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2017年、私はシカゴのダウンタウンから電車に乗って北へ30分ほど行き、自分にとって初めての“マイクロブランド”ウォッチであるオーク&オスカーの新作、“オルムステッド”を購入した。12月のシカゴらしい寒くてどんよりとした日で、オーク&オスカーの狭苦しい本社に座り、ウィスキーを片手にふたりのチームとおしゃべりしながら、新しい時計のブレスレットのサイズを調整してもらっていたのを覚えている。
あれはもうかなり前のことだが、今でもこの時計がスモールブランドやマイクロブランドの魅力を象徴しているように思える。そのあとこの市場は拡大の一途をたどり、すべてを追いかけるのがほぼ不可能になっている。こうしたブランドの優れたデザインや仕様の時計を見かけない日はほとんどない。
過去20~30年のあいだに、これらマイクロブランドは、グローバルなサプライチェーン(多くは中国で製造されるが、必ずしもそうとは限らない)を活用し、小売チャネルを介さずにオンラインで消費者に直接販売する手法や、セリタやミヨタ製の手ごろで手に入れやすいムーブメントを使うことで成熟してきた。多くは少量生産や予約注文モデルで展開されており、このような要因によって、熱心な愛好家から手っ取り早く稼ぎたいと考える人まで、誰もが時計を製造し販売できる環境が整っている。優れたブランドは興味深く革新的なデザインを生み出し、そのなかには技術革新も増えつつある。
2018年、ジェームズはマイクロブランドの台頭について記事を書き、レイヴン、ハリオス、アウトドローモといった第1世代のパイオニアたちを取り上げた。
「品質や誠実さよりも、新しさや安さに対する傾向がある」と、アウトドローモのブラッドリー・プライス(Bradley Price)氏は当時語った。「その巻き添えで、一部の時計バイヤーの頭のなかで、スモールブランドがひとまとめにされてしまうが、実際はもっと複雑だ」
新しいブランドがほかのブランドの消滅とほぼ同時に現れるような状況は、今でも変わっていないと言えるだろう。
数年後、ローガン・ベイカーは、前述の要因を巧みに利用し続ける時計製造における新たな“ミドルクラス”についての記事を執筆した。米国(ブリュー、モンタ)をはじめ、英国(フェラー、アンオーダイン)、東南アジア(ミン、ゼロス)、そのほか各地で、こうしたブランドはしばしばワクワクするような時計をつくり出しており、多くが成功を収めている。少なくとも数社が、年間売上高が1000万ドル(日本円で約15億3410万円)を超えていると話している。
これらスモールブランドは多くの場合、大手の伝統的なブランドが作れない(またはつくろうとしない)時計を製造している。これは、愛好家による愛好家のための時計であり、大抵は少人数のチームが運営全体を支えている。そうしたブランドが集まる場に、私はいまだに刺激を感じている。先週、ニューヨークで開催されたWindup Watch Fair(ワインドアップ・ウォッチ・フェア)を見て回り、いくつかのブランドに感銘を受けたため、ここで私のお気に入りを5つ(プラスおまけでもうひとつ)紹介しよう。
少なくともそのうちのいくつかは実際に試す予定だ。とくにもっと見たい時計があればコメントで教えて欲しい。また、私が見逃しているスモールブランドやマイクロブランドがあれば(おそらくたくさんあるだろう)それも教えて欲しい。
ロリエ オリンピア クロノグラフ
ロリエは2017年以降、20世紀半ばのデザインにインスピレーションを受けた手ごろな価格の時計をつくり続けている。このニューヨークのブランドの最新作は、1960年代の伝統的なレーシングクロノグラフを現代風にアレンジしたオリンピアだ。オリンピアにはどこか懐かしいデザインの趣があるが、ソフトなレッドとブルーのアクセントが今っぽさを加えている。これはある特定の時計へのオマージュではなく、1960年代という時代そのものへのオマージュだ。この種の時計でありがちな“本物が欲しくなる”ということも、ロリエ オリンピアには当てはまらない。このスタイルはそれ自体で十分に満足感を与えてくれる。
オリンピアの316Lステンレススティール製ケースは39mm×13.8mm(ラグからラグまで46mm)で、その厚みのうち2mmはドーム型のヘサライト風防によるものだ。セイコーのNE88自動巻きムーブメントを搭載し、ねじ込み式リューズにより50mの防水性を備えている。短時間ではあったが、ワインドアップの際ロリエに話を聞いたところ、以前のクロノグラフに使用されていたシーガル製ムーブメントに比べ大幅に改善されたとのことだ。
