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Buying, Selling, & Collecting ロレックス ドミノ・エアキングとひと切れのピザ

今では熱狂もほとんど収まり、ピザを食べるには悪くない時期だ。

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Photos by Anthony Traina

数週間前、私はシカゴからミルウォーキーまでアムトラック(編注;長距離鉄道)に乗り、何人かの時計ディーラーに会いに行った。アムトラックの駅からミルウォーキー・パブリックマーケットまで歩く途中、ドミノ・ピザを買うことにした。ペパロニのスライスが食べたかったからというわけではない。それならいつでも食べられるが、あるヴィンテージロレックスにぴったりだと思ったからだ。こうして、私は熱々のドミノ・ピザを手にし、ミルウォーキーの街を歩いた(2枚以上選んで、どれでも6.99ドル!)。

 1970年代、ドミノ・ピザの創業者であるトム・モナハン(Tom Monaghan)氏は、おいしいピザを提供し、業績に優れたフランチャイズオーナーに、賞品として時計を贈り始めた。彼の自伝『ピザ・タイガー(原文:Pizza Tiger)』のなかでモナハン氏は、1977年にあるフランチャイズオーナーがドミノのロゴが入ったブローバを手首につけているのを見て、どうすればモナハン氏から時計をもらえるのかと尋ねたことがきっかけでこの伝統を始めたと振り返る。そして現在、ドミノ・ダイヤルのロレックスが、2024年には決して実現しないであろうことを知っているからこそ魅力的に映る。

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ジョン・クロヴィッツ(John Krovitz)氏が提供してくれたドミノ・エアキング Ref.14000。ピザは私が持ってきた。

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 それに対して“週に2万ドル(当時の相場で約480万円、※なお本稿では1ドル=240円で換算)の売り上げを達成せよ”とモナハン氏は答えた。こうしてドミノ・ピザチャレンジが誕生したのである。その後の数年間、モナハン氏は売り上げを達成したフランチャイズオーナーにセイコーの時計、そしてロレックスの時計を贈るようになった。

 最初のドミノ・ロレックスはエアキング Ref.5500であり、これは1957年から1980年代まで製造されたロングランリファレンスであった(私が初めて惚れたヴィンテージロレックスでもある)。この時計にはピザチェーンの赤と青のロゴが6時位置にあしらわれている。やがてドミノはチャレンジの基準を引き上げ、4週連続で2万5000ドル(当時の相場で約600万円)の売り上げを求めるようになり、同チャレンジは1970年代まで続けられた。達成は困難だが、挑戦は可能だ。つまり達成者が存在し、その結果として市場には常に数十本のドミノ・ロレックスが出回ることになった。

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ドミノ・エアキング Ref.5500 “ビッグロゴ”

 ロゴが入ったロレックスはほかにも存在する。たとえば、コカ・コーラ、ホールマーク、ウィン・ディキシー、パンアメリカン航空、アンハイザー・ブッシュ、シボレーなどだ。なかでもドミノ・ロレックスはここ数年で人気が急上昇している。それは、この最高級時計メーカーが、アルコールを楽しんだりほかの美味しい誘惑にふける際に一緒に食べたくなるのに最適な、油っぽいピザのスライスを連想させるという奇妙な関連性を持っているためだ。つまり苦境に立たされているある元副大統領以外に、ハリバートン社のロゴが入ったロレックスを欲しがる人がいるだろうか? その点ピザならどうだろう? ピザはみんな大好きだ。

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ドミノ・ロレックス Ref.14000 “ティルテッドロゴ”

 初代ドミノ・エアキング Ref.5500は、6時位置に“ビッグロゴ”を備えていた。そしてこの初期のモデルでは、受賞者のイニシャルと創業者トーマス・スティーブン・モナハン氏のイニシャルである“TSM”を裏蓋に刻印していた。書類にも“ドミノ・ピザ”と記載される。裏蓋のエングレービングが完全に残っているドミノ・ダイヤルを見つけることができれば、その出自とオリジナル性が証明されるので特に貴重な個体となる。このパーソナライズされた裏蓋の刻印は、のちにドミノのドミノマークの刻印へと変更された。

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ピザさん、時計が出来上がりました! Image: Courtesy of Loupe This

 出自のさらなる証明はきわめて価値がある。というのも古くからいるディーラーたちは、その昔、安っぽいピザチェーンのロゴが入ったロレックスを欲しがらなかったことから、ドミノ・ダイヤルを標準的なシルバーダイヤルに交換し、ケースバックの刻印を研磨して消してしまうことさえあったからだ。しかし市場はゆっくりと、そして突然変化した。人々はドミノ・ダイヤルを欲しがり、さらにはそのためにプレミアム価格を支払うようになった。ディーラーたちはあらゆる引き出しの奥を探し回り、古いピザダイヤルを見つけると、どんなエアキングのケースにも取り付けて薄利多売を図った。

