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Editors' Picks Watches & Wonders 2024で見つけた、HODINKEE Japan編集部お気に入りの1本

今年も世界最大級の時計見本市が幕を閉じた。怒涛の新作ラッシュを振り返り、HODINKEE Japan編集部員が特に気に入ったリリースをピックアップしてみよう。

4月9日(火)から15日(月)までの1週間で、今年も時計界最大の見本市であるWatches & Wonders 2024が開催された。今年は出店ブランド数が増加(46ブランドから54ブランドへ)しただけでなく一般公開日も追加されるなど開催前から何かと話題になっていたが、会期中は我々HODINKEE Japanも参加し、連日現場からホットな情報をお届けしていた(Youtubeチャンネルで各ブランドの速報動画もアップしている。見てみて欲しい)。今回はサプライズに満ちた新作群のなかから、各編集部の記憶に残った時計を紹介していく。Watches & Wondersに関する記事もチェックしながら、ぜひ自分のお気に入りの1本も探して欲しい。


カルティエ 「サントス デュモン リワインド」
By Masaharu Wada

Photo by Masaharu Wada

 2024年のカルティエのリリースで最も目立っていたのはおそらく「トーチュ」コレクションでしょう。もちろんそれらも素晴らしいものでしたが、個人的に一番惹かれたのは「サントス デュモン リワインド」でした。歯車を追加して、ただ時間表示がリワインドしている(巻き戻される)だけではないのかと思うかもしれませんが、実はそこに大きな意図が隠されているのではないかと思ってしまうのです。そう思うようになったのは、僕の友人でニューヨークで時計店Carat&Co.を経営するデレック氏(@theminutemon)と会話をしたことがきっかけ。

 リワインドの背景を考えるためのキーは3つあります。まず最初の出発点は「時計の運進がなぜ右回りなのか」ということ。これは諸説ありますが、地球にあった多くの文明が北半球にあったからというのが大きな理由とされています。北半球で日時計を見ると影は右回りに動いていますよね。そのため時計回り=右回りなのです。では逆回転になるのはどこでしょうか...。

Photo by Masaharu Wada

 これを理解する上で最初に考えるべきは「時計の運進がなぜ右回りなのか」ということ。これは諸説ありますが、地球にあった多くの文明が北半球にあったからというのが大きな理由とされています。人類最古の時計は日時計で、紀元前5000年ごろのエジプトが発祥とされています。エジプトのある北半球で日時計を見ると影は右回りに動いていますよね。時計回り=右回りはここら来ているのだろうということ。では逆回転になるのは地球上でどこでしょうか?

 簡単すぎましたね。そう答えは南半球です。北半球で定められた右回りのルールに南半球が倣ったことで、時計回りは右回りという今の世の中の常識が定められているのです。ひとつめのキーは南半球。

Photo by Masaharu Wada

 では、次のキーはというと「サントス デュモン」ウォッチの出自にあるのではないでしょうか。「サントス デュモン」をカルティエに発注したのは、ご存じのとおりアルベルト・サントス=デュモンです。彼はブラジル出身の飛行家で、操縦桿を握りながらでも計時ができるようにと要望してできたもの。ブラジルは南半球に位置します。つまり日時計が左回りになる国。

 そして3つめのキーは本モデルのカーネリアンラッカーのダイヤルです。素材であるカーネリアンの原産国はインド、ウルグアイなどもありますが、ブラジルもそのひとつ。カーネリアンのダイヤルはカルティエのブランドカラーでもある深い赤いカラーです。世界初の腕時計がカルティエであったという誇りをアピールしているかのように感じます。

ケースバックの「サントス デュモン」のロゴも鏡文字に(Photo by Mark Kauzlarich)

 この推測はプレスリリースで語られているものではないですが、南半球に位置するブラジル、そのブラジル出身のアルベルト・サントス=デュモン、そしてダイヤルの素材という3要素がこの不可思議なリワインドウォッチの背景にあるのではないかと僕もどうしても勘繰ってしまうのです。

