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ときとして優れたモデルのリリースが控えめすぎて、記事でカバーできていないことに私たちが気づかないことがある。HODINKEEではこれまで、アクアランドへの愛をたびたび語ってきた。アナログとデジタルを融合したこのダイバーズウォッチはシチズンにおけるアイコニックモデルのひとつであるだけでなく、ダイブコンピュータと日常使いのツールウォッチのあいだを巧みに行き来する多機能なダイバーズウォッチでもある。同モデルは今年で40周年を迎えるが、2024年秋にアメリカ市場に登場したアクアランドの新作について本日まで触れてこなかったことに気がついた。そこで今日は、このモデルを取り上げたいと思う。
残念な事実として、しばしば日本のブランドは最高のプロダクトをアメリカ市場に投入しないことがある。しかしルミブライトのダイヤルを備えたアクアランド(Ref. JP2007-09W)に対する市場の需要は極めて高く、発売前からその到来を心待ちにしていた。加えてこのルミブライトのモデルが先んじてヨーロッパで販売されていたこともあり、さらに期待が高まっていたのだ。
もちろんアクアランドの存在は以前から知っていた。しかしシチズンのコレクターコミュニティのあいだで“Pingo”の愛称で知られるこのモデルと、デンマーク国王フレデリック10世とのつながりについて掘り下げていくうちに、さらに興味を引かれるようになった。多機能なツールウォッチに興味深い歴史と王室の関わりがあるとなれば、これはもう見逃せない。
では、“Pingo”もしくは“Pinglow”(今回の新作に私が命名してみた)とは何ものなのか? 1985年に初めて発売されたアクアランドは、ダイブウォッチの常識を覆す存在だった。一体型の水深計を備えたこのモデルは、当時すでにいくつかの水深計が市場に出回っていたなかで、それを伝統的なダイブウォッチのフォルムに落とし込んだ初のモデルだった。
In-Depth: シチズン アクアランド──伝説の誕生と時代の終焉
2019年にはジェイソン・ヒートンというこのテーマに最適なライターによって、アクアランドの最も包括的で詳細なストーリーをHODINKEEで掲載した。
ケースの9時位置に配置された水深計は、この時計の独特なルックスのもととなっている。そしてシチズンはこれまでにさまざまなバージョンを発表してきたが、新作のデザインは過去、現在、そして未来へと続くプロマスター アクアランドの本質的な姿を体現している。
またこの時計は、腕時計業界において“先を行くこと”がビジネスとしていかに重要かを示す好例だと考えている。ダイブコンピュータの登場により、ダイバーズウォッチ市場の大部分が淘汰されることとなった。その結果、サブマリーナーは究極の“投資家や金融業界のエリートが身につけるデスクダイバー”となり、プロプロフは“クールなレンガ”としてフィアットの“スプレッツァトゥーラの王”(ジャンニ・アニェッリ)が袖の上から装着するイメージが定着した。
しかしアクアランドはいまなお健在である。それはほぼすべての機能を兼ね備え、それらと同等以上のパフォーマンスを発揮するからにほかならない。
著者のシチズン プロマスター “フグ(Fugu)”ダイバーとシチズン アクアランド “Pinglow”。
この時計がダイバーズウォッチであることはひと目でわかる。60クリックの逆回転防止ダイバーベゼル、200m防水、PVDコーティングが施されたステンレススティール(SS)製ケース(直径44mm、厚さ14.4mm)、そして視認性抜群の夜光針、インデックス、ベゼルの夜光ドットと、これだけのスペックでも440ドル(日本円で約6万5000円)のクォーツダイバーとして十分魅力的な選択肢となる。しかし、この時計はそれ以上の機能を備えている。
12時位置のアナログ/デジタル表示は、デュアルタイム表示機能を持つ。この時計を撮影しているあいだ、何度も10時10分にリセットしながら撮影したが、デジタルの時刻表示は常に現在の時刻を追跡していたのが印象的だった。さらにこのデジタル表示がアクティブな状態で2時位置のボタン(便宜上“ボタンA”と呼ぶ)を押すと、秒表示に切り替わり、もう1度押すと日付と曜日が表示される。
デジタルの小窓に、日付と曜日の表示が浮かんでいる。
8時位置のボタン(ボタンM)を押すと、アラームモード(ボタンAでオン/オフ)とクロノグラフモード(ボタンAでスタート/ストップ)を切り替えられる。クロノグラフをリセットするには、10時位置のボタン(ボタンB)を押せばいい。またボタンBを2秒間長押しすると、デジタル表示の時刻設定モードに切り替わる。しかしこの時計の最も魅力的な機能は、やはりダイビングに関連するものである。
Hands-On: シチズン 暗闇のダイバーに光を当てる
2022年、コール・ペニントンはシチズン プロマスター “フグ”ダイバーについて詳しく掘り下げた記事を執筆した。これをきっかけに、筆者も“フグ”を購入するに至った。
ボタンMを2秒間長押しするとダイブモードが起動する。このモードには4つのダイブログ、深度アラーム、そして潜水時間アラームが搭載されている。最も優れている点のひとつはダイビングが終了し、ダイブモードの水深計が0(1m/4ft以内)を示すと水深測定が終了し、自動的に通常の時刻表示に戻ることだ。しかしこれらのダイブ機能はどのように動作するのだろう。
