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我々が知っていること
オーデマ ピゲのRDシリーズは、常に現代のウォッチメイキングの限界を押し広げるための実験場であり続けてきた。それは、一見シンプルでありながら挑戦的なアイデアに対して“なぜやらないのか”と純粋に問いかけるための試みであり、これまでの4つのプロジェクトでは、ミニッツリピーターからパーペチュアルカレンダーに至るまで、ムーブメント開発のさまざまな分野を劇的に改善しようとしてきた。2023年に、過去3つのRDプロジェクトの成果をすべて統合したブランド史上最も複雑な腕時計であるCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4が発表されたとき、私は、オーデマ ピゲがこの実験的シリーズで次にどのような方向性を選ぶのか、知りたくてたまらなかった。
時計コミュニティでは公然の秘密となっていたが、ついに我々は新作RD#5でその答えを得た。フライング トゥールビヨンとまったく新しいフライバッククロノグラフ ムーブメントの両方を搭載したロイヤル オーク “ジャンボ”だ。ブランドの150周年という節目を記念して発売されたこの新作は、直径39mm、厚さ8.1mmというジャンボサイズに、数々の複雑機構を詰め込んでいる。
新作の最大の焦点は、RD#5がもたらすユーザー体験における実際のイノベーションにあると、オーデマ ピゲの最高技術責任者ルーカス・ラッジ(Lucas Raggi)氏は私に語った。「もちろんクロノグラフではありますが、本当に探求したのはクロノグラフプッシャーの感触なのです」と彼は言う。新しいショートストローク、低反発のプッシャーのインスピレーションは、スマートフォンのボタンから来ているという。しかし、現代のデジタルデバイスへの移行と並行して、チームは過去のクロノグラフも探求したのだった。
「驚かれるかもしれませんが、多くのイノベーションはフラストレーションから生まれているのです」と彼は言う。「今回の場合、そのフラストレーションはヴィンテージ クロノグラフから生まれたものです。プッシャーの感触は素晴らしくソフトでした。ガスケットが多くて防水性能が低いかもしれないし、ひとつひとつ調整する必要があったかもしれませんが、私たちはその感触を取り戻したかったのです。だからすべては機械的な構造の結果としてではなく、プッシャーの感触や力を選択・制御するためにクロノグラフムーブメントで何をすべきか、というところから始まりました。そのために、私たちはすべてをゼロから再構築しなければならなかったのです」。
そして実際に、彼らは実際に再構築を成し遂げた。RD#5はこれまでにないほど根本的に異なる構造を持つ、まったく新しい自動巻きCal.8100を搭載し、それが直径31.4mm×厚さ4mmというコンパクトなパッケージに収まっているのだ。その最も重要な変更点は、クロノグラフのゼロリセットシステムの再構築にある。従来のハンマーとハートカムのデザインを、ラック&ピニオン機構に置き換えている。各クロノグラフの針は特定のラックに結びついており、クロノグラフが作動すると、そのラックは通常のキャリバーでは摩擦によって失われるはずのエネルギーを蓄える。
例えばクロノグラフ秒針が1周すると、ラックはピニオンとの噛み合いを切り離し、蓄えられたエネルギー(まるで輪ゴムのように)を放出して、再び針を前進させるために動き始める。同時に、この蓄積エネルギーは、ミニッツカウンターを前進させるために使用され、それがアワーカウンターも駆動するようになっている。
この設計によって、プッシャーを軽く押すだけでフライバックとリセットが可能となり、ほとんど力を必要としない。プッシャーが押されるとラックが切り離され、すでに蓄えられていたエネルギーを使ってゼロ位置に戻る。リセットにかかる時間は0.15秒未満であり、これは部分的にクロノグラフの針とムーブメント部品が、キャリバーの部品加工には最も難しい素材のひとつであるチタンでできているおかげだ。
RD#3プロジェクトから派生した新しいキャリバーに搭載されているのは、チタン製ケージ、平ヒゲゼンマイ、段付きのテンプ受け、そしてテンプ内のタイミングウェイトなど、RD#3と同じデザイン特徴を持つ極薄のフライング トゥールビヨンだ。さらに、巻き上げ機構との相互作用を高めるためにリューズも再設計されている。時刻合わせのためにリューズを物理的に引き出すのではなく、リューズ中央のプッシュピースを押し込むことで、赤いインジケーターが現れる。これはリューズがムーブメントの巻き上げではなく、時・分表示を調整するモードになったことを意味する。そしてこれを締めくくるのが、ジャンボでは初のペリフェラルローターの使用であり、新しいアーキテクチャ全体が、そのラック&ピニオン機構の美しさと共に披露されている。
チタンとバルクメタリックガラス(BMG)でつくられたこのケースは、コレクターが愛してやまない完璧なサイズ感を維持している。また、ダイヤルはクラシックな“ナイトブルー、クラウド50”カラーを堅持しているが、ロゴは、今年の150周年記念限定版すべてに採用された、より大きなサイズのスクリプトロゴに置き換えられている。ふたつのクロノグラフカウンターはダイヤルに沈み込んでおり、スネイル仕上げによって視認性が高められている。時・分針はホワイトゴールド製で、前述のように、クロノグラフ針はチタン製だ。パラジウムベースのバルクメタリックガラスは、ベゼル、ブレスレットのリンクスタッド、プッシャー、そして新しいリューズの機能であるセレクターに使用されている。最後に、ケースバックにはこのモデルが150本限定であることを示す“1 of 150 piece”のエングレービングが施されている。