価格: 583万4400円(税込予価) その他の詳細は、カルティエ公式サイト


グランドセイコー SLGW003 ブリリアントハードチタン
By Yusuke Mutagami

Photo by Mark Kauzlarich

 実際に会場に行ったという人も、日本からSNSや記事で新作情報を追いかけていたという人も、今年のWatches & Wondersは楽しめただろうか。僕は残念ながら会期中日本にいたのだが、日々津波のように押し寄せるリリースに目を通しながら遠いジュネーブの地に想いを馳せて過ごしていた。わずか2mm厚のフライングトゥールビヨン世界最薄のCOSCウォッチに胸を躍らせ、3900mまで潜水できる金無垢のダイバーズに虚をつかれながら、このなかで実際に手に取って見られるとしたらどれがいいだろうと、1週間悶々としていたのだ。

 もちろん、和田が紹介しているカルティエのリワインドや美しいブレスを装着したゴールデン・エリプスのように、その発想のユニークさや超絶技巧の粋に触れたいという好奇心から見てみたい時計はいくつもあった。だが、純粋な時計としての美しさという点で、グランドセイコーから発表された手巻きのドレスウォッチ、SLGW003は僕の心を強く打った。

Photo by Mark Kauzlarich

 デザインのベースとなっているのは、1960年代から続くセイコースタイルの発展形として2020年に発表された“エボリューション9スタイル”。筋目と鏡面を組み合わせることで立体的な陰影を生み出したケースラインの内側では、ダイヤカットを施したインデックスと多面カットの針が燦然と輝いている。実はこのケースはグランドセイコー独自のチタン合金であるブリリアントハードチタンでできている。かつては初代グランドセイコーデザイン復刻モデルにも使われたこの素材はレギュラーモデルではこのSLGW003のみに採用されており、チタンならではの軽さに加え、SSの約2倍の硬度を持つ。ドレスウォッチにチタンと聞くと少々珍しく感じるが、ザラツ研磨による煌びやかな光沢はマーク曰くまるでホワイトゴールドかプラチナのようであるという。手巻きのドレスウォッチにもマッチするエレガンスを担保しつつも時計としての実用性も忘れな、“最高の普通”を標榜するグランドセイコーらしい選択に思える。有機的な質感の白樺ダイヤルとのコントラストも面白い。

Photo by Mark Kauzlarich

 もうひとつの推しポイントとして、約50年ぶりとなる新作の手巻きムーブメントCal.9SA4が挙げられる。ツインバレルによる80時間のパワーリザーブにデュアルインパルス機構を備える自動巻きのCal.9SA5をベースとしているが、ただローターをとっぱらったというだけではない。ブリッジを含めた全体の4割を今作のために再構築し、100万円越えの時計にふさわしい美観を獲得した。手巻きムーブメントへのアレンジはケースの薄型化にも貢献していて、10mmを切る9.95mmとなっている。ただでさえ低重心で、つけやすさに定評のあるエボリューション9スタイルだ。薄さはドレスウォッチに欠かせない要素だが、素材の軽さと相まって着用感にも優れたパッケージになっているのだろうと思う。

 とにかく合理的だ。既存のエレガンスコレクションが見せるひたすらにクラシックな魅力も捨て切れないが、個人的には革新性とのバランスもとったSLGW003はよりグランドセイコーらしい時計であるように見える。200万円以下の自社製手巻きドレスウォッチという記事もあったが、今同じ企画を実施したら採用される可能性は高いだろう。見た目やコンセプト的に派手なモデルだけが注目されるわけではない、というメッセージも込めて、僕はこのドレスウォッチを推したい。

価格: 145万2000円(税込) その他の詳細は、グランドセイコー公式サイト


アンジェラス インスツルメント ドゥ ヴィテッセ 60セカンド クロノ
By Kyosuke Sato

Photo by Kyosuke Sato

 正直に言うと、実際につけたいと思う時計はほかにあった。初のルーセントスティール™モデルとなるショパールのL.U.C カリテ フルリエ、復活を遂げたパルミジャーニ・フルリエのトリック プティ・セコンド、そして複雑な工程を経て生まれる見惚れるほど繊細なダイアル、さらにケースデザインと構造に手を加えて進化したIWCのポルトギーゼコレクション。そうそう、ローラン・フェリエのクラシック・ムーンも実に心を引かれたが、どれもがそれぞれ魅力的で、どうしても甲乙を付けることはできなかった。そこで改めて自身の心の声に従い、“純粋に最も興味を引かれた時計は何だったか?”を振り返って心に浮かんだのが、このアンジェラスの新作だった。

