Photos by Mark Kauzlarich
Watches & Wonders から数カ月が経ち、何が話題になり、何が誇大広告で、何がウィッシュリストから外れ、何が長期的な勝者になるのかが明確になってきた。そうしたなかでジャガー・ルクルトは、マスター・コントロール クロノメーターコレクションで、今年の見本市でも屈指の新作を発表した。マスター・コントロールはこれまで、一般的にはレベルソのイメージが強いジャガー・ルクルトの伝統的なデザイン要素をドレッシーにアレンジしたものがほとんどだった。しかし今回、同ブランドはマスター・コントロールがそれ以上のことができることを示してみせた。
単にケースとブレスレットが新しくなっただけではなく、全モデルにCOSCによるクロノメーター認定を受けた自社製ムーブメントを搭載。振動数は2万8800振動/時、パワーリザーブは70時間が確保されている。また従来の1000時間コントロールに代わる新しい高精度保証、HPGシールが付いている。これはブランドが、ケースを組み込んだあとの時計を、衝撃、姿勢、高度、温度という日常使用に関わる4つの項目で3日間テストし、同時に8つの伝統的な装飾仕上げの品質を保証することを意味する。私が撮影した個体は新品で、保護用のプラスチックに包まれた状態だったため、その点を多少差し引いて見る必要はある。だが実物を見れば確かにその品質の高さがわかるだろう。
新たに登場したラインナップは、スティール(SS)とローズゴールド(RG)で計3モデル、全5種類(1モデルはSSのみでゴールド仕様は存在しない)だ。サイズは38mm×8.4mm、あるいは39mm×9.2mmで、いずれも50mの防水性能を備えるなど、多くの魅力がある。本作の着想源は1973年に発表されたジャガー・ルクルトのマスター・マリナー・クロノメーターで、それは一体型ブレスレット(あるいは、まだその概念自体が黎明期にあったため、それに隣接するやや未熟なブレスレットデザイン)を備えた時計だった。それから50年を経たが、今回発表されたモデルはすべて洗練されており、本来ならそれぞれ個別の記事があってもよいほどだ。しかし今回は、エントリーモデルから順に、ひとつずつ簡潔に見ていくことにしたい。
マスター・コントロール クロノメーター・デイト
ドレッシーな美しさと実用的な基本機能、そして一体型ブレスレットのスポーティさを兼ね備えた時計を探しているなら、まず注目すべきはマスター・コントロール クロノメーター・デイトだろう。フレーム付きの日付表示窓やセンターセコンドといった、マスター・コントロール・クラシックでおなじみのデザインはそのままに、従来のドレスウォッチのような外観と柔らかなホワイトダイヤルを、RG製ケースにサンバースト仕上げのチョコレートブラウンダイヤル、またはSS製ケースにサンバースト仕上げのブルーダイヤルに置き換え、より大胆な印象に仕上げている。
真のエントリーモデルは、248万6000円のSS製マスター・コントロール クロノメーター・デイトだ。ブルーのソレイユ仕上げを施した(サンバースト仕上げ)ダイヤルは、市場ではやや珍しい色合いだ。落ち着いたダークブルーでもなく、かといって明るく鮮やかなブルーでもない。その中間のような、どこか冷たさを帯びたダークな質感を備えている。ダイヤルカラーに合わせた日付表示もよくなじんでいるが、質感が異なるため完全に目立たなくなるわけではない。それでもおそらく意図されたとおり、ケースカラーに合わせた日付窓が視線を引き寄せる役割を果たしているが、過度に目障りになることもない。
ブラウンの色味もまた柔らかなトーンに仕上げられている。タンタンとベンには、これはある意味A.ランゲ&ゾーネのハニーゴールド製オデュッセウスに似ていると冗談を言ったことがある。ブラウンとRGの組み合わせはもともと外れがないが、ここでブラウンの色調を抑え気味にすることで、全体をモノクロームに近い印象へとうまくまとめ上げている。日付表示窓は、遠くから見るとSSのほうがより自然になじんで見え、近くで見るとRG製モデルのほうが完成度高く感じられる。ただ、もちろんそれが購入の決め手になるような違いではないだろう。
着用するときわめて収まりがよく、ほかの2モデルよりわずかに小さい直径38mm×厚さ8.4mmというサイズ感も効いている。実際に着けてみると幅の違いはほとんど感じなかったが、厚みは少し違うかもしれない。とはいえ、たとえばオーデマ ピゲ ロイヤル オーク “ジャンボ” の厚さ8.1mmと比べて、この8.4mmがなぜか違って感じられると言うと奇妙に聞こえるかもしれない。おそらくケース全体のフィット感の違いだろうが、まさにそのとおりだ。