ダイブモードに入ると、最初にダイブログ機能が表示される。ボタンMを押すことで、最大4つのダイブログを順に確認することができる。ログ4の次には、ダイブアラーム機能が表示される。過去のダイブデータは最も新しいものからログ1、最も古いものだとログ4に保存されている。そして新しいダイブを開始すると、最も古いログ4に上書きされる仕組みになっている。
“Aボタン”を押してログを切り替えていくと、ログ番号の次にダイブの日付、開始時間、最大深度、潜水時間が順番に表示される。上の写真を見ればわかるように、どうやら私は1度、2分47秒のダイブで69.5mまで潜ったらしい(まるで岩のように沈んでいたわけで、記憶にないのも無理はない)。深度アラームや潜水時間アラームについて詳しく知りたければ、シチズンの包括的なユーザーガイドを読むといい。安全なダイビングのためのヒントも掲載されている。
この一連のデータは、アクアランドのアイコニックなルックスを形作っている水深計によって記録される。初めてこの時計を見たとき、私は正直なところ安っぽく感じた。なぜかプラスティックっぽく見えたし、耐久性についてもあまり自信が持てなかった。機能の一部を水にさらす設計の時計が、本当に信頼できるのか疑問だったのだ。しかし今では、自分が所有するほかのダイバーズウォッチと同じくらい信頼している(実のところ、私はかなりの数のダイバーズウォッチを持っている)。
今回のルミブライトダイヤルモデルでは、SSケースにアンスラサイトのPVDコーティングが施されている。ダイバーズウォッチとして最もクリーンなコーティングというわけではなく、指紋がつきやすいのが難点だが、それはPVDコーティングなら当然のことだ。これはシチズンのブラックチタン仕様のフジツボダイバーでも同じだったし、ブラックコーティングの施された時計ならどれでも起こりうることだろう。ケースバックにはこのコーティングが施されていないが、内部のメカニズムを考えればCal.C520の電池交換を自分で行うのは得策ではない。
直径44mm、厚さ14.4mmというサイズ感は腕につけると実際の数値以上に大きく感じられる。しかし全体のデザインは意外とコンパクトで、デュアルタイム表示を備えていることで飛行機からダイビング、そして再び飛行機へ(適切な減圧時間を経て)という流れにも対応できる理想的な1本となっている。これにシンガーのダイブトラックを組み合わせて水面休息時間を管理すれば、まさにダイブウォッチにおけるハイ&ローの完璧なペアリングとなるだろう。
とはいえいくつか気になる点もある。まずこの時計はラグ幅が24mmもあり、これまで持っていなかったサイズのNATOストラップをそろえなければならなかった。しかしそれが決定的な問題になるわけではない。440ドル(セール価格だ)で手に入れた時計なので、ストラップの予算は十分確保できる。もう1点、この価格帯では非常に優れた価値を持つ時計であるものの、秒針が必ずしもミニッツトラックの中心にピタリと合わないことに気がついた。
最後に、シチズン全体への提言としてひと言述べておきたい。私はシチズンのウェブサイトを訪れるたびに、ラインナップの大部分がセール価格で掲載されているのを目にしてきた。これでは、顧客は“どうせ割引されるなら待とう”と考えるようになる。一説によるとセール価格が標準化してしまうことで、定価だけでなくその割引後の価格すらもブランドの価値や製品の魅力を損なう要因になるとされている。
これは間違いなく事実だろう。現在の状況では、アテッサやシリーズ8のような一部のラインを除いてほとんどのモデルは待てば安く手に入るという市場認識が広がっている。この時計が本当に440ドル(定価550ドル、日本円で約8万2000円からの割引)に見合う価値を持つのであれば、最初からその価格で販売すべきだ。これは“ディスカウントディリューション”と呼ばれる現象で、ブランド価値の低下を招き、顧客が正価で購入する意欲を減退させる。これはJ.クルーが長年直面してきた問題でもあり、現在それを是正しようと試みている最中である。
ああそうだ。夜光についても話をしよう。そう、ダイヤルの表面にもたっぷりと使われている。ダイヤルは迅速に蓄光し、強く発光する。発光する色は鮮やかなネオングリーンで、ベゼルの夜光ドットとマッチしている。一方で針とダイヤルのインデックスにはブルー発光のルミが採用されているため、水中で針がダイヤルに埋もれてしまうことはまずない。
以前夜光の写真を撮った際に指摘されたことだが、私は夜光の撮影時に露光時間を長めに設定し、ISO感度を抑えるようにしている。
シチズンのラインナップには、特にダイバーズウォッチのカテゴリにおいて価値のあるモデルが多い。私はフジツボダイバーを3本所有するほど気に入っているが、デザインのルーツとなった時代のほかのダイバーズウォッチと見た目が似通っているため、ときにコレクションのなかで埋もれてしまうこともある。しかしシチズン プロマスター アクアランドは唯一無二の存在だ。ようやく1本手に入れたことで、さらにコレクションを増やしたくなってきた。クラシックな“Pingo”、ゴールドのアクセントが映えるブラックケースモデル、SSケースにゴールドトーンのベゼルを組み合わせたものなどなど。いや、いっそ53mmの巨大なアクアランド 200M デプスメーターまで視野に入れてもいいかもしれない。この40年間、素晴らしい時計が数多く生み出されてきたのだから。とはいえその前に、まずどこか暖かい場所を見つけてダイビングに出かけることが先決かもしれない。
詳しくは、シチズンの公式サイトをチェック。