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我々が知っていること
ジャガー・ルクルトは過去20年以上にわたり、非常に複雑で、しばしば多軸球体トゥールビヨンを製造してきた(スフェロトゥールビヨンをご存じだろうか?)。しかし、そのなかでも最も静謐で美しいコンプリケーションのひとつが、キャリバー945である。このムーブメントは2010年に発表されたが、それ以来、ジャガー・ルクルトはいくつかのバリエーションを製造してきた(私の記憶がまだそれなりに確かであれば、直近では2020年)。ほかのメーカーには、Cal.945のようなムーブメントは存在しない。基本的にはフライングトゥールビヨンとミニッツリピーターであるが、1分間で周回するフライングトゥールビヨンは恒星日に1回ダイヤルの周りを回り、すべてのモデルで星図が搭載される。
今年のWatches & Wonders 2022で、ジャガー・ルクルトはこのオービタル・トゥールビヨンの新バージョン2機種を発表した。Cal.945の新バージョンであるマスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー945(基本的な機能は2010年と同じだ)のふたつの新バージョンである。ローズゴールドモデルはグリザイユ(単色)エナメル、ホワイトゴールドモデルはシルバーの細かい網目模様で作られたダイヤルで、どちらもドーム型だ。そしてもうひとつはマスター・グランド・トラディション・キャリバー948で、恒星日周期ではなく太陽日周期を持つオービタル・トゥールビヨン、そしてワールドタイム機能を備えている。これは同社においてオービタル・トゥールビヨンとワールドタイマーを組み合わせた初の試みである。
マスター・グランド・トラディション・キャリバー948は、ワールドタイムという複雑機構をほぼ忠実に再現しているが、オービタル・トゥールビヨンによって視覚的にも時計学的にも華やかさを添えている。ワールドタイムにありがちなのが北極の真上から見た地球が描かれたダイヤルだ。しかしCal.948では、大陸はダイヤル上ではなく、緯線と経線を表すドーム型のスケルトン上に浮かんでいるのだ。大陸はグラン・フー シャンルベ・エナメルで表現され、ホワイトゴールドの下地にカラーエナメルが敷き詰められ、ダイヤル下には半透明のブルーラッカーと海の波をイメージしたギョーシェ模様が施されている。
地球とトゥールビヨンは24時間で1周、反時計回りに回転し、時針はリューズを使って1時間単位でローカルタイムに合わせたり、前後させたりすることが可能だ。43mm×14.13mmのWG製ケースは、やや大きめの時計だが、惑星を丸ごと(いや、半分)収めることができることを考えれば適度なサイズといえるだろう。Cal.948は、20本限定生産だ。
マスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー945は、ジャガー・ルクルトの非常に多くの複雑時計のレパートリーのなかで、個人的に最も好きなもののひとつだ。ミニッツリピーターと恒星時表示(平面星図)のふたつの複雑機構は、一般的とは言えないまでもそれなりに有名だ。トゥールビヨンは恒星日に1周、反時計回りに公転し、それを囲む楕円形の輪郭は地平線を表現している。恒星日は太陽日に比べて短く、約23時間56分4.1秒だ。これは太陽日が特定の場所に太陽が重なるまでの時間であるのに対し、恒星日は恒星が特定の場所に重なるまでの時間であることから生じる差だからだ。地球は自転しながら公転しているが、太陽は比較的地球に近いため、太陽が天空の同じ場所に戻るには、実は地球は1周より少し多く自転しなければならない。しかし星は遠く離れているため、この視差の影響をほとんど受けないのだ。
ダイヤル端にある小さな太陽の形をしたポインターは、24時間スケールで太陽時を示すとともに、黄道月(つまり、太陽が黄道帯のどの位置にあるのかを示す)の指標としても機能する。最後に、時針と分針は常用時刻を表示する。
ギャラクシア(ピンクゴールドモデル)に使用されているグリザイユエナメルは、青または黒の下地に白いエナメルを何層にも重ねていく技法で、最も明るい部分に白いエナメルを厚く塗るため、通常のエナメル加工よりもはるかに奥行きが感じられるのが特徴だ。エナメルは浅いドームに塗られ、黒いディスクの上を回転する(WGまたはPGのモデル)。
マスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー945は、WGとPGのモデルがあり、それぞれ5本の限定生産だ(PGモデルはギャラクシア、WGはアトミウムと呼ぶ)。
我々が思うこと
これらの時計は、ジャガー・ルクルトが最も得意とする技術革新(Cal.948のリピーターには、クリスタルゴングや、ゴングにエネルギーをより効率的に伝達する“トレブシェ”ハンマーなど、いくつかの独自の革新的技術が用いられている)を、非常に高度な装飾芸術と工芸に組み合わせた例であり、非常に優れた時計である。
ハイブリス・アーティスティカは、新しいボトルに入った古いワインである一方、非常に優れたボトルでもある。グリザイユエナメル細工は、その深みと質感から、星図を表現するのに最適な技法であり、他社がこの技法を使った記憶はない。
新しいグランド・トラディションは、ハイブリス・アーティスティカほど複雑ではないが、美しさという点では何ら妥協はしていない。多層構造のダイヤルは、クラシックなワールドタイムの半球を最も魅力的に表現している(太平洋のど真ん中に巨大な渦巻があるという未確認情報は本当なのかもしれない)。どちらのモデルも有名な複雑機構を搭載しているが、伝統的なハイコンプリケーションにありがちな堅苦しさや型にはまった印象はなく、伝統に新しい風を吹き込み、魅力的なモデルに仕上がっている。
マスター・ハイブリス・アーティスティカ・キャリバー945:ケース、ピンクゴールドまたはホワイトゴールド、45mm×16.05mm。ブラックダイヤルにグリザイユエナメル、またはブルーダイヤルにシルバーのレーザー溶接されたオープンメッシュドーム。ムーブメント、Cal.945、時、分、星座、24時間表示、恒星時表示付きフライング“コスモトゥールビヨン”、星座カレンダー、ミニッツリピーター。パワーリザーブ40時間。PG(ギャラクシア)5本、WG(アトミウム)5本の限定生産。PG(ギャラクシア)は6248万円、WG(アトミウム)は6512万円。ともに参考価格
マスター・グランド・トラディション・キャリバー948:ケース、ホワイトゴールド、5気圧/50メートル防水、43mm×14.13mm。ムーブメント、キャリバー948、時、分、オービタル・フライング・トゥールビヨン、24タイムゾーンのワールドタイマー。2772万円(参考価格)
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ジャガー・ルクルトの時計製造の神髄については、公式サイトまで。