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アーロン・ラフキン・デニソン(Aaron Lufkin Dennison)が1874年にケース製造会社を設立して以来、デニソンは豊かな歴史を誇るイギリスの時計ケースメーカーとして名を馳せてきた。そのデニソンが最後にHODINKEEの輝かしいページを飾ったのは2016年のことであった。当時紹介したDENCO53は、2016年当時のブランド復活を目指した試みであった。このデザインは、1953年にエベレスト登頂を果たしたエドモンド・ヒラリー卿(Sir Edmund Hilary)が腕につけていたデニソン製ケースの時計からインスパイアされたものであった。ムーブメントにはETA製Cal.2824-2を採用し、同時期のチューダー ブラック ベイやホイヤー カレラと同じキャリバーを使用していた。さらにケースはすべてイギリス国内で製造されたことも誇らしげにアピールしていた。以前のデニソンの価格は、おおよそ3500ドルから4050ドル(当時の相場で約38万~44万円)の範囲であった。
2024年のデニソン再始動と今回の新作は、2016年の製品とは完全に対照的であり、それは意図的なものである。トビー・サットン(Toby Sutton)氏はデニソン初の復活プロジェクトを率い、今回もその中心人物として関わっている。サットン氏は当時のDENCO53が市場に受け入れられなかったことを理解している…少々やりすぎだったのだ。彼はデニソンの熱心な愛好家であり、同ブランドのヴィンテージコレクターでもある。彼に“かつてのデニソンの重要性”について語らせたら止まらないだろう。最初の復活プロジェクトでは、彼自身にとって、そして時計愛好家にとって完璧な製品を提示したつもりだった。2016年当時、ヴィンテージ愛好家に“デニソンのケースはイギリスで製造されるべきか?”と尋ねれば、その答えは“当然だ”と返ってきただろう。しかし現実には、細部にまでこだわった製造はとてもコストがかかるものだった。コストは急上昇し、それに伴い小売価格も高騰したのである。
デニソンのアーカイブ資料には、1950年代のケース製造カタログや、さまざまなラグオプションが記載されている。
同じくヴィンテージウォッチ愛好家として、私自身も2016年のデニソンのようなブランド復活の夢を描いてしまうことがある。ヘリテージブランドがヴィンテージウォッチに精通したコレクター向けに、“完璧な製品”を生み出せなかったことを批判するのは簡単だ。しかし、たとえばバルジュー72の復活させたり、ウォッチメイキングの基盤がほとんど存在しない国でケースを生産したりすることにかかるコストを正確に理解するのは容易ではない。
サットン氏とそのチームは2016年の経験から学んだ。2016年のデニソンは非常に真面目なアプローチをしていた。当時の“本格時計”市場の激しい競争を考えれば、今回発表された2024年のA.L.D.コレクションはきわめて理にかなっている。今回の復活では、新たな視点を持つ先見性あるメンバーが加わり、これまで存在しなかった“もしも”のデニソン像が描かれた。もしデニソンが1967年に失敗しなかったら? クォーツウォッチ時代を経た現代に、デニソンが存在していたらどのような姿になっていただろうか? この問いに対する答えが、今回の製品の中心に据えられているのである。
この問いに答えるため、デニソンは名高いウォッチデザイナー、エマニュエル・ギュエ(Emmanuel Gueit)氏に協力を仰いだ。彼はオーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショアをはじめとする数々の傑作を手がけた人物である。ウォッチデザインはギュエ家に脈々と受け継がれる才能だ。エマニュエル氏の父、ジャン=クロード・ギュエ(Jean-Claude Gueit)は20世紀で最も影響力のあるデザイナーのひとりとされ、1970年代にはピアジェ ポロやロレックス チェリーニといったモデルを手がけた。エマニュエル氏自身は、このデニソンのデザインが新しくてフレッシュなものであると強く主張しているが、父の作品からの影響を見出さずにはいられない。それがこの時計を一層魅力的なものにしている。まるで息子が父の偉大な功績に敬意を表した、愛情あふれる手紙のようだ。
こうした背景はとても興味深いが、一歩引いて純粋にデニソン A.L.D.を時計そのものとして見た場合でも、楽しく、日常的に使いやすい製品であり、独自性のあるデザインである。そして何より、その価格帯ではほかに類を見ない存在だ。
ゴールドPVD仕上げのタイガーアイ。