150本限定生産のオーデマ ピゲ ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラシン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(RD#5)“150周年アニバーサリー”の価格は、税抜きで26万スイスフラン(日本円で約4900万円/編注;日本の公式サイトでは“価格要問合せ”となっている)だ。
我々の考え
今年の2月、オーデマ ピゲ創業150周年記念のキックオフでル・ブラッシュを訪れた際、幸運にもRD#5を実際に見て手に取ることができた。(残念ながら)写真撮影は許されなかったが、このことを秘密にしておくのは本当に大変だった。実機は予想どおり、特にケースバックから見るその姿は、息をのむほど素晴らしい。見事に仕上げられたクロノグラフムーブメントは、シースルーバックから見ると最も魅惑的な光景のひとつであり、同ブランドの自動巻きクロノグラフへのまったく新しいアプローチはそう頻繁に見られるものではない。Cal.8100が、薄型でありながら複雑に見える様子は、まったく新しい感覚であった。
このキャリバーに異を唱える人は想像しにくいかもしれないが、ダイヤル側はもう少し意見が分かれるかもしれない。特にプチタペストリーダイヤルに大きくプリントされた“Audemars Piguet”のスクリプト体のロゴだ。一方でこのスクリプト体は、ブランドにとって節目の年を記念するこのエディションを特別なものにしているが、もう一方で、最もモダンでインダストリアルなオーデマ ピゲのこのモデルとは、やや調和を欠く印象もある。
それはともかく、RD#5の最大のインパクトはその全体からくる認知的不協和だ。実際に手に取ると、まるで手首の上の幻想のように奇妙な感覚を覚えた。チタンの軽さを感じる一方で、クラシックなジャンボのシルエットに、フライング トゥールビヨンだけでなく、ふたつのクロノグラフ インダイヤル、そしてジャンボにはないはずの秒針まであるのを見ると、何ともいえない奇妙な気分になる。きわめて軽い力と、可動域がわずかなプッシャーも、この不協和音をさらに増幅させる。従来のクロノグラフが持つ感触に比べて、物足りないと感じる人もいるかもしれないが、私はこの斬新さと技術的な完成度の高さを評価したい。視覚的に見ても、プッシャーはジャンボのケースにきわめてうまく溶け込んでおり、これ以外の方法でジャンボにクロノグラフを載せることは考えられないほどだ。極薄のウォッチメイキングでは、ムーブメントが薄くなるほど幅が広くなる傾向にある。しかし、RD#5はここで素晴らしいバランスを保っている。もしあなたがRef.16202を着用できるなら、このモデルも同じように着用できるだろう。
RDシリーズは、現代におけるオーデマ ピゲの頂点であり、RD#5のようなモデルは、オーデマ ピゲのル・ブラッシュとル・ロックルにあるR&Dラボ(ルーカス・ラッジ氏、ジュリオ・パピ/Giulio Papi氏、アンヌ-ガエル・キネ/Anne-Gaëlle Quinet氏のような人々が関わっている)が、常に本当に信じられないようなエンジニアリングの偉業を成し遂げていることを思い出させてくれる。
しかし同時に、オーデマ ピゲは驚くべき事実を明かした。RD#5がこのラインの最後のモデルになるというのだ。この発表は、10年にわたる野心的なコンセプトの終焉を意味する。同ブランドは今後、より多くの顧客層に貢献することに重点を置き、主力ラインに向けた、より実用的なイノベーションに注力していくという。新たに発表されたファブリケーション ラボラトリーズ(Fabrication Laboratories)と共に、オーデマ ピゲの一章は終わりを告げ、新たな、しかしおそらくはこれほど突飛ではない章が始まったばかりなのだ。
基本情報
ブランド: オーデマ ピゲ(Audemars Piguet)
モデル名: ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラシン フライング トゥールビヨン クロノグラフ (RD#5)“150周年アニバーサリー”(Royal Oak "Jumbo" Extra-Thin Selfwinding Flying Tourbillon Chronograph)
型番: 26545XT.OO.1240XT.01
直径: 39mm
厚さ: 8.1mm
ケース素材: チタンとバルクメタリックガラス(BMG)
文字盤色: “ナイトブルー、クラウド50”
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 20m
ストラップ/ブレスレット: チタン製ブレスレット、BMG製リンク
ムーブメント情報
キャリバー: 8100
機能: 時・分表示、フライバッククロノグラフ、フライングトゥールビヨン
パワーリザーブ: 48時間
巻き上げ方式: 自動巻き(ペリフェラルローター)
振動数: 2万1600振動/時(3Hz)
石数: 29
追加情報: コラムホイール、再設計された垂直クラッチシステム
価格&発売時期
価格: 税抜き26万スイスフラン(日本円で約4900万円/編注;日本の公式サイトでは“価格要問合せ”)
発売: オーデマ ピゲのブティック
限定: あり、150本限定
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