 一見しただけではクラシックな3針時計のように見えるが、インスツルメント ドゥ ヴィテッセのセンターセコンド針は計時用で、最大60秒間の平均速度を測定する短時間用クロノグラフとなっている。しかもリューズトップのボタンに操作系を集約したモノプッシャークロノグラフで、スタート・ストップ・リセットの操作はこのひとつのボタンで行われる。

 直径39mm、厚さ9.27mmのステンレススティール製ケースに収まるのは、厚さ4.2mmの手巻き式クロノグラフ Cal.A5000である。このムーブメントは、アンジェラスの親会社にあたるラ・ジュー・ペレ(両社ともシチズンウォッチグループに属する)によって製造されているものだが、もともとは独立時計師のヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)、F.P.ジュルヌ(F.P. Journe)、そしてドゥべトゥーンを立ち上げたドゥニ・フラジョレ(Denis Flageolet)氏らが設立したTHA エボーシュによって設計されたモノプッシャークロノグラフムーブメント。かつてはカルティエの「トーチュ」や「タンク」のモノプッシャークロノグラフ、ドゥ・ベトゥーンのクロノグラフ DB01といった一部のモデルで使用されていた(このムーブメントの権利はその後、旧ジャッケSAが取得し、のちにラ・ジュー・ペレへと変わった)。

Photo by Kyosuke Sato

 2万1600振動/時、コラムホイールとキャリングアーム式の水平クラッチという極めて古典的な設計を持つ本作は、アンジェラスの歴史における古典的作品を復刻し、再解釈したラ ファブリックコレクションに新たに加わるもので、昨年リリースされたクロノグラフ メディカルに続く第2弾。同コレクションにふさわしいクラシカルなムーブメントだ。

 インスツルメントドゥ ヴィテッセはふたつのバージョンで展開されているが、ひとつはエボニーブラック(黒炭色)のダイヤルにキャラメル色のカーフレザーストラップを合わせ、アプライドインデックスのアラビア数字にはロジウム加工を施す。もうひとつは、アイボリーホワイトダイヤルにミッドナイトブルーのヌバックストラップを合わせ、こちらのインデックスは黒の縁取り仕様。ともに時針と分針、そしてインデックスには夜光塗料が塗布されている。

Photo by Kyosuke Sato

 現在のアンジェラスが復活したのは2015年(2011年にラ・ジュー・ペレに買収され、2015年にシチズンウォッチグループのブランドとして再スタートした)。当時は名門アンジェラスの復活を聞き心踊ったが、復活第1弾となった最初の時計は、かつてのアンジェラスの面影がまったくないアヴァンギャルドなデザインのトゥールビヨンウォッチ。その後もリリースされる時計は、いずれもモダンなデザインのプロダクトばかりで、だんだん筆者の興味は薄れていった。

 往時を懐かしむ復刻モデルばかりを手がけることがいいとは決して思わないが、筆者がアンジェラスに求めていたのは、やはり本作で見られるようなヴィンテージウォッチを思わせる古きよき時代のデザインなのだ。新作はともに各25本のリミテッドエディションで、正直に言うと、ブランドにおいてメインストリームとなるモデルではない。だが、筆者はアンジェラスがこのようなクラシックなモデルをリリースしてくれたことを心から歓迎している。 おかえり、アンジェラス!

価格: 352万円(税込予価) その他の詳細は、アンジェラス公式サイト


エルメス エルメス カット
By Yuki Matsumoto

Photo by Masaharu Wada

 Watches & Wondersで披露されたエルメスの新作レディスモデル、“エルメス カット”は、洗練されたデザインと実用性を兼ね備えた時計だ。最大の特徴は、1時30分位置に配置されたリューズと、36mmのケースサイズである。このケースはステンレススティール、SSとピンクゴールドのツートン、各ケースにダイヤモンドがセットされた4種類で展開。特にSSのラバーストラップモデルは100万円を切る価格なのがうれしい。

