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Hands-On M.A.D. エディション M.A.D.1Sは時計の世界を楽しませる最高峰のエンターテインメントウォッチだ

友人やサポーターへの"感謝"としての時計、オロロジカルな遊び心を持つおもちゃ、あるいは数十年にわたる前衛的デザインの民主化など。どんな視点から見てもM.A.D.1シリーズは、もし幸運にも手に入れられたなら必ず笑顔をもたらしてくれる時計だ。


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すでに1500名の幸運な人々のなかに自分が含まれているかどうか、分かっているはずだ。もし当選していたら、おめでとう。ただ選ばれなかったとしても落ち込む必要はない。今後もM.A.D. エディションから新作が登場するからである。まだ事情を知らない人のために説明すると、私はM.A.D. エディションのM.A.D.1のリリースが、時計業界における重要な転換点であったと本気で考えている。

 MB&Fは、長年コラボレーションやコミュニティの旗手として知られてきたブランドだが、同時にアバンギャルドな高級時計に高額な価格が伴うことでも知られていた。MB&Fの時計を見るとその価格に納得できるだろう。複雑さ、仕上げ、技術力、デザイン、そして生産数の少なさが“高価さ”を物語っている。だがマックス・ブッサー(Max Büsser)氏に会って彼を知るうちに、これらの時計は価格や排他性を気にしてつくられたものではないことに気づく。アイデア、デザイン、対話、そしてコミュニティがすべてなのだ。

M.A.D.1S

 M.A.D.1の登場は驚くことではない。これはMB&Fでありながらも、厳密にはMB&Fではない手ごろな価格の時計である。まるでマックス・ブッサー氏とM.A.D. エディションのチームが、まさに私のような人間のために手ごろな時計をつくってくれたかのように感じた。そういう意味では完璧だった。もちろん、一部の人々にとって2900スイスフラン(日本円で約50万円)という価格は、品質に対してやや高めだと感じるかもしれないとも言われていた。しかし自分にとってはその価格に不満はない。いずれにせよ価格そのものというよりも、その価格が何を意味しているかが重要だったのだ。

 多くの人々がこの時計を熱望し、4つのバリエーションが発表された(“トライブ”向けの最初のブルーモデル、レッドモデルの2回の抽選、グリーンモデルの抽選、そして今年初めに登場したマルチカラーのコラボレーションウォッチ)。最初のふたつのレッドモデルの生産数3000本に対しては4万以上の応募があった。もちろん、欲しかった全員が手に入れられたわけではない(自分もそのひとりだ)が、この一連の取り組みそのものが非常に印象的だった。

M.A.D.1 Red

赤いM.A.D.1は初のM.A.D.1ではなかったが、一般の人々が購入できる初めてのモデルだった。それはとても大きな出来事だったと思っている。

 時計を愛することは誰にでもできる民主的な行為だ。しかし時計を所有することは本質的にその反対である。確かに手ごろな価格のブランドはたくさんある。ただなぜか本当に欲しいと思う時計ほど、手が届かないように感じるものだ。金銭的な理由、入手の難しさ、限られた供給など、時計への愛を実際の所有に結びつけるための障壁は数多く存在する。M.A.D.1が特別だったのは、マックス・ブッサー氏がその現実を認めた点にあった。1万ドルのグルーベル・フォルセイや、1万5000ドルのフィリップ・デュフォー、5000ドルのウルベルクを想像して欲しい。それらがブランドの価値を損なわない形でつくられているとしたら、どうだろう。ブッサー氏が行ったのはまさにそれだ。彼は創造性を発揮し、これまで彼のデザインや物語、さらには彼の人柄に引かれながらも、レガシー・マシンやオロロジカル・マシンを手にすることが難しかった人々にも手が届く価格帯にまで引き下げたのである。民衆のためにつくられた、楽しくてエキサイティングなデザインだったのだ。

