シーウルフ級潜水艦の運用最大深度の約10倍の性能を持つダイバーズウォッチを身につけたら、どんな気分になるだろうと考えたことはないだろうか? たとえなかったとしても、そこはオメガのこと。抜かりはない。
先週、オメガの最新フラッグシップモデル、シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープを紹介した。このモデルは、ステンレススティールとチタンの2種類が展開され、6000m(約2万ft!)という驚異的な防水性を誇るダイバーズウォッチだ。
スペックと画像を見て、僕は多くの疑問を抱いた。実際に着用できるのだろうか? オメガはどのような購買層に向けこの時計を作ったのだろう? ダイバーズウォッチ市場の限界深度に挑戦するセグメントにおいて、この時計はどこに位置するのだろうか? これらの疑問に答えるため、僕はマイアミで行われたオメガの2022年新作発表会に参加し、チタン製とスティール製のウルトラディープを手に取った。まず、チタンモデルから見ていこう。
ウルトラディープ チタンモデル
ウルトラディープ チタニウムは、2019年にオメガがヴィクター・ヴェスコヴォ氏の潜水艇リミッティングファクターに括り付け、潜水記録10925mを達成したコンセプトモデルを市販化したダイバーズウォッチである。そのモデルのサイズは、55mm×28mmという実に巨大なものだった。
量産型ウルトラディープの開発に際して、オメガは潜水性能目標を6000mに設定した。これにより、デザイナーは時計をより現実的な45.5mm×18.12mmに縮小することが可能となった。ラグからラグまでの縦幅は56mmと、ウルトラディープ チタニウムは決して小さな時計ではない。また、“マンタラグ”がNATOスタイルのストラップを必要とすることから、この時計はその厚みからも想像されるように、手首の上でさらに浮いた位置に装着される。しかし、6000m防水のダイバーズウォッチなら、気にならないだけでなく、ほかの選択肢もあまりないはずだ。
ウルトラディープの非対称ケースはサンドブラスト仕上げのグレード5チタンを採用し、同素材が2ピース構造のケースバック、リューズ、逆回転防止ベゼルにも使用されている。ベゼルインサートは、夜光塗料を塗布したサテン仕上げのブラックセラミックだ(オメガのダイバーズモデルによく見られる仕様だが、ウルトラディープがISO 6425準拠するのに必要なものでもある)。SSモデルにも見られるように、ウルトラディープ チタニウムには、非常に高品質のEFG(Edge-Defined Film-Fed Growth)サファイアクリスタル風防が採用されている。
EFGとは、ウルトラディープが想定する水圧に耐えうるような、不純物のないクリスタルを実現するための特殊な加工方法だ。クリスタルには両面無反射コーティングを施し、さらに独自の形状を採用することで耐圧性を高め、ヘリウムエスケープバルブを必要としない飽和潜水にも対応している。
実際に手に取ると、ウルトラディープ チタニウムは想像以上に格好いい。グレー・オン・グレートーンにもかかわらず、サンドブラスト仕上げのケースとマットなチタンダイヤルに、サテン仕上げのベゼルが実によく映える。ケースやベゼルと同様、ダイヤルもアプライドマーカー、サテン仕上げの針、リッチなブルーのアクセント、そしてデイト表示がないことを最大限に活かしている。手首のサイズに合えば、ウルトラディープ チタニウムは格好のダイバーズウォッチとなることだろう。
ベゼルから付属のNATOストラップに至るまで、あらゆる点がこの価格帯(約150万円近い)の時計にふさわしい質感を備えている。ベゼルの操作感は思ったより軽いが、精度を確保するためのポジティブでカチッとした感触がある。NATOストラップは100%リサイクル素材(主に漁網)を使用し、ストラップの金具もグレード5チタンを使用している。
手首に装着すると、ウルトラディープ(わずか123g)のバルキーな外観に目を奪われながら、チタンがいかに軽さを表現しているかに、ただただ驚くことになる。Tシャツを着たまま(あるいは袖を通したまま)でも、ウルトラディープは僕の7インチ(約17.8cm)の手首回りには大きすぎると感じたものの、まったく違和感がなかった。確かに厚みはあるが、マンタラグのおかげでケースのバランスが悪くなったり、グラつくこともない。また、手首に余裕があればだが、ケース側面がケースバックに向かって波のように弧を描いているのもいいアクセントになっている。これにより、ウルトラディープの側面がボッテリしていると感じたり、手首の可動域を妨げるようなこともない(大きな時計を試着する際に考慮すべき点だ)。
45.5mmは非常に大きいが、ドアノブやタイトな袖から遠ざけておけば狂気的な大きさではないため、再調整が必要かもしれないが、このサイズに慣れることができると確信した。
もう一方のウルトラディープに目を移すと、チタンとは似て非なる、みっつのカラーバリエーションが展開される。非対称ケースは、プラネットオーシャンのほかのモデルに近いものに変更され、リューズガードと伝統的なラグが装備されている。直径と厚みは同じだが、O-MEGAスティールモデルはラグからラグまでの縦幅がやや短く、51.95mmとなっている。
このモデルに関する記事ですでに取り上げたように、スティールモデルは従来の316Lではなく、オメガがO-MEGAスティールと銘打つ新しい独自のスティール合金を採用している。チタンとは異なり、通常の時計用スティールでは6000mの水圧に耐えられないため、オメガは一般的な選択肢よりもかなり硬く、かつ弾力性に富んだ特殊スティールを開発したのだ。その結果、316Lよりも耐圧性に優れ、傷がつきにくく、従来のスティールよりもホワイトゴールドに近い白さと輝きを持つ素材が誕生した。
