trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Magazine Feature ルイ・ヴィトン ウォッチ21年目にして開く、次世代の扉

ジャン・アルノー氏は言った。「新しいタンブールは時計愛好家のためのものである」と。ただこの言葉にはより深い真意がある。

本記事は、2023年12月に発売されたHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.7に掲載されたものです。Vol.7は現在、各種ネット書店およびELLE SHOPにてご購入いただけます。HODINKEE Magazine Japan Editionの定期購読はこちらから。

時計愛好家であり、ルイ・ヴィトンのウォッチ部門の指揮を執っているジャン・アルノー氏だが、やみくもにニッチな高級時計路線へ移行させようというわけではない。現在、ルイ・ヴィトンは多くのウォッチプロジェクトを推進しており、そのなかでの重要なピラー、ターニングポイントとしてこのタンブールを位置づけているのだ。その肖像が、輪郭を帯びてきた。


サヴォアフェールをすべての機械式時計に

 いま、ルイ・ヴィトンはウォッチ部門においてラグジュアリーの本質に迫ろうとしているような気がしてならない。このメゾンは、間違いなく世界で最も有名な存在で、ほとんど誰もが知っているレザーグッズは人の気持ちを豊かにしてくれる。だが、彼らが作る時計は生産数が少なく、限られた層だけが手にしてきたものだ。エスカル ワールドタイムやスピン・タイムといった独自表現はなんともルイ・ヴィトンらしく、本格機械式時計でありながら自社の顧客を想定したデザインに思えた。

タンブール オトマティック 261万8000円(SS中、右)、376万2000円(SS×18KRG 左)、738万1000円(18KYG、18KPG 下左・右)。

 2023年7月、僕はパリの地で満を持して発表された新タンブールを息をのみながら手に取った。従来の半分の薄さになり、ブレスレットもケースに合わせて薄く、滑らかな作りを徹底。センターリンクをなくしてとにかく薄く仕上げたブレスレットが寄与して、実際は40mmの時計が38mm程度に感じられるほど、良好な着用感をかなえた。高級機でおなじみのネジ留め式ではなくピン留めとしたのも、ネジ穴を切るための厚みを嫌ってこのようにした。従来のタンブールのラグ形状にインスパイアされたというこのブレスデザインは、「最も力を入れた」と胸を張るのもうなずける。ムーブメントメーカーのル・セルクル・デ・オルロジェ(LE CERCLE DES HORLOGERS)と協業してルイ・ヴィトンが設計したインハウスムーブメントは、クロノメーター認証を取得し専業メーカー顔負けのスペックを誇るが、このメゾンらしさは審美面に宿った。22Kのマイクロローターには様式化された「LV」モチーフが施され、プレート部分にはスイスの伝統的なコート・ド・ジュネーブではなく、サーキュラーグレイン仕上げを採用。さらに一方で、まばゆい輝きを放つ面取りは彼らのオートマタモデルと同じ水準で施されており、同社の今後の高級時計でのスタンダードとなるという。受け石には赤いルビーではなくすべて透明なサファイアを採用し、コンテンポラリーさを強く印象づけたこのムーブメントを、アルノー氏は「モノクローム」と呼んだ。

 さて、僕がパリでこの時計に心奪われたのは確かだが、その時点では「現代の高級時計に対するルイ・ヴィトンの回答」という、陳腐な見出ししか浮かばないほどに全体像は把握できなかった。思えばルイ・ヴィトンは自社ブランドにとどまらず、ジェラルド・ジェンタ、ダニエル・ロートを固有のブランドとして復活。時計の開発は、ミシェル・ナバス氏とエンリコ・バルバシーニ氏率いるウォッチメイキングアトリエ『ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン』で賄っている。これらの年産は数十〜数百本程度の生産にとどめ、それぞれの世界観を表現するために妥協は見られない。だがここで、傘下ブランド全体の連動を生み、ビジネス的にもシナジーを生むために、このたびのルイ・ヴィトン ウォッチのリニューアルが進んだのではないか。そして、後日東京で行われたアルノー氏へのインタビューでそれは確信に変わることになる。

ルイ・ヴィトン ウォッチ部門で指揮を執るジャン・アルノー氏。Courtesy Louis Vuitton

 「新しいタンブールには、ルイ・ヴィトンが時計を製造しはじめてから21年、特にここ10年ぶんの投資が詰まっています。それは21世紀のウォッチメイキングを志向したものです。現在使われている技術の多くは1960年代に確立されたもので、1人の時計師が1つの時計を最後まで作るやり方に根差しています。ひとつずつの時計の価値を高めることが大切ないまの時代、そのスタイルを踏襲してアップデートするため、新たなタンブールにも2年の開発期間が費やされました。これは単なる新コレクションではなく、過去10年間のハイウォッチメイキングを生かした我々の時計の新しい扉を開くものなのです。また、新しいタンブールは2002年のオリジナルにルーツを持ちます。初代モデルはとてもユニークなデザインで、非常にパリらしさが感じられるものでした。ほかにないものを作るという原点に立ち返り2002年と同じアプローチでありながら、よりエレガントに洗練されたディテールを与えてモダナイズを図ったのです。同時にタイムレスさを意識し、例えば2040年に見てもモダンさを感じていただけるような時計を目指しています」

 一見して新タンブールにはモノグラムやLVロゴなど、これまでのコレクションに見られた“わかりやすさ”が排されている。非常に細かく仕上げ分けられたムーブメントを観察すると、ローター側面に控えめに配されたロゴや、ブリッジ全体がLVの形状を表していたりすることを発見する。アルノー氏はそれらの特徴を「隠す方向で行う」アプローチに決めたそうだ。それは、後年にこの時計を修理する時計師が見た際に驚くようなディテールをちりばめたい、という遊び心だという。その背景には、ハイウォッチメイキング以外でもメゾンのサヴォアフェールを味わえるような時計を作るという思いがあったからにほかならない。

 「これまで、我々のエントリーウォッチは必ずしもハイエンドと同様のサヴォアフェールを宿したものばかりではありませんでした。このタンブールを機に機械式時計はトラディショナルな方向に統合していき、生産数を厳選して質の高い時計を作っていくために舵を切りました。『ラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトン』は150名の従業員で運営しており、これを1000人の規模に成長させたいというような構想はなく、クラフツマンシップを重んじて家族のような関係のチームをキープしていきます。それはこの組織をインキュベーターとして捉えているからであり、ルイ・ヴィトン×ジェラルド・ジェンタのようなコラボレーションはしません。それぞれ独自のブランドとして世界観を構築するものなのです」

Photographs by Yoshinori Eto, Styled by Eiji Ishikawa (TRS)