時計の世界でも、楽しい一年が終わりを迎えようとしている。毎年恒例となっている、“2024年のお気に入り時計”のまとめも始まる時期だ。今回は2024年の年末特集の幕開けとして、HODINKEE編集部に“1500ドル(日本円で約23万5000円)以下で購入できるお気に入りのバジェット(低予算)ウォッチ”を選んでもらった。
今年は70年代的なLEDウォッチからブラックアウトされたムーンスウォッチ、小型化したクラシックなダイバーズ、HODINKEE限定モデルの人気作、ストーンダイヤルの魅力的な1本など、多様なラインナップがそろった。記事を読み終えたら、ぜひコメント欄で2024年のバジェット時計としてあなたのお気に入りを教えてほしい。
スウォッチ×オメガ ミッション トゥ ザ ムーンフェイズ ニュームーン
時計は楽しむものだ。だが高価で魅力的な“贅沢品”に多額の費用が費やされている現実のなかで、その楽しさを忘れてしまうこともある。しかし、手ごろで気軽に楽しめる時計であるはずのムーンスウォッチが、なぜこれほど多くの人々のあいだで議論を呼んだのか理解できない。少なくとも私にとっては違う。私は時計を楽しむのが好きなだけなんだ、そうだろう?
それはさておき、少なくとも“手ごろさ”というテーマにおいてムーンスウォッチはすべてを変えた。ニューヨークをはじめ世界中で突然、誰も彼もがこの時計を手首につけているのを目にするようになった。そしてウェイターや近所の人、駅で待っている人と時計の話を始めることが増えた。そう、私がちょっと変わり者なのは認める。でも時計好きと一般消費者のギャップを埋めるような文化的な“瞬間”を作り出した時計は、最近ではほとんどないのではないだろうか? そういった時計で最後に思い出せるのは、ポール・ニューマンのデイトナじゃないか? とはいえそれに17億8000万ドルも費やせる人はそうそういない。ムーンスウォッチならほとんど誰でも手に入れることができ、自分の好みに応じて多様な満足感を得られるのだ。
2024年には特に目を引くムーンスウォッチがいくつかあった。そのなかでも青いスヌーピーは購入しようと思いつつ、結局そのために出かけるのを忘れてしまっていた1本だ。しかし、今回のリストに黒いスヌーピームーンフェイズを選んだのはなぜか? それは実際に私が購入したからだ。それも、Watches & Wondersの後の疲労感のなか空港で手に入れたものだ。頻繁につけるわけではないが、手首に巻くたびに微笑んでしまう。300ドルちょっとで手に入る時計としては、それで十分ではないだろうか。
– マーク・カウズラリッチ、エディター兼フォトグラファー
G-SHOCK Ref.5600 by ベン・クライマー
この時計をわざわざ今年のお気に入り(1500ドル以下かどうかに関わらず)だという理由を説明する必要があるだろうか? 私にとってカシオは、腕時計というものを認識し始めたころからずっと身近にある存在だ。そんな私が自分でデザインし、自分の名前を冠した時計を作る機会を得られるなんて、夢のような体験だった。特にこうしたプロジェクトに関わることができたことは、自称時計マニアである私にとって最高の喜びだ。この時計が多くの人の手に渡り、それぞれの場所で愛用されているのを目にするたびに誇らしい気持ちになる。そしていつか自分の子供たちにこれを贈る日を楽しみにしている。私自身この時計をほぼ毎週末につけているが、5600シリーズのフォーマットは非常に実用的で、どんな場面にもよくなじむ。
– ベン・クライマー、HODINKEE創業者兼プレジデント
ハミルトン “ミニ” PSR 74
ハミルトンのPSRは2020年に登場した時計で、世界初のLED(発光ダイオード)ディスプレイを搭載したパルサー・タイム・コンピューターを基にしたモデルである。今年ハミルトンはステンレススティール(SS)とイエローPVDコーティングを施したSSの両方で、小型化されたPSRをリリースした。正直なところこのダウンサイジングは、普段なら見過ごしてしまいそうな復刻モデルに興味を引かれるきっかけとなった。また2024年はティファニーのリテールのアーカイブを深掘りし、そのなかで発見したブルーボックスのアメリカンリテーラー(ティファニーのことだ)が販売していたP1モデルによってパルサーへの関心がピークに達した年でもあった。
1970年に初めて発表されたハミルトンのパルサー・タイム・コンピューターは当時“最も革新的な時計のひとつ”と称された。しかし同時に、非常に高価な時計でもあった。市場に登場する2年前に発表されていたこの時計は、ソリッドゴールドのケースで作られ、価格は2100ドル(当時のレートで約75万6000円)。これは当時、ゴールド製ロレックスよりも高価だった。
