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日本の独立時計師や独立系ブランドと聞いて、どんな名前を思い浮かべるでしょうか? アカデミー独立時計師協会(AHCI)に所属する菊野昌宏氏や浅岡 肇氏、本サイトでもご紹介したNaoya Hida & Co.や二人の日本人時計師によるKIKUCHI NAKAGAWAを挙げる方もいらっしゃるでしょう。今回ご紹介する関 法史氏(せき のりふみ)は、まだ自身のブランドを展開しているわけではありませんが、これからがとても楽しみな若き日本人時計師の一人です。
関 法史氏とは?
年齢: 23歳
出身地: 東京都、日本
生い立ち: 幼少期から手先が器用で工作が得意だったという関氏。日本刀、鎧、甲冑の模写したり、構造を調べたりするのが好きだったそうです。腕時計製作の道を目指すことになったのは、18歳の頃。きっかけは、独立時計師の菊野 昌宏氏でした。
高等学校卒業程度認定試験を合格した後、アルバイトをしながらやりたいことを探し、一時は自衛隊の学校も目指したそう。ですが、ある時、独立時計師の菊野昌宏氏が出演したドキュメンタリー番組を見て、人の手によってこれほど細かいものが作れるのかと感動し、その日のうちに時計づくりを学べる学校を調べ始めます。それから見つけた専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジに入学することを決めたのです。関氏は最終年次の4年生のときに、1年かけて時計を設計・製造できる研究生コースで、自身の時計製作に取り組み始めました。
我々がなぜ彼を気に入ったのか
僕たちが関氏について知ったのは、2020年の「ヤング・タレント・コンペティション」で彼が優勝したときでした。同コンペティションは、世界で最も才能のある次世代の時計師を発見することを目的として、2015年からF.P.ジュルヌとアカデミー独立時計師協会(AHCI)によって運営されています。審査員には、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏、そしてかのフィリップ・デュフォー氏やジュリオ・パピ氏らも名を連ねます。関氏は、卒業制作でスクールピースとして手掛けた「球体月齢表示懐中時計」で、日本人として初めて受賞。本記事では、関氏がこれまで手掛けてきた作品をご紹介していきます。
壱号機: エングレーブドレギュレーター
関氏が初めて製作したのが、このエングレーブドレギュレーター。3年生の夏休みに製作されました。最初の一本ということもあり、あまり複雑なものは難しいだろうと考えたものの、自分を表現するようなものを作りたかったと語ります。
ケースは真鍮に金めっきを施したもので、内部に搭載するムーブメントは、オーバーホールの練習用だったユニタス製のETA6497をベースにしています。同氏は、機構としてもデザインとしても自由度が広がると考えレギュレーターを選択。ムーブメントの製作の上で最も困難だったのは、いかにシンプルなレギュレーター機構を作るかという部分で、その苦労の甲斐あってケース厚はわずか12mmに抑えることができています。
文字盤やムーブメントに施されたエングレービングは、関氏のデザインをもとにヒコ・みづのジュエリーカレッジの同級生の永田崚将氏(ながた りょうすけ)が担当。4ヵ月の期間を経て完成させました。
弐号機: 無題
一作目を手掛けた後に関氏は、自分だけの意匠を作りたいと考え、新たな時計の製作を考えました。まだモデル名はなく、同氏は弐号機と呼んでいるそうです。ムーブメントは、もともと関氏が仕上げの授業で使用し、同校の文化祭の仕上げコンテストで優勝したものを採用。通常は学校が支給する針や外装を入れるところを自身で製作することにしたのです(ムーブメントのテンプ受けのエングレービングは今回も永田氏に依頼)。
ケースは、一作目同様に真鍮に金めっきを施したものですが、ラグの形状など細かな部分で異なるデザインとなっています。文字盤上のミニッツサークル、アワーサークル、スモールセコンドなどは全て別体構造で、白い部分はエナメル塗料が使われています。アワーサークルは、同心円状にサテン仕上げが施されており、インデックスは、12、3、6時がアラビア数字。9時位置にはスモールセコンドが配されています。針は独特な槍のような形状で、全て青焼きされているため、一作目と比較して視認性が格段に向上。約半年ほどの期間をかけて完成した今作は、防水性能を担保して作られたため、自身が日常的によく使っているそうです。
球体月齢表示懐中時計
本機が関氏が卒業制作として取り組み、ヤング・タレント・コンペティションで優勝を飾った作品です。その名の通り大型の球体ムーンフェイズを特徴とするタイムピースで、時・分・秒、そして月と日付がそれぞれ独立して表示。さらに大抵は水平回転式のディスクで表示されるカレンダーは、4つの垂直回転するドラムロール式という独創的な機構となっています。ケースの厚さは約28mm、それに対して球体ムーンフェイズ機構は約20mmです。
関氏は、この時計を制作するにあたって、製作期間の3分の1にあたる約4ヵ月を設計に費やしました。作り始めてからでは、調整することが難しいためです。関氏は、「視認性の高い大きなムーンフェイズ表示の時計を作りたかった。最初は、アーノルド&サンのムーンフェイズモデルも参考にしましたが、やはり通常のディスク表示では、デザインの可能性が大きく制限されてしまいます。だからムーンフェイズを球体にすることにしたのです。実際には、球体ムーンフェイズよりもドラム式のカレンダーをスムーズに動かす方が思っていたよりも苦労しました」。
審査員のフランソワ-ポール・ジュルヌ氏と直接話す機会は残念ながらまだないようですが、関氏の作品に対しては「確かにこのレイアウトは今まで無かったものだ」と評価を受けたそう。
次は何か
関氏は現在、吉祥寺にある江口時計店に勤務し、時計の修理を行っています。ブランドを問わず修理に取り組むことができるため、様々なデザインを見たり、自分が好みのサイズ感の発見(ちなみに36mm)やムーブメントの機構へのより深い理解など、自身の時計製作にも直接的に良い影響をもたらしているといいます。将来的には、時計作家として独立し、自身の名で時計を製作していくつもりで、これまで無かったが、普遍的なものを作っていきたいとのこと。
既に頭の中では作りたいアイデアが10以上あるものの、仕事として修理をしながら自身の時計製作をする今のスタイルは、この先2〜3年は続ける予定とのこと。これまで手掛けてきた作品から、関氏のデザイン言語が見え隠れしています。今後すぐに通常販売されるものが出るかは分かりませんが、これからの活躍が非常に楽しみでなりません。
同氏の活躍は、彼のInstagramアカウント(@aysopos_jal)やTwitterアカウント(@safasok)を通して知ることができます。