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※本記事は2017年6月に公開されたUS版の翻訳です。
ミルガウスのストーリーは、インパクトのある稲妻形の秒針で始まる。このめずらしい形の針こそ、耐磁ロレックス独特の、最も際立った、そして最も望ましい特徴のひとつだ。それは、この時計が念頭に置く小さな科学コミュニティで非常に高く評価されたものであり、またそれよりずっと大きな愛好家のグループが、現行のモデルで評価している点でもある。
ミルガウスは当初から稲妻形の針を採用し、今もそうしているが、2度目のモデルチェンジ(Ref. 1019)でストレートの秒針を採用すると、最終的に製造終了を決めなければならないほどまでに人気が下がった。イギリスでは、購入者があまりに少ないため、小売業者がより人気のあるオイスターモデルの販売交渉で、この時計をサービス品として使い始めたほどだ。そう、ある時点において、この時計はほとんど無料で手に入れられた(あなたもそうだったかもしれない)。
ミルガウスに関する私自身の経験は全く異なっている。私が時計というものに真剣な注意を払い始めたのは、ちょうどミルガウスが再発売された2007年ごろで、しばらくの間、これこそ私が欲しかったロレックスだった。当時18歳だったが、多くのヤングアダルトたちと同じく、親の世代と明確に区別のつくものは何でも非常に魅力的に見えた。新しく、気取らず、よりカラフルなミルガウスとそのイナズマ針は、ロレックスの伝統的な他のモデルに比べ、はっきりと殻を破ったものに思えた。振り返ってみれば、どんなロレックスであれ、それをカウンターカルチャーだと考えるとはかなりばかげていたが、これがミルガウスに対する当時の私の考えだった。
歴史
ミルガウス Ref. 6541は1956年に発表され、その軟鉄製インナーケースのおかげで、強い磁場にさらされても正確に時間を刻む最初の腕時計の1つだった。実は、これはRef. 6543 に続く2番目のミルガウスで(リファレンスナンバーに反し、実際には Ref. 6543 が先にリリースされた)、製造本数は極めて少なく、後続モデルとの類似性もほとんどない。
ミルガウスのデザインは当初、耐磁性ではなく耐水性で知られる別のプロフェッショナルモデル・ロレックスに非常に似ていた。サブマリーナーと同様、ミルガウスはスティール製のオイスターケースをもつ、理論上はスポーツウォッチのいでたちだった。サブマリーナーと同じく、目盛り付きの回転ベゼル、(特定の場所に)バブルインデックスを持ち、そしておそらく(コレクターにとって)最も重要な点として、赤でモデル名が書かれていた。
ロレックスのダイビングウォッチの初期バージョンと同様、オリジナルのミルガウスは現在かなりの額で取引されているが、それは耐磁腕時計のメインストリームの最初のグループに属していたからではなく(1950年代のIWC インヂュニアの価格と比較して欲しい)、その希少性と、ケースの形や全体的デザインに見られるエイジングが評価されているからであり、また、ロレックスの歴史の重要な部分を占めているからでもある。
ロレックスが考案、製造したこの時計は、数マイルほど離れた欧州原子核研究機構(CERN)にいる、スイスでも特に優秀な頭脳をもつ人々によって、最大1000ガウスの磁場でテストされた。他の誰かのものになる前は、これは彼らの時計だった。
20世紀中に行われたミルガウスのメジャーアップデートは1度きりだった。1960年代、ロレックスがRef. 1019を発表したときだ。この新モデルにはかなりの変更が加えられていた。特に目立ったのは滑らかなベゼル、新しいハンド、新しいインデックス、そして、赤い「ミルガウス」の文字と調和させて、先端に赤色を配したまっすぐな秒針だった。この最後の特徴は重要である。ブラックとシルバーの2種類のダイヤルバリエーション(発光素材を使用していないテストモデルを含めると3種類)が製造されたが、どちらもハニカムパターンではなくなった。38mmのケースにも関わらず、このミルガウスはほとんど支持者を獲得できず、1988年、ロレックスはついにこの時計のことをあきらた。この時計は何かが、とにかく、正しくなかった。
現代のミルガウス(そしてそのZ ブルーダイヤル)
