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ファッションキュレーター・小木“POGGY”基史(以下、ポギー)。セレクトショップ在籍時に培った、確かな見識とポップカルチャーやヴィンテージウェアを巧みにミックスするユニークなスタイルで、日本のみならず世界中から注目を浴びる人物だ。そんな彼が、実は最近時計にも熱を上げているという話を聞いた。長年、自身のベーシックにしてきたものはG-SHOCKで、所有する数は50本以上にものぼるという。
ポギー氏にとって時計は、自分のコーディネートに合わせて個性を足したり引いたりするものであると同時に、自分にとっての憧れを投影するアイテムだ。永遠のアイコン、エルヴィス・プレスリーに抱いた思いを込めたベンチュラやキングマイダスには一貫性があり、彼のスタイルに絶妙なマッチングを見せる。下積み時代に抱いた強い思いのもとで集めたというカルティエは、ウォッチコレクティングにおいて誰もが共感できるエピソードだろう。
そしてやはりポギー氏に聞きたいのは、なぜ今日その時計を選ぶのか? どういう意図で着こなしに時計というアクセントを加えているのか?ということだ。ポギー氏の、ときにチャーミングな時計選びにおけるエッセンシャルをぜひ楽しんでほしい。
G-SHOCK G-5600-1 with カーハート
この“懐中時計”スタイルのG-SHOCKはHODINKEEでも取り上げたことがあるため、知っている人も多いはずだ。10年以上は所有しているという本機は、ベーシックなG-5600-1のバンドを外し、ヨーロッパの蚤の市(パリのクルリニャンクール、もしくはロンドンのポートベローとのこと)で見つけたヴィンテージのチェーンやカーハートの1900年代初頭のチャーム(ウォッチフォブ)でコーディネートされている。ファッションのコレクションシーズン、海外に出向くことも多いポギー氏は、外国の人に合う際にどうしたら笑ってもらえるか、コミュニケーションが盛り上がるかという問いを大切にする。この“懐中G-SHOCK”は、かなりの確率で周りの笑顔を引き出すことのできる鉄板アイテムになったそうだ。日本の時計でコミュニケーションが生まれることもうれしいと頬を緩める。なお、こうした変わったアレンジを加える場合は、定番アイテムでと考えているとのこと。
元々、時計のことをファッションの一部と捉えているポギー氏は、スーツスタイルにG-SHOCKをどうやって合わせようと長年悩んでいた。コーディネートを捻っていくことが好きで“ガチャガチャしている”と自ら語るオリジナルのスタイルには、シンプルな時計を選ぶことが多いなか、どうやってもスーツにG-SHOCKはしっくりこなかったそう。
カーハートのダブルニーにドレスウォッチ、など対極なものを合わせる楽しみを見出していたなか、長年の課題としていたスーツスタイル×G-SHOCK。そんな折に、ニューヨークのアーティストであるトム・サックスの作品からインスパイアされる。カシオ製の時計本体にストラップをつけたようなその作品をもとに懐中スタイルを生み出し、以来、スリーピースのウエストコートに着けたり、フラワーホールにあしらったりと活用しているそうだ。
G-SHOCK フロッグマン DW-6300 “NO-SHOCK”
50本以上のG-SHOCKからポギー氏が厳選したのは、一瞬それだとわからないフロッグマンだ。古着やヴィンテージアイテムも愛する彼は、時計でも敢えてボロボロに使い込まれたような質感のものを自分のファッションに合わせられないかと考えた。ナイキのエアフォース1やアディダスのスタンスミスのように、少し履いて汚れた状態を通り越してボロボロに使い込まれたからこそ出るいい味、それをG-SHOCKにも求めた末に発見したのが本機だ。通常DW-6300 フロッグマンは、アシンメトリーな形状の樹脂製ケースカバーで覆われているが、この1本は加水分解でカバーが壊れかけた状態のものをヤフーオークションで探したそうだ。“ちょっとふざけているかもしれないけど”と前置きしながら、この時計を“NO-SHOCK”と呼んでいる、と教えてくれたポギー氏は、着こなし同様チャーミングだ。