 正直なところ、ほかのブランドならひとつのデザインにとどめ、いくつかのカラーバリエーションを追加し、それで終わりにしてしまったかもしれない。コミュニティへの“ありがとう”の気持ちとして、1度だけ感謝の意を表すのでも許されるだろう。実際、M.A.D. エディションもM.A.D.1で同じようなアプローチを取った。M.A.D.1はGPHGでチャレンジ賞を受賞し、いくつかのカラーバリエーションを追加した。そして私はこれからも、彼らが同じように、欲しい人全員に手に入るチャンスが来るまで続けるのだろうと思っていた。

Time to Love

M.A.D.1は今年初め、フランス人ファッションデザイナーであるジャン・シャルル・ドゥ・カステルバジャック(Jean-Charles de Castelbajac)氏と共同で製作した“タイム・トゥ・ラブ”エディションを発表した。Photo: courtesy M.A.D.Editions

 実際、その計画はとても収益性の高いものであったはずだ。最近、シャネルがMB&Fの株式を25%取得した際に公表された財務報告によると、2023年の総収入は4550万スイスフラン(日本円で約77億6000万円)に達していた。だがさらに驚くべきことに、そのうち1015万スイスフラン(日本円で約17億3000万円)は昨年のM.A.D.1のバリエーション展開だけで得たものであった。しかし、Geneva Watch Daysに先駆けて新しいM.A.D.1 S(“S”はスリムの意)が発表された際、彼らが現状に甘んじるつもりはないことが判明した。誰も予想していなかったものを、さらに改良してみせたのだ。

MAD1S

 M.A.D.1をまだ知らない人のために説明すると、この時計は本質的に時計版ハンドスピナーである。通常ダイヤルがある場所に、3本のアームからなるブレードローターが配置されている。この表現に悪意はまったくない。ある友人は、私が無意識に時計を巻いていることが多いと指摘していたが、M.A.D.1 Sではその“巻き”が新たな次元に達していると思った。適度な力で触れるとローターがしばらくのあいだ回転し続け、リューズのウェイトが手首の上でカタカタと動く感触が伝わってくることがある。その回転は意図的に引き起こすこともできるが、友人は私が何気なく手を動かしているだけで、ローターが勝手に回転しているのをよく目にしていたと言っていた。

M.A.D.1S

 この時計の動画を投稿したところ、時計好きではない友人たちから何人か“いいね、でもどうやって時間を読むの?”と言われた。そこで、これは“ドライバーズウォッチ”と呼ばれる時計に近いもので、時間はケースの横(ミドルケース部分)で表示されると説明した。M.A.D.1では、時間が刻まれたバレルが回転し、それに矢印が指して時間を示す仕組みで、さらに15分ごとの目印も付いている。もちろん時間の精度が特別高いわけではないが、それはこの時計の本質ではない。時間を示す香箱はアルミニウム製で、ムーブメント外周の色に合わせて着色されている。新しいM.A.D.1 Sには“トライブ”メンバーだけが購入できるパープルと、抽選で購入権が与えられたアイスブルーのふたつのカラーバリエーションがある。

MAD1S

 M.A.D.1 Sには、実用的で機能的な改良がいくつか施されているが、そのカギは名前に表れている。この時計はこれまでより20%以上薄くなっているのだ。この薄さは多くの時計で顕著だろうが、特に厚さ18.8mm、直径42mm、ラグからラグまで50.5mmというサイズから始まった時計の場合、その変化は非常に大きい。多くの人にとっては、着用が難しいほどの大きさだった。とくに比較的フラットな裏蓋とラグの配置が高さを際立たせていたため、M.A.D.1はまるで手首にホッケーパックを載せているような感覚だった。しかし42mmの幅で厚さが15mm、さらに30mの防水性能を備えたM.A.D.1 Sは、はるかに着用しやすくなっている。

M.A.D.1S

 この数ミリを削減するために、M.A.D. エディションはM.A.D.1から時間を示す香箱を丸ごとひとつ取り除いた。以前は、時・分をより正確に表示していたのだが、今回のモデルはおおよその時間を知るための時計となった。私はこの時計をほぼ1週間着用したため、実際の使い勝手についてはあとで詳しく説明するが、理論上このトレードオフは完璧に理にかなっていると言えよう。