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 その後、多くの物事と同様、パンデミック中に事態がさらにおかしくなった。クリスティーズは2020年2021年に、ドミノ・ダイヤルを2万ドル(日本円で約314万円)以上で販売した。さらに多くのものが個人間で取引されている。たとえば、ここここ、そしてここなど、ドミノ・ロレックスが1万5000ドル(日本円で約236万円)以上で取引されるのは珍しいことではなかった。

 1989年、ロレックスはエアキング Ref.5500をディスコンにし、Ref.14000へと移行した。ほかのモデルがこの時期に4桁から5桁のリファレンスに移行したのと同様に、14000も主に前モデルと同じだが、ムーブメントとサファイア製風防へのアップデートを果たした。

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(左)Ref.14000の製造初期に約1年間のみ生産された希少(だが退屈!)なブラックロゴ。(右)Ref.5500のビッグロゴ。

 Ref.14000の製造初期の約1年間、ドミノ・エアキングも同様に6時位置にビッグロゴが付いたままだった。

 その後、短期間ではあるものの、以前と同じビッグロゴのブラックバージョンへと変更された。これは約1年間だけ存在していたようで、とても希少である。しかし正直なところ、私たちが本当に欲しいのはカラフルで派手なドミノ・ロゴだ。

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ドミノの14000 “スモールロゴ”。Image: Courtesy of Loupe This

 自らの過ちに気づいたドミノとロレックスは、すぐにカラフルな“スモールロゴ”に戻した。それは以前の赤と青のロゴと同じだが、やや小さくなり、より扱いやすいサイズとなった。

 そして1990年代半ばになると、Ref.14000とRef.14010の両方で見られる、傾斜したロゴが登場する(この記事の写真で見られるロゴがそれだ)。どちらも同じ、エンジンターンドベゼルを持つエアキングである。Ref.5500への愛着はあるものの、この傾いたロゴが私のお気に入りで、アメリカで人気のピザ宅配チェーンにぴったりな素晴らしい遊び心を持ち合わせている。

 2000年に入るとロレックスはRef.14000をアップデートし、Ref.14000MとRef.14010Mに置き換えた。以前と同じモデルだが、Cal.3130へと載せ変えられている。

 2000年代半ばに悲劇が起こった。ロレックスは私たちの愛するドミノ・ダイヤルを廃止し、その代わりにブレスレットの最初のリンクにスティールのロゴを配置したのだ。それは以前のダイヤル上にあった大胆なロゴに比べて退屈で、比較的かさばるものだった。

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のちのドミノ・オイスター パーペチュアルは残念ながら、ピザチェーンのロゴがブレスレットの最初のリンクに付けられているだけである。

 2014年、ロレックスはシンプルなエアキングを廃止し、アップデートされたRef.116900を2016年に導入した時点で、ドミノのロゴを付けるにはあまりにもデザインが複雑になっていた。代わりに、ドミノは業績優秀なフランチャイズオーナーにRef.114200(34mm)、116000、そしてその後の126000(36mm)を贈り始めた。そのなかにはドミノのロゴが付いた、小ぶりなオイスター パーペチュアルも見つかるだろう。

ピザをひと切れ
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 簡単にお金が稼げて、2万ドル(当時の相場で約480万円)するピザダイヤルの時計が売れた時代から、状況は大きく変わった。最近公開販売されたドミノ・エアキングは、6000ドルから8000ドル(日本円で約94万~126万円)で取引されている。ここ数年間、標準的なエアキングとドミノ・ダイヤルの価格差が完全におかしくなっていた。スタンダードなシルバーダイヤルのRef.5500が約3000ドル(当時の相場で約72万円)で売れる一方で、ドミノ・ダイヤルが2万ドル(当時の相場で約480万円)で売れるのは理にかなわなかったのだ。

 ただそのプレミアム価格は、再び納得のいくものになってきている(それが好みならばの話だが)。6.99ドルで“2枚選べる”お得感はないが、ある種の渇望を満たしてくれるかもしれない。いずれにせよ、ドミノのロレックスは奇妙な歴史の一片だ。現代ではブランドとイメージが厳格に管理されており、ロレックスが誰ともコラボレーションしないなか、ましてや品質に疑問のあるピザチェーンとはなおさらだが(ちなみに私はドミノが大好きで、コレステロールが許すなら毎週食べたいと思っている)、それは過ぎ去った時代を象徴しているからこそ魅力的に映るのだ。

ドミノ・エアキング Ref.14000を撮影させてくれたジョン・クロヴィッツ氏に感謝します。