第二次世界大戦直後の1948年、IWCとジャガー・ルクルトの両社は英国国防省(MoD)仕様の時計を製作。それらは「マークXI」の呼び名で知られ、ジャガー・ルクルト製は1950年代初頭に姿を消し、IWC製はそれよりも30年ほど長く1981年頃まで製造された。この時計はその後、かなりの名声と収集価値を獲得した。その36mmというサイズは、アイコニックなロレックスの1016 エクスプローラーと比較されることもあるが、より実戦的なものだ。オメガのスピードマスターと同様に、象徴的なCal.89の手巻きムーブメントを搭載していた。
IWCは、そのレガシーにおいて時計が果たす重要性を見失ってはいない。マークシリーズは、まったく同じ形ではないものの、長年にわたって存続している。現在では2016年に発表された40mmのマークXVIIIがあり、その前のマーク XVIIは41mmのサイズだった。最近では、2019年にオートマティック・スピットファイアを発表したが、この39mmのタイムピースは明らかにマークXIからインスピレーションを得たものだ。トリビュート・トゥー・マークXIと呼ばれる40mmの時計さえあった。特徴的な時針やヴィンテージスタイルの数字など、その歴史的なモデルからデザインのヒントを得たHODINKEEの限定モデルもあった。しかし、そのサイズも39mmと、オリジナルより3mm大きいものだった。
しかし、なぜ我々はIWCの金庫を覗き見しているのだろう? なぜなら多くの愛好家がそうであるように、IWCが「以前と同じように」時計を作っていないと思っている人がいるからだ。また、ブランドがオリジナルのマークXIの人気の理由となったサイズに立ち戻ることを恐れている(ロレックスも去年このサイズに戻った)と思っている人がいるからだ。さて、もし私が「IWCはそのことを忘れていたわけではない」と言ったら? そして、「2016年からそういう時計を製造しているだけでなく、IWCの最も安価なモデルでもある」と言ったら? そろそろIWCのパイロット・ウォッチ・オートマティック 36についてお話しするとしよう。
一見すると、この時計はマークXVIII、特にブルーダイヤルの “プティ・プランス”と見間違えるかもしれない。私もInstagramのフィードでこの時計を見たとき、間違えてしまった。しかし、この時計が正式なマークシリーズでないことを示す決定的なポイントがひとつある。それは文字盤にある。他の大型モデルには「Mark XVIII」や「Spitfire」という表記があるのに対して、本機の6時位置の下には「Automatic」という1行のテキストがあるだけなのだ。
39mmや40mmのパイロット・ウォッチとは異なり、この36mmモデルは1948年のオリジナルのマークXIとまったく同じサイズで、ここ10年ほどのよりモダンなマークシリーズのビジュアルスタイリングが施されている。私の考えでは、このモデルは象徴的なMoDウォッチの精神的な継承者であり、ただ...誰もそれについて語らないだけなのだ。
このEntry Level企画の記事を書くにあたって、私はIWCに連絡を取り、このモデルが本当にカタログのなかで最も安価なモデルなのかを確認した。そして、その事実の意味を改めて考えてみた。36mmは、現代のサイズ表記ではもはや小さいとは言えない。むしろ41mmを超える時計よりも38mm以下の時計に引かれるのが現代の愛好家である。
しかし、私が面白いと思うのは、少なくとも表面的には、このサイズが低価格(他のカタログと比較して低価格)を決定しているように見えることだ。IWCのパイロット・ウォッチ・オートマティック 36の価格は、このステンレススティールにレザーストラップという構成で56万1000円だ。だが、必ずしもこのモデルは掘り出し物というわけではない。実際、57万2000円のマークXVIIIより1万1000円、62万1500円のスピットファイア・オートマティックより6万500円安いだけなのだ(価格はすべて税込)。つまり、IWCへエントリーモデルは、36mm、39mm、40mmというサイズの3種の時計によって形成されており、それぞれがマークXIへのオマージュを捧げているというわけだ。