オリンピア クロノグラフの価格は900ドル(日本円で約14万円)だが、そのフィット感と仕上げは非常に印象的だ。しっかりしたエンドリンク、ネジで固定されたブレスレットリンクを備え、ブレスレットは手首に自然に馴染む。クロノグラフのプッシュボタンの操作感も満足できるもので、触感がしっかり伝わる。コラムホイールの垂直クラッチに期待される通りかもしれないが、この価格帯での提供はうれしい驚きだ。
ソーシャルメディアへの投稿は控えめだが、ロリエは製品そのもので語らせ続けており、それがこのブランドで私が最も気に入っている点だ。
詳しくはロリエ公式サイトでオリンピア クロノグラフをご覧ください。
マリン インストルメンツ スキンダイバー OS “ポーラー”
ニューメキシコ州のデザイナー、ジャスティン・ウォルターズ(Justin Walters)氏は、2021年にマリン インストルメンツを創業した。多くのマイクロブランドと同様に、マリンもミッドセンチュリーの時計からインスピレーションを受けているが、ほかのブランドよりもモダンな印象を与える。マリンのスキンダイバーはウェットスーツを着用せずに潜水するために設計された、60年代の時計にヒントを得ているが、そのデザインはクリーンで現代的だ。エルジンやウォルサムに通じる一方で、アップルやノモスのような雰囲気もある。
スキンダイバー OS “ポーラー”は、ブラックPVDコーティングが施されたベゼルと、オレンジの先端が特徴的な秒針に対して、真っ白なダイヤルが強いコントラストを成しており、有名な“ポーラー”ウォッチをさりげなく意識していることは間違いない。サテン仕上げのSS製ケースのサイズは39mm×11.5mm(ラグからラグまで48mm)で、手首につけるとやや平らな印象を受けるが、これは伝統的なスキンダイバーの形状を踏まえれば予想どおりだろう。内部には標準的なセリタ製の自動巻きSW200-1ムーブメントが搭載されている。ポーラースキンダイバーはブラックラバーストラップ付きで販売され、さらに追加でNATOスタイルのストラップが付属している(個人的にはマリンのビーズ・オブ・ライスブレスレットに装着してもいいと思う)。この丈夫でしっかりとつくられた時計は1095ドル(日本円で約17万円)で手に入る。なおマリンのウェブサイトで直接購入できるほか、オンライン小売業者のハックベリーでも取り扱いがある。
詳しくはマリン インストルメンツ公式サイトをご覧ください。
ボーナスピック: アルテラム ワールドタイマー
ボーナスピック! 2022年にHODINKEEが初めてマリン インストルメンツを取り上げた際、私はすぐにこのブランドのデザインに引かれたため、創業者ジャスティン・ウォルターズ氏が新たに立ち上げた別ブランド、アルテラム・ウォッチ・カンパニーの存在を知り、とても興奮した。アルテラムはデビュー作として“ワールドタイマー”を発表したばかりだ。この時計は、世界を旅するための複雑な機構をミニマルかつ無骨なデザインで表現している。
アルテラムのワールドタイマーは、ブラスト仕上げとサテン仕上げが施された38.5mm×10.5mmのSS製ケース&ブレスレットを特徴としている。ワールドタイム機能にはセリタSW330-2 GMT自動巻きムーブメントが採用され、ウォルターズ氏はスイスのメーカー、ロベンタヘネックスと提携してこのワールドタイマーを製作した。初回生産は100本限定で、価格は2850スイスフラン(日本円で約50万円)。時・分“針”は回転ディスクに固定され、外周リングの回転ワールドタイムディスクは、2時位置の追加リューズで操作できる。
詳しくはアルテラム公式サイトでワールドタイマーをご覧ください。
アトリエ・ウェン パーセプション(チタンまたはタンタル製)
私がアトリエ・ウェンのパーセプションを初めて体験したのは2022年のことで、そのころ、この誇り高き“メイド・イン・チャイナ”ブランドがHODINKEEで紹介された。ブレスレット一体型のこの時計は、当時優れていたものの、まだ改良の余地があった。つまりそのレビューでは腕毛が少々犠牲になったわけだ。
