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Hands-On M.A.D.2を実際に試してみた

今年登場した大人気モデルM.A.D.1の続編には、大きな期待が寄せられている。

2024年9月に登場したM.A.D.1Sは、時計業界を席巻したオリジナルのM.A.D.1から初めて本格的なデザイン変更を遂げたモデルであった。もっともそれは完全な刷新というより洗練を加えた進化だったとはいえ、多くの人々にとってこの変化は時計で得られる体験そのものを一変させるものだった。そしてこのモデルにまつわる話題のなかでひっそりと告げられていたのが、数カ月以内にブランドの次なるマイルストーンが登場するという予告——そう、M.A.D.2である。MB&Fから派生した独立系ブランド、M.A.D. エディションズは自らを“出版社”と称し、ひとつの大きな謎めいたブランドではなくデザイナーやアイデアに帰属するエディションを展開している点が特徴だ。MB&Fの創業者マキシミリアン・ブッサー(Max Büsser)氏の名がM.A.D.1およびM.A.D.1Sに冠されたことで、人々はM.A.D.を純粋な時計製造という意味では比べようもないにせよ、MB&Fのエッセンスを極めて手の届きやすい価格帯で体現した“ミニMB&Fマシン”と受け取った。

wristshot of MAD2

 そして今回、ついにM.A.D.の新たな刺客としてM.A.D.2が登場した。手がけたのはエリック・ジルー(Eric Giroud)氏。彼は20年以上にわたりMB&Fのデザインに携わっており、ハリー・ウィンストン在籍時代にブッサー氏と出会ったことがきっかけで関係が始まった。今回、より手の届く価格帯で自身を投影するモデルを白紙の状態から任されたのは、ごく自然な流れといえよう。MB&F以前のジルー氏は“Erico”で知られていた。彼がこのモデルに込めたインスピレーションは、1990年代にローザンヌのDJシーンで過ごした時間に由来するという。その影響は本作にはっきりと表れており、彼の人生の旅がこの時計でひとつの円環を成す。まさに文字どおり“円”を描くのだ。

 ダイヤルはターンテーブルを模したふたつのディスクからなり、散りばめられた数字と水滴型(あるいはギターピックのようにも見える)のインジケーターが時と分を指し示す。その下にはメインとなる大きなダイヤルプレートがあり、そこにはアナログレコードのような溝が刻まれている。この溝が光を反射し、ダイヤル全体に視覚的なアクセントを加え、時刻表示部に自然と目がいくような構造となっている。

MAD2 Orange closeup
Lower case of the MAD2
MAD2 Rotor

 時刻表示についてこのM.A.D.2で新たに注目すべき点は、ふたつのディスクが単なる針の代わりではなく、“ジャンピングアワー”と“ドラッギングミニッツ”という複雑機構の一部を担っていることである。これは価格帯を超えた時計製造としての価値を与えている要素だ。ミニッツディスクは1時間をかけてゆっくりと回転し、左側のディスクは次の時間が近づくと瞬時に切り替わる。ジャンピングアワーの動作は60分に1回のみで、ごく控えめではあるが、左側のポインターに現在の時刻がぴたりと合うことで時刻の読み取りが非常にわかりやすくなる。もちろん、M.A.D.1と同様に分単位の正確な時刻までは把握できない。それでもこの時計を身につけて過ごしていると、なんとなくの感覚で時刻を言い当ててからスマートフォンで確認するという遊びを繰り返すようになり、その誤差はたいてい1〜2分以内に収まっていた。そう考えるとデザインとしては十分に楽しめるクオリティといえる。

