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Introducing リシャール・ミル RM 66 フライング トゥールビヨン

アートピースとしての魅力をこれまで以上に先鋭化させた新作だ。

Hero Image©Romain Lenancke

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クイック解説

 2022年に発表されたRM 88 オートマティック トゥールビヨン スマイリー以来となる、そして2023年最初の新作が登場。その名も、RM 66 フライング トゥールビヨンという。リシャール・ミルでは2015年に発表されたRM 19-02 トゥールビヨン フルールに続く2本目のフライング トゥールビヨンモデルだ。

 本作はその名のとおり、フライング トゥールビヨンを搭載している。通常のトゥールビヨンではトゥールビヨンケージを軸の上下(文字盤側とムーブメント側)で固定するが、フライング トゥールビヨンでは一端(ムーブメント側)のみで固定する。これにより上部ブリッジの排除が可能となりトゥールビヨンを視覚的に際立たせることができる。また、搭載する手巻きのCal.RM 66では、トゥールビヨンを一般的な6時位置ではなく、12時位置に配置したブランド初の構造を採用することで、より一層トゥールビヨンの存在を強調した。

 トゥールビヨンの存在を強調する一方、6時位置には主ゼンマイ内部で周期的に起こる張り付き現象を抑えて精度を高め、72時間のパワーリザーブを備えた高速巻き上げ香箱を配置。そして、過度な巻上げによって巻き芯が折れたり主ゼンマイが巻き上がりすぎることによるダメージを防ぐトルクリミッティングクラウンを採用するなど、実用性能を追求するあたりは、いかにもリシャール・ミルらしい。

 そして本作で最も注目すべきは、文字盤中央で存在感を放つ“ホーン”のハンドサインを表したスカルハンドモチーフだ。レントゲン写真のように、リアルに表現されたスカルハンドは5Nレッドゴールド製。“ホーン”のハンドサインは極めて丁寧に表現されており、伸ばした人差し指と小指が表側に現され、親指の付け根の指節から中指、薬指が押さえられた様子が時計の裏側から見ることができる。まるでスカルハンドが、その指でムーブメントを掴んでいるかのようである。

 リシャール・ミルのクリエイティブディレクター、セシル・グナ氏が考案した本作では、まず手の5本の指を削り出したあと、エングレーバーの手にわたり、手作業で仕上げられているという。それを担当するのは、これまでに名だたる有名ブランドの文字盤製作を請け負ってきたジュネーブのエングレーバー、オリヴィエ・ヴォーシェ氏だ。彼の手でバリ取りと研磨が長期にわたって丁寧に施されることで、骨の輪郭が浮き彫りにされ、マイクロブラスト仕上げによって繊細な関節部分が強調されていく。

 スカルをモチーフとしたモデルには、2012年に発表されたRM 052 トゥールビヨン スカルがあるが、本作においては、一瞬一瞬を精一杯生きることの大切さを伝える“メメント・モリ”の概念が、この“ホーン”のハンドサインを表現したスカルハンドモチーフによって大胆に表現された。

 スカルハンドの存在に目を奪われがちだが、インデックスやケースなどのディテールも見逃せない。これらはスカルハンドモチーフ以上の手間と時間をかけて製作されているのだ。事実、プレスリリースによれば、本作のケース開発のために1500時間の研究開発と9カ月に及ぶ作業が行われたという。例えば、 ギターのピックのような形状のインデックスはチタン製で、尖ったアーチ状に下へと引き伸ばされている。チタンでは難しいマイクロブラスト加工を完璧に行うために、まずこの部品が研磨され、そして各インデックスは、チタン製のベゼルにネジで固定される。

 また、ベゼルとケースバック部分には、極めて軽くて丈夫なカーボンTPT®素材を採用。サテン仕上げのピラーとポリッシュ仕上げの面取り部分を持つグレード5チタン製のミドルケースには、5NRGのプレートを挿入。ケースも極めて複雑な構成を持つ。また、このプレートにはクル・ド・パリ装飾が施されているが、これは機械加工後にハンドポリッシュを行うことでシャープなエッジを与え、たくさんのスタッズをあしらうパンクベルトを表現したという。

 多くの手間と時間をかけて製作されるRM 66フライング トゥールビヨンは世界50本限定で、価格は1億5180万円(税込)。世界のリシャール・ミルブティック発表と同タイミングで販売を開始したが、すでに完売しているという。