こうしたアイテムは時計に限らず常にアンテナを張って探しているというポギー氏は、その背景にセレクトショップ出身であることが大きいと語る。国やカテゴリ、時間軸、カルチャーのミックスで成り立つセレクトショップの概念は日本独自のもので、ポギー氏もそれらをすべて見た上で自分流にまとめたいと考えている。その自分のテイストにマッチさせる時計として、一生G-SHOCKでもいい、と考えた時期もあったというが、最近はそのフィールドを高級時計にも踏み出したようだ。
自分にとってG-SHOCKはアニメとかカラオケみたいなものっていうか。高校生の頃から今でも好きな、気楽に着けられるもの
– 小木“Poggy”基史ハミルトン ベンチュラ“POGGYTHEMAN”
ポギー氏が高級時計への関心を高めるきっかけとなったのがこのハミルトンだ。彼が中〜高校生の頃、影響を受けたカルチャーが凝縮されたようなこの1本は、エルヴィス・プレスリーやジェームズ・ディーンへの憧れを投影し、さらに故郷・札幌時代に地元で足繁く通った古着屋の先輩たちが着けていていて羨望の的だったベンチュラをベースとしている。
本機はポギー氏のプレスリー好きを知ったハミルトンが、別注企画のオファーをしたことで実現。前身を黒で統一しながら自身が手掛けるキュレーションブランド「POGGYTHEMAN」のロゴがケースバックに。ストラップ裏面にピンクを配したのは、プレスリーがデビュー当時に地元で初めて仕立てたピンクのスーツに由来するという。
プレスリーの登場によってメンズファッションに生じた変化は大きかったとポギー氏は熱っぽく語る。それ以前は、大人のためのスーツか若者向けの服しかなかったが、プレスリーによって若者のためのスーツなど保守的だったメンズの洋服に新たな潮流が生まれたそうだ。そんなプレスリーが身につけたのが、左右非対称のデザインを持ったベンチュラやキング マイダス。それらを着けて入浴したりと個性的すぎるエピソードに引かれ、先のスーツの裏地のエピソードと合わせてポギー氏だけの時計として結実した。
クレドール ロコモティブ Ref.GCCR999
元来より凝り性であるというポギー氏は、興味を持ったことは気づくととことんのめり込んで調べてしまうという。現在の愛車であるポルシェ 911(タイプ996)の前に乗っていた、ホンダ シティ カブリオレがきっかけとなってクルマのデザインについて掘り下げるうちに、ピニンファリーナなど著名なカーデザイナーの存在を知る。1979年に発表されたこの元祖ロコモティブは、ご存知のとおりジェラルド・ジェンタによるものだが、クルマと同様に機械式時計のデザインに関心を抱いて調べるうちに最初に知ったデザイナーが彼であることから、長年焦がれた1本なのだそうだ。ジェンタによるデザインは高級時計の世界に多いものの、そうではなくてもっと親しみがもてるモデルを探し求めた結果、ロコモティブにたどり着いた。
手に入れたきっかけは、自身の思いを共有していた友人がある日この時計を購入し、しばらくして“自分がしているよりポギーに似合うから”と誕生日ギフトとして譲り受けたという。ただ、今思うことは、ブレスレットあってのロコモティブだろう!ということらしい。もし余分にブレスレットをお持ちの方がいたら、ぜひHODINKEE Japanかポギー氏に直接知らせて欲しい。
ロレックス チェリーニ キングマイダス
G-SHOCKから始まった時計探しの旅は、ポギー氏にとってはいつ終わるとも知れないものだ。ベンチュラも、ロコモティブのときもこの1本で十分だ、と考えたもののその後も旅は続いていく。
ポギー氏にとってのスター、プレスリーにまつわる時計はベンチュラに留まらない。彼がゴールドブレスレットのキングマイダスを着用した画像を今でも見ることができるが、ベンチュラを経てポギー氏がたどり着いたのは必然だったように思う。このモデルは、チェリーニコレクションの傘の下に入ったのち、レザーストラップ仕様で販売された19xx年当時ぐらいのもの。幾何学的な五角形フォルムとブルーの文字盤が好相性で、ドレッシーな装いに加えるスパイスとして着用しているようだ。