 このコンプリケーションは、MB&Fチームが自社開発した新しいジャンピングアワーモジュールによるものである。双方向に操作可能な設計となっており、時刻合わせの際に針を逆回しにしても、時間が正しく逆戻りする。モジュールを駆動するのは、ラ・ジュー・ペレ製のCal.G101。これはアップグレード版のM.A.D.1Sにも搭載されたムーブメントであり、64時間のパワーリザーブを持つ。先代のミヨタムーブメントを搭載していたやや厚みのあるM.A.D.1と比べて、仕上げの美しさが明らかに向上しており、しかもスイス製である。M.A.D.1Sとは異なり、キャリバーおよびローター(ブランドによれば、Technics SL-1200ターンテーブルの縁からインスピレーションを得たもの)は文字盤の下によく見られる配置で収められている。ただし42mm径のスティールケースはインナーダイヤルとベゼルのあいだに空間を設けており、そこからローターを覗き込むことが可能となっている。さらに夜光を充填したドット状のピンが配置されており、ローターが高速回転すると、光の軌跡のような遊び心のある演出が楽しめる。愛さずにはいられない仕様だ。

macro slanted MAD2
MAD2 Case Side
MAD2 Clasp

 このM.A.D.2は直径42mm、高さ12.3mmのステンレススティール製ケースに収められており、滑らかで小石のようなフォルムが特徴だ。メインダイヤルの周囲にスペースを設け、内部のローターが見える構造のために手首に乗せた際のサイズ感としては決して小さくはない。装着感はM.A.D.1Sとはまったく異なる。一般にケースが薄くて直径が大きい時計は“ディナープレートのような印象”を与えることがあるが、このM.A.D.2にもその傾向は若干見られる。それでも1週間ほど実際に着用してみた限りでは、それが気になることは1度もなかった。ストラップにはカーフスキンが使われており、SS製のフォールディングバックルが装着されている。時計本体や全体のパッケージ同様、ティアドロップ(もしくは宇宙人、ギターピック)型のモチーフが随所にあしらわれているのも印象的だ。

Slanted depth view of MAD2 orange dial

 そして何より大きな発見は、初代M.A.D. エディションと異なりこのM.A.D.2は普通の時計としてつけられるという点である。多くの人にとって、これはM.A.D. エディションというブランドの意味を大きく変える出来事だろう。正直なところ最初にこの新作の画像を見たとき、自分のなかには少し戸惑いがあった。初代モデルの大ファンである自分としては、M.A.D.1Sを装着した際に感じるMB&Fのほかのオロロジカル・マシン同様のスペースエイジ的インスピレーションに心引かれていたからだ。面取り、ケース構造、そのすべてがほかのブランドには思いつかないようなものであり、それこそが魅力だった。しかし、いま振り返ると、自分はM.A.D.というレーベルの精神を本当には理解していなかったように思う。自分のなかではあのデザイン言語が今後も続くのだと決めつけ、勝手に期待を固めていたのだ。しかし数日間M.A.D.2を身につけて過ごしたことで、ようやくその真意をつかんだ気がする。

 あの最初の戸惑いこそが、多くの人々がM.A.D.2の登場に熱狂した理由なのだろう。数々のバリエーションを重ねた初代を経て、ついにこのスピンオフブランドが“遊び心ある時計づくり”という精神を受け継ぎながらも、より親しみやすく日常使いしやすい理想的な形を実現したと言える。ジルー氏によるこの新作は初代よりもぐっと抑制が効いており、アプローチは異なれど楽しさという点では変わらない。多くの人にとって、日々に取り入れやすい1本になるはずだ。さらにジャンピングアワーという複雑機構が加わったことで、「その時計、何?」と聞かれたときにちょっとしたストーリーを語れるという楽しみも増える。

Green MAD2 shot

Photo by Mark Kauzlarich

 なお、MB&Fオーナー限定の“MB&F Tribe”向けバージョンとしてオレンジダイヤルのモデルが用意されている(残念ながら、M.A.D.1の所有者は対象外)。一般向けの抽選販売ではグリーンダイヤルのモデルが登場する予定だが、こちらは実物を見る機会がなかったのが惜しまれる。初回ロットはおよそ2000本とされているが、ブランド側は「限定モデルではない」と明言しており、今後も追加生産が予定されているようだ。価格は2900スイスフラン(日本円で約49万円)。新開発の双方向ジャンピングアワーモジュールを搭載していることを考えれば、非常に良心的な設定といえる。

詳細はこちらをチェック。