ファースト・インプレッション

 リシャール・ミルとトゥールビヨンは切っても切れない関係にある。ブランドの初作となった2001年発表のRM 001が、そもそもトゥールビヨンモデルであったし、これまでに発表されてきたコレクションの多くにトゥールビヨンが組み込まれてきた。そういった点からいえば、RM 66 フライング トゥールビヨンは特別珍しいモデルではない。だが、前述したとおり、“フライング トゥールビヨン”ということに限っていえば、歴代モデルを振り返ってもまだ2作目に留まる希少なモデルだ。これまでに製作されたリシャール・ミルのトゥールビヨンは、実はその多くがトゥールビヨンケージを軸の上下で固定する、いわゆる“ノーマルトゥールビヨン”だった。

 フライング トゥールビヨン自体は決して珍しいものではないが、なぜリシャール・ミルはこれまでほとんど採用して来なかったのか。かつてトゥールビヨンケージを一端でのみ支えるフライング トゥールビヨンは、その強固さにおいて懐疑的な意見があった。だが、リシャール・ミルは、繊細なトゥールビヨンといえども日常的に使用できる堅牢さと使いやすさを時計に求めてきたブランドだ。そのため同ブランドは、そうした実用性能を担保するために耐衝撃性テストを課しているが、それをクリアするにはトゥールビヨンケージを軸の上下で固定する、一般的なトゥールビヨンが適していたのだろう。だが、本作は衝撃に強いフリースプラングテンプの採用やグレード5チタン製地板とブリッジを用いたりすることで、テストに耐え得るだけの強度が確保されたようだ。

 これまでリシャール・ミルではあまり採用してこなかったフライング トゥールビヨンを搭載しているという点だけでも本作は非常に挑戦的だと思っている。だが、それ以上に、ブランドが持つ“身につけるアートとしてのタイムピース”という魅力にフォーカスしていると感じる。

 この時計を購入しようという人(もうすでに完売したため、残念)は、おそらくモノそのものだけでなく、リシャール・ミルというブランドや本作の持つコンセプト、あるいオリヴィエ・ヴォーシ氏によって製作されるスカルハンドモチーフの素晴らしさなどが心の琴線に触れ、心を動かされるからこそ、手にしたいと思うのではないだろうか? 

 アートとは、作りたいものを作るという作り手の哲学や感情の発露を具現化したものであり、それが受け手のなかに何らかの感情が湧きあがらせることで成り立つ。そして、アートにおける価格や価値は、作り手がその個性や作品などを通じて受け手をファンにすることで決まっていく。先日公開されたリシャール・ミルチームへの取材記事のなかに、こんな一文がある。

 「ウォッチメーカーとしてのリシャール・ミルのスタンスとは何か? “自分たちが作りたいものを作る”。これが創業以来変わらない理念である」と。そして「リシャール・ミルのビジネスはコミュニティに向けたものであり(中略)、作りたいものを作って共感してくれる人・コミュニティに届けるというものだ」と。

 リシャール・ミルの時計とは、まさにアートそのものなのだ。そしてRM 66 フライング トゥールビヨンは、それをより一層強く印象付ける時計なのである。そう考えると、本作が1億円を超える価格であることも頷ける。

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基本情報

ブランド: リシャール・ミル(Richard Mille)
モデル名: RM 66 フライング トゥールビヨン(RM 66 Flying Tourbillon)
型番: RM 66

直径: 42.7×49.94mm
厚さ: 16.15mm
ケース素材: ミドルケースはグレード5チタン×5Nレッドゴールド、ベゼル&ケースバックはカーボンTPT®
文字盤: スケルトン。すべて手作業で加工・仕上げが施された“ホーン”を象ったハンドサインモチーフ(5NRG製)
インデックス: 逆ピラミッド型インデックスにギターピックのような形状のアプライドアワーインデックス。PVDコーティングのチタン製
夜光: 時・分針とアワーインデックスにスーパールミノバ®
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ラバー


ムーブメント情報

キャリバー: RM 66
機能: 時・分表示、フライング トゥールビヨン
直径: 32.5×30.3mm(トゥールビヨンの直径は10.9mm)
厚さ: 5.68 mm
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 17
追加情報: ゼンマイはNivarox®製エリンバー


価格 & 発売時期

価格: 1億5180万円(税込)
発売時期: 発表と同時に発売したが、すでに完売
限定: あり。世界限定50本

詳細は、リシャール・ミル公式サイトをクリック。