半クッション型、半楕円型とも言えるケースは横幅33.65mm、ラグからラグまでは37mmだ。一見シンプルな形状だが、手首につけるとそのデザインは驚くほど表情豊かだ。もちろんこうした表現は陳腐に聞こえるかもしれないが、この時計は写真だけではその魅力を十分に伝えきれないことは伝えておきたい。正直なところ、最初は新作への興味からプレスプレビューに足を運んだが、強い期待を抱いていたわけではなかった。しかし実物を手に取り、1週間ほど装着する機会を得た今、私はこのケースデザインに感動した。特に印象的だったのはTalking Watches最新回のゲスト、アダム・ヴィクター(Adam Victor)氏との打ち合わせ中の出来事だった。私の手首にあるこの時計を見て、彼はテーブル越しに1980年代のオーデマ ピゲと見間違えたのだ。これは非常に高い評価と言えるだろう。
デニソンのダイヤルバリエーションは、コレクターの目を最初に引きつける要素だろう。特に目を引くのは、タイガーアイ、マラカイト、ラピスラズリ、そしてアベンチュリンという天然石を使用したA.L.D.コレクションの選択肢だ。タイガーアイやマラカイトに見られる独特の縞模様や、ラピスラズリのきらめく内包物など、天然石ダイヤルならではの魅力が存分に発揮されている。もちろん、デニソンがこの価格帯で天然石文字盤を提供すること自体は完全に独自というわけではない。しかしこれらが広く手の届くものになったことは素晴らしいことであり、この動きが時計界に再び広がり始めていることをうれしく思う。かねてからマラカイト文字盤のロレックス デイトジャストを所有することを夢見てきた(今もその夢は消えていない)が、それまではデニソンの時計を通じてマラカイトの美しさを手元で楽しむことができる。それだけでも十分に価値があると感じる。
異なるインクルージョンを見せる、ふたつのラピスラズリの例。
天然石のオプションは確かに目を引くが、標準的な“サンレイ”ダイヤルも見逃せない。特に写真ではその繊細な仕上げを完全に捉えることが難しく、光の加減によってはその美しさが控えめに輝く。しかしその結果として、無機質でも未完成でもない、絶妙なバランスのキャンバスが生まれている。ちなみに、私は個人的に天然石ではなくサンレイブラックダイヤルをコレクションに加えることにした。これが私にとってのベストだったのだから、文句は言わないで欲しい。
民主化といった言葉や価格帯への言及からもお察しいただけるだろう。デニソン A.L.D.コレクションは、サンレイモデルが490ドル(日本円で約7万8600円)、ストーンモデルが690ドル(日本円で約11万700円)という魅力的な価格設定となっている。
サンレイブラック。
どうやってその価格を実現しているのかと疑問に思うかもしれない。そう、ケースとダイヤルは香港で製造されている。そして正直に言えば、手に取った際の全体的な感触はやや軽く感じる。しかしデニソン A.L.D.コレクションを駆動するムーブメントは、スイス製クォーツのロンダCal.1032-1だ。このムーブメントの選択は、デニソンの担当者が特に強調したがっていた点であり確かに注目に値する。なぜならスイス製ではないクォーツムーブメントを選ぶほうが、より簡単かつ合理的な選択肢だったはずだからだ。
時計愛好家向けとしては少々物足りない仕様かもしれないが、その反論として、この記事の冒頭に立ち返ってほしい。デニソンは徹底的に正しい方法で時計愛好家向けの製品をつくるというブランドだった。2016年にデニソンは優れた時計を世に送り出したが、市場はそれに明確な答えを返したのだ。そしてこの真剣な試みがあったからこそ、デニソンの名は2024年のはるかに興味深い製品にたどり着くことができた。2024年のデニソンは、その“真面目すぎなさ”がむしろ称賛に値する。自らを偽ろうとせず、ありのままの姿で存在している。これはユニークなデザインと優れた価格設定を兼ね備えた、唯一無二の時計なのだ。
だからこそ2016年のデニソンには感謝したい。あの時の挑戦があったからこそA.L.D.コレクションのための道が開かれ、今この時計が存在している。これは時計の世界では珍しい製品のひとつだ。初めての1本としても、あるいは200本目としても、同じように満足できる時計だろう。その魅力は経験豊富なコレクターだけでなく、TikTokのタイムラインで“ライブ交渉”動画(アイテムの売買交渉や取引の様子をライブ配信する動画)を見すぎた、時計に興味を持ち始めたばかりのユーザーにまで広がるはずだ。
ゴールドPVDのアベンチュリン。
マラカイト。
デニソン A.L.D. コレクション。ケースは33.64mm幅で、ラグからラグまでは37mm、6.05mm厚のステンレススティールまたはゴールドメッキ(PVD)ケース。30m防水。天然石(タイガーアイ、マラカイト、アベンチュリン、ラピスラズリ)またはサンレイ仕上げの文字盤に時・分表示。スイス製ロンダクォーツCal.1032-1搭載。20mm幅のクロコ型押しフルグレインレザーストラップ、ケースに合わせた形状のデニソン製クラスプ。価格はサンレイダイヤルモデルが490ドル(日本円で約7万8600円)、ストーンダイヤルモデルが690ドル(日本円で約11万700円)
詳しくはdennisonwatch.comをご覧ください。