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我々が知っていること
A.ランゲ&ゾーネと言えばコンプリケーションのイメージが強い。スプリットセコンド・クロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨンなど、多くのものがラインナップされる。しかし、コンプリケーションのなかでもあまり知られていないのが、チャイミングウォッチやリピーターである。A.ランゲ&ゾーネにそうした時計がまったくなかったわけではないが、その数は非常に少ない。
A.ランゲ&ゾーネが初めてチャイミングウォッチを製造できることを示したのは、2013年のグランド・コンプリケーションだった(正確には、2011年にツァイトヴェルク・ストライキングタイムを発表しているが、従来のミニッツリピーターのようにオンデマンドではなく、15分に1回チャイムを鳴らすものだった)。グランド・コンプリケーションで開発された技術は、2015年にツァイトヴェルク・ミニッツリピーターに応用された。この時計の外観はその後も試行錯誤が繰り返され、最近では2020年に発表されているが、今日はまったく新しいタイプのチャイミングウォッチが登場した。
Watches & Wonders Geneva 2022で発表されたリヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、A.ランゲ&ゾーネで最も伝統的なチャイミングウォッチだ。ツァイトヴェルク・ミニッツリピーターが初の時・分2段ジャンプ式ミニッツリピーターとして注目を集めたように、リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターはA.ランゲ&ゾーネが新たなトリックを取り入れつつも、伝統的な方法でウォッチメイキングに取り組めることを証明するモデルとなっている。
新しいリヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、ごく一般的な(もし、そんなものがあるとすれば)ミニッツリピーターと同じように動作する。左側のケースサイドに組み込まれたスライド式のプッシャーがチャイム機構を作動させ、時、15分、分を一対のゴングで連続的に鳴らす。ゴングは異なるピッチに設定されており、720の異なるシーケンスを正確に音で示すことができる機械的なプログラムによって作動する(参考までに、12時間は720分ある)。
まず「時」が低い音で鳴り、次に「4分の1時(15分)」がふたつのトーンの音で鳴る。「分」は最後に、最も高い音で鳴る。正確に何分を鳴らすかは、最後の「15分」から何分経過したかで決定される。チャイムを使った正確な時刻の表し方は、動画を見て欲しい。
ツァイトヴェルク・ミニッツリピーターがふたつのゴングをダイヤル側で見せていたのに対し、リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターはゴングをムーブメント内に配置し、サファイアクリスタル製のシースルーバックから見えるようにしている。手巻きのCal.L122.1は、A.ランゲ&ゾーネが1990年代初頭に生まれ変わってから開発・発表した69個目(!)の自社製ムーブメントとなる。Cal.L122.1のチャイム機構は191個(キャリバー本体は415個)の部品から構成されており、そのほとんどが相互に接続されたラック(円形歯車)、カタツムリ形のカム、レバー、歯車である。これらが連動してゴングのハンマーの作動を制御しているのだ。
ハンマーはブラックポリッシュされて鏡のように美しく、ゴングも手作業で曲げ、それに見合うように磨き上げている。ハンマーがゴングを打つ速度を調整する遠心調速機の真上に位置するブリッジはスケルトナイズされており、その素早い動きを見ることができるのも特徴だ。ポリッシュされた金のウェイトがふたつ配置されているが、Cal.L122.1内部の遠心ガバナーは打刻機構が作動すると1分間に2000回以上回転するとランゲは述べている。
リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターには、A.ランゲ&ゾーネの技術者の粋な計らいを物語る数々の機能が備わっている。例えば、1時間のうち最初の14分間、つまり最初の15分が経過する前にチャイムを鳴らすと、Cal.L122.1によって時間と分のチャイム(通常の15分のダブルトーンが鳴るところ)のあいだでの「間」がなくなるのだ。一般的なミニッツリピーターでは、チャイムが途中で途切れることがある。
また、3時位置のリューズと連動した安全機能も備えている。リューズを引き出しているあいだはミニッツリピーターが作動しないし、チャイム機構が作動しているあいだにリューズを引き出しても作動しない。さらに特許取得の“ハンマーブロッカー”機構により、ゴングを打ったあと、各ハンマーが静止して(文字通りコンマ数秒のあいだ)リバウンドを防ぎ、回転のたびにゴングを誤って打たないようになっている。
リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、39mm×9.7mmとツァイトヴェルク・ミニッツリピーターより5mm近くも薄いケース形状が特徴的なモデルだ。A.ランゲ&ゾーネは、この新しいチャイムウォッチのケースにプラチナを採用したのが興味深いところである。プラチナは高貴な金属(本当に!)だが、一般的にミニッツリピーターにこの素材を使うのは好ましくないとされている。プラチナは高密度で柔らかく、延性に富んでいるため、音を吸収してチャイムの音を弱めると考えられているからだ。ランゲはツァイトヴェルク・ミニッツリピーターの最初のモデルをプラチナで製造しており、これが同社の初仕事というわけではない。ランゲがチャイムのプラチナの問題をどのように対策しているかは確認できなかったが、今週ジュネーブでアポを取っているあいだに、なぜこのようにプラチナにこだわるのかをフォローアップする予定である。
最後に、リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、金無垢のベースから自社で製作した、美しいホワイトエナメルダイヤルを備えている。エナメルダイヤルの表面には細長いローマ数字が焼き付けられ、その上に細長い青焼き針が伸びているのがリヒャルト・ランゲコレクションの代表的な特徴だ。20世紀初頭にA.ランゲ&ゾーネが製造した懐中時計を模して、ミニッツトラックは伝統的なレイルウェイスタイルで作られている。
リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーターは、A.ランゲ&ゾーネ・ブティック限定の50本限定モデルで、価格は要問い合わせだ。
我々が思うこと
私はラトラパンテ機構ほどミニッツリピーターに精通しているわけではないが、A.ランゲ&ゾーネが今後も技術力を高め、チャイミングコンプリケーションのノウハウを広げていくことに期待している。特に、同社で初めてツァイトヴェルク以外でチャイムを搭載した時計として、リヒャルト・ランゲコレクションが選ばれたことは、非常に魅力的なことだと思う。
リヒャルト・ランゲは、グラスヒュッテの時計師のパイオニアであり、A.ランゲ&ゾーネの創業者であるF.A.ランゲの息子のひとりだ。リヒャルトは長男で、弟のエミルとともに時計に精通していた。1875年に父が他界すると、リヒャルトはまだ若かったA.ランゲ&ゾーネの技術部門を引き継ぎ、エミルは徐々に経営と財務に目を向けた。
エミルよりずっと早く引退することになったリヒャルトは、80歳を過ぎた1930年に、少量のベリリウムを含むヒゲゼンマイ用の新合金を開発し、特許を取得した。数年後、この合金はリヒャルト・シュトラウマン(Richard Straumann)によって改良され、最終的には現在の時計産業で広く使われているスイスのニヴァロックス製ヒゲゼンマイのベースとして使用されることになる。
以上、本日の発表やチャイム機構全般とはあまり関係がない長々とした歴史観を述べたが、現代のA.ランゲ&ゾーネにおいて、リヒャルト・ランゲコレクションがどのような位置づけにあるのかを示すのにひと役買ってくれたはずだ。
ジャンピングセコンド、トゥールビヨン“プール・ル・メリット”、そしてパーペチュアルカレンダー “テラ・ルーナ”と並んで、リヒャルト・ランゲのラインナップは、伝統を踏まえつつ現代の時計製造の限界をさらに押し広げる、非常に複雑な時計製作の拠点として位置づけられていることは明らかだ。A.ランゲ&ゾーネの新しいミニッツリピーターは、まさにその表現にふさわしいモデルだと思う。
基本情報
ブランド: A.ランゲ&ゾーネ(A. Lange & Söhne)
モデル名: リヒャルト・ランゲ・ミニッツリピーター(Richard Lange Minute Repeater)
型番: 606.079F
直径: 39mm
厚さ: 9.7mm
ケース素材: プラチナ950
文字盤色: K18ホワイトゴールド、ホワイトエナメル
インデックス: ローマ数字
夜光: なし
防水性能: 20m
ストラップ/ブレスレット: ハンドステッチ仕上げのブラックレザーストラップ、プラチナ950製ディプロイヤントバックル
ムーヴメント情報
キャリバー: L122.1
機能: 時、分、スモールセコンド、ミニッツリピーター付きチャイム機構
直径: 30mm
厚さ: 5.4mm
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時(3Hz)
石数: 40
クロノメーター: なし
追加情報: 5ポジションの精密調整、4分の3プレートは無処理の洋銀製、手作業でエングレービングされたテンプ受け、415個の部品、耐震機構付きチラネジテンプ、特許取得ヒゲ留めを使用した自社製ブレゲヒゲゼンマイ、スワンネック形バネと側面にある調整用ビスにより微調整可能な速度調整装置
価格 & 発売時期
価格: 要問い合わせ、依頼に応じて
発売時期: ブティック限定
限定: あり。世界限定50本
その他、詳細はA.ランゲ&ゾーネ公式サイトへ。
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