RG製モデルは、一体型ブレスレットの複雑で緻密なデザインを際立たせている。ケースからブレスレットにかけて流れるようなラインには、ファセットカットとポリッシュ仕上げが、3連リンクの上面にはサテン仕上げが施されている。またリンク間の接続部にはポリッシュ仕上げを施した六角形の部品が配されている。ノーチラスやロイヤルオークよりもはるかに複雑で、驚くほど精巧に作られているが、価格ははるかに手ごろだ。しかし市場において、248万6000円のSS製モデルと924万円のRG製モデルの購入層が重複することはおそらくあまりないだろう。
マスター・コントロール クロノメーター・デイト・パワーリザーブ
次に紹介するのは、フューチャーマチックに着想を得たマスター・コントロール クロノメーター・デイト・パワーリザーブであり、3モデルのなかでも群を抜いた存在感を放っているように感じられる。このモデルはSS仕様のみの展開で、価格は299万2000円(税込)。価格設定としてはやや高めにも感じられるが、実際に得られる体験や仕上がりの質を考えると、その価格にも十分な説得力がある。日付表示は健在だが、9時位置のパワーリザーブインジケーターとバランスよく配置されたインダイヤル内の円形表示によって、時計全体のバランスがきわめて良い。これは、日付表示モデルにはない魅力であろう。
Cal.738ムーブメントは厚さわずか4.97mmだ。しかし唯一の注意点として日付表示モデルのムーブメントにはひとつ欠点があり、日付設定はケース側面のプッシュボタンで行わなければならない。それ以外についてはきわめて好印象で、仕上げ自体は工芸的というほどではないにせよ、この価格帯の他ブランドのムーブメントと比べるとはるかに優れている。そして改めて整理すると、基本性能についてはマスター・コントロール クロノメーターコレクションに共通で、振動数2万8800振動/時、パワーリザーブ70時間というスペックだ。
ブレスレットの構造については既に触れたが、ここではケースとブレスレットについて、ほかにも注目すべき点をもう少し詳しく説明する。ケース幅は20mmから18mmへと緩やかにテーパーしており、バタフライ式バックルのボタンはやや目立たない位置に配置されている。さらにジャガー・ルクルトによれば、“冬と夏でのサイズ調整”のために数mm分ブレスレットを広げられる隠しマイクロアジャスト機構も備えている。
しかしWatches & Wondersを逃した私が実際にこの時計を目にした際、ジャガー・ルクルト CEOのジェローム・ランベール氏が、実際に手首に載せるとわかる特徴について教えてくれた。ブランドは意図的にケースエンドをかなり急角度で下方向へ落ちるよう設計しており、その結果、この39mm×9.2mmの時計はさまざまな手首サイズにフィットする。
光の当たり具合によって、ブルーダイヤルの色合いが濃くなったり(スポーティーな印象)、薄くなったり(上の写真のように少しドレッシーな印象)することがわかる。そのため、様々な状況下での視認性も抜群だ。パーペチュアルカレンダーモデルは自分の予算外だが、仮に予算的に問題なかったとしても、おそらく自然にフューチャーマチックを彷彿とさせるこのデザインに引かれるだろう。
マスター・コントロール クロノメーター・パーペチュアルカレンダー
価格面において、ここで最も注目を集めるのはマスター・コントロール クロノメーター・パーペチュアルカレンダーだ。SS製は800万8000円、RG製は7万2500ユーロ(日本円で約1300万円/しかし公式には“価格要問い合わせ”)と、明らかにこれまでとは異なるレベルのコレクターに向けたより本格的な選択肢と言えるだろう。しかしパワーリザーブ表示搭載モデルと比較すると、サイズが大きくなっているわけではない。
時計の複雑さが増すほど、このブラウンダイヤルはより魅力的に見えてくる。おそらく、先述したA.ランゲ&ゾーネとの比較から少し距離が置かれるからだろう。というのも、ハニーゴールド仕様のオデュッセウスには、4つのインダイヤルによるパーペチュアルカレンダーも、センターポスト上に重ねられたうるう年表示も存在しないからだ。このモデルでは9時位置に日付表示、3時位置に曜日表示、そして6時位置にムーンフェイズが配置されている。ジャガー・ルクルトのデザインでは、月表示と年表示を同じ12時位置のインダイヤルに収めているが、この表示については賛否が分かれるかもしれない。