M.A.D.1S

 上から見ると、ムーブメントやブレードローターが見え、ラグはケース本体の端から突き出している。このラグはかなり細くなり、全体のバランスが取れたシルエット」になっている。ローター自体はタングステンとチタンの組み合わせで十分な重さがあるため、回転がスムーズに行えるようになっている。またローターにはかなりの量の夜光塗料が塗布されている。もしUVライトを持ち歩くような時計愛好家であれば、夜には光を楽しむこともできるだろう。

M.A.D.1S Lume

 今回の新作M.A.D.1 Sで、M.A.D. エディションは新しいムーブメントを発表した。これは最初のM.A.D.1が発売されたときには存在していなかった、改良されたラ・ジュー・ペレ G101だ。ブッサー氏の友人のひとりが、以前使用していたミヨタムーブメントのアップグレードとしてこのムーブメントを推薦したという。ラ・ジュー・ペレムーブメントはスイス製だ(ただ何人かの人々が控えめに指摘しているように、ラ・ジュー・ペレはシチズングループの傘下であり、日本企業が所有しているため、ある意味“同じファミリー”に属しているとも言える)。とはいえ、サイズの調整やスイス製ムーブメント(2万8800振動/時で駆動し、約68時間のパワーリザーブ)を搭載しながらも、ブランドは価格を2900スイスフラン(日本円で約50万円)に据え置いた。

M.A.D.1S

 ローターが一方向に回転することこそ、あの“クルクル回る”特徴の実現には重要である。クラッチ機構も、ゼンマイが完全に巻き上がっている状態でもローターが回り続けることを可能にしている。また仕上げもミヨタムーブメントよりはるかに美しくなっている。ただローターが以前のモデルほど自由に回転せず、急に止まるという欠点もある。時計の回転軸を急に変えるとすぐに回転が止まってしまうのだ。推測だが、ラ・ジュー・ペレのムーブメントはおそらく寸法のばらつきが非常に小さくなっているのだろう。初期のM.A.D.1やミヨタムーブメントを搭載した時計を巻いたときの感覚はよく覚えているが、ローターから緩く取り付けられているようなガチャガチャした感じがよく伝わってきた。もし、あの止まらない回転が好きだったなら、このアップグレードにはその分のデメリットもあると言えるだろう。

M.A.D.1S

 通常、時計をひっくり返すとムーブメントや裏蓋のエングレービングを見ることができる。しかしM.A.D.1シリーズでは、裏蓋自体が時計をラグに固定するための構造の一部となっている。ラグとスティール製ケースはそれ以外の部分では接続されていない。このデザインによる主な配慮は、時計全体をしっかりと手首に固定することにあるようだ。というのも、この時計をつける人はローターを回転させるために手首が頻繁に動くと予想されるからだ。また時計の奥行きの多くは、時間を表示する中空のアルミニウム製香箱によって占められており、これにより時計は軽量に保たれている。

M.A.D.1S
M.A.D.1S

 リューズは12時位置(通常の時計で12時がある場所)に配置されている。時間を設定するためにリューズを使う際はストラップが邪魔になるため、おそらく腕から時計を外す必要があるだろう。このリューズはオリジナルよりも大きくて使いやすく、リューズトップ部分にはローターブレードのような形を持つカメがデザインされている。

M.A.D.1S
M.A.D.1S Lume

 本作にはテキスタイル柄の快適なレザーストラップが付属するが、以前のストラップよりも薄く加工されており、つけ心地が向上している。ストラップのアクセントステッチは、M.A.D.1 Sの各モデルに合わせた色を使用。またこの時計は人に見せるために着脱を頻繁に行うことが多いため、デプロワイヤントクラスプが付いている。これにより着脱が簡単になり、実用性が非常に高くなる。ほぼ必須のアクセサリーと言えるだろう。ちなみにデラグス(Delugs)では、ラグ幅24mm(バタフライクラスプ部分で20mmにテーパーする)のM.A.D.1 Sに対応する、サイズ調整可能なラバーストラップを販売している。少し高価に感じるものの、私は購入するつもりだ。

