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本稿は2018年11月に執筆された本国版の翻訳です。
ヴィンテージウォッチ収集において、“知識”という言葉には慎重になるべきでしょう。もちろん僕たちが100%確実にわかっていることもありますし、現代においてブランドがアーカイブの一部を公開することで、特定の時計の存在を証明したり反証したりすることもできます。しかし、“知っているつもり”でしかないこともたくさんあるのです。例えば特定の年式におけるロレックスモデルのシリアルナンバー分布であれ、さまざまな製造工程の特殊性であれ、コレクターが自分自身で解明しなければならない重要な情報はかなり多く、それらは入手可能な限りの優れた情報によってコンセンサスを得ながら前進していくものです。そのため、グレーゾーンであったものが少しでも白黒はっきりすると、そこにとても大きな意義が生まれます。だからこそ、今日この文書をお届けするのです。
下の文書は、控えめに言っても不思議な代物です。エリック・ウィンド氏(Eric Wind、元HODINKEEの寄稿者でWind Vintageの経営者)経由で私に送られてきたもので、Facebookのヴィンテージ ロレックス フォーラムのグループに投稿されたのを目にしたそうです(少し調べてみると、これは2013年にウォッチプロサイト(旧ピュリストプロ)に、2006年にロレックス フォーラムにも掲載されていました)。これは1959年にロレックスがアメリカの正規販売店を通じて発表した文書で、オリジナルのRef.6542 GMTマスターのリコールに起因する懸念に対応するためのものです。ご存じない方のために補足しておくと、GMTのベークライト製ベゼルには放射性物質が含まれていて(ベゼルの何が最大の原因だったのかについては議論されています)、ロレックスはアルミニウム製ベゼルへの交換を申し出て回収しました。これが、今日オリジナルのベークライトGMTが非常に希少である理由のひとつです。もうひとつの理由は、少量しか輸入、販売されなかったことでしょう。この資料によると、アメリカに輸入されたベークライトGMTはステンレススティール製と18Kゴールド製を合わせて605本のみであったといいます。以下、是非チェックしてみてください。
よく読むと、ここには実に興味深い情報が詰まっています。ミッドセンチュリー時代のちょっとおかしなトーンの文章だけでなく、ふたつの時計の価格が確認できたり(インフレを考慮すると、SS製は2256ドル、ゴールド製は5640ドルに相当します)、原子力委員会のリコールに関するいくつかの見解が得られたり、そして何より重要なのはベークライト製ベゼルのGMTマスターがアメリカに渡った総数についてです。ロレックスはこのような形で生産数や 過去の記録を公にすることはないので、具体的な情報を与えてくれるこのような時代の資料を見つけることは、本当に特別なことなのです。
さて、あとは“不幸な混乱”を引き起こした“初期の慌ただしい報道”についてもう少し詳しく知ることができれば、僕は本当に幸せ者なのですが。