フルオリジナルではない個体だが、ロレックスによる正規の修理履歴もありポギー氏としては十分に納得して手にした1本だと語る。
自分の人生とかストーリーに合ってないものを身につけると、急に格好よくないものに見えてしまうものが時計。すごく小さな面積にその人の個性や生き方がギュッと凝縮される。だからこそ安易に選べない。難しいけれど楽しいもの
– 小木“Poggy”基史カルティエ サントス ロンド
非常にキレイな状態に保たれたサントス ロンドは、20代の頃、セレクトショップのプレス担当をしていた時代にポギー氏が初めて手に入れた機械式時計だ。当時の先輩バイヤーに連れられ、ネペンテスの代表 清水慶三氏と初対面した際、彼の手元に見つけたサントスのボルドー色の文字盤に猛烈な憧れを抱いたという。20年以上前には、カジュアルな格好にカルティエを着けている人はほとんど見なかったとポギー氏は振り返る。
当時は予算的にも手が出なく、同じものは断念しつつも手の届くカルティエのバイカラーモデルをと買い求めたのがこのサントス ロンドだったそうだ。長年愛用するうちブレスレットが破損してしまい、最近になってメンテナンスに出したところ、一部現行の新品のような仕様に変わったこのブレスレットに代わって戻ってきたという。セカンダリーで機械式時計が買えるほど代金がかかったそうだが、自分の原点のようなものでこれからも着け続けたいと語ってくれた。
カルティエ サントス カレ
そう、この1本はポギー氏が20代のころから憧れていたという、あの清水氏がしていたサントスに近いものだ。懇意にしているというショップ・ECW SHOTOがオープンした際、入荷しているのを確認してすぐさまキープをして入手したそう。ロレックスでは一般的になっているスパイダーダイヤルやトロピカルなど、経年変化による味の出たカルティエはないかと探していたところ巡り合った。
サントス カレは、当時の新たな潮流であったブレスレット付き高級時計の流れのなかで、カルティエがエベルとのパートナーシップの元で1978年に開発したもの。見事にモダナイズされながら初代サントスの意匠を残した本作は、アイコニックなビスをベゼルとブレスレットに配し、ローマ数字とレイルウェイの文字盤はほぼそのまま採用した。ポギー氏が手にしたものは1980年代の個体で、サントス カレとしては限定品に近いモデルだ。同時期にカルティエの主要なコレクションであったマスト タンクでも見られたモノトーンのラッカー文字盤を用いた中期以降のこのサントス カレは、ツートンモデルをメインとしたラグジュアリーなコレクションであったため珍しいSS仕様だ。
なお、このバーガンディの他“ゴースト”と呼ばれるグレーの単色ダイヤルも存在する。サントス カレのラッカーダイヤルは、割合的には通常ダイヤルモデルが100に対し1本見つかるかどうか、という程度の生産数のようだ。
デニムも愛好するポギー氏は、このサントスを自分で糊付けをして味出しをしたヴィンテージ・リーバイスのようだと語る。クルマを運転している自分の手元にさした日差しによって文字盤のひび割れが照らされた瞬間、まるでキレイな夕日を見たような、なんとも言えない感動を楽しんでいるという。身に着けて楽しむ、を信条としているポギー氏はこの時計で本当に打ち止めだと考えていた。しかしその後、既にカルティエのトーチュをコレクションに加えて新たな沼に入り込んでいるようだったため、またどこかの機会でお会いできたらと考えている。
時計とは、面積が小さくて集めやすいから困っちゃうもの
– 小木“Poggy”基史Video by Kazune Yahikozawa (Paradrift Inc.)、Camera Assistance by Kenji Kainuma (Paradrift Inc. )、Sound Record by Saburo Saito (Paradrift Inc. )、Video Direction & Edit by Marin Kanii、Video Produce by Yuki Sato
クレジット表記のない写真はすべて、Photographs by Yusuke Mutagami