現在発売されているPVDコーティングの“ミニ”モデルは13万5300円(税込)と非常に手ごろな価格で提供されているが、私がこの時計に引かれる理由は1970年代のオリジナルと同じだ。それは、レトロフューチャリスティックなデザインが持つ魅力である。このデザインはビートルズが着ていたピエール・カルダンのキャットスーツや、アンドレ・クレージュ(André Courreges')が1964年に発表したムーンガールコレクションに通じるものがある。“スペースエイジ”デザインの素晴らしい点は、その魅力が時間の経過とともに未来的なものからレトロフューチャリスティックへと変わったことだ。今日では未来が『宇宙家族ジェットソン(原題:The Jetsons)』のようになると考えている人はいない。しかし1960年代から70年代にかけてのこれらのデザインは、いかにも当時の時代を感じさせるものだが、今なお独特の魅力が宿っている。そして時計職人たちは依然として、その美学を取り入れながら腕時計というキャンバスのうえで遊び続けているのだ。
– マライカ・クロフォード、スタイルエディター
デニソン A.L.D. マラカイト
最初に思い浮かんだのはムーンスウォッチや、ウニマティックのあらゆるラインナップだった。しかしもう少し熟考した結果、そしてマークとタンタンが早々に自分のセレクトを決めてしまったこともあり、私の選択はデニソンのA.L.D.に落ち着いた。確かにこれは、最近私が実際に触れたばかりの時計だというのは認める。しかしこの時計は690ドル(日本円で約10万8000円)という価格にもかかわらず、自信を持ってすすめたくなる製品だ。ケースはエマニュエル・ギュエ(Emmanuel Gueit)によってデザインされており、文字盤の選択肢は非常に魅力的だ。そしてこの時計はほかのコレクションと比べてもひと目で違いがわかる独自の個性を持ち、手首の上で存在感をしっかりと主張できる時計に仕上がっている。
最新のHODINKEE Radioで2024年を“シェイプドウォッチ(独自の形状を持つ時計)の年”と宣言した私だが、この時計の存在がそれを裏付けている。しかも手の届きやすい価格帯でその“トレンド”を提供しているのだ。みなさんにとって、少しでも役立つ情報になれば幸いだ。
–リッチ・フォードン、エディター
ウニマティック×MoMA モデロ・チンクエ Ref.U5S-MoMA-Y
これは簡単だ。今年購入した時計のなかで、着用するたびに最も喜びをもたらしてくれた時計だからだ。このリリースを見逃している人のために説明すると、ミラノ拠点のユニマティックとマンハッタンにある近代美術館(MoMA)がコラボレーションしたウニマティックとの2作目となる。最初のシリーズはMoMAのチケットのカラースキームから着想を得ていたが、今回のシリーズはデ・ステイル(オランダ語で様式の意)運動を緩やかにもとにしており、ピート・モンドリアン(Piet Mondrian)の代表作に見られる色彩が取り入れられている。
このリリースを知ったその日、私はすぐにMoMAデザインストアへ向かった。まだ店頭に商品が並ぶ前のタイミングだったが、対応してくれた店員さんには本当に感謝している。観光客で混雑しているなか、彼女は時間を割いて3本それぞれのカラーコンビネーションを見せてくれた。
文字盤に使われた原色の配色は控えめで、全体のデザインがとても洗練されている。さらにモデロ・チンクエのケースは以前よりも私のなかでの評価が高まっており、この小型ケースはデザイン面における将来的な可能性を明示している。セリタ製ムーブメントに300mの防水性能を備えており、遊び心がありながらも本格的な性能を持つ、まるでおもちゃのような1本だ。私はこれを黄色いラバーストラップに付け替えた。この時計にさらに魅力を加えているのは、MoMAが販売元であることを示すダブルサインの文字盤だ。このディテールはコラボレーションにぴったりだ。
–タンタン・ワン、エディター
ドクサ サブ 200T
2024年の中間時点でお気に入りのスポーツウォッチとして選び、その後購入。そしてこの年末にバジェットウォッチとして再び選ぶことになったのが、ドクサ サブ 200Tだ。確かにこの時計はストラップやブレスレットの選択によって、予算の上限を50~100ドルほど超える場合がある。しかしその程度の予算オーバーに見合う価値があると僕は思う。この写真に写っているのは39mm径のサブ 200T “カリビアン”、青い文字盤のモデルだ。このカラーは私のお気に入りのひとつであり、最終的に私が選んだ“ダイビングスター”(黄色)と激しく迷った強力なライバルだった。
私はドクサが大好きだ。このブランドが300や300Tの魅力をそのままに、より小型で手ごろな価格の選択肢を生み出したことを本当にうれしく思う。約1550ドル(日本円で約24万円)という価格で、14色以上のカラーバリエーションから自分の気分に合ったものを選べるのも素晴らしい。クラシックな“シャークハンター”や“シーランブラー”、“プロフェッショナル”はもちろん見逃せないが、“カリビアン”や“ダイビングスター”にもぜひ注目して欲しい。この価格帯でこれほど楽しい時計はまれであり、200Tはその魅力の核心をしっかりと捉えている点で、先代のサブ 200(これも非常にいい時計だが)を凌駕している。
この時計はもちろん“スポーツウォッチ・オブ・ザ・イヤー”や“ウォッチ・オブ・ザ・イヤー”にもなり得た1本だが、バジェットカテゴリーでもしっかりと輝いている。
– ジェームズ・ステイシー、編集長