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パイロットウォッチとひと言でいっても、実にさまざまな種類がある。コックピットでの視認性を重視した航空時計は、永遠の定番カテゴリであるフィールドウォッチを進化させたかのような存在であり、スポーツウォッチの歴史において重要な位置を占めている。
HODINKEEではアヴィエーションをテーマにした週末を迎えるにあたり、チームの数人にお気に入りのパイロットウォッチを教えてもらった。古いものから新しいもの、珍しいもの、そしてクォーツのものまで、パイロットウォッチというジャンルで思いつく価値ある腕時計を紹介していこう。もしお気に入りがこのなかになければ、コメントで教えて欲しい。
ブレゲ タイプ XX オンリーウォッチ 2021(Breguet Type XX For Only Watch 2021)
ブレゲの新作、タイプ XXとタイプ 20の発表に立ち会ったばかりなので、その新鮮な気持ちにのっとって選ぶことにした。とはいえ、航空計時を定義した時代のリファレンスとして、タイプ 20がいかに特別な存在であるかを意識せずにはいられない。タイプ 20の“20”は単なる型番ではなく、フランス国防省が定めたパイロットウォッチ、より具体的にはパイロットクロノグラフの規格を示すものであった。私にとってパイロットウォッチとは、計器のみでフライトするパイロットがほぼ盲目の状態でターンのタイミングを計ることができる、フライバック機能付きのクロノグラフモデルを指す。そして、これは最も象徴的なもののひとつだ。しかし、なぜオンリーウォッチ 2021のモデルを私が選んだのか。
シリンジ針、38.5mm径のケース、ビッグアイのインダイヤルなど、ほぼ完璧だ。確かにフェイクパティーナのトロピカルダイヤル(または民間モデル風のベゼル)については非難の対象になるかもしれない。しかしヴィンテージウォッチを愛する者として思うのは、自分の手首にはブラウンで使い込まれたような風合いの、だが本物のヴィンテージピースにはつけたくない摩耗や傷に強い時計が欲しいということだ。手巻きのバルジュー235ムーブメントはオリジナル(Cal.222)とまったく同じとはいかないものの、パテックが初期のクロノグラフウォッチ用に改良したバルジュー23ムーブメントと同じ系列のもので、よく似ている。このユニークピースが25万スイスフラン(日本円で約3855万円)で落札されたというのも納得だ。
–マーク・カウズラリッチ(Mark Kauzlarich)、エディター
IWC マーク XVIII HODINKEEエディション(IWC Mark XVIII Edition Hodinkee)
さて、自分が製作に携わった時計を選ぶなんてダサいと言われそうだが、このノンデイトでマットブラックのマーク XVIIIを世に送り出してから5年近くが経った今でも、私はこの時計を愛用している。そのインスピレーションの源となったのが、もうひとつのお気に入りであるRef.3705であり、私たちがこのモデルでやろうとしていたことをみんなは本当によく理解してくれたと思う。
この時計は私と一緒に幾度となく世界中を旅し、グラミー賞受賞者がステージで着用する姿を目にしてきた。現代のパイロットウォッチにおける、素晴らしくも純粋で、永続的なビジョンがここにはある。私はHODINKEEでの活動すべてが大好きだが、この作品は特に気に入っている。
–ベン・クライマー(Ben Clymer)、ファウンダー
ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター デイト(Universal Geneve Polerouter Date)
ユニバーサル・ジュネーブのポールルーターは、目を閉じて“パイロットウォッチ”を思い浮かべたときのイメージとはまったく異なる。大概はブライトリングやブレゲ、IWCの大型モデルを想像するのではないだろうか。しかし、ポールルーターにはパイロットウォッチとしての独自の実績があるのだ。ユニバーサル・ジュネーブは1954年、スカンジナビア航空(SAS)との提携により、当時20代前半の若手ながら有望視されていたジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)のデザインによるポールルーターを発表した。この腕時計は北極上空を飛ぶSASのコペンハーゲン-ロサンゼルス間の新路線のために、さらなる耐磁性を念頭に置いて開発されたものだ。