それ以降、このブランドは大きな進化を遂げてきた。今年、チタン製パーセプションの標準生産バージョンが発表された。パーセプションのストーリーはそのギヨシェ模様の文字盤から始まる。最近、職人がこれらの文字盤を仕上げるのにどれほどの時間がかかるのかについて、ソーシャルメディアで議論が巻き起こったが、その美しさは否定できない。特にパープルダイヤルは際立っている。
文字盤の仕上げに加え、アトリエ・ウェンはパーセプションのラインにチタンとタンタルを加えた。タンタルのブレスレットをつくるのは容易ではないため、これは目覚ましい進歩と言える。重厚な金属を手にしたとき、その技術の成果を実感できる。
「タンタルは粘着性が高く、工具がすぐに壊れてしまうんです」と、アトリエ・ウェンの共同創業者であるロビン・タレンディエ(Robin Tallendier)氏が説明してくれた。「タンタルを磨いたりサテン仕上げにしたりすると、工具が傷んでしまいます。特に難しいのが穴開けで、ブレスレットをつくるには避けて通れない工程です」
チタン製パーセプションも、より高価なチタン製スポーツウォッチに匹敵する仕上がりで侮れない。アトリエ・ウェンはチタン製パーセプション(3588ドル、日本円で約55万円)の予約注文を締め切ったばかりだが、まもなくタンタルモデルの少量生産が開始され、さらにコラボレーションも計画されている。
興味があれば、最終ラウンドのキャンセル待ちとして登録することもできる。
詳しくはアトリエ・ウェン公式サイトをご覧ください。
エコ/ネイトラ リバネラ
イタリアのブランド、エコ/ネイトラのリバネラには驚かされた。過去のモデルを見れば、同ブランドの時計は多くがベル&ロスに似たオマージュ系のスポーツウォッチだと分かるが、今月初めに登場したリバネラは、レクタンギュラーの時計を現代的に再解釈したモデルだ。
サンドブラスト仕上げのグレード5チタン製ケースはサイズが40mm×27mm、厚さはわずか5.5mmだ。これは手巻きのETA/プゾー 7001ムーブメントのおかげである。文字盤はブラックとグレーの2色展開で、どちらもリバネラのモダンでモノクロームな雰囲気を引き立てている。ケースの大部分はサンドブラスト加工でマットな文字盤と調和しているが、側面には高度にポリッシュされたファセットが施され、磨き上げられたアプライドインデックスが光を捉えて反射する。
リバネラはミニマリズムとアール・デコが驚くほど対照的に融合しており、完全に予想外のデザインだ。今まであまり注目していなかったブランドから、こんなエキサイティングなモデルが登場するとは思わなかった。この時計はやや大きめだが、フラットなレクタンギュラーシェイプのため、もう少し手首に沿うデザインなら(少なくとも私の手首には)うれしかったかもしれない。しかし、これはエコ/ネイトラによる注目すべきリリースであり、トレンドに沿いながらも、流行を追いかけているようには感じさせない革新がある。
リバネラの予約注文は10月10日からエコ/ネイトラのサイトで受付中。どちらの文字盤も価格は1490ドル(日本円で約23万円)となっている。
詳しくはエコ/ネイトラ公式サイトをご覧ください。
ポーリン モジュール D
最後に紹介するのは、アンオーダインの手ごろな価格帯の姉妹ブランドであるポーリンだ。アンオーダインの創業者ルイス・ヒース(Lewis Heath)氏によれば、同社は最近、ヒース氏の妻とそのふたりの姉妹が立ち上げたスコットランドのブランドを吸収したとのこと。先日、ポーリンはモジュールコレクションの最新モデルモジュールD、およびEを発表した。私はDを実際に手に取ってみたが、ブラックラッカーダイヤルに、針と数字へ手塗りの夜光塗料が施されているのが特徴的だった。
ポーリンは、クォーツムーブメント(507ドル、日本円で約7万7000円)と手巻きムーブメント(ETA 7001を搭載して1114ドル、日本円で約17万円)の、2種類のモジュールを提供している。このライン名はさまざまなムーブメントキャリバーに対応できるよう設計されたモジュール構造のケースに由来する。クッション型ケースは35mm、厚さは8.2mmだ。また、大型の自動巻きモジュールも用意されている。
ポーリンは楽しくて遊び心があり、カラフルなブランドだ。アンオーダインとは一線を画しながらも、同じファミリーらしい“なじみ”を感じさせる。アンオーダインのビルド枠(私は2028年!)が空くのを待つあいだ、ポーリンのモジュールを手に取るのも悪くない時間の過ごし方だろう。
詳しくはポーリンウォッチ公式サイトをご覧ください。
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