M.A.D.1S

 私は普段、“ダブルリスティング”(両の腕に1本ずつ時計をつけること)に強く反対しているタイプだ。まあダブルリスティングをする人に対して何かあるわけではなく、単に自分ではしないだけだ。しかしこの時計に関してはそのルールを破ってしまった(とはいえ短時間だが)。マックス・ブッサー氏と彼のチームが、Geneva Watch Daysのあいだこの時計を貸してくれたため、多くの人に見せて回る必要があると感じたのだ。この時計は楽しく、見る人を笑顔にしてくれる。ダブルリスティングをしない理由があるだろうか? とはいえ、この計画にはふたつの問題があった。

M.A.D.1S

 まず、展示会のように次々とタイトな予定が入っている場面では、正確な時間を表示してくれる時計があると便利だということ。とくに通常のダイヤル配置に慣れすぎている場合だ。オリジナルのM.A.D.1を長時間つけたことはないが、たとえこのモデルが分単位の精度を欠いていたとしても、正確さを求めるよりも、このスリムさを選ぶということはないだろう。

M.A.D.1S

 ほとんどの人は、反射的に通常ダイヤルがある場所を見てしまうため、“ドライバーズウォッチ”のデザインに慣れるには少し時間がかかる。それでもこの時計をみんなに見せたいと思い、右手首につけてみた。すると、右手首ではローターがより簡単に“回転”することに気づいたのだ。この時計をハンドスピナーのように回転させるにはちょっとしたコツがいるが、それは自分で見つけるしかない。ただコツをつかめば、その仕組みがしっくりくるはずだ。

 ミヨタから新しいラ・ジュー・ペレムーブメントに変更されたことで、ローターが反時計回りに回転するようになった。オリジナルでは時計回りに回転していたためこの違いは興味深い。ローターを動かす角運動量を考えると、理にかなっている。左手首を上げるとき、肘の動きはより時計回りになりやすい。一方右手首を上げるときは、肘を中心に反時計回りの動きをする。手首を素早く上げて急に止めると、ローターが回転しやすいのもそのためだ。右から左へ素早くスナップさせるような動きでも、時計を高速で回転させることができる。まるで水切り石を投げるような感じだが、手首をあまり緩くしすぎて、時計をM.A.D.1 S フリスビーエディションにならないように気をつけてくれ。

M.A.D.1S

 これまでに技術的な詳細やビジネス上の決定について多くの議論がなされてきたが、それは私にとって本質的なポイントではない。Geneva Watch Daysの期間中、私はM.A.D.1 Sを常に持ち歩き、まだ時計を見たことがない人に見せて取り出していた。大手ブランドの人々(インディーズも含む)が時計を見せてほしいと頼み、何度も回転させようとしていた。イタリアのコレクターたちのテーブルで時計を回して見せたあと、ホテルのドアマンにも見せたところ、彼も興味を持っていた。よくある表現だがこの時計は本当に人々の顔をほころばせたようだ。

 この記事が公開されるころには抽選が終了しており、幸運な1500名のなかに入っているかどうか、まもなく分かることだろう。もし当選していなくても、希望を捨てないで欲しい。M.A.D. エディションのラインは、今やマックス・ブッサー氏の活動において重要な存在となっており、将来的にM.A.D.1 Sの新バージョンが登場することに賭けてもいい。そしてさらにいいニュースがある。来年にはM.A.D.2が登場すると約束されており、この“狂気”が再び始まるのだ。

M.A.D. エディション M.A.D.1S。直径42mm、厚さ15mmのステンレススティール製ケース、ラグ幅24mm、30m防水。中央のムーブメントを囲むアルミニウム製プレート(パープルまたはアイスブルーのアクセント)、ケースエッジで回転する時間表示香箱。2万8800振動/時(4Hz)、約68時間パワーリザーブのラ・ジュー・ペレ製G101ムーブメントを搭載。カラーマッチのコントラストステッチを施した“レーシング”レザーストラップ。現在は1500本限定生産で、価格は2900スイスフラン(日本円で約50万円)