タグ・ホイヤーのクロノグラフといえば、高い人気(そしてコレクターも多い)を誇るカレラ、オータヴィア、モナコに次いで、モンツァが挙がる。1976年に発表されたタグ・ホイヤー モンツァは、他のタグ・ホイヤーのクロノグラフと同様、モータースポーツからインスピレーションを得たモデルだ。1975年にフェラーリがF1コンストラクターズカップで優勝し、ドライバーのニキ・ラウダがドライバーズチャンピオンを獲得。その後、当時フェラーリのスポンサーだったホイヤーは、1964年のスクーデリア以来の勝利を記念してモンツァを発表した。
今回、モンツァはスケルトン化された上で大復活を遂げた。ニキ・ラウダが現在のF1マシンを認識できないように、新しいタグ・ホイヤー モンツァ フライバック クロノメーターは、その大胆なケース形状以外には、初代モンツァとほとんど共通点がない。この新しいモンツァの特徴は、このケースから始まるのだ。42mmのカーボン製ケースは、ゴッホの「星月夜」をブラックアウトしたような仕上げが施された。リューズとクロノグラフのプッシュボタンには、ブラックDLCコーティングを施したスティールが採用された。
続く話題はムーブメントだ。モンツァはタグ・ホイヤーの自社製キャリバー ホイヤー02 フライバック仕様を搭載。コラムホイール(動作が目立つように赤で表示)、垂直クラッチ、80時間のパワーリザーブなど、この価格帯のスイス製自社製クロノグラフムーブメントのなかで最も価値のあるものに仕上がっている。さらに素晴らしいことに、この新しいモンツァはCOSC認定を受けているのだ。
ダイヤルはスケルトン加工されており、外周にはタキメーターとパルソメータースケールが表記される。ブラックケースとダイヤルに対し、レッドとブルーのアクセントがポップな印象を与えている。3時位置と6時位置のふたつのサブダイヤルは、半透明のブルーフュメのサファイアクリスタルを使用し、インデックスにはブルーラッカーを使用している。一方、9時位置にはレッドで縁取られた台形状のデイト表示が配される。タグ・ホイヤーとしては初となるブルーのインデックスとデイト表示には、スーパールミノバが使用されている。
1975年9月、モンツァ自動車道で開催されたイタリアGPで、フェラーリのニキ・ラウダが3位に入賞し、チームメイトのクレイ・レガツォーニが優勝した。この結果、フェラーリはF1コンストラクターズチャンピオンシップを、ラウダ自身は個人チャンピオンを獲得した。ホイヤーはフェラーリのスポンサーであり計時機器のサプライヤーでもあったため、この優勝を記念して新たなクロノグラフモデル、モンツァを発表した。このモデルは、ホイヤーが(まさに1970年代に)ブラック塗装のクロノグラフの世界に参入したことを示すものだった(ブラックコーティングされたモナコの歴史については、以前ジェフ・スタインが説明してくれているので参照されたい)。
現在、タグ・ホイヤーはレッドブルのF1チームのスポンサーになっている。マシンはより速くなり、モンツァは初期の自動巻きクロノグラフから、タグ・ホイヤーの技術の粋を集めたスケルトンのスーパーカーへと進化を遂げた。時代は変わったのだ。そして今、私たちは、1人ではなく2人のエディターが感想を述べるほどワイルドなモンツァを手にしている。新しいモンツァ フライバックのブランドンによるクイック解説を動画でご覧いただきたい
現代のタグ・ホイヤーは、常にホイヤーの伝統とウブロの野心の狭間に位置するブランドである。そして、それは必ずしも悪いことではない。もし、コレクターの多いヴィンテージ・ホイヤーのクロノグラフに忠実な時計が欲しいなら、同時発表された非常に希少な2447SNを忠実に現代的に解釈したカレラ60周年記念モデルをお勧めしたい。なぜなら、新しいモンツァは、ヴィンテージ・ホイヤーよりも確実にウブロに近いからだ。そして、もしタグ・ホイヤーがこのような時計を作り続けるのであれば、モンツァを使わない手はない。筋金入りのホイヤーコレクターの多くは、コレクション性の高いクロノグラフのトリオ(カレラ、オータヴィア、モナコ)に強い親近感を抱いており、モンツァの支持者ははるかに少ない。だからこそ、モンツァをプラットフォームにすればいいのだ。大型化し、スケルトン化し、カーボンで包むのだ。
ホイヤー キャリバー02を搭載した本機は、モンツァのなかで最も傑出したモデルだ。COSC認定のフライバック・クロノグラフで、昨年発表されたヴィンテージ風のオータヴィアでしか見たことがないものだ。数年前、私たちはこのモデルがスイス製クロノグラフのなかで最も価値のあるモデルのひとつである理由を説明したが、それは今も変わらない。コラムホイールと垂直クラッチは従来からの仕様である;タグ・ホイヤーがオータヴィアに(そして、今やモンツァにも)初めて搭載したフライバック機能とCOSC認定は、ボーナスとしてチューンアップされた仕様だ。
私は最近、ジャック・ホイヤーの自伝『時と私の人生』(TheTimes of My Life)を読んだ。そのなかで、彼はモンツァが開発された1975年をホイヤーの “Annus horribilis(ラテン語でひどい年)”と呼んでいる。売り上げはなんと40%落ち込み「フェラーリのドライバーだったニキ・ラウダがF1チャンピオンになったことでさえ、私たちを元気づけることはできなかった」と述懐している。次の章では「ロレックス・ビエンヌによる買収劇」と題し、ロレックスがホイヤーを買収しかけた経緯が詳細に語られているが、それはまた別の機会に譲ろう。ホイヤーが初代モンツァを発表した当時の環境は、まさにそのような状況だったわけである。ホイヤーの苦境を救うかもしれないと期待した、大きく、大胆で、ブラックアウトされた実験的な時計だったのだ。
現代のタグ・ホイヤーが、ヴィンテージよりも生き生きとしたこのような時計を発表するとしたら、それはホイヤーが生き残るために大胆で実験的でなければならなかった時代に生まれたモンツァを使うのがふさわしいように思われる。確かに、生粋のタグ・ホイヤーファンの好みには合わないかもしれないが、モンツァは、オリジナルの発表から47年経った今でも、タグ・ホイヤーがいかに時計製造を前進させ続けているかを示した象徴的モデルなのである。
基本情報
ブランド:タグ・ホイヤー
モデル名:モンツァ
型番:CR5090.FN6001
直径:42mm
ケース素材:カーボン
ダイヤルカラー:スケルトンブラック、ブルーフュメのサブダイヤル
インデックス:ブルーラッカーコーティング
夜光塗料:スーパールミノバ
防水性能:100m
ストラップ/ブレスレット:ブルーステッチ入りブラック・テキスタイル製ストラップ、カーボン製フォールディングクラスプ
ムーブメント情報
キャリバー:キャリバー ホイヤー02 COSC フライバック
機能:デイト表示;フライバック・クロノグラフ
直径:31mm
パワーリザーブ:80時間
巻上げ方式:自動巻き
振動数:4Hz
石数:33
クロノメーター認定:有り(COSC認定)
その他の詳細:コラムホイール、垂直クラッチクロノグラフ
価格 & 発売時期
価格:167万2000円(税込)
発売日:2023年1月発売予定
限定生産:なし(通常生産モデル)