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Photos by Yusuke Mutagami & Masaharu Wada
クイック解説
今から約1週間前の11月5日、タイメックスから届いたそのニュースを見たときに思わず自分の目を疑った。タイメックスについて調べたことがある人なら、“ワンダラーウォッチ”の名称を1度は聞いたことがあると思う。舞台はさかのぼること1890年代のアメリカ、のちにタイメックスとなるウォーターベリー・クロック・カンパニーの時計を販売していたインガーソル・ウォッチ・カンパニーの共同設立者であったロバート・H・インガーソル(Robert H. Ingersoll)はたった1ドルのポケットウォッチ“YANKEE(ヤンキー)”を発売。20年間で約4000万個を売り上げ、のちに“ドルを有名にした時計”と呼ばれるようになった。
1800年代後半のアメリカにおける一般的なポケットウォッチの価格はまだまだ高価で、時計を所有していたのは全人口のたった1%に過ぎなかった。そのことを考えると、たった1ドルで買えるポケットウォッチというのがどれだけセンセーショナルであったかは想像に難くない。そして今回、世紀を跨いでその衝撃が再び訪れるというのだ。しかし今回は世界限定1000本で、日本への割り当ては65本のみ。11月16日(土)の正午より東京は原宿の店舗で先着順で販売されるという。その価格は現代のレートで約1ドル(税込170円)である。
1890年代に販売されていたワンダラーウォッチこと“YANKEE”。
YANKEEには当時右のアラビアインデックスのものをはじめとし、ブラックダイヤルなどで複数のパターンが存在していた。そのひとつが、今回の170周年記念モデルのベースとなったローマン数字のモデルだ。デザイン上の比較は、下のブランド公式画像で一目瞭然だろう。小振りでシャープだったインデックスはモダンなサイズに改められてはいるが、ミニッツトラックもそのまま残されている。
170周年記念モデルの具体的なスペックに触れていこう。真鍮製手巻き式ムーブメントを搭載していたオリジナルに対し、本作ではデイデイト機能を備えたクォーツムーブメントを採用。ケースはステンレススティール(SS)に置き換わり、短めのラグを備えたリストウォッチに生まれ変わっている。ケース径は40mmで、厚さは約11mm(編集部調べ)。ラグの天面にはヘアラインがかけられ、ケースサイドからベゼルにかけてのポリッシュ仕上げとコントラストをなしている。およそ170円とは思えず、タイメックスのレギュラーラインにあってもおかしくないルックスだ。
針は夜光を塗布したコブラ針。オリジナルからややボールドになったインデックスの書体とのバランスもよく、視認性に優れる。秒針の先には赤い塗料が挿してあり、デザイン上のアクセントとなっている。
リューズにはロゴを刻印。サイドから見てみると、ベゼルはケースと別体構造になっているのがわかる。スナップバックには文“TIMEX 170”の文字に加え、“This watch celebrates simply great watchmaking since 1854(この時計は1854年から続く素晴らしい時計製造を称えるものだ)”、“A TRUE AMERICAN ICON(真のアメリカンアイコン)”と刻まれている。
ストラップはなんとリアルレザーだ。同色のステッチが走るダークブラウンのストラップにはクイックリリース機構も取り付けられている。正直、このストラップだけで赤字だろう。
繰り返しのアナウンスになるが、ワンダラーウォッチの名前と史実にちなんで日本での価格は税込170円。全世界で11月16日(土)のみの販売となり、日本では同日正午から65本のみが提供される。オンラインでの販売はなく、手に入れるためには原宿、明治通り沿いにあるミヤノ家 原宿店に並ぶ必要がある。
ファースト・インプレッション
この記事を執筆している現在、新作ワンダラーウォッチを見た全員が「170円はありえない」と唸らされている。1890年代当時のオリジナルはより多くの人々に時計を普及するという目的があったものの、あくまで利益が出る商品であり、その裏には大量生産ラインの確立やピンレバー脱進機を使用した簡素な真鍮製ムーブメントの開発などのストーリーがあった(文字盤にはインデックスをプリントした紙を糊付けしていたという話も残っている)。しかし本作において、値段相応のチープさは微塵も感じられない。美観も意識して磨き分けを施したSS製ケース、しっかりと塗布された夜光、デイデイト機能を備えたクォーツムーブメントと、タイメックスブランドを文字盤にのせるに値する実用的な1本に仕上げられている。細かい話だが、時刻調整の際もリューズを押し込んだ時の針ズレも発生せず、ストレスは感じなかった。
今回の170周年記念モデルについて、タイメックスグループのチーフマーケティングオフィサー(CMO)であるシャリ・ファビアーニ(Shari Fabiani)氏は次のように語っている。
「当社の170周年記念は単に当社の輝かしい過去を祝うものではなく、高品質な時計をすべての人々に提供するという揺るぎない決意を改めて心に刻むものです。この記念モデルの時計(編注:当時のオリジナル)は、『わずかな金額で正確な時間を』というキャッチフレーズで宣伝されました。この時計を製作するにあたり、タイメックスを長年にわたって信頼し、大切にしてくださっている熱心な消費者の皆様に感謝の意を捧げたいと思います」
すなわち本作はタイメックスというブランドの精神性を体現すると同時に、この節目の年にブランドのレガシーやウォッチメイキングの歴史を広く知らしめるものとして製作されたのである。ブランドの公式ページではYANKEEを仕掛けたロバート・H・インガーソルを“時計業界で最も成功を収めた最初のマス・マーケッター”と評しているが、このワンダラーウォッチはまさに彼にオマージュを捧げた世界規模のマスマーケティングにほかならない。ただ、嬉しいことに今回のマーケティングにおいてはジョルジオ・ガリ(Giorgio Galli)氏のデザインによる、ブランドの伝統を体現したエッセンシャルなアイテムがわずか170円で手に入る。これは僕たちにとっても非常に喜ばしいことだ。
この時計は170周年を記念した1度限りのお祭りのようなものであり、残念ながら再販は予定されていないという。わずか65本のうち1本を手にできた幸運なオーナーには、1854年のウォーターベリークロックカンパニーから続く米国時計製造の歴史に思いを馳せて欲しい。そして、これが初めてのタイメックスウォッチになるという人は、実際に使ってみてそのパフォーマンスの高さと実用性、日常に溶け込む普遍性を実感してもらいたい。
基本情報
ブランド: タイメックス(Timex)
モデル名: ウォーターベリー ワンダラーウォッチ
直径: 40mm
ケース素材: SS
文字盤色: ホワイト
夜光: 時・分針
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: カーフレザーストラップ(ブランドロゴ入りSS製バックル付き)
追加情報: 無反射加工ミネラルガラス風防、クォーツムーブメント
価格 & 発売時期
価格: 170円(税込)
発売時期: 2024年11月16日(土)正午よりミヤノ家 原宿店で先着順で販売
限定: 日本国内65本
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