内部のCal.868は新しいものではないが(高水準の認定は取得している)、パーペチュアルカレンダー機構はモジュール式だ。実際、IWCで使用されている(そしてクルト・クラウス氏がIWCのために開発した)モジュールと同じものを使用しており、それ自体は悪いことではない。IWCはビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダー・プロセットで大きく前進し、モジュールを前後に動かすことができるようになった。しかしこの時計はリューズではなくケースバンドのプッシュボタンで時刻を合わせ、誤って戻しすぎた場合に元に戻すことができないため、リシュモン内の兄弟ブランドにやや後れを取っている。また個人的には年表示という機能自体、やや不要にも思える。もし普段から現在の年を忘れてしまうのであれば、時計の時刻合わせ以外に、もっと別の問題があるのかもしれない。
本作のケースや実際の装着感は、ほかの全モデルについて述べたことが、そのままこのモデルにも当てはまる。一体型ブレスレットのパーペチュアルカレンダーとして、同じリシュモングループ内で思い浮かぶ比較対象はヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダーだ。ジャガー・ルクルトは厚さが1.1mm増すことになるが、その代わりに、SS製モデルを選べばホワイトゴールド仕様のオーヴァーシーズに対して約1400万円安く収まり、RG製モデルで比べても、およそ900万円の差が生まれる。ではその価格差は、この厚みの違いに見合うものなのだろうか。
個人的にはマスター・コントロール クロノメーター・デイト・パワーリザーブのほうが好みではあるものの、実際にジャガー・ルクルトが大きく市場シェアを伸ばせる可能性を持っているのは、このパーペチュアルカレンダーモデルだと思う。比較対象となるIWCのインヂュニア・パーペチュアル・カレンダーは、ケース径41mm×厚さ13.3mmで、価格は約190万円安い。この価格差は許容範囲かと聞かれれば、おそらく私は受け入れるだろう。しかもこちらにはよりすっきりとしたデザインを持つというメリットもある。
IWCのビッグ・パイロット・ウォッチ・パーペチュアル・カレンダーは200万円ほど安いが、ケース径は46.2mmもあり、用途自体が全く異なるため、もはや同じ土俵にある時計とは言い難い。一方、フレデリック・コンスタントのハイライフ パーペチュアルカレンダーは現在では120万円を超え、130万円弱だが、外観は似ていても、品質や仕上げの面ではジャガー・ルクルトには到底及ばない。市場全体を見渡してみると、マスター・コントロール クロノメーター・パーペチュアルカレンダーが優位に立てるポイントがいくつも見えてくる。
総括
今回のリリースは、ジャガー・ルクルトのカタログに存在していたやや目立つ空白を埋めるものだ。レベルソはスポーティさとは程遠いデザインであり、万人受けするとは言えないし、マスター・コントロールは堅実なコレクションだが、若い世代や、あらゆるシーンに合う時計を探している人にとっては、やや堅苦しくフォーマルすぎるかもしれない。またポラリスは同ブランドにおけるスポーツウォッチの王者だが、そのデザインはかなりスポーティである反面、用途が限られていたり、40mmモデルのみの展開であるため多くの人にとって少し大きすぎると感じたりするだろう。しかし本作は、50m防水性能であることが唯一の欠点だろう。この点については、パテック フィリップやオーデマ ピゲといったブランドに対抗するために、ジャガー・ルクルトがより力を入れても良かったと思う。
しかしジャガー・ルクルトがうまくやったのは、この空白を埋める優れた選択肢を見つけたことだ。マスター・コントロール クロノメーターは、市場シェアを獲得するために無理やりサイズ展開を繰り返すような、ありがちなリリースではない。たとえ単体で見ても、これはブランドにとって成功した立ち上げであり、今後の発展のための強固な基盤となるものだと私は考えている。
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