カラーバリエーションは、ブルーとブラックのダイヤルにポリッシュ仕上げのブラックセラミックベゼル、グレーとブラックのダイヤルにオレンジのアクセントとオレンジベゼル、そしてホワイトダイヤルにブルーのアクセントとブルーベゼルの3種類が展開される。この3バリエーションのうち、特にブルーのグラデーションダイヤルがロレックス ディープシーのそれと非常に似ていることを考えると、それと差別化するという点でも僕はホワイト/ブルーのバージョンが魅力的だと感じた。
チタンのウルトラディープがマットとセミマットを絶妙に組み合わせているのに対し、O-MEGAスティールモデルは、より光沢感のある表面となっている。ベゼルはポリッシュ仕上げで、ケースにはサテン仕上げとポリッシュ仕上げが施されており、ケースサイドにはポリッシュ仕上げの幅広な傾斜が付いている。チタンモデルはツールウォッチ然としており、オリジナルのコンセプトと密接に結びついている印象を受けたが、スティールモデルは従来のラグジュアリーダイバーズウォッチの雰囲気が色濃く打ち出されている。
ストラップは、大胆でカラフルなラバーストラップと、O-MEGAスティール製ブレスレットから選択可能だ。今回試着したモデルはサイズ調整できなかったので、フィッテング後のブレスレットの感触についてはコメントできないが、一般的な仕上がりは往年のプラネットオーシャンと同じだ。工作精度が非常に高く、かなり堅牢な、そして大きなダイバーズウォッチとマッチした外観を備えている。ウルトラディープのオプションとしては最も重量が嵩む方法ではあるが、オメガがブレスレットのフォールディングクラスプの内側にプッシュボタン式のエクステンション機構を搭載したことは歓迎すべきことだ。
ラバーストラップはつけ心地を考慮して精密に成形されており、時計にも実によく合っている。しかし、カラーリングされたストラップは僕の好みからするとやや華美だと感じた。プラネットオーシャン風のブラック、ブルーの単色ラバーがあれば、この先、優れたサードオプションになるはずだ。オメガはこのデザインにより、手首にきつくフィットさせることなくウルトラディープの重量感を制御する偉業を成し遂げた。ラバーストラップモデルは170g、スティールブレスレットモデルは256.5gと、g単位で軽量化を目指す人には、非常に大きな100gの差が開いた。
O-MEGAスティールのフルオプションは、文字通りフレキシブルだ。しかし、僕はすぐにスティールのハルク化したプラネットオーシャンよりも、マットチタンのバルキーな雰囲気を好むことに気づいた。
ウルトラディープのすべてのバージョンには、オリジナルのコンセプトモデルに搭載されていたムーブメントと同じ、オメガ コーアクシャル マスタークロノメーター Cal.8912が採用されている。デイト表示のない自動巻きのCal.8912は、2万5200振動/時(3.5Hz)で作動し、60時間のパワーリザーブを備えている。また、1万5000ガウスの耐磁性能、Si14シリコン製ヒゲゼンマイ、二重香箱、便利なジャンプセット時針(僕はこの機能が大好きだ)など、最高スペックのオメガに期待されてきた、あらゆる技術の恩恵を受けている。
ウルトラディープの希望小売価格は、ラバーストラップが143万円、ブレスレットが147万4000円、チタンが157万3000円だ(すべて税込)。ロレックス ディープシーが現在157万4100円なので、最も潜水性能の高いダイバーズウォッチが本当に欲しいなら、ウルトラディープは適正な価格設定だと思う(なお、ディープシーの潜水性能は6000mに遠く及ばない3900mだ)。もし僕が入手するとしたら、無理をしてでもチタンモデルを購入するだろう。
もっと幅広く、同じようなユーザー層を持つ時計を考えてみると(実際の性能や価格は似て非なるものだが)、大型ダイバーズウォッチのファンは、あらゆる価格帯で傑出した時計を何本か挙げることができるだろう。もっと身近なところでは、ビクトリノックスのチタン製I.N.O.X. プロフェッショナルダイバー(11万5500円、200m防水)、1000m防水のジンのU1(39万6000円)などがある。ブライトリングは48mmのスーパーオーシャン オートマティック 48(57万2000円~、300m防水)や3000m防水のアヴェンジャー 45シーウルフ(48万9500円~)など、大型のダイバーズウォッチなどを挙げることができる。パネライも47mmのスティール製サブマーシブル(119万9000円、300m)や、よりハイテクな47mmサブマーシブル・カーボテック(217万8000円、同じく300m)などがこのレンジに入るだろう(もっとも防水性という点ではあまり食指が動かないが)。そして忘れてはならないのがセイコーの1000m防水、Cal.8L35搭載のセイコー プロスペックス SBDX038 “ツナ缶”(44万円)だ。
つまりは、あらゆる価格に対応した堅牢で愛すべきダイバーズウォッチが存在するということだ。ウルトラディープの驚異的な潜水性能は決して実用本位ではないが、ダイバーズウォッチ愛好家の世界では相当な魅力と映るだろう。これから先、本当に深く潜りたいのなら、ディープシーを超えてさらに2100メートル潜り、あなた自身のソナーにウルトラディープが検知されるまで潜り続けるのだ。オメガのような多彩な才能を持つブランドの印象的な技術デモンストレーターとして、ウルトラディープは深海で並み居る競合モデルを凌駕するのである。
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