カタログから消えて約20年が経過した2007年にミルガウスを再び販売したとき、ロレックスはいくつかの勇気ある決断を下した。そうする必要があったのだ。長い時間をかけ、ごくわずかな変化を加えていくことで知られるメーカーが、同社製品群の中でも特に明確な特徴を採用し、適度に色も加えた。その新モデルRef. 116400で、ロレックスはイナズマ針に立ち返り、清潔感あふれる磨かれたステンレススティールを捨て、明るいオレンジ色を配した。ミニッツトラックとアワーマーカーにも同じ色が採用された。おそらく最も物議をかもしたのは、ダイヤルにユニークなハロー効果を与える淡い緑色のクリスタルを備えた、アニバーサリーモデルだろう。ロレックスはそれをGlace Verte(またはグリーンガラス)と呼んでおり、製造が非常に難しいため、特許は申請していないと言っている。
その後、2014年に、ロレックスは新しいブルーダイヤルのグリーンガラスモデルを追加し、(私を含め)多くの人がいくら冷静さを失った。ミルガウスは初めて、小売価格だけでなく、それよりはるかに高額で取引されるようになった。ロレックスがZ ブルーと呼ぶ青いダイヤルのためである。
はっきりさせておきたいが、この時計は技術面では Ref. 116400 ミルガウスモデルと同一である。たっぷり研磨されたトラディショナルな40mmオイスターケースを使用し、ブラッシュとポリッシュ両方の仕上げを組み合わせた、904Lステンレススティールのオイスターブレスレットが付いている。COSC認定のムーブメントである同社のCal.3131を搭載しており、常磁性ヒゲゼンマイ(ニオブとジルコニウムの常磁性合金製)や常磁性ガンギ車(ニッケル-リン合金製)などの耐磁要素を備えている。パワーリザーブが約48時間の自動巻きムーブメントであるCal.3131は、全ての現代版ミルガウス(および新しいエアキング)で使用されている。
ダイヤルもとてとうまくまとまったので、ロレックスはほとんど変更を加えなかった。実際、行ったのはソリッドベースの改善だけだった。明るいオレンジのミニッツトラック同様、バトンインデックスもクロマライトディスプレイ(別の、より微妙な色を加えてくれる)もそのままだ。そして、オレンジの「ミルガウス」の文字も。他のヴィンテージモデルとはかなり違うが、まさにそこがポイントで、私はかなり気に入っている。
Z ブルーモデルで本当に目新しいのはダイヤルだけで、ロレックスは今度は正しい判断をした。ブルーは時計職人が趣向を変えたいときに使う簡単なオプションである。トラディショナルな黒、白、シルバーより汎用性が高く、風変わりにし過ぎずに、カジュアルにできる。だが、このブルーは少し違う。なぜならこれはロレックスであり、ロレックスは独自のルールでプレーするからだ。事実、これはメタリックブルーで、そのブラッシュ仕上げのダイヤルに射す光とその角度により、緑色に変わる。
On The Wrist
では、装着感はどうだろう。より良い言葉が見つからないのだが、ストレートに楽しい。全く個性豊かな時計である。自信に満ちていて、不人気だった以前のモデルの完璧なリベンジだ。科学的だが、いくらか未熟さを残している。反抗的だが、明らかにオイスターに根ざしている。あらゆる装いに合うが、スーツには絶対に合わない。しかし、何よりも言えるのは、耐磁性を理由にこの時計を購入する人はきっと非常に少ないだろう、ということではないだろうか。そして、たとえ耐磁性を試すことがあっても、もちろん少しも害を受けないのだ。
要するに、実用的な観点から、ミルガウスを選ぶのは非常に賢明な選択だ。その作りはあらゆる点でロレックスに期待すべきものを備えている。極めて耐久性の高いスティール製で、100m防水、少なくとも1000ガウス(それよりずっと高い値でないとすれば)の耐磁性を備え、認定済みの最上級クロノメーター ムーブメントを搭載しており、そして最後に、外観が非常によくて、最も高価なロレックスからはほど遠い。既に言ったように、確かに賢明な選択だ。
ミルガウスの価格は79万7000円(税抜)で、ご覧のZ ブルーダイヤル、または3時、6時、9時の位置にオレンジのインデックスを配したブラックダイヤルから選べる。詳しくはロレックス公式サイトまで。