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Photos by TanTan Wang
WindUpやWatchTimeなど週末にイベントを控えた先々週の木曜日の夕方、同じく時計ライターであるグリフィン・バーチ(Griffin Bartsch)氏と私はその前に開催されていたいくつかの時計イベントのうちひとつからの帰り道で、地下鉄に向かってタイムズスクエアを通り抜けていた。ブリーフケースに収められたムーンスウォッチがスウォッチブティックの高層ガラス越しに、マンハッタンの明るいライトに照らされている様子はもはやすっかり見慣れており、特に目を留めることもなかった。しかしその日はふと目の端に映ったネオンピンクとグリーンのディスプレイが気に留まり、思わず足を止めた。
窓のそばで立ち止まり、無言のまま視線を合わせると、私たちはそのままブティックに足を踏み入れた。閉店まであと30分というタイミングだった。ショーケースに近づいてみると、そこには新作のBreak Freeコレクションが並んでおり、1984年のスウォッチ ワールド ブレイクダンス チャンピオンシップでキース・ヘリング(Keith Haring)が手がけたアートワークにインスパイアされたモデルたちが陳列されていた。
新作モデルのうち3つは大会のポスターをベースにしたデザインを四角い“What If?”のケースに収めたものだったが、私たちふたりともすぐに、4つ目のクラシックなケースシェイプのモデルが最も魅力的だと私は直感的に理解していた。私が購入するか否かを考える間もなく、グリフィン氏はそのままカウンターに向かって歩き出した。私はため息をつき、即座にクレジットカードを取り出した。数分後、私たちは新作のFrom The Archiveウォッチを手にブティックを後にしたのである。
少し歴史を振り返ってみよう。スウォッチが創業してから1年後の1984年9月20日、ブランドはニューヨークでスウォッチ ワールド ブレイクダンス チャンピオンシップを開催した。これは楽しく手ごろな価格のクォーツウォッチを、アメリカの主要な文化拠点において若くエネルギッシュなマーケットと結びつけるための取り組みの一環であった。これはその後スウォッチが続ける数々の野心的なマーケティング活動の始まりに過ぎなかったが、同時に1986年にデビューすることになる、コレクターズアイテム性が非常に高いキース・ヘリング×スウォッチシリーズのきっかけにもなったのである。
その翌年にキース・ヘリングはアート作品を制作し、スウォッチに贈った。この作品は1986年に発売されたModel Avec Personnagesというアイコニックなスウォッチの文字盤に取り入れられることとなる。ブランドはオリジナルの鉛筆とインクによるこのアート作品をスウォッチのアーカイブに保管し、その制作から約40年を経た今、ヘリングへの新たなオマージュとしてそのスケッチを再び蘇らせることにした。
“From The Archive”という名のとおりこのスウォッチのポイントは文字盤であるが、それについてはのちほど触れる。ケースとストラップはともにスウォッチの人気シリーズであるClearyから採用されており、サイズは現代的な41mm、厚さは9.85mmである。ストラップはシリコン製で、現在のカラーハイライトが入ったClearyモデルで見られるような曇りがかったマットな仕上げが施されている。非常に柔らかな手触りで、Cleary Skinに見られるヴィンテージにインスパイアされた完全に透明なストラップとは大きく異なる印象だ。またケースはバイオ由来のプラスチック製でこちらもマットな仕上げが施されており、文字盤のアートワークを際立たせると同時に自分のひどい日焼け痕もさりげなく隠してくれる。マット仕上げのプラスチック製バックルが全体を引き締めており、ストラップの裏側にはホワイトでライセンス表示が印刷されている。個人的にはストラップ上に文字はないほうがよかったが、これは6時側のストラップ裏に隠れているためほとんど目立たないのが救いである。
さて肝心の文字盤に移ろう。スウォッチに贈られたオリジナルのアートワークが、今回の新モデルで初めて公開された。このアートは通常のキース・ヘリングコラボレーションに見られる修正は一切加えられておらず、オリジナルのアートワークがそのまま文字盤に再現されている。インクで描かれた部分だけでなく、ヘリングが残した鉛筆の跡や注釈までもが忠実に表現されているのだ。文字盤の色は温かみのあるエッグシェルベージュでこのスウォッチにヴィンテージやトロピカルな魅力を加えており、ケースやストラップの冷たいトーンと美しい対比を成している。さらに文字盤に近づいて見ると紙のような質感があり、線や手書き文字はグラファイトとインクの陰影やテクスチャがそのまま残されている。実際に見るとまるで鉛筆で紙に直接描いたような印象を与え、この効果によって、ヘリングの作品としても一段と個性的でユニークな仕上がりになっている。
もちろんヘリング・スウォッチならではの特徴も健在で、コピーライト、アーティストのサイン、“Swatch Swiss”がヘリングのオリジナルの筆跡で刻まれている。針はメタリックな質感があるポリッシュ仕上げで、マットまたはフロスト仕上げのケースと対照をなす。光をうまく反射してくれるため、文字盤上の情報が多いにもかかわらず視認性は良好だ。時計の裏側を見れば、フロスト加工されたケースがスウォッチの信頼あるクォーツムーブメントの一部を控えめに映し出している。そのなかでゴールド仕上げのセンターセコンドギアが、静かに時を刻む。個人的に1点だけ気になる点を挙げるとすれば、クォーツムーブメントにデイトが残っている点だ。この時計専用に時刻のみのクォーツムーブメントを採用していたら(スウォッチのその他多くのデイトなしモデルも同様)、さらに完成度が上がったと思う。それでもこの時計が1万5950円(税込)であることを考えれば、大目に見ようと思う。何より重要なのはこの文字盤だからだ。しかもクォーツウォッチなので、リューズを頻繁に触ることもないだろう。
かつてはヘリングとのコラボレーションがあまりにも多くあふれていることに少し飽き飽きしている自分がいた。しかし誤解しないで欲しい、私はキース・ヘリングの作品が本当に大好きなのだ。しかしここ数年であまりに多くの商業リリースやライセンス商品が展開されてきたことで、少々疲れを感じてしまったこともある。それでも批判はできない。というのもヘリング自身が、自身の作品をできるだけ広く伝え、ポップカルチャーに貢献し続けることを望んでいたことはよく知られた事実だからだ。キース・ヘリング財団もこの意志を引き継ぐことを明言しており、ライセンス収入を財団のさまざまな助成活動に充てている点は評価に値する。財団のウェブサイトでライセンスについて調べていたとき、アーティストの言葉が自分の考えを少しずつ変え始めた。
商業プロジェクトを通じて、無名のアーティストのままでは届かなかったであろう何百万人もの人々に私の作品を届けることができた。結局のところ、アートを制作する目的は文化に貢献し、伝えることだと思っている。
– キース・ヘリング結局、ヘリングの考えに異を唱える資格は私にはないのだろう。
スウォッチ Break Free “From The Archive” Ref.SO29Z145。直径41mm、厚さ9.85mm。ラグトゥラグ47.40mm。マット仕上げのバイオ由来プラスチックケースに、マットなシリコンストラップとプラスチック製バックル。3気圧防水のクォーツムーブメントを搭載。キース・ヘリングのアートワークが施されたベージュの文字盤。価格は1万5950円(税込)。
詳細はブランドのウェブサイトをチェック。
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