こうしたオリジンストーリーを超えて、私はポールルーターのデザインを愛している。若いジェンタからこのデザインが生まれるのを目の当たりにするのは、2002年に高校生たちを圧倒する若きレブロン・ジェームズ(Lebron James)を見るようなものだっただろう。彼は別格の存在だったのだ。私はこの時計の重要なポイントはデイト窓にあると考える。絶妙な台形フォルムは、その後のジェンタのキャリアを象徴する幾何学的な遊び心を示唆するものだ。
この時計は、伝統的な“パイロットウォッチ”ではないかもしれない。なんだか小さくて上品な印象で……、まあ、私自身も友人たちにそう表現されている。
–アンソニー・トライナ(Anthony Traina)、エディター
IWC 18Kイエローゴールド製フリーガークロノグラフ Ref. 3741(IWC Fliegerchronograph In 18k Yellow Gold Ref. 3741)
数週間前、私はニューヨークの6番街を歩いていて、ブヘラ 3 ブライアント・パーク(Bucherer 3 Bryant Park)の前を通り過ぎた。そのとき、IWCの巨大なブランドディスプレイが目に飛び込んできたのだ。そこには高さ2フィート(約60cm)超えの大型フォントで、“The Big Pilot's Watch”と書かれていた。HODINKEEの社員である私は、これが何を意味するのかをよく知っている。しかしこの巨大な文字を前にして、時計のことを何も知らない普通の人々はどう思うのだろうかとちょっと考えてしまった。「ああ、はいはい、いいね。 大きい、パイロットのためのね、なるほど」みたいな感じだろうか。
私が時計に興味を持つようになってから現在まで、IWCのフラッグシップモデルであるビッグ・パイロット・ウォッチ(Big Pilot's Watch、“ 's ”が重要だ)に対する評価はほとんど変わっていない。もちろんパイロットが実際に使用していた歴史的なモデルであることは理解している。しかし私の好みからすると、このケースはあまりにも大きすぎるのだ。ジョン・メイヤー(John Mayer)がトーキングウォッチの動画内でRef.5004を完璧なトラベルウォッチとして推薦しても、HODINKEEの熱狂的な若い時計ファンの心は動かなかった。
パイロットウォッチの王道は私には似合わないことはわかったので、そろそろ実際に選んでみようと思う。今回選んだのは、IWCのフリーガークロノグラフ Ref.3741だ。いや、この時計はあの伝説的なRef.3705ではない。それに、そう、クォーツと18Kイエローゴールドを組み合わせたものだ。クォーツを目の敵にするのは勝手だが、私は「どうしてこんなものを作ったんだろう」と思うような風変わりなパイロットクロノグラフを手に逃げ出すつもりだ。この時計は1990年代から生産されており、ケースの色合いと相まってクリーミーなエイジングを楽しめるトリチウム夜光の個体を見つけることができる。この時計には何かがある。この時計を見かけるたびに、自分のものにすることを想像してついにやけてしまう。いつかきっと5000ドル(日本円で約70万円)以下で見つけて購入するつもりだ。ゴールドのIWC Ref.3741以上の楽しみをこの価格帯で見出すのは、難しいのではないだろうか。
–リッチ・フォードン(Rich Fordon)、クライアントアドバイザー
カルティエ イエローゴールド製サントス ミディアム (Cartier Santos Medium In Yellow Gold)
パイロットウォッチ、少なくとも一般的なフリーガータイプは僕の好みではありません。でもここ数年ずっと目をつけていて、何度か購入に踏み切りかけたモデルがあります。それはファッションウォッチやジュエリーで有名な、あのブランドのものです。このブランドは高級ファッションメゾンとして知られていますが、興味深いことにパイロットの腕に初めて時計を装着したのもここなのだとか。その話はもうご存じだと思うので詳細は省きましょう。僕が選ぶパイロットウォッチのトップは、カルティエのサントスです。