しかし、このシリーズのポイントは、本当の意味での絶対的なエントリーレベルの時計だ。そして、パイロット・ウォッチ・オートマティック 36は、定量的にもIWCが製造する時計のなかで最も安価なモデルなのである。そこで、このモデルを徹底的に検証してみよう。
ご存じのように、この時計は直径36mm。実際手首につけると、それよりもずっと小さく見える。最初に手にしたとき、私はそれが34mm以下なのではないかと思い、自分のエクスプローラー Ref.14270を取り出して比較したほどだ。その結果、36mmの時計はストラップをつけると小さく見えることがわかった。もちろん、直径がすべてではない。IWCの多くのオーナーが大型のパイロット・ウォッチに抱いている不満は、ラグからラグまでの全長だ。スピットファイアは直径39mmでありながら、50mmを超える大きさになる。この時計はラグからラグまで46mmと、大体比例している。
この時計は、つけているのを忘れてしまいそうになるような感覚を与えてくれる。正直、私が期待していたよりも小さめの装着感だが、これはブレスレットだと違ってくるのだろう。文字盤は、特にこのブルーサンレイの構成では、視覚的な面白さがたくさんある。もちろん、今ではすっかりおなじみのIWCの数字インデックスもあるが、36はステップダイヤルのデザインも特徴的で、この小さなキャンバスにたくさんの興味をそそる要素を加えられている。
36mmのパイロット・ウォッチは、製品対価格という観点から見ると、まちまちだ。シンプルな文字盤レイアウトをお求めなら、このモデルでそれを実現できる。IWCのほとんどのケースバックに見られる飛行機をモチーフにした華麗なエングレービングに興味がない方なら、このケースバックはクリーンで何もないからぴったりだろう。もちろん、すぐにお好みのエングレービングを施すことだってできる(実際、IWCは推奨している)。
ムーブメントについては、Cal.35111(セリタベース)を搭載し、この種の時計(どんな時計にも)に必要なすべての機能を備えている。ケースは軟鉄製インナーケースで覆われており、ムーブメントを磁場から保護している。レザーストラップはダブルデプロイヤント(フォールディング)クラスプ付きで、操作は良好、サイズ調整も簡単だ。
我々はこれがIWCで最も安価なモデルだと知ったが、バリューの観点ではどうだろうか? チューダーに目を向けると、ETA社製ムーブメントを搭載したブラックベイシリーズが30万円をわずかに上回る価格31万1300円で販売されている。確かに、チューダーの時計にはこのIWCのような伝統はないが、果たしてその伝統は20万円近い価格差に見合うものなのだろうか? 判断はあなたにお任せしよう。私はたまたま、IWCの時計は全体的に過小評価されていると考えている。高品質な製品にマッチした特別な美学を持ち、それを維持し続けているブランドだ。IWCの時計を手にして、その品質を悪く思うことはないだろう。
チューダーと言えば、記事「チューダー 1926 レーダーの圏外に存在していた同社で最安値の腕時計」もぜひご覧ください。
IWC パイロット・ウォッチ・オートマティック 36は、美しい仕上げ(ポリッシュおよびサテン仕上げ)のコンパクトなケース、アイコニックな文字盤デザイン、そして歴史的に重要な過去の時計との隠された関連性を備えている。この時計としばらく付き合ってみて、これがIWCの入門機としてふさわしいだけでなく、知る人ぞ知る時計であるという結論に達した。低価格はまさにボーナスなのだ。
IWC パイロット・ウォッチ・オートマティック 36: 直径36mm×厚さ10.5mm。ブルーのレザーストラップ、ダブルデプロイヤントクラスプ。IWCキャリバー35111(セリタ社製ベース)、2万8800振動/時(4Hz)、42時間のパワーリザーブ。軟鉄製インナーケースによる耐磁性。6気圧(60m)防水、ねじ込み式リューズ。価格、56万1000円(税込)。