時計ブランドの多くは長年にわたり、展示会活動の中心をジュネーブで開催される現在のWatches & Wondersや、バーゼルで開かれていた大規模見本市バーゼルワールドにほぼ集中させてきた。だがバーゼルワールドが消滅し、世界の需要動向にもばらつきが出るなか、インホルゲンタはとりわけ欧州の小売業者にリーチするための実務的なプラットフォームとして再び存在感を高めつつある。

 業界の成長エンジンが失速している今、これは重要なことだ。中国での需要は冷え込み、米国ではパンデミック期の急拡大を経たラグジュアリー消費が平常水準へと戻りつつある。さらに、為替変動や関税をはじめとする地政学的な不確実性も、世界的な流通環境を複雑にしている。このような環境下で、ブランドは小売業者が実際に在庫を確保する発注主導型の見本市を再び優先するようになっており、インホルゲンタはまさにそうした役割に合致する見本市と言える。

モーリス・ラクロアは2026年にインホルゲンタへ復帰。来場者の人気を集めていた。

 また、現在の市場環境ではインホルゲンタで主に紹介されるタイプの時計、価格帯で言えば1000〜5000ドル(日本円で約15万〜80万円)の中価格帯ラグジュアリーブランドの時計が、小売業者にとっては魅力的な選択肢となり得る。この価格帯の時計は、時計業界の出荷本数が10年以上にわたり減少しているにもかかわらず、依然として販売数量の大きな部分を占めている。

 ドイツの調査会社であるレスポンシオ(Responsio)の創業者兼代表を務めるフランク・ミヒャエル・ミュラー(Frank Michael Müller)氏は、ドイツの時計・ジュエリー市場に関する経済レポートやデータを作成しており、ウォッチモニターなどの報告書を発行している。同氏の消費者調査によると、ドイツ市場の時計に対する平均的な許容支出額は23%減少しているという。

Image and data courtesy Uhren Monitor and Responsio

 こうした逆風にもかかわらず、時計業界には依然として新たな参入者やブランドが誕生している。今年のインホルゲンタ会場では、ドイツの新興ブランドであるエルヴォニス(Elvonith)を立ち上げた若いふたり組の姿も見られた。同ブランドは今月、最初の時計を発表したばかりだ。

 ドイツ製のストーンダイヤルと大胆で角張ったケースを特徴とするその時計は、ブルータリズム建築を思わせる独特なデザインが印象的で、会場にひしめくG-SHOCKやファッションウォッチのなかでもひときわ目を引いていた。

エルヴォニス ノクティス(Noctis)。今月発表された、ドイツの新興ブランドによる50本限定モデル。

 そうした精神に基づき、スイスのFHHはインホルゲンタでワークショップやデモンストレーション、体験型プログラムを開催した。時計製造の文化と職人技を広く伝えるという、同財団の使命の一環である。

 「ウォッチメイキングは、単なる産業以上のものです」。インホルゲンタの開会式でのメディアカンファレンスで、FHHの副会長パスカル・ラヴスード(Pascal Ravessoud)氏は、同財団が新たな人々を時計の世界へと導く役割について語った。

 ひとつひとつの時計の背景には、「職人技や知性、忍耐、そして技術の継承からなる、目には見えない世界」があると同氏は語る。「私たちの役割はその扉を開き、人々を手引きしていくことです」