サントスは、文字どおりどんな場面でも着用できる万能な時計だと思っています。会社の重役室(または同僚とのZoom通話)では十分ドレッシーに見えますし、パーム・スプリングスのプールパーティーでは冷たいお酒を片手にカジュアルに振る舞えます。この時計はおそらく、ほかの仲間たちが選んだものとは似ても似つかないものでしょうし、航空産業の黎明期を偲ばせてくれるわけでもありません。このセレクトはちょっとズルいかもしれませんが、それでも厳密にはパイロットウォッチなんです。
さて、サントスにはいくつかのバリエーションがありますが、僕はもちろんステンレススティールは選びません。僕が選ぶのはイエローゴールドのベイビーです! そしてサイズですが、ラージだと僕には大きすぎるので絶対にミディアムと決めています。ゴールドモデルは残念ながら予算から少し外れてしまうため、気休めにツートンカラーのものを選んでおこうと思います。皆さんは飛行機から見える大空を楽しんでください。僕はプールサイドでの贅沢なひとときに、ピニャコラーダで乾杯するでしょう。
–ブランドン・メナンシオ(Brandon Menancio)、エディター
IWC マークXX(IWC Mark XX)
HODINKEEに入社する前、本格的に時計に夢中になり始めたころ、私はIWCのマークシリーズに心を奪われていた。シンプルで視認性の高いデザインや、私の手首では支えられないようなビッグパイロットでないところに引かれたのだ。そのときに見ていたのはマークXVIIという41mm径の時計で、デイト窓がまるで計器盤のような形をしていた。クールだと思いつつも、もう少しだけ小さく、もう少しだけ控えめだといいと思っていたものだ。その後2016年に入ると、40mm径にサイズダウンし、マーク11を彷彿とさせるデザインになったマークXVIIIが発売された。
そして2022年、私が今回選んだマークXXが発表された。短いラグと洗練された文字盤のレイアウトにより、IWCはここ数年でもっとも着用しやすい“ミニ”パイロットウォッチを作り上げたのだ。先日、私が主催したイベントでこのモデルを着用する機会があり、すっかり気に入ってしまった。私はパイロットではないが、飛行機にはよく乗っている。この時計は航空業界の伝統と日常的な機能の両方をバランスよく兼ね備えているように思う。調節可能なクラスプを備えたブレスレット、伝統的なレザーストラップ、そしてラバーストラップのバージョンが用意されていて、そのどれもが非常にクールだ。特にブラック文字盤のモデルは、完璧な選択だといえるだろう。
–ダニー・ミルトン(Danny Milton)、シニアエディター
ブライトリング エアロスペース Ref.E56062(Breitling Aerospace E56062)
本当ならIWC ドッペルクロノグラフ Ref.3717を選びたかったが、このリストにはすでにIWCが揃っている。だが、自分自身に嘘はつきたくない。僕は根っからのエアロスペースっ子だ。ブライトリングは、近代以降のパイロットウォッチ(セオリーどおりなら、第2次世界大戦以降だ)の開発における輝かしい歴史を有している。そのことを念頭に置くなら、初期のナビタイマー(うっとり)のような時計についてか、あるいは現代技術の恩恵を受けてコンセプトそのものが進化し、エアロスペースが誕生したところから話を始めるべきだろう。1985年に登場したエアロスペースはその前身となるモデルとは大きく異なるもので、徹底的な機能性の追求を目的としていた。当時まだ比較的新しい技術であったクォーツを、エアロスペースはおそらくもっともナードな形(僕が死ぬまで、それはアナデジを指す)で、しかもツールとしての高度な機能を持たせて採用した。
僕は一部デジタル化された心でありとあらゆるエアロスペースに愛情を注いでいるが、特にお気に入りなのは第2世代の40mm径モデル、Ref.E56062だ。この時計については以前にも記事を書いたことがあり、美しい総グレーのモデルを所有していたが、売却してしまったことを今では後悔している。薄型かつ軽量なチタン製で、第2時間帯やクロノグラフ、永久カレンダー、アラームなどの各種機能を制御するリューズを備えたエアロスペースは、まるで80年代半ばの航空機の計器盤から取り出された小さな機械のように感じられた。その後、バックライト付きのディスプレイを採用したモデルが登場したりもしたが、僕が長年にわたって金無垢のエアロスペース Ref.K75362を探し続けていることは知っておいて欲しい。そう、あくまで市場調査の一環としてだ。
–ジェームズ・ステイシー(James Stacey)、リードエディター