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Photos by Anthony Traina
ようやくジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)がデザインして“いない”時計をお見せできる。ジェンタは50年代と60年代に何百というデザインをひとつ15フランで作成していたため、彼が実際に手がけていないものでも彼の功績とされることがある。しかしオーデマ ピゲはディスコヴォランテ Ref.5093のデザインを手がけた人物について明らかにしている。
「オーデマ ピゲは時折、インディペンデントデザイナーと仕事をすることもありました。そのなかには1950年代にディスコヴォランテ Ref.5093をデザインした、ドイツ人デザイナーのゲブハルト・デュヴェ(Gebhard Duve)もいました」と、素晴らしいサイトであるAPクロニクルズで述べている。オーデマ ピゲはまたデュヴェによる1952年のスケッチも公開している。
歴史のなかでいつの間にか混同され、今ではジェンタの功績として語られていることが多い。私も数日前にソーシャルメディア上でその間違いを繰り返してしまった。誤りを指摘してくれたジェフ・スタイン(Jeff Stein、ホイヤーについて関係者以上に詳しい!)には大いに感謝している。
デュヴェは1950年代に上記のデザインスケッチを、オーデマ ピゲの創設者の孫のひとりでブランドのクリエイティブを担当していたジャック=ルイ・オーデマ(Jacques Louis Audemars)に見せ、それが最終的にRef.5093 ディスコヴォランテ、すなわちイタリア語で空飛ぶ円盤という名前の時計になった。その他の多くの素晴らしい文献が示すようにディスコヴォランテのルーツはアール・デコに強く根ざしている。オメガやヴァシュロンなども円盤型ケースを作っていたものの、デュヴェによる1950年代のアレンジによって洗練されたそのアイデアは、ミッドセンチュリーデザインの世界をさらに押し広げるものであった。
Ref.5093は50年代から70年代にかけて少数だけ生産されたようだ。サイズは直径36mmでラグがない。ダイヤルやベゼルの組み合わせは多数あり、ホワイトゴールド(WG)やイエローゴールド(YG)、(より希少な)プラチナ(Pt)のモデルも見つけることができる。今回はHindman Auctionsで昨日8255ドル(日本円で約130万円)で落札されたこのYGのディスコヴォランテとともに時間を過ごすことができた。
オーデマ ピゲ ディスコヴォランテのことは以前からずっと気になっていたが、じっくり有意義な時間を過ごしたのはこれが初めてだった。まずこの時計の約3mmというケース厚(風防のクリスタルを含めるともう数mm増える)に驚かされた。広いベゼルと比べると特に薄く感じる。このディスコヴォランテのベゼルにはクロスハッチパターンが見られ、外縁にはクル・ド・パリのギヨシェが施されている。やや古風なデザインで、パテックのRef.3919やRef.6119のようでもあるがもう少し尖っていて、まるで60年代のグレイトフル・デッドのライブでグリルドチーズサンドを食べるのが好きなオジサンを見たときのような気持ちだ(これが私のカトリックジュニアハイスクールの8年生の神学教師を説明したものだと言ったら信じられるだろうか?)。
話はケースの形状だけにとどまらない。ストラップはケースに留められた機能ネジによってケースバックの下部に結合されている。これによりケースの薄さと丸みが強調されている。そのためストラップの交換(または代わりとなるストラップを探すこと)は非常に面倒そうだ。クイックリリースのバネ棒やブレスレットについての愚痴は、高級時計に関する新しい記事で言って欲しい。なおブレスレット一体形のゴージャスなRef.5093も存在している。
ディスコヴォランテのダイヤルには、スイスのルツェルンを拠点とする小売店、ギュベリンのサインが入っているものが多い。それ以外のポイントを挙げるとしたら、ダイヤルには非常にシンプルなクロスデザインが見られる。多少の傷はあるものの70年代のドレスウォッチとしては想定の範疇で、Ref.5093でもよくある程度のものだ。
ディスコヴォランテのダイヤルデザインでも特に私のお気に入りは、外縁がゴールドで輝くマルチトーンのものだ。上の写真のダイヤルは少し平坦な印象を与えるかもしれないが、こちらのマルチトーンダイヤルには深みがある。コレクターのアレクサンドル・トリッツ(Alexandre Tritz、彼はレジェピのためのストラップを作っている)の手元には私が見たなかでもっともゴージャスな個体があり、彼はみんなに楽しんでもらえるならといくつかの写真を快く提供してくれた。
「オーデマ ピゲのRef.5093は私が愛する時計のひとつですが、その理由は本当にうまく説明できません」と、私がこのリファレンスへの思い入れについて尋ねたときトリッツは語った。「洗練とシンプルさのバランスが絶妙なんです。かつて偉大なコレクターが私に言いました『シンプルな時計を複雑に見せるのは簡単だが、複雑な時計をシンプルに見せるのは非常に難しいことだ』、と。ディスコヴォランテはまさに、この言葉を完璧に体現しています」
ディスコヴォランテのベゼルとダイヤルの組み合わせは、シンプルなものやツートンカラーのものだけではない。ぜひお好きなものを選んで欲しい。もし私が間違っているというのであれば、どうぞご自由に。
ディスコヴォランテの内部にはオーデマ ピゲによる厚さわずか1.64mmの超薄型手巻きムーブメント、Cal.2003が搭載されている。ルクルトとヴァシュロンとのコラボレーションによって設計されたこのムーブメントは、40年代に発表された当時はもっとも薄いものであった(フレデリック・ピゲのCal.21並だ!)。
ディスコヴォランテを収集したくなってきたんじゃない?
単一のリファレンスに対して非常に多様なバリエーションがあるため、価格は幅広く変動している。先月イタリアのオークションで、ツートンのダイヤルを持つYGのディスコヴォランテが1万6000ドル(日本円で約250万円)で落札された。Hindmanの個体のようにダイヤルこそ完璧ではないものの、十分にいい状態だった(ちなみにイタリアのオークションハウスよ、TOP画像のダイヤルの傷をPhotoshopで修正しているのを私たちが見逃すとは思わないで欲しい)。Amsterdam Vintage Watchesは2022年に、ブレスレット付きでWGのディスコヴォランテを2万5000ユーロ(日本円で約420万円)で提供していた。完全にきれいなダイヤルに出合わない限り、これ以上のコンビネーションは見つからないだろう。したがってこれがマーケットにおける最高値ということになる。一方、状態の悪い個体は数千ドルという安値で売却されていた。
Hindmanのディスコヴォランテはいたって平均的な結果で着地したが、入札者が複数いたことはこのリファレンスに対する人々の強い関心を示している。おそらく昨今の”小振りかつドレッシーで、デザイン重視の時計を好む”トレンドによるものだろう。このことは数多くの考察記事やHODINKEE Radioでの話題にもつながった。
ディスコヴォランテについては先週、ファーラン・マリが空飛ぶ円盤のような時計を発表したことでちょっとした注目を集めている。しかし個人的には、あまりメタな話題には深入りしたくない。ただこのクールなデザインは、私にとって非常に魅力的だ。
ということでゲブハルト・デュヴェと彼の素晴らしいディスコヴォランテに乾杯。
この空飛ぶ円盤を撮影させてくれたHindman AuctionsとReginald Brackに感謝する。