 一番心引かれたのはやはり、エルメスなりの解釈が加えられた一体型ブレスレットスポーツウォッチという点だ。主力のエルメスH08コレクションより丸みを帯びたフェミニンなケースシェイプを持ちつつ、スポーツウォッチであることがひと目で分かる。というのも昨年からショパールシチズンといったラグスポテイストウォッチに魅力を感じていた私は、エルメス カットの純粋なエレガンスに新たな魅力を発見したのだ。エルメスが長年にわたり培ってきた技術と洗練された美学が、この新コレクションにも生かされていると感じる。

Photo by Masaharu Wada

 また搭載されたクイックチェンジ機能により、ラバーストラップへの交換が容易に行える点も大きな利点だ。ラバーストラップは使いやすいホワイトや淡いグレーから、メゾンカラーのオレンジレッドやブルーといったエレガントな色彩が揃っている。時計自体は100万円を切る価格のため、購入者は様々なストラップを揃えたくなることだろう。

 ひとつ気になる点は、ネイルをしている私が、3・9時位置以外にあるリューズを操作するのに少し手こずることだ。ただ操作のしやすさについてはモデルによって異なり、実際に手にとってみないとわからない点もある。またリューズ位置が独特であること自体が、この時計のユニークな特徴として際立っており、その操作性に慣れれば日々の使用においても大きな支障とはならないだろう。

価格: SS 、ラバーストラップは93万8300円(税込) その他の詳細は、エルメス公式サイト


カルティエ タンク ルイ カルティエ ミニ
By Yu Sekiguchi

 今年のショーに対する見方は人それぞれで、単なる文字盤チェンジやバリエーションの追加が多くてがっかりしたという意見もあれば、手堅いラインナップを目にしてこの産業が浮かれ過ぎていないことに安堵したという声もある(僕は後者に賛成だ)。ここ数年のブームで過度に増大した高級時計のニーズはブランドにとって舵取りを難しいものにさせているのは明らかだが、2020年代のウォッチトレンドにおいて明確な勝者のひとりであるカルティエが、今年も前を向いてものづくりをしていることを確認できてよかった。その立役者でもあるトーチュ モノプッシャーが復活、和田君も上で書いているように、野心的な挑戦を独創的に表現したサントス デュモン リワインドなどは、ショーのヒーローピースとしての役割を十分に果たしただろう。

 さて、今年僕は、シリル・ヴィニュロンCEOに直接インタビューする機会を得た(その全貌はまた記事にさせて欲しい)のだが、時計マニアの心をくすぐるモデルを毎年リリースしたり、メンズ・レディスの境目がないような時計を増やしたりと、全くベクトルの異なる動きは何が源泉となっているのか尋ねた。その答えはひとつのフレーズで表せるものではなかったけれど、この小さなサイズのタンクにその一端があるように思えた。

 カルティエは言うまでもなくヴィンテージを熟知しており、現在の二次マーケットにも目を光らせている。それが名作たちの復刻のインスピレーションになっているが、もうひとつサイズの垣根も超えていく裏付けにもしていると僕は考えている。昨年のベニュワール バングルは世界中で男性が購入する例も多いとシリルCEOから伺ったが、それは、明確に「フェミニン」と「マニッシュ」を意識してクリエーションをしていないことも理由にあるだろうと語っていた。それは、このタンク ミニにも言えることだろう。

 僕は普段、1980年代製のタンク ノルマル LM(Ref.78092)を愛用しているが、そのサイズは30×23mm。新作のタンク ルイ カルティエ ミニはひと回り小さい24×16.5mmだが、着用感には共通したものを感じて、僕にとっては普段使いするのに違和感がなかったのだ。ヴィンテージを愛用している人にもこの時計は意外と刺さるものかもしれない。ともあれ、サイジングやシェイプの観点から時計を生み出し、発展させていくのはこのメゾンの常套手段だ。「フェミニン」「マニッシュ」の境目がないならば、このような小さなサイズの時計にも搭載できる機械式ムーブメントの開発も進んでいて欲しい、というのは僕の願望も混じっているが、今後の展開を占う上でこのタンク ミニが生み出す結果は意外に小さくないのだと僕は考えている。

価格: 106万9200円(税込予価) その他の詳細は、